月影掘Act.11


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1: アラヤ式 (2003/07/11 09:12:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

フランクフルト郊外。

公園のような明瞭とした雰囲気の墓地。

廻りの木々の紅葉が、擦れ合う小波の音をたてる、静謐とした空間。

独逸語が刻まれた石碑の列が、厳粛さと厳格さを醸し出し、訪れるものたちの献花が絶えることはない。

その墓地の一角に、名も刻まれていない、古ぼけた石碑があった。

苔が生え、朽ちているともとれるその石碑。そこに、2人の人影。

ボサボサの銀髪に不精ひげを生やし、やさぐれた印象を持つ男は、それとは不釣合いな黒のスーツで、石碑の前に立っていた。

彼の赤い瞳が、郷愁のおもいで揺れ動く。エンハウンスは、半世紀越しの墓参りに訪れていた。

その隣に佇む、ショートの蒼い髪に、眼鏡をかけた、大人びた雰囲気の少女、シエルは喪服に身を包み、彼の様子を見守っている。

エンハウンスは、独語新聞に包まれた花束を抱えていた。それを、慈しむようにそっと置いた。

花は青紫色のサルビア。飾った雰囲気は何処にもない素朴な野草。それをみてシエルは呟く。

「綺麗ですね。」

「あいつが、一番好きな花だった。」

墓に眠るのは、彼の愛した妻と、その愛娘。そこに捧げられたサルビアの花びらが、墓地の冷涼な微風に揺れる。

「本当は、俺はこんなことができる資格なんてない。」

エンハウンスは中腰でしゃがみこみ、その目線は石碑をとらえて離さない。過去の記憶が蘇る。

「俺は、あいつが一番守って欲しいときに逃げ出したクソ野郎だ。死者に襲われて、それでも声一つあげずに耐える女房と子供を、
救うどころか己の身かわいさにトンズラ。ハッ。反吐が出る臆病者の上にとんだ卑怯者だろ?
どんなに憎まれてもしょうがねぇよ。今さら、どのツラ下げて会いにきたんだってな。」

自嘲する、銀髪の死徒。

「エンハウンス。資料室の記録によると、あの時あなたの故郷を襲ったブラックモアの死者の数は、5000体を超えていたそうです。
普通の人間でしかなかったあなたが、その襲撃に対抗できた手段は全くの皆無なんですよ。」

エンハウンスの後ろに佇むシエルは淡白に、同時に哀れみを込めていった。彼は、彼女に振り向かない。

「関係ねぇよ、そんなこと。男はな、家族をもったらそれを全力で守らなきゃいけない。それを放棄した俺は、人間として終わったんだ。」

「だから、あなたは人間をやめたんですね。一番嫌悪する吸血種になることによって、自分を永久に拷問しつづける道を選んだ……。」

エンハウンスは、一呼吸間をおく。

「……高くみすぎだ。俺はただ、あの化けガラスを倒す力が欲しくて死徒になっただけさ。
ロアに精神を侵食されても、意識を喪失せずに必死で奴と戦っていたおまえさんとは、その気概に天と地ほどの差がある。」

