月影検Act.1


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1: アラヤ式 (2003/07/25 05:12:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

歌が、聞こえた。

ドイツの主流ライン川に響く、陽気でのんきな美声。

月光に照らされ煌々とした水面が一直線の飛沫をあげる。その源には、緋色に輝く長いシルクのような髪。

/1.

ドイツ南部、ロットヴァイル。

シュヴァルツヴァルト南部最大の町であり、2月に行われる盛大なカーニバルで有名な観光地だ。

白と赤、そしてベージュを基調とした端整な町並み。古さと新しさがお互いを侵食せず、調和がとれている美観。

チリ一つ落ちていない清楚な大通りを歩く、ドイツ気質の洗練された人々。黒山の人ごみの中に、浮いている4人組がいた。

アジア黄肌丸出しの、紺のコートを来た黒髪少年。彼に寄り添って腕を組むショートの金髪美人。

一方、地球の歩き方を食い入るように見つめ、目を血眼させている銀髪ヤサグレ男に、隣でいぶかしみながら歩く眼鏡の青髪少女。

白翼公の放った刺客、『月飲み』グランスルグ・ブラックモアを撃破した真祖の騎士一行はいま、祝勝会にもってこいな飲み屋を探している最中だ。

「ちょびヒゲ。まだ〜!?」

もうかれこれ一時間近く探し歩いている。アルクェイドは志貴の腕にぶらさがり、いい加減だれていた。

「いちゃついてないであなたも探しなさい。それにしてもエンハウンス、ここはあなたの母国なんですよね?」

となりで本を片手に苦戦する死徒に、おめかししたシエルは疑いの眼差しを向ける。

「俺は北部山奥の出身なんでな。田舎者なんでございます。」「だからって、なんで日本語ガイドで調べてるんだよ。」

呆れる志貴を余所に、エンハウンスはふてくされながらも、必死で本に書かれているおすすめを探していた。

「でもさ、アルトルージュたちと来られなかったのは残念だったな。」

志貴は、古きよき町並みを見まわしながら、ため息混じりに呟いた。

「そいつは無理だろ。二十七祖4体が街中に普通にツラ出してたら、それこそ底辺魔術師やら格闘系神父やらがケンカ売ってくるぞ。
無論、一般市民はお構いなしでな。」

「あんたは例外なんだな。」

「うるせぇ。俺はそれを買って撃って斬るんだよ。」からかい気味の志貴の頭を、拳でエンハウンスは小突く。

今回、アルトルージュ・ブリュンスタッド及び従者たちは、ブラックモア撃滅の事情説明のため、バチカンへと出頭していたのだ。

無論、吸血鬼との接触を公に出来る場所ではない。ナルバレックの特別なはからいによる密談だ。

早朝、ヘリで出立した彼女らを見送りながら、狐と兎の化かし合いだな。とエンハウンスは語っていた。

すれちがう親子連れを見ながら、アルクェイドは何時になく真剣な表情で心配する。

「志貴。健全な青少年を変態の毒牙にかけちゃだめだよ。絶対ね。」

「そうだな。これでよかったかもな。」「ああ。あいつはヤバすぎる。」「ていうか、ブラックモアより先に撃滅すべき死徒ですよね。」

アルクェイドの示唆すること。物憂げに空を見上げた3人は充分わかっっていた。

―― ちなみにバチカン市国では。

「へぇくしょん!!……いえいえ、何でもありませんよ姫様。誰かが僕の良からぬ噂を流しているようですねぇ。」

白騎士ヴラドは、筋の通った形の良い鼻を掻いていた。

4人が街の界隈を歩いていると、オープンレストランのテーブルに繋がれた円らな瞳の犬が、一匹地ベタに座っている。

シエルとアルクェイドは虚をつかれて止まる。2人は触らなきゃ気がすまない衝動に猛烈にかられた。(BGM:アイ○ル)

