月影掘Act.8


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1: アラヤ式 (2003/06/30 16:33:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

『鵬』。

古代中国の荘子が『北冥有魚』で比喩として用いた空想の巨大な鳥。
 
北方の暗く冷たい海中に、『鯤』という大きさ数千里にも達する魚がいて、

これが化けて『鵬』になり、水中から羽ばたくと大風を起こし海水が沸き立つ。その翼は垂天の空のごとし。




「大変だわ……!!」

バルコニーにいるアルクェイド・ブリュンスタッドは、体を震わせ戦慄していた。

天をも轟かせる巨大な鴉が、突如夜の闇に出現したのだから当然の反応だろう。

「志貴……!!ちょびヒゲ……!!シエル……!!」

いつかみた記憶がある、あのおぞましき怪鳥。アルクェイド自身はその出所を覚えてはいない。

ただ、一つ確実にいえることがある。前線で戦う3人に最大の危機が迫っている。彼女は居ても立ってもいられなかった。

「アルクェイドさん。」

彼女の背後に現れた、黒騎士と魔犬を従えるアルトルージュ・ブリュンスタッド。

「ああなった以上、もはや彼らだけの手には負えません。フィナ、用意はできて?」

彼女の問いかけに合わせるが如く、バルコニーのすぐ隣に、いつかの幽霊帆船が乗り付けて来た。

そして船首に華麗に佇む金髪紳士。幽霊船団長ヴラドは右手に薔薇を携え、月光にそれを捧げる。

「もちろんです姫様。それはもう美しく!!」

ヴラドは音の無い跳躍でバルコニーに降り立つと、アルトルージュに一礼する。

「フィナ。『ネバーモア』はまだ生きているわ。『月飲み』とは常に一定の距離をおくのよ。」

「わかっております。では、参りましょう。」

魔犬にとびのるアルトルージュ。幽霊帆船に乗り込もうとする彼女を、アルクェイドが止めた。

「私も連れて行って!!」

黒いレースの肩におかれた、白魚のような手。彼女の懇願する深紅の瞳。アルトルージュはその決意を悟り、諦めるかのようにため息をつく。

「『残れ』っていっても、あなたはきかないでしょうね……。いいわ。一緒に行きましょう。」

アルトはアルクェイドに手を差し出し、魔犬の背中に乗せた。

「行くわよ!!ブライミッツ・マーダー!!」

アルトの掛け声とともに、魔犬は鋭い跳躍で帆船に飛び乗る。白き魔犬と2人の吸血姫が宙に舞う。

その最中アルクェイドは、初めて間近に見るアルトルージュの背中に、積年の感慨を覚えずにはいられなかった。

今まで姿を見ることさえ嫌悪していた姉の、小さいが大きな背中。アルクェイドは、自分の額をおしあてる。

「……ありがとう。」

「今回だけよ。」

アルトルージュは振り返らずに答えた。ヴラドとシュトラウトも乗船し、それを確認した幽霊船団員の髑髏兵士が帆を張る。

「さあ、出航だ!!志貴くん、待っていてくれたまえ!!今いくからねぇ!!」

「……主旨を忘れるな。フィナ。」

シュトラウトの突っ込みも半ばに、薔薇を口に加え舵をとる船長ヴラド。宙を舞う船団の数、ざっとみても40隻は超えている。






でかい。

体長約20m。その漆黒のつばさを広げた長さは40mを超えるだろうか。白亜紀後期の最大翼竜ケツアルコアルトスでさえその半分にも及ばない。

大地をショベルカーのように鷲掴みする巨躯の2本の足。変身前とは比べ物にならない大きさのその黒き鉤爪。

クマをも一飲みしそうな嘴に刻まれた細かい牙。以前の面影を残しているのは暗緑色に輝く魔眼くらいのものか。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