「……買い被りすぎです。私は、ロアに何もできなかったんですから。あなたと同じです。」

目¥吸血鬼によって家族を奪われた男と女。そして期せずに、死徒殲滅という同一の目的を持つことになった2人。

「『因果』っていうのは、わからないものだね。」

唐突に、少年の声。

「メレム!!」

「フォーデーモン……。驚いたぜ。二度も本体で姿を現すとはな。」

驚いた二人が振り向いた先には、カプッチョ(神父の帽子)のつばに手をかけ、いたずらっ子の属性を匂わせる金髪の少年。

埋葬機関第五位『王冠』メレム・ソロモンは、唐突に現れた。

「同僚の家族の命日だからね。たまには情に厚い所も見せておこうかと思ってさ。」

そういうと神父の服に身を包む幼い少年は、黄色い花束を差し出した。

「気がききすぎて気味悪いな。おまえさんのクジラ、なんか変なモノでも食ったんじゃねえのか?」

「ひどいなぁ。僕の右足はこれでもグルメなんだよ?」

そういって少年は右足をポンポン叩き、花束をエンハウンスに手渡す。

先に捧げられたサルビアの隣におかれる、小さく可憐なタンポポの花束。

「それとね、この場にはちょっと不適切だけど、ナルバレックから言伝を預かってきた。」

それを聞いたシエルとエンハウンスは、思いっきりメレムを睨む。不適切どころの話ではない。

「怒るなよ。この前の件で懲戒くらったばかりでね。
『弓と復讐騎の両名、第2階位グランスルグ・ブラックモアの撃滅、その功績を称え恩賞を授与する』だってさ。」

今回のグランスルグ・ブラックモア来襲。それは、埋葬機関最高権力者の力が無ければありえないこと。

白翼公の襲撃の影に、ナルバレックの暗躍があったことは間違いなかった。

「自分であの怪物を解き放っておいて、白々しい話ですね。」

「全くだ。あの性悪女に伝えとけ。『寝言は寝て言え』ってな。」

吐き捨てる喪服の2人。

「まあまあ。君たちの気持ちはわかるけどさ、上の奴らをあんまり怒らせないほうがいいのはわかっているだろ?
大体、今の君たちを取り巻く状況は、裏切り者としていつでも処刑されておかしくないんだから。」

「ハッ。あんな石頭どもがいくら血管プッチンプリンさせようが、俺たちの知ったことじゃねぇ。……ん?」

エンハウンスにその時、薄ら寒い予測が頭をよぎった。それを察したメレムは笑う。

「正解。ナルバレックはね、君たちを庇ったんだよ。」

カトリック最大の脅威である吸血鬼の女王、アルトルージュ・ブリュンスタッドの懐にいながら、一切の行動を起こさない代行者と抹殺者。

本来ならば即刻粛清されるべきこの失態を、ナルバレックは第2階位死徒の撃滅という手柄を与えることによって追及を免れさせたのだ。

シエルは予想外のことに、驚きを隠せない。

「……信じられません。」

「……ハッ。バカな。違う違う。封印に維持費のかかり過ぎる化けガラスを体よく処理し、同時に『白翼公』に強いパイプをつくる、
一石二鳥の姦策だろ?……副産物でたまたまそうなっただけさ。」

エンハウンスは首を振って否定した。あの最悪上司に限って、そんな仏心はあり得ないと。

「君たちがその姦策に救われたのは事実だ。……う〜ん、僕も自分で言ってて何か薄ら寒いけどね。」

神父服の少年は目が泳いでいる。自分の思考と口に発していることが釣り合いを取れていないことに少なからず困惑していた。

「一週間以内にはバチカンに出頭するようにってお達しだ。陳述書持ってきたから記入しておいてくれ。
それと追加事項。今後、姫君の討伐は先送りで、真祖の騎士と合同で『黒の姫君』の監視を続行するようにとのこと。」

