具間禄:月姫 第四章


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1: 間桐 恭二 (2003/07/10 10:29:00)

 スピードが止まらず、檻に激突する志貴。

「イタタ・・・くそ、動きが制限されている分、俺もアイツも動作がそれなりに制限されているには違いない・・・」

「だが、その状況下でどうやって動くつもりだ?」

「何?」

「・・・『腐戒』」

 屍樹が口にした言葉が志貴の動きを止める。

「なっ、身体の自由が・・・」

 檻を背にした形で志貴は動きを止められた。

「あえて顔の動きだけは縛らなかった・・・これは、俺なりの感謝って奴だ」

 屍樹が右手を上げると志貴の右手も上がる。ナイフは右手にある。

「ふむ、俺が欲しいのは『志貴』の名と直死の魔眼だけだ。各箇所は邪魔だから一つずつ消していくのも良いな」

 右手を腹部に当てる。 志貴の右手もそれに従って動き、ナイフの先端が腹部に当たる。

「やっ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 動こうとして屍樹の腐戒を外そうとする志貴だが、顔以外の自由を奪われているのでどうすることも出来なかった・・・

「ククククク・・・フフフフフ・・・ハッハッハッハッハッハ!さらばだ、志貴!」

「・・・・・・・・・・・・!」



 屍樹の右手が振り上がり、自らの腹部を叩く。

 志貴の右手も振り上がり、自らの腹部を貫く。



 何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・何度も叩き、何度も刺す・・・





それは、気が遠くなるぐらいの回数・・・





「かはっ・・・がぁっ・・・」

 大量の血が流れ出し、志貴は呻く。だが、先程より鋭い眼光が屍樹を捉える。

「まだ、生きているのか・・・何故、足掻く!何故、生きようとする! 何故、死に急がない! あああああああああああ! うざったらしい! お前もそうだ、アイツもそうだ・・・どうして、絶望しない! 何故、そんな眼で俺を見る!」

「俺には・・・まだ、やり残したことがある。・・・助けてくれる人も居る・・・今も、この瞬間も・・・どんな時でも・・・な」

 その言葉を言い終えると同時に数本の剣が檻を抜けて屍樹を貫いた!

「がぁぁぁぁっ!」

 壁に叩きつけられる屍樹。 志貴同様、血を流しながらも剣を引っこ抜いた。

「この黒鍵・・・埋葬者か!」

「ええ、殺気がおぞましいほど増大しているので・・・居場所がすぐにわかりましたよ」

 檻越しに屍樹を見るシエル。

「贖罪中の貴方が私のちょっとしたミスで脱走するとは思いもよりませんでした・・・ですが、遠野君が実質上、貴方の人質である以上・・・下手な手出しは出来ないと見てよろしいですか?」

「良い答えだ。 確かに、志貴の身体も自由も俺の手元にある。これは、人間の言葉で言う『切り札』って奴だ。 埋葬者、第七聖典をぶっ放してみろ―――俺を殺せてもコイツがどうなるかはわかっているよな?」

 黒鍵と右手を腐結した手で志貴の左頬に剣先を当てる。

「取引ですか? ですが、先に遠野君の安全を確保してからの上で貴方との取引に応じましょう」





/4:EGOISM・それは、楽観的な自己逃避



 例えば、テーブルに一丁の拳銃があったとしよう。

 込められた弾は1発、ゲームに参加しているのは3人、自分から始めて弾は2ターン目最初に自分の所に来る。



 そして、2ターン目で弾丸は確実に自分のこめかみを撃つ。

 だが、自分としては命が欲しい。死にたくない。 もしかすると、他の人間も同じことを考えている。

 さて、そんな時、自分がそんな状況に立ったらどう考える?



 生きる為に何かを保険にして、ゲームから離脱する?

 名誉を売って、生き延びる? 恥を晒して、生き延びる? それもまた、いいだろう。

 だが、人間は危機的状況に陥るととんでもない行動に出る。





隠し持っていた拳銃で参加者を殺し、『ソレ』自体無かったことにする。





 これもまた、一つの手段だ。 まさか、使える拳銃がテーブルにあるものだけだとは誰も思うまい。

 それに、誰かが拳銃を隠し持っていることを予め察知しても、持っているのは『誰か』なので個人までを特定することは出来ない。

もしかすると、両サイドの二人はグルで自分が弾を回避出来たら撃ち殺すつもりだろうと―――三者三様、考えることは同じなのだ。





そして、志貴と屍樹、シエルも似たような状況に置かれていた・・・





「取引の具体的な内容を・・・教えてもらおうか」

 屍樹が言う。

「まず、遠野君の解放を行い、その後、私は貴方を取り逃がします。教会には異義の報告をしておけばいいでしょう。 そうすれば、私は『貴方を捕まえる』と言う名目でまた、この街で活動が出来ます。 その間、貴方は好きな所に逃げるのも良し、不意を付いて襲い掛かってくるのもいいでしょう・・・つまり、貴方は『自由』を得ます」

「ふむ・・・悪くない話だ。 だが、『取引』という行為は両者にメリットを与えてこそのモノ・・・俺だけ得をするわけにも行かない」

「それについては心配無用です。私のメリットは遠野君の解放ですからね。 それを差し引いた分、得をするのは貴方ですよ」

 シエルが説明し、屍樹はクククと笑い声を上げる。

「何か不服でも?」

「いや、十分な取引だ。 よし、志貴を解放しよう」

 屍樹が指を鳴らすと志貴の動きを封じていた腐戒が外れた。

「・・・遠野君!」

「待て!」

 駆け寄るシエルを静止する屍樹。

「・・・取引は終わったはずだが?」

「・・・戯言を・・・理由を言いなさい!」

 キッと、殺意の意を込めた視線でシエルは屍樹を見る。

「アンタ、言ったじゃねぇか・・・取引は『遠野志貴の解放』だってな。 見ての通り、俺は『遠野志貴を腐戒から解放』した。 誰が『連れ帰ってもいい』なんて言った? お前のやろうとしている行為は・・・契約違反だ」

「くっ!」

 志貴から離れ、黒鍵を構えるシエル。

「何が何でも遠野君は返してもらいますよ!」

「・・・ちっ。 こんなことなら、殺しておけばよかったか・・・志貴も見た目以上にタフだし、埋葬者も裏切る。・・・お前も似たような事態は想定していたんだろうが、一番の損を喰らったのは俺だ・・・テメェら、グルか?」

「いいえ、生憎ながら、私と彼は共謀者ではありません。互いにそうすることでメリットを得たりしているわけではないので」

 軽く笑ってシエルは答えた。

「ほぉ、だったら、取引は無かったことにしよう。お前と志貴を殺せば・・・この行為自体が無くなってくれるからな」

「なるほど。 人間の『負』の感情の器とした死徒27祖の貴方なら・・・可能ですね」

「何ぃ?」

 殺気を発散した屍樹の影が百の足を持つ生物へと変化する。

「やめなさい―――幾ら貴方が『真の姿』を持つ者であろうと、この場での開放は好みません・・・決着は別の場でつけましょう・・・今は、互いにそのままの姿で・・・」

「殺しあおうってか?」


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