巨大な翼を広げ鳴く、怪鳥グランスルグ・ブラックモア。

「……。」

志貴はその余りに破天荒な怪物ぶりに、ただたじろぐ。ネロのカラスの何倍はあるのだろうか。

「先輩、エンハウンス……。」

志貴が振り返ると、その2人は地面にトランクケースをおいて何かをしていた。

シエルが取り出したのは『黒い銃身(ブラックバレル)』。攻撃対象が強大な力を持つものほど殺傷能力が飛躍する強力な兵器だ。

「先輩それは!!」

「こんなこともあろうかと一応用意していたんです。またパクッといて正解でしたね。」

そしてエンハウンスは、あの聖葬法典ハンドガンタイプのグリップに、ストックを取り付けていた。

さらにサイレンサー、レーザーサイト、スコープを取り付け調整している。

「先輩、あれはなんですか……?」

「はい。聖葬法典スナイパーカスタムです。コンバーシブルで狙撃銃に換装できるんですよ。弾丸の初速は〜〜〜」

シエルのウンチクがまたはじまったので、志貴は無視してエンハウンスに駆け寄る。

「エンハウンス、やれるか?」

「ああ。奴さん、思ったよりしつこいみたいだからな。止めさしてやるさ、所詮最後の悪あがき……」

ブラックモアは羽をばたつかせ、月天下に飛び立つ。凄まじい風圧に、とっさに木の幹に捕まる3人。

「わ〜!!台風か〜!?」

志貴は飛ばされそうになる。シエルとエンハウンスが彼の手を掴んだ。

「悪あがきにしては性質が悪すぎます……。いきますよ!!エンハウンス!!」

「ああ、逃がすか!!」

志貴を2人で抱えたまま、片手で構え、それぞれの得物で怪鳥に照準を合わせる。そして放たれる2発の銃弾。

だがブラックモアが翼を振っただけで、軽く弾き返された。

「ちっ。」

「ま、予想していたことですけどね……。」

体長20mの怪鳥にとっては、銃弾など豆粒に等しい。雄叫びをあげ、飛行するブラックモア。


――― アカイツキ。ニクイ。


竜巻に近い空気の圧搾。上から叩きつけられる風圧と土埃で、視界の確保が難しい。

ブラックモアは宙をジャンボジェットのように右旋回し、アルトルージュの居城へ向かう。

「(……アルクェイド!!)」

志貴は、城においてきたアルクェイドが、ブラックモアの標的であることを思いだした。

(私たち朱い月候補に、並々ならぬ敵愾心をもっているの)

殺させない。あんなカラスにアルクェイドは殺させない。あのバケモノを、『コロス』。

風圧が収まり志貴は駆け出した。と同時に、エンハウンスに足をかけられスッ転び、大地に熱いキスをかます。

「へぶらっ!!〜〜〜何すんだ!!」

「慌てるな。走ったところで間に合わねぇよ。」

そういうとエンハウンスは胸ポケットから携帯を取り出した。おもむろに電話をかける。

「もしもし。……おうヴラド。わりぃ、仕留め損なった。ちょっと手ぇ貸してくれ。……ああ、わかった。埋め合わせはいつかするさ。じゃあな。」

ピッという音とともに、携帯をしまう(しかも回転式)。志貴とシエルは目を白黒させている。そんな2人に気付いたエンハウンスはあきれた。

「……おまえら。日本じゃ公衆電話は絶滅寸前なんだろ?アルトルージュたちはみんな持っているぜ。」

彼の電話帳には『死徒の姫君』一行の電話番号とメルアドが全て登録されている。(シュトラウトの携帯はサテライト通信)

「シエルも買っとけよ。メレムが連絡とりづらいって、いつもボヤいてんだぞ。」

「……。その日の血液にすら事欠くくせに、変なところで金使うんですね、あなたは……。」

「……。」

志貴とシエルは、自分達がIT化の波に吸血鬼よりも乗れていないことに、少しショックを受けた。

「さて、化けガラス退治といくか……。」

エンハウンスが頭上を見上げると、そこには、ほかよりも一際大きい幽霊帆船が姿を現していた。

「志貴〜!!シエル〜!!ちょびヒゲ〜!!」

「無事みたいね。3人とも。」

「待たせねぇ。さあ、乗りたまえ!!」

「……。」

帆船の甲板に集結する、『真祖・死徒の姫君』+魔犬。『白騎士』。『黒騎士』。役者は揃った。





遂に、最終決戦。





――イナイ!!ブリュンスタッド!!イナイ!!