驚いた。それはアルクェイドの浄化事実上の撤回。アルトルージュに対しても監視という上っ面だけのもの。

書類を受け取ったシエルは、その寛大を通り越している処置が、メレムの尽力の賜物であることに気付いた。

「無理を通したんですね。」

「はは。おかげさまで今夜も三角木馬さ。でも気にしなくていい。姫君を救うためならノコギリ刑だってヘッチャラだよ。」

金髪の死徒は笑っていた。これから連続拷問を受ける身とはおもえない程爽やかである。

さっきまでいぶかしんでいたシエルとエンハウンスも、今回ばかりは、彼の狡猾さと双璧をなす純粋さに感謝するばかりであった。

「ありがとよ、フォーデーモン。」

「その呼び方はやめろっていってるだろ。食べるよ?」

「メレム、感謝します。」

そして少年は、帽子をとって墓に一礼した。かぶりなおすと同時にその場を後にする。

「それじゃあ僕はこれで。……最後にもう一つ。社内恋愛は上司に疎まれる原因になるから程々にね。」

エンハウンスは目をギョッとさせ、シエルは耳を疑っていた。

墓地で硬直する2人を余所に、メレムは天邪鬼な笑みで、さも可笑しそうにいう。

「いやあ、まさか君たちがそういうことになるとは夢にもおもわなかったよ。長生きはしてみるものだね。ははは。」

「ちょ、ちょっと待ってください!!メレ……。」

シエルが顔を紅潮させて詰め寄ろうとしたときには、すでにメレムの姿は霧とともに消えていた。

喪服のスカートが風に揺れる。シエルは呆けていた。隣のエンハウンスは、気まずそうに頬をポリポリ掻いている。

「エンハウンス……。」

しゃがんでいるヤサグレ男に、怒りとも悲しみとも取れない顔でシエルは睨む。

法王庁に代行者と抹殺者のロマンスの噂が流れるのは、九分九厘確定だ。

「……。すいません!本当にごめんなさい!申し訳ございません!どうか俺を恨んでください!!」

エンハウンスは墓碑の前で、頭を地面にこすりつけるくらいに土下座をしていた。

「あなたって、意外と甲斐性ないんですね……。ばか。」

あきれたシエル。だが、その後は可笑しくてたまらず、墓地に軽やかな少女の笑い声が響いた。




シュヴァルツヴァルトの居城。ゲストルーム。

アルトルージュは椅子に腰掛け、気だるそうに肘をついている。その傍らには、オールバックの髪をまとめているシュトラウト。

腰かける少女の前には、ヴラドのいれたダージリンティーが芳醇な香りを奏でていた。

アルトルージュの柔らかな唇に運ばれる。シュトラウトは、その様子を黙ってみていた。

「……よかったのですか?姫様。」

「どうして?リィゾ。」

「……姫様は、片刃を……。」

シュトラウトはそれ以上いえなかった。いいたくなかった。

「私、エンハウンスのこと好きよ。」

黒のスーツのシュトラウトは、無表情。だが、予想通りとはいえ、彼女の答えにひどく動揺している。

彼女はそんなシュトラウトに一瞥し、話を続ける。

「一目ぼれだったわ。あの人が昔、死者に追われていたところを助けたときからね。あれが私の初恋だった。」

彼女の告白。紅茶の水面をみつめる彼女の瞳。悲しみと憂いを称えたその双眸。シュトラウトは堰を切ったように吐露し始めた。

「私は……!!姫様から逃げたあの男を、今も許すことができません……!!あの片刃は姫様に介抱して貰いながら、回復した途端……!!」

過去。エンハウンスは、あの死者に追われて介抱してくれたアルトルージュの前から、突然姿を消した。

そのときの彼女の狼狽は、シュトラウトにとって耐え難く、察するに余りあるものだった。

故に彼は、血眼になってエンハウンスを探索・追撃し、剣を交えることとなる。

「リィゾ、それがあの人なのよ。どんな強大な力をもってしても、あの人を縛ることなんて誰にもできない。
私、そんな彼の自由なところが好きだった。……羨ましかったのと同時にね。」

カップをおき、ゲストルームの窓からさす光を、アルトルージュはみつめていた。

死徒の頂点として君臨し、同時に永劫の時をただ貪るしかなかった彼女に、光明をあたえたのはエンハウンス。

そして2度目。彼は志貴と共に、再び彼女の前に現れた。

「でもね、再会してわかったの。彼に必要なのは私じゃない。あの人の目は、いつだってシエルさんをみている。」

城屋上での戦い。ブライミッツ・マーダーとの死闘。

――― シエルに手ぇだすんじゃねぇ!!

