月影掘Act.10


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1: アラヤ式 (2003/07/07 18:17:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

「志貴殿。」

「なんですか?」

志貴が『月飲み』ブラックモアを撃破した直後、シュトラウトの不意な質問。

「このままでは、落ちるぞ。」

そう。彼らがいたのは地上500m上空。ブラックモアが消滅した今、彼らを支える天空の足場は何一つない。

それに気付いた志貴は冷や汗を垂らす。そして、唐突にスカイダイビングもといロケットダイブがはじまった!!

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!助け……(魂剥離中)」落下スピードで志貴の顔はすてきに変形。歯茎がめくれて、そして気絶。

「志貴ぃ!!ちょっとシュトラウト、あんた何とかしなさいよ!!」アルクェイドといえども、この高さで頭から落ちたらただではすまない。

「……。」無表情でまっさかさまに落下するシュトラウト。意外と諦めが早い男である。

このままでは3人とも、すてきに地上にプチトマト。そんな状況下に、白い閃光が飛び出してきた。

エンハウンスだ。シエルとともに魔犬に跨る彼は、志貴とシュトラウトを絶妙のタイミングでキャッチ。アルクはシエルにキャッチされた。

「ハッ。クソ騎士殿、天空からの御帰還とはなかなか粋じゃねぇか。」エンハウンスは皮肉交じり。

「貴様に助けられるとは、私も焼きが回ったか……。」シュトラウトは顔を背けながらも、半ば諦めたように笑った。

「アルクェイド……。重すぎます。意外と筋肉質ですね。」渋い顔で猫を抱っこするシエル。

「シエル……。ボブ・サップも裸足で逃げ出すあなたにいわれたくないわよ。……でも、ありがとう。」しぶしぶアルクェイドは御礼を言った。

「ほえ?」

志貴も気付いた。彼の眼前にあるのは、魔犬の白い艶やかな毛並み。見上げた先には、赤のオーバーコート。

「気付いたか志貴。」

「……。エンハウンス。」

エンハウンスは、今までの軌跡に思いを馳せる。あの三咲町公園での誓いから一ヶ月弱。ともに戦おうと決意したあの日。

ブラックモアを前に理性を失っていた自分を、信じて最後まで戦ってくれた遠野志貴という人間。

―― 信頼なんて、結果を出せばついてくるもんだな。――

「ありがとよ。最高だぜ。おまえさんは。」

「あんたも。」

仇敵を討ち取った『真祖の騎士』と、彼に賭けた『復讐騎』はがっちりと握手を交わす。それは真のパートナーとお互いを認めた証だった。

「でもまさか、暇つぶしでみていたホームページが、化けガラス退治の役に立つとはな。人生わかんねぇもんだ!!あはははははははは!!」

そのバカ笑いを聞いた瞬間、彼の後ろに移動したシュトラウトはプッツンした。

「片刃!!貴様、そんなぽっと出の策で姫様を囮にしたのか!?やはり殺す!!万死すら生温いっ!!」

「うるせぇタコ!!結果オーライだろうが!!〜〜や、やめろ!!オ、オチル〜!!」

エンハウンスはシュトラウトに首を絞められ轟沈寸前。他の3人は呆れて傍観している。

―― ワカゾウ!!シュトラウト!!ヒトノセナカデアバレルナ!!