巨大な翼をばたつかせ、城の前で空中停止飛行するグランスルグ・ブラックモア。

自分の標的がいないことに気がついた怪鳥は、怒りの雄叫びとともに破壊をはじめる。鉤爪が城壁を引き裂き、ブロックのように崩れ行く城。

アルトルージュたちの乗る幽霊船団の旗艦は、しばらくそれを静観していた。

「あ〜あ、派手にやってくれるねぇ。」

甲板に集結する志貴たち。船長ヴラドは双眼鏡を覗き込み、崩壊する城を眺めていた。

「フィナ!何をのんきなことを……。私が!!」

城をむざむざと崩壊させられることに悔しさを抑えきれないシュトラウトは、右手に魔剣ニアダークを発現させ、うってでようとする。

「リィゾ、やめなさい。厳しいことをいうようだけれど、『月飲み』の前では、ニアダークもただの鉄剣にすぎないわ。」

腕を組み、遠くの怪鳥を睨むアルトルージュは、シュトラウトを制した。

ブラックモアの固有結界『ネバーモア』。その効力は巨大化した今でも失われていない。

巨躯の廻りを、淡い紫半透明の空間が包み込んでいる。死徒の固有結界及び超抜能力は効かない。

エンハウンスは黙って熟考していた。そして決意する。

「……俺に策がある。アルトルージュ、囮になってくれ。」

「〜〜!!片刃正気か!!姫様を囮につかうだと!?」

シュトラウトは怒りをあらわにして、エンハウンスのむなぐらを掴みかかった。

彼にとって、危険極まりない怪物の前にアルトルージュを晒すことなど、絶対に我慢ならないことである。

「それしか手がねえ。ヴラド、おまえさんは幽霊船団で化けガラスを上手く誘導してくれ。その隙に俺とシエルが、奴の目ん玉を撃ち抜く。」

「ふざけるな片刃……!!」

「リィゾ。抑えて。」

エンハウンスに殴りかかる寸前だったリィゾの拳を、アルトルージュは手を添えて抑えた。

「わかったわ。私が『月飲み』をひきつける。」

アルトルージュは凛として固く決意する。シュトラウトは唇をかみ締めながらも、そんな彼女の姿に沈黙するしかなかった。

「姫様守ってやれよ、クソ騎士。……相棒。化けガラスの『死』は見えるか?」

志貴は『直死の魔眼』で、ブラックモアの『死』を確認する。怪鳥の『点』は、その巨大な後頭部。

「ああ、見える。」

「上等。奴が姫様たちを喰らいにかかる寸前で狙撃するからな。おまえさんはその直後を狙え。」

「わかった。」

「志貴、私も手伝うよ。」

そう言って進み出たのはアルクェイドだった。だがそんな彼女に、志貴はあえて厳しい言葉を投げつける。

「だめだ。あのばけもの相手じゃ、今のお前なんか2秒で食われるぞ。」

「だって、志貴一人だったら『月飲み』に飛び移れないわよ。」

いかに志貴の身体能力が、標準のソレを上回っているとしても、飛行する船上でブラックモアの急所に、正確に飛び移れる保証はない。

「志貴。姫君のいうとおりだ。力貸してもらえ。」

志貴はしばらく納得のいかない表情をしながらも、しぶしぶそれに応じた。それを確認するとエンハウンスは、魔犬の頭を撫でる。

「姫様。この犬っころ借りるぜ。」

アルトルージュは頷いた。そして彼女は魔犬の側により、その鼻にキスをする。

「ブライミッツ・マーダー。エンハウンスのいうことよく聞くのよ。頼むわね。」

それに答えるかのように、魔犬は尻尾をふって一声吠えた。そして巨大化する、白き『ガイアの怪物』。

エンハウンスとシエルが、それぞれの銃を手にとり魔犬の背中に飛び乗る。エンハウンスは別れ際、志貴に拳をだした。

「志貴。ラストは派手に決めろよ!!」

志貴も拳を合わせた。

「あんたもな。しくじるなよ!!」

シエルはアルクェイドに一瞥する。

「あーぱー吸血鬼さん。せいぜい死なないようにがんばってくださいね。」

アルクェイドは頬を膨らましながらも笑顔で答えた。

「シエルこそ、外したら承知しないからね。」

ヴラドとシュトラウトも2人の狙撃手を見送る。

「エンハウンス君!!代行……じゃなくてシエルさん!!無事を祈っているよ!!」

「……失敗はゆるさんぞ片刃。シエル殿、武運を祈る。」

「死徒に励まされるなんて、私も焼きが回ったみたいですね。」

「ハッ。まかせろ。……頼むぜ犬っころ!!」

エンハウンスの掛け声とともに、魔犬は強靭な足腰で跳躍。

赤のオーバーコートと青の戦闘服が、魔犬の白のコントラストとともに、黒い森へ降り立った。





――― ブリュンスタッド!!ドコダ!!?