「かわいい〜!」「この街はワンちゃん多いですね〜。」2人の手が自然と、犬のフサフサした頭を撫でくり回す。

まどろむ黒茶色の垂れ耳の犬は、ロットヴァイラーという現地品種である。おなかを見せて服従ポーズをしている犬は、ますます母性を刺激する。

「お、こっちは黒いわんこか。」

エンハウンスも犬の頭を撫でようとした。彼が笑って手を差し出した瞬間、ガブッという擬音とともに噛まれる。

彼はしばらく俯いた後、怒りに肩を震わせて、非行少年のように犬にガンつけた。

「あんの犬っころといい、てめぇやんのかコラ!!」ヤンキー座りしている彼の魔眼はまっかっかだ。この男、どうも動物とは相性が悪い。

うなり声をあげてエンハウンスは犬を牽制する。対する犬は余裕綽々で欠伸をし、どっちが畜生かわからない。

「やめろよ。大人気ない。」「ちょびヒゲ、犬相手にダサいよ。」

志貴とアルクェイドの冷淡なツッコミが、エンハウンスのハートに突き刺さった。

ハッ、どうせ犬には嫌われてますよ。とか言っていじける不良死徒を放置し、シエルは目を皿のようしてガイドを閲覧していた。

彼女は、目の前の彫刻が施された看板に指をさす。

「ここじゃないんですか?っていい加減にしなさい!!」

犬と未だにいがみ合っていたエンハウンスの後頭部を、シエルの右ストレートが吹っ飛ばした。

/2.