突然、彼ら全員の脳内に響く鈍重な声。

志貴とアルクは目を真ん丸くさせびっくり。彼らは、ブライミッツ・マーダーがしゃべれることを知らなかった。

シュトラウトから開放されたエンハウンスが説明を開始。

「ああ、志貴と姫君は初めてなんだな。実は犬っころには、バウリンガルが仕込んであって……オボへ!!!???」

魔剣ニアダークの後端と黒い銃身が、エンハウンスの後頭部にめりこむ。

「このヤサグレ吸血鬼!!なに堂々とホラ吹いているんですか!!」

「片刃!!ブライミッツ・マーダー殿を愚弄することは許さん!!」

シエルとシュトラウトの壮絶かつ絶妙なWツッコミ。フルパワーである。

「……おまえら、手加減知ってる?」

頭蓋骨が4cm陥没して脳みそが出ちゃったエンハウンスは、凹み気味に呟く。人外たちをのせる魔犬は、再びテレパシーを送ってきた。

―― 『シンソノキシ』。『シンソノヒメギミ』。『ダイコウシャ』ヨ。

「おい犬っころ、誰か足りねえんじゃねえか?コラ。」 エンハウンスはキレ気味に、魔犬の耳を引っ張る。

―― ……ソノタ。

「その他じゃねえだろ!!」 魔犬の垂れ耳をエンハウンスは限界まで引っ張りまわすが、ブライミッツは相手にしない。

―― オマエタチノジョリョクガナケレバ、アノ『ホウ』ハタオセナカッタ。レイヲイウ。

誇り高き霊長の殺人者は、『真祖の騎士』一行を真の仲間として認めた。

「志貴。」

エンハウンスの背中から顔を出したのはアルクェイド。彼女は満面の笑みをたたえている。

「あなた、ついに『ガイアの怪物』まで篭絡しちゃったのね。惚れ直したよ!」

「〜〜!!ば、ばか!!何いってんだよ……。」

アルクェイドの天真爛漫な笑顔に、志貴は顔を赤くする。

「ハッ。見せつけてくれるねぇご両人。そんなにアツアツぶりかましていると、失恋組が焼いちまうぞ。あはははははは!!」

エンハウンスの茶々いれ。しかし、それはとても軽率であった。

素早く反応したのは、怒りのオーラを放ちまくるあの2人……。

「エンハウンス。そろそろ黙らないと、ブラックモアの空席に封印しますよ……。」シエルは第七聖典と黒い銃身で両拳銃……。

「片刃。貴様は、もう殺す……。」シュトラウトの魔剣ニアダークが空気分子に干渉し、刀身の廻りが揺らいでいる……。

「な、何だよ……。マジになるな…よ?」冷や汗を、ナイアガラの滝のように垂らすエンハウンス。

「滅殺!!(ハモリ)」

「マジですか〜〜〜〜!!??オボ!!グハ!!ヘギ!!」復讐騎のいろんな断末魔。

「先輩!シュトラウトさん落ち着いて!!うわ!!」パイルバンカーが志貴の腹をかすめた。

「こんな狭い場所で暴れないでよ!『月飲み』の方がよっぽど理性持っていたじゃない!!キャ!!」頭すれすれで魔剣を避けるアルクェイド。

魔犬の背中ではじまる大戦争。エンハウンスは、魔剣と概念武装の電撃作戦で血の海に沈んだ。魔犬は呟く。

――― オマエタチ。ゼンインオリロ。




志貴たちは魔犬の導きで、着陸していた幽霊船団の旗艦に到着。降り立ったアルトルージュは、帰還した戦士達の姿をまじまじと見つめていた。

「(……何が、あったのかしら?)」

志貴とアルクは全身裂傷で息を切らし、シエルとシュトラウトは血にまみれていた。もちろんエンハウンスの返り血である。

用を終えた魔犬は原形に戻り、アルトルージュに擦り寄る。彼女は、ご苦労様といいながら、そのあたまを優しく撫でた。

志貴は、不意に空を見上げる。そこには、いまだ残る怪鳥の残渣が、ダイヤのように煌いていた。

「アルクェイド。アルトルージュ。ブラックモアは、君たちのこと本当に憎んでいたのかな……。」

不意な彼の呟きに、疑問符がそのまま出てきそうな顔をする2人。

「羨ましかったんじゃねぇのか?あの化けガラスは。」

こぼれそうな脳みそを右手で抑えて、エンハウンスは志貴の疑問に答えた。

「あいつは元々底辺の魔術師だったらしい。最初は人類の敵である『朱い月』を、表面上は倒すって息巻いてやがったんだろうが、
その内ガイアをも揺さぶるその絶大な力に、逆に魅了されたんだろう。」

「……。」

「『朱い月』を倒したい。と同時に、その力を手に入れたい。相反した欲求がぶつかり合い葛藤した結果、あいつは獣になる道を選んだ。
そこまでするってことは、もはや羨望というより愛に近い。
どっかの司教と同じで、ある意味歪んだ『愛』の形だ。ま、そんなもんに俺は今さら興味はないが。」