ブラックモアは探していた。城をいくら破壊しても、人っ子一人出てこないのだ。怪鳥の脳は、怒りのソースで煮え繰り返っていた。



「『月飲み』ぃ!!悔しかったらこっちまで来てみなさいよ!!」


―― !!


「『月飲み』!!私たちはここよ!!」


―― ブリュンスタッド!!!!

怪鳥はその鈍重な頭を振り向かせた。彼の眼前にいたのは空中に浮かぶ、ボロボロに朽ち果てた幽霊帆船。

その船首に、優雅に腕を組んで佇むアルクェイドと、自然体で凛とした眼差しを向けるアルトルージュが立っていた。

ブラックモアは歓喜に震え、雄叫びをあげる。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」

来た。

ブラックモアの巨大な翼が空を切る。幽霊帆船と怪鳥の追いかけっこのはじまりだ。アルトルージュは激を飛ばす。

「フィナ!!全速前進よ!!」

船長室で取り舵を取るヴラド。彼は口に薔薇を加え、天空に手を掲げる。

「了解しました姫様!!全速前進!!美しく!!」

旗艦はスピードをぐんぐん加速させる。同時に怪鳥も飛行スピードを増してくる。

ブラックモアの飛行スタイルは万能だ。アホウドリのような滑空を主体に、20mの巨躯にもかかわらず、ハチドリのような空中停止も可能なのだ。

地上500mで行われる地面すれすれの追走劇。

その怪鳥に横から迫る影。幽霊船団の3大艦隊がブラックモアを取り囲む。1艦隊15隻で構成されている。

「僕のかわいい幽霊船団諸君!!この旗艦の前にブラックモアを出しちゃダメだよ!!
あくまで後ろに引き付けるように。でも近づきすぎると消されちゃうから気をつけたまえ!!ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

マイクのようなものを口にあて、満面の笑みで幽霊船団を統制する『白騎士』ヴラド。

ちなみにこのような指示は本来必要ない。思考するだけで髑髏兵士は適確に動くからだ。ヴラドの趣味である。

ブラックモアは迫る。巨大な頭に不気味に輝く暗緑色の魔眼。その感情の感じ取れない瞳は、常にアルクとアルトを狙っている。

『黒騎士』シュトラウトと『真祖の騎士』遠野志貴が2人を背後におき、怪鳥を牽制する。

「……『鵬』ね。」

「なんてこと……。」

アルクとアルトの不意な呟き。志貴は『七つ夜』を構えたまま振り向いた。

「志貴。ブラックモアがどうやって『The dark six』第三権を手に入れたかわかったわ。『月飲み』は、幻想種『鵬』と融合したのよ。」

「幻想種?それってネロとかメレムさんの……」

「志貴君。ネロはね、獣の因子を取り込んで自ら混沌と化し、フォー・デーモンは四大魔獣を使役しているの。
でも『月飲み』は一味違う。彼は魔術によって、完全に自らを幻想種と融合させたのよ。」

「それってどういうことなんだ?」

「おそらく、彼は自らを獣と化すことによって、この星の根源を垣間見ようとしたのね。でも彼の精神はその衝撃にとても耐えられなかった。
そして理性を喪失するかわりに、彼は『死徒に対する相対殺害権利』を獲得するにいたったわけよ。
でも、その苦痛は想像を絶するわね。自分のなかに自分以外の意志が入りこむ恐怖は人格を崩壊させてもおかしくないわ。