「いってぇ〜。あたま爆砕と散るとこだったぜ。」

「漫画みたいなタンコブだな。」

エンハウンスの頭に出来たおおきなピンクの塊をマジマジと見つめつつ、志貴たちは屋外の木目テーブルにつく。

ドイツ人は自然を愛することからか、酒を嗜むときも屋外を好む。この店も例にもれていない。

店先で酒を飲むという新鮮な感覚に、上戸ではない志貴も少し期待が踊る。

エンハウンスが備え付けのメニュー表を手にとった。だが、

「「「ビール。」」」

全員即答した。日本で有彦たちと飲みに行くときは決まってそうなのだ。

エンハウンスが注文したのはヴァイツェンビア。小麦のモルトを加えてつくるビールで比較的よく飲まれている地元産だ。

運ばれたのはジョッキ一つと、グラス3杯。

ジョッキを片手で持ち、エンハウンスは一呼吸置いたあと、急に咳払いをした。

「あ〜、その〜、ま〜今回は、俺の私的かつ、独善的な暴走で、おまえさん方にえらく迷惑かけてちまったな。わるい。」

過去の御乱行について、顔を赤くさせながらもエンハウンスは粛々と謝罪を述べていた。

「24時間迷惑営業のあなたが何いっているんですか。」

「水差すなコラ。いや、ほんと正直、おまえらの協力なかったら化けガラスは倒せなかったぜ。ありがとよ。」

傍若無人男の本音トークだ。

「いまさら何いってるんだよ。」「はは。なんかキャラ違うね!」ギャップで志貴とアルクェイドは笑っていた。

「う〜ん、姫君。俺も最近そう思う。俺は孤高でハードボイルドに生きるタイプだったはずなんだけどな???」

「大丈夫ですよ。いきがっても、あなたはどうせ一人じゃ何もできやしませんから。」

晴天下、シエルは微笑みながら猛毒を吐く。

否定したいエンハウンスではあったが、概念武装の全ては彼女にまかっせっきりなので文句はいえない。肩をおとして凹んだ。

「先輩……。まあいいさ。とりあえず」

志貴がグラスを青空に掲げた。隣のアルクェイドも、向かいのシエルとエンハウンスもそれに応じる。

「アルクェイドの吸血衝動抑える手がかりが見つかりますように!!」志貴は願いを託してグラスを皆に合わせた。

「アルトルージュがそれを早く教えてくれますように!!
ほんと、勿体ぶってないでさっさと……っていたいよ!?」不適切発言をした姫様に、志貴のゲンコツがヒットした。

「オーテンロッゼの奴がまたちびってくれますように!ぷぷ〜〜グホ!!」下ネタに走ったエンハウンスは、シエルのフックで沈んだ。

「となりのヤサグレロリコン盗撮死徒が、1ミクロンでも改心しますように。」シエルは神には祈っていない。あてにならない。

あの伝説の失禁シーンを収めたテープは、裏市場で高く売れたそうな。

濃厚なビールを全員一気に煽った。喉越しのよい、爽快感が食道を走り抜ける。

美味い。志貴は一気に飲み干すと、目を瞑って舌に残るモルトを堪能していた。本場仕込みは、濃厚さの爆力が違う。

「うまい!!」

「だろ?やっぱビールは勤勉勤労の国で飲むのが一番だぜ。かぁ〜、死ねないけど死んでもいいな!!」

向かいのエンハウンスはハイペースでジョッキを飲み干し、口についた泡をぬぐった。

シエルもアルクェイドもなかなか口運びがよく、女性にも比較的やさしく飲めるもののようだ。

「おいしい〜!妹、元気にしてるかな。」日本にいるザル当主を、アルクェイドは思い出していた。

「ムフフ。確かにこれは嵌まっちゃいそうですね。」比較的上戸のシエルも上機嫌だ。

シエルはここで、おかしなことに気がついた。

いつの間にか、アルクェイドが両手で持っているグラス、中身が空になっていたのだ。

「あれ?あなた、まさか私の飲んだの!?」

「そんなわけないじゃないですか!!ってあれ!?」

あらぬ疑いをかけられて怒ったシエルであったが、今度は、自分のグラスが空になっていることに気が付いた。

「ごちになりまーす♪」「へ!?」

間抜けな声をだす志貴のグラスを、音もなく、背後の見知らぬ女性がいつのまにか煽っている。

エンハウンスは飲んでいたビールを噴出し、アルクェイドはグラスを落とした。

/2.

水色のYシャツに少しきつめのジーパンを着こなす活動的な印象の女性は、突然あらわれた。

赤毛のストレートヘアー。きりっと引き締まった眉に端整な顔立ち。身長180近いその長身は、大柄のエンハウンスと拮抗する。

全体的に引き締まった印象とは対照して、不釣合いなくらい彼女の目はまどろんでいる。

「姐さん!!」エンハウンスは驚きと嬉しさが混じった声をだす。

「エンハウンス久しぶりー。元気にしてた?あら、真祖の姫君さんもいたのね。お初にお目にかかっちゃったり。こっちの眼鏡っ子は?」

クエスチョンマークを顔中から浮き出させている女性に、シエルは警戒を忍ばせた表情で答えた。

「シエルです。あなたの噂は予ねてから聞いていますよ。吸血鬼の弱点である流水を克服した死徒、ウォーター・ボトル。」

「あ〜はいはい。あなた埋葬機関の第七司教さんか!なんか思い出したっぽい♪」

ホッペが赤く、しきりに笑う死徒、『水魔』スミレは、思い出して手を叩く。

志貴は話しに全く置いていかれていた。グラスをもったまま呆気にとられている。硬直状態の黒髪少年に気付いたスミレは、額に手を掲げた。

「はいはーい、はじめまして〜。あたし二十七祖の21位くらいハっちゃっている、スミレっていうの。姓はスミレ、名もすみれ、覚えといてね♪
お名前なんていうの?少年!」