志貴はエンハウンスの話を、今までの過去の記憶とともに聞いていた。

遠野四季は、妹を愛するがあまり、父親をその手にかけ、殺人鬼となった。

ミハイル・ロア・バルダムヨォンは廻りの人間の運命を飲み込み、それがアルクェイドへの『愛』ゆえからくるものだと、最後まで気付かなかった。

グランスルグ・ブラックモアも、彼らと同じだったのだ。

「哀しいな……。」

志貴は視線を落とす。

「ああ、哀しいな。むかつく『あ鵬』だったけどな。」

志貴は、エンハウンスの目が、静かなる泉のような憐憫をたたえていることに気がついた。

自分の家族を奪った敵。腸が煮え繰り返っていたであろう仇敵にたいして、もう彼に憎悪はなかった。天空に散った、古のカラス。

「それが矛盾しているってことなんでしょ?」

空を見上げていた志貴とエンハウンスの前に、アルクェイドは一回りして駆け寄った。

「私、『月飲み』の気持ち、少しわかるよ。あいつには、きっと周りに誰もいなかったのね。」

「そういうことさ姫君。どんな生き物も一匹で存在を維持できる奴なんていねぇ。化けガラスは、最後までそのことに気付かなかったのさ。」

「私も、志貴に出会わなかったら、最後はあいつみたいになっていたね……。」

「アルクェイド……。」

「そうだな。なっていたかもな。」

吸血種は、人外の力を持つゆえに、人と同等の精神では永劫の時に食いつぶされる。

吸血鬼である限り、その可能性は真祖であろうが死徒であろうが関係ないのだ。

「そのことを、ちゃんとわかっているあなたたちの勝利は、必然だったのよ。」

アルトルージュは、柔らかな微笑で呟いた。

「そうだな……。だからアルクェイド。おまえも姉さんとさっさと仲直りしろよ?」志貴は笑いながら、アルトの前に彼女を突き出した。

「ちょ、ちょっと志貴!!それとこれとは話が違うわ!!」

「なんなら俺たちが取り持ってやるぜ?姫様。」エンハウンスも、アルトルージュの肩に手をおき、カラカラ笑う。

「う〜ん。まだ難しいわね……。」彼女は微妙な表情で、頬に人差し指を当てる。

そんな様子をみていたシエルとシュトラウト。

「まあ、ブラックモアに勝った要因に関しては、もっと根源的な事がありますよ。」

「……。」

「二十七祖4人にトオノくん、それに加えてアルクェイドで袋叩きにすれば、どんな超越種だって敵う訳ないじゃないですか。
それを考慮すると、ブラックモアは健闘したといえますね。」

「……。」

それを言ってしまえばそれまでだが、反論を挟む余地はない。シュトラウトは黙って納得した。

そして、一陣の薔薇の香りが、彼らを包み込む。

「吸血鬼は哀しいもの……。故に僕たちは、愛に生きるのさ!!」

船首にいつの間にか佇んでいたのは、血反吐を吐いていたはずの『白騎士』ヴラドであった。

復元呪詛も絶好調の彼は、ダメージもすっかり回復。もとの端麗さを取り戻していた。

それを確認した志貴とエンハウンスは脂汗をたらし、アルクェイドたちから一歩、また一歩と後退していく。

「志貴。」

「エンハウンス。」 2人は顔を見合わせ、頷く。

「逃げるぞ!!(ハモリ)」

男2人は脱兎どころか、脱チーターの勢いで逃げ出した。ヴラドは船首から華麗に跳躍し、2人を追いかける。

「待ってよ二人とも!!僕を虜にした責任、とってもらうからね〜!!」薔薇の花びらを撒き散らし、時速100kmで迫るヴラド。

「知るかホ○!!神さま頼む!!今だけ祈ってやるから奴を止めてくれ〜!!」自分が標的であることを本能で悟ったエンハウンス。

「うわああああああああ!!その台詞どっかで聞いたぞ!!きもいよー!!」捕まったら今度は絶対犯されるから必至で逃げる志貴。

シュヴァルツヴァルトに白煙が上がる。土煙が霧の如く散開し、志貴たちはあっという間にいなくなった。


おいていけぼりを喰らったアルクェイドとアルトルージュ。

「……あまり過ぎる『愛』っていうのも、考えものよね……。」

「……ええ。」

2人とも、顔がひきつっている。

「トオノくん。エンハウンス。神のご加護があらんことを……。」あまりあてにはならないが、とりあえず十字を切るシエル。

「……。(過去、あの覚醒フィナから逃れられた男は存在しない……。)」シュトラウトは、無言で合掌した。




後日談。

かろうじてホ○の魔の手から逃れた志貴とエンハウンスは、余りの疲労のために指一本動かすことすら出来なかったそうだ。

床についた志貴は語る。『あの時のヴラドさんは、当社比でブラックモアの3倍はキモかった……。』


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