あの一言でアルトルージュは、彼の想い人は誰であるかを悟ったのだ。

「本気、だったんだけどな……。」

彼女の目から、一滴の涙がつたう。それを振り払うように人差し指で拭う。それは同時に、大切にしていた思い出への決着。

シュトラウトは、そんな彼女の健気な心に身が震えた。そして席を立つと膝まずき、一礼をする。

「姫様。私、リィゾ=バール・シュトラウトは、何時いかなる災厄が訪れようとも、姫様を全力でお守りいたします。」

「ありがとう。頼りにしているわよ、黒騎士さん。」

シュトラウトの鋼の決意。アルトルージュは彼に向けて、涙の残渣を残しながら笑った。

入り口の扉の影で、立ち聞きしていた金髪白スーツのヴラドは、溢れんばかりに滂沱の涙を流していた。

彼のティーポッドを持つ手は小刻みに震えている。

「姫様ぁ、美しいです!(超萌え)美しいよぉリィゾ!(激萌え)……ううぅ……至福だ……!!もう僕、浄化されてもいいよ!!」

彼の脳は、快楽物質のジュースで満たされている。

魔犬はアルトルージュの傍らで、陽だまりに包まれながら寝息を立てていた。




均整がとれ、美しい町並みの一角にあるオープンカフェ。アルクェイドと志貴はそこでお茶していた。

志貴はカフェオレ。アルクェイドはミルクティー。ごったがえす観光客のなかに、彼らはいる。

「そういうことだったのね。」

「そういうことみたいだな。」

ブラックモア撃破の後、『バニラコーラ1週間分』でエンハウンスから全てを吐かせた彼らは、それについての見解を各々述べていた。

「ちょびヒゲって結構もてるんだね。ヒゲなのに。」

「いや、意味がわからん。」

はにかみながら紅茶をすする彼女に、志貴の音速のツッコミが入る。隣では、ゴミ一つ落ちていない道路を行き交う人々。

肘をつきながらアルクェイドはその様子をずっとみていた。彼女の目には、歩く買い物帰りのカップルの姿。

「アルトルージュがね……。何か信じられないな……。」

「おまえの姉さんだろ?同じ女の子じゃないか。」

夕日が街路樹を橙にそめ、オープンカフェに降り注ぐ。

「だって、あの人は私より遥かに深い知識と力をもっているのよ。支えられる必要なんて」

「ないわけないだろ。完璧な存在なんていないんだからさ。おまえと同じで。」

アルクェイドはミルクティーをおくと、テーブルに肘をついてため息をつく。

「ねぇ志貴。」

「なんだよ。」

「私の存在理由が、魔王・死徒殲滅であることは知っているでしょ?」

志貴はあえて否定せず、黙って彼女の話に耳を傾ける。

「私の頭の中には魔王・死徒に関する体の構造・特徴・急所ありとあらゆる情報が詰まっている。
死徒は滅ぼさねばならない敵。ずっとそうやって教育されてきたから、私は生理的に死徒を嫌悪するようにできているの。」

「……。」

それは、『七夜』という退魔の血をもつ遠野志貴とて同じ事。

「でもね、ちょびヒゲはだらしなくて面白いし、ヴラドはバカでホ○で変態。シュトラウトは無愛想で何考えているかわからないし。
ブライミッツ・マーダーは犬でしょ?なんか、憎めないんだよね。」

「言いたい放題だな。気持ちはわかるけど。(犬?)」

「それでも、死徒なんだよね……。」

彼らはあくまで吸血鬼。その生命を維持するためには人間の犠牲が避けられない。

志貴にとってそれは、甘んじて受け入れられることではなかった。だが、心を通わせた彼らをその手にかけることはできない。

ましてや、そんな傲慢な権利が自分の一体何処にあるのか。『力』の行使は、自分の思い一つにかかっているのだから。

「そうだな。でも、いいんじゃないか?おまえが、気に入っているならさ。」

「……うん。なんか複雑だけど。」

真祖と死徒。その関係は主従・敵対を常に抱えている危うい均衡。アルクェイドはかつて、ロアの策謀にはまり、彼の殲滅を誓った。

だが、ここ一連のアルトルージュたちとの共闘を経て、彼女の心境は複雑に変化していた。

―― 何だったんだろう。今まで、死徒を狩ってきた私……。

幻想。

―― え。

児戯に過ぎん。

―― 誰?

虚無だ。

―― あなたは?