「と、遠野志貴です。」

まだ対応しきれていない彼の挙動が気に入ったのか、赤毛のきりっとした眉をあげて、スミレは志貴に抱きついた。

「かぁわいいー!ヴァン爺から聞いてたけど噂どおりの母性キラーっぽい顔してるわ。遠野って呼ばせてもらうからよろしく〜♪」

勝手に決める。彼女の余りのテンションの高さに本来怒るはずのアルクは全くついていけない。志貴とエンハウンスの間に割って長身美人はすわる。

当たり前のように両手を2人の男の肩にかけ、笑顔を崩さないスミレ。

アルクェイドの爪が1cm延長し、シエルの着ているセーター袖口からは黒鍵の切っ先が顔を覗かせる。

白と青のヤキモチもとい殺意が酒場をピリピリとさせている。かなり一触即発だ。

「ちょっと〜、みんなしけこんでないで飲もうよ〜。折角の席生かさなきゃビールの神様に申し訳がたたないでしょ〜?
ほれほれ乾杯〜!!矢でも酒でも持ってこ〜い!!」

片手にウィスキーを持つ彼女は、最初からデキあがっていた。隣のエンハウンスはすぐに注文を追加する。

「へい、姐さんどうぞ。」なみなみと注がれた大ジョッキが、スミレの細腕に丁寧に手渡たされた。あの不遜なエンハウンスが丁稚扱いだ。

「ありがとー。」

心底幸せそうな笑顔を称えたスミレは、間髪入れず一気に飲み干した。喉越しが良いとかいうコメントをする暇すらない。

彼女の柔らかな唇に、流し込まれた麦泡の残渣が艶やかにつく。

「かぁ〜!!この一杯のために死徒やってるのよね〜!!」空になったジョッキが豪快に置かれた。

「たぶん関係ないわよ。」

アルクェイドの魔眼が金に近い。隣の志貴は冷や汗が止まらなかった。腕を組む彼女は怒っている。下手をしたらその場で十八分割だ。

スミレに志貴を独占され、まったく面白くないのであろう。

「一応聞くけど水魔、流浪人のあなたがなんでこんな所に来ている訳?」

「う〜ん、なんか水の流れに乗ってたら楽しげだったからここまで来たって感じ?」「流れって……。」

スミレは飄々と答える。彼女の天然とザルぶりに、アルクェイドは毒気が抜かれ、目の色も戻った。

すでに彼女は2杯目。エンハウンスのビール追加は見事な御手前で、飲み干すと同時に彼女に手渡し、自分もしっかりあおっている。

「しかしよぉ、ほんとびっくり玉の助だぜ。姐さんにここで会えるとは思わなかったな。元気そうで何よりだ。」

顔の紅潮ぶりがいつも以上に早い。談笑するエンハウンスは、頬の筋肉が常時緩みっぱなしだ。

「あんたも相変わらずヒゲだね〜。いつか剃ってやるからアゴ洗って覚悟しとけよ〜!」

不精ひげをスミレの白い手が摩りまくる。肌触りが気持ちいいのかやめようとしない。

エンハウンスは嫌がる素振りをしながらも、目は全く嫌がっていなかった。

おそらくアルコールだけが原因ではないだろう。そんな様子を黙って見つめるシエルは表情を変えない。彼女のグラスに、縦のヒビが入る。

一方志貴も、年上の魅惑的な女性に胸を押し当てられて、心臓の鼓動が止まらない。怒気を帯びる真祖に一瞥しながらも、恐る恐る聞いてみる。

「あの〜、スミレさん。もしかして水の中に住んでいるんですか?」

「よくぞ聞いてくれました〜。私ね、三度の飯より水が大好きなの。かわりに水から出られない体になっちゃってさ。
酒煽ってないと干からびて死んじゃうのよね。なんでだろ〜♪」