「……。」

目の前の怪鳥が、自分と似た境遇。

遠野志貴のなかに眠る七夜志貴。ブラックモアという元人間に巣食う『鵬』という怪物。

今まで撃破するべきとしか考えていなかった『月飲み』グランスルグ・ブラックモア。彼は初めて、その敵に憐憫の情を覚える。

アルクェイドとアルトルージュは、とっくに志貴の心を見抜いていた。

「同情しちゃダメよ。『月飲み』はあなたと違って、自ら望んでああなったんだから。」

「彼はもう、人間を取り戻すことはできないわ。悪い夢は、はやく終わらせてあげましょう……。」

今までの出来事が走馬灯のように、志貴の前を過ぎ去っていく。彼は一息ついた。

「わかった。あいつ『コロス』よ。俺。」

彼の腹も決まった。






魔犬にまたがるシエルとエンハウンスは、幽霊船団の行く先に向かっていた。

黒い針葉樹林帯を駆けぬける『ガイアの怪物』。

ブライミッツ・マーダーの脚力は驚異の一言だ。ジグザグの森をウサギのような俊敏さで巧みに駆け抜けていく。

シエルはブラックバレルを、エンハウンスは聖葬法典を握り、狙撃できるポイントへ向かう。

「ヒュー。犬っころ速いな!」

「間に合うといいですね。」

エンハウンスは犬の頭をポンポン叩く。

―― サワルナ。

「へ?」

エンハウンスとシエルの脳内に響く、鉄のように深みのある鈍重な声。

―― キヤスクサワルナ。ワカゾウ。

「まじか!!」

「……まさか!!」

2人は驚いた。それは『ガイアの怪物』が彼らに放つテレパシーだったのだ。

「犬っころ!!おまえしゃべれんのかよ!!」

―― ワレハコノホシガウマレイヅルトキニウマレタモノ。コノマエハヨクモワレヲ『串刺し』ニシテクレタナ。

「うるせぇ!!おまえさんも犬の分際で、俺の鎖骨折ってくれたじゃねえか!!」

―― フン。アオニサイガ。

「あんだとてめぇ!!」

犬の頭を殴りかからんばかりのエンハウンスを、シエルが羽交絞めして止める。

「やめて下さいエンハウンス!!『ガイアの怪物』と今度やりあったら2秒で肉塊にされますよ!!」

―― ソノムスメヨリスウダンセイノウガワルイノウミソダナ。バカ。

「こ、こ、この畜生が…くぅぅぅぅぅ!!」

ここで魔犬に放り出されれば意味が無い。エンハウンスは苦汁を飲み込んで我慢した。

「……驚くべき知能指数ですね。でもどうして今までしゃべってくれなかったんですか?」

―― キサマラガアルトルージュサマノショウガイダトハンダンシテイタカラダ。

「犬っころ。てめぇ、まだ志貴狙っているんじゃないだろうな……。」

―― ソウダトシタラドウスル?

「ぶっ殺す……。」

―― キサマゴトキニスゴマレテモイタクモカユクモナイ。

「この畜生が!!」

「『やめなさい』ていっているでしょうがー!!」

黒鍵5本を、モロ頭に喰らったエンハウンス。

―― アンシンシロ。ソンナマネハシナイ。オマエタチハアルトルージュサマノミカタラシイカラナ。

刺さった黒鍵を抜きながら、エンハウンスは犬の背中で笑った。

「ハッ。わかっているじゃねぇか犬っころ。伊達に『ガイアの怪物』やってねえな。」

―― チョウシニノルナ。アルトルージュサマニ『ミョウナマネ』ヲシタラスグニデモソノアタマカミクダク。

途端、エンハウンスの背中が絶対零度になる。シエルだ。彼女は雪女のような氷の嫉妬を全身から醸し出している。

「……ワンちゃん。実は、この人もう……」

「いや!!ちょっと待てシエル!!あれは……!!」

―― ワカゾウ、マサカアノトキ!!

まずい。ここでエンハウンスの過去がバラされれば、魔犬の警告どおりエンハウンスは頭を噛み砕かれて、すてきに昇天するだろう。

だが、ブライミッツ・マーダーは怒気を抑えて冷静になった。

―― マアイイ。イマハアルトルージュサマノアンゼンガユウセンダ。アノ『ホウ』ヲシトメラレナカッタノハワレノフカク。
オマエタチニタクス。アルトルージュサマヲスクッテクレ。

「ハッ。まかせろ。犬っころ。」

「……まあ、いいでしょう。ポイントまでお願いしますね。ワンちゃん。」

魔犬はシュバルツバルトを駆け抜ける。『復讐騎』と『擦梁綛埃圈戮鮠茲擦董





古のカラス。倒せるか。


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