「アルクェイド?」

夕日に照らされ、焦点の合わない瞳でずっと呆けていた彼女の肩を、立ち上がった志貴の右手が揺さぶった。

「……どうした?」

「あ……。なんでもないよ。」

彼女は目をそらす。

「隠し事してたら、怒るぞ。」

彼の目は真剣そのもの。アルクェイドは見透かされたようにたじろぎ、指をもじもじさせる。

志貴は本気で怒っていた。アルクェイドの吸血衝動の抑制は限界ギリギリで保たれている状態。彼女の状態にはいつも気を配っている。

「……してないよ。心配しないで。」

「無理は絶対するなよ。おまえを無事に、三咲町に連れて帰るんだからな。」

志貴の右手が、白磁のようなアルクェイドの頬に触れた。怒りの中に込められた優しさ。彼女は、添えられた手に自分のものを重ねる。

そして、黙ってうなずいた。

「……よし。……あ、そう言えば先輩、墓参りに行くっていっていたけど」

志貴の疑問の直後、ふと、まわりが騒然となる。夕方のティータイムにしては似つかわしくない騒々しさ。

「噂をすればカレーだね。」

志貴とアルクェイドが振り向いた先には、通りを行き交う人々の視線を一心に浴びる喪服姿の2人。

バベルの塔を彷彿とさせる山のような食材を限界まで抱え、悶絶死寸前のエンハウンスと、その前を意気揚揚と歩くシエルであった。

「おまえさん食糧備蓄でもする気か〜?先見の明とはいい難いぞコラ。」

「黙って運びなさい。メレムと裏取引していた罰です。ったく、この盗撮マニアは。」(※月影供Act.3参照)

上に積み上げられたジャガイモが一個、コロコロと舗装された道路を転がる。それを受け止める細身の手。

「すごい量だな……。」

志貴はそのジャガイモを手に取りながら、すっかりアッシーになった相棒に苦笑いする。

「あはは。あんなに一気に買い込んだら、野菜の市場価格高騰しちゃうよ。」

その後、彼らは鉢合わせ。と同時に一年分を超える食糧輸送を手伝うこととなった。





「ふ。それは余が預かり知らぬこと。其方でよきに計らうがいい。」

トラフィム・オーテンロッゼは、金メッキの装飾がされている受話器を置いた。執事風の死者がそれを下げる。

オーテンロッゼの居城、ダイニングルーム。

死者が下座に大勢控える中、『白翼公』は事後処理に追われていた。電話の相手は、某最高権力者。

用を終えたトラフィムは椅子にもたれかかり、だるそうに髭をさする。テーブル真向かいには、淡いブルーのドレスを着たリタ・ロズィーアン。

「まさか、あのブラックモア殿が敗れるとは……。お悔やみ申し上げますわ。オーテンロッゼ殿。」

羽扇を仰ぎ、哀悼の意を述べるリタ。好いてなどはいなかったが、ブラックモアに対する情を、多少持っていた。

「ふはははははははは!!何を世迷いごとを!!理知も知らぬ野獣程度が、あの忌々しい黒の小娘共に敵うはずなどないわ!!」

リタは予想外のトラフィムの反応に、驚嘆とともに怒りを覚えた。ドレスの裾がちぎれんばかりに握り締められる。

「……友人ではなかったのですか?そもそも『鵬』の儀式をブラックモア殿に勧めたのは、貴殿と聞いておりますが?」

「ふん。あんな汚らわしい鳥が友だとは笑わせる。
儀式を推奨したのは、理性というタガをはずせば操縦が容易な家畜となるからだ。家畜風情は、黙って肥やしになれば良い。」

髭を伸ばし、トラフィムは吐き捨てるように嘲笑した。

非情。もとより吸血種は仲間意識など薄い。だが、ここまで利用されてゴミのように捨てられる。

部屋から退室したリタは、羽扇の中からブラックモアの忘れ形見である黒い羽を取り出した。

「(このままだと、私も貴殿と同じ末路をたどるのかしら。)」

羽を握り締め、彼女は天を仰ぐ。



ねぇ、あなたはどう思う?スミレ……。


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