笑って答える彼女のすらっとした鼻が、志貴の間近に迫った。彼の心臓の鼓動は、ビートの刻みを速める。

すっかり茹ダコになる志貴。スミレは一瞬微笑むと、彼のホッペにすかさず口づけした。

「志貴に何するのよ!!」アルクェイドは激昂して立ち上がる。

「姫おこらないでよ〜。御挨拶ごあいさつ〜。」スミレは言い終えると同時に、今度はエンハウンスの頬にキスをかました。

「あなたって死徒は!!」シエルは憤激する。

志貴とエンハウンスはゆでだこになったお互いの顔を見合わせ、頬を摩った。

「シスターも落ち着いてよ〜。あれ?エンハウンス、あんたいま、神婦さんと付き合ってんの?」

急に呆気にとられた表情でスミレは尋ねた。当のエンハウンスはキスの余韻もあってか、焦点のあわない目をしている。

「あらら〜。昔はあたしとあんなことやこんなことまでした仲だったのに、時の流れは残酷ね。」「ちょ、ちょい待ってくれ!!姐さん!!」

指をテーブルにつけて、わざとらしく影を帯びるスミレに、エンハウンスは顔中から汗を噴出して慌てる。

シエルの笑みが、絶対零度で凍っていた。

「スミレさん。それはどういうことですか?できれば詳しくお聞きしたいのですが。」

「それはもう……。いやんダメ、これ以上いえない。ご想像にお任せ〜♪」「姐さんやめて!お願いもうやめて〜!」

頬を真っ赤にしたスミレは、両手で顔を隠し少女のように恥らう。エンハウンスの断末魔はすっかり裏返り、彼女の口を塞ごうとするが遅かった。

握りこぶしから白煙を放出させ、シエルの嫉妬ゲージがMAXに達した。

「ヤサグレ吸血鬼。後で最寄の教会で懺悔しなさい。当分バニラコーラ抜きですからね。」

グラスは鉄甲作用MAXで破裂した。

「シエルさん、風呂上りのコーラがないときついっす。勘弁してください。」エンハウンスは甘党である。

彼女を珍しく敬称で呼び、体をすっかり丸め縮みこむエンハウンス。人参を断たれた、守護精霊ななこのようだ。

肩を落とす彼に、その銀髪をもみくしゃにしてスミレが慰める。

「すっかり手綱とられちゃって大変だ。神婦さんあんまりいびっちゃダメだよ〜。こいつ獣だけど純なんだから〜♪」

酔っ払い姉さんの破天荒ぶりに、アルクェイドはこらえていた笑いを噴出す。

「あははははは!!二十七祖ってモンスターとお笑い芸人ばっかりなんだね!」

「ありがと姫。それ最高の誉め言葉だわ♪ま、飲んでちょうだいよ。」

彼女はアルクェイドのグラスにビールを注いだ。随分と人当たりの良い死徒だ。

「何油断しているんですか!彼女は立派な封印指定の吸血鬼ですよ!」

すっかりスミレに懐いてしまったアルクェイドにシエルは憤りながらも、仕方ないですね。と諦めていたりした。

/3.

「ねぇあんたたち、水の噂によるとブラックモア倒したんだって?」

宴席に馴染んでしまったスミレの不意な質問。エンハウンスは、それに応えるかのように得意げにジョッキを掲げた。

「よかったね。顔向けできたじゃん。」「……ああ。ありがとよ、姐さん。」

スミレは微笑むと、ビールをエンハウンスのジョッキに当てた。エンハウンスは恥ずかしげに鼻をかく。

死徒の男と女が流し込むビールは、味わうようにゆっくりと流し込まれた。この2人は、どうやら十年や二十年の付き合いではないらしい。

唇についた泡を拭いながら、エンハウンスは笑った。彼の額を、スミレは優しく指でこづく。

「あんたいい顔してるよ。なんか吹っ切れた感じがする。遠野知ってる?こいつってば復讐騎なんだよ?」

「「「知ってます。」」」3人同時にツッコみ。

3人の歯切れのよさに、スミレは腹を抱えて大爆笑し、かろうじて言葉を搾り出す。

「あはははははは。でもほんと丸くなったよね〜。昔ね、死徒って聞いたらこいつ、それこそ鬼みたいに魔剣振り回すは、
銃ぶっ放すわで、手のきかないジャジャ馬だったんだから。」

「姐さん。それは今も変らねえよ。俺は必ずこの世にはびこっている吸血種どもを倒す。万年かかろうが必ずな。」

アルコールが体中に回っていても、彼の信念を語るときの眼は鋭い閃光をおびていた。彼の、闘いは終わっていないのだ。

「こいつさ〜、昔そんなことぬかしといて油断させてからあたしを襲ったのよ。きゃ、けだもの〜♪」「姐さん!だからそれはやめて〜!!」

顔を真っ赤にさせて恥らう彼女。狼狽してうろたえまくるエンハウンスはスミレに完全に遊ばれていた。閃光はあっさり崩される。

トサカにきたシエルは、投郭技法を生かしたチョークスリーパーホールドで銀髪男を締め上げた。

「この不浄者ぉー!!もうあなたに祈りは捧げません!!」

エンハウンスは顔を赤から青へ変化させ悶絶、ギブアップを要求するが認められない。

酔いどれスミレは大爆笑し、埋葬機関主催の臨時プロレスに大満足していた。酒の肴にはもってこいだ。

「志貴、私は絞め殺すなんて無粋な真似はしないからね。」アルクェイドは眼を金色に煌めかせて微笑む。

「アルクェイドさん。非常に、すんごく、怖いです。」

エンハウンス、白目をむいて窒息死。志貴も決して人事ではない。

/4.

そんなこんなで1時間後。

「ナルバレック〜!!いつか絶対ころします!!」シエルはテーブルをしきりに叩く。酔っていた。

「じいや厳しいよ〜。フォークを右手で持っちゃダメなの〜?」アルクェイドも赤くなって蕩けている。いい感じでデキ上がりだ。

「長い人生、不満は誰でもあるんだよ〜。飲んで飲んで水に流しちゃえ〜♪」スミレは二人をなだめて、グラスが空くたびに注ぐ。

女飲んだくれ3人が、湯水のように煽っていた頃、志貴たちはトイレで、

「う○△□×☆〜〜〜〜〜〜」「しっかりしろ。」

吐いていた。志貴はスミレの超絶ピッチに全くついていけなかった。エンハウンスの大柄な手が、うめく彼の背をさする。

「うぷ。秋葉に鍛えられてたつもりだったんだけどな〜。」

「姐さんは全身肝臓だからな。ここまでついてこれただけでも充分だ。」

志貴は力なく顔をあげ、よたつきながら洗面台へ向かった。蛇口をひねり、顔を洗って景気付ける。

「なあ、スミレさんと知り合いらしいけど、どういう関係なんだよ。」

タオルで顔をふく志貴は、二人きりになったついでに尋ねてみた。エンハウンスも顔を洗う。

「マブダチさ。俺は姐さんにタバコと酒教えてもらったんだ。」「へえ。でもさ、あれはザル」「それは言うな。」

エンハウンスは言いかけた志貴の禁句を制し、銀髪を整える。しばらく髪をといていたあと、志貴の肩に手を回してきた。

「志貴、姐さんすごかったろ?」「ああ。すごい飲みっぷりだったぞ。」

そうじゃねえよこの朴念仁は。とぼやきながら、エンハウンスは小声で耳打ちする。

「乳でけーよな。」

湯気が志貴の頭から噴出し、それを確認したエンハウンスは、頬を膨らませて小ずるく笑った。

「身長175cm。上から83、60、91。ナオミ・キャン○ルもびっくりのモデル体型だぜ?思春期少年。」

「あんた、いつの間にそんな技量を身につけたんだ?」

オーバース○ル・スカウターをエンハウンスは会得していた。彼の一連の盗撮癖は、彼が師と仰ぐ久我峰の教授によるものである。

テーブルでは、アルクェイドたちと陽気に溺れるスミレ。

絹のような長い赤毛に映える、水色のパリッとしたYシャツが似合う死徒。

何より、よく笑う人だ。有彦とイチゴさんを足して2で割ると、あんな風になるのかな。と志貴は考える。

「いい人だよ。スミレさん。」

「ハッ。そうか。」

洗面所の鏡に映る、お互いの顔を見て、男2人はバカみたいに、嬉しそうに、にやけていた。

唐突に、志貴たちのまえに現れた、海の香りがする吸血鬼スミレ。神出鬼没さでは、ヴラドの上をいく。

そんな2人の余韻は、

「志貴ぃ〜!!じいやがまた怒ったぁ〜!!」「アルクェイド!?ここ男子トイレ……て、じいやって誰だよ!?」

目を腫らして泣きじゃくるアルクェイドたちが乱入してきて、一気に覚まされた。

「エンハウンス!!今すぐバチカンに乗り込んで悪女の首とりますよ!!」「はぁ?錯乱してんじゃねえぞ……いてて、ひっぱんなコラ!!」

シエルは完全にキれている。日頃の鬱積された恨みが大爆発して、エンハウンスの耳たぶと銀髪を引っ張り回す。

脳がアルコールでショートした姫とシスターの突如の乱入によって、志貴たちのつかの間の幸福は、闇へ葬られることとなった。


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