月影掘Act.7


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1: アラヤ式 (2003/06/29 13:54:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

ワレハ。



「友よ。」



ワレハ。



「一つになるのだ。」



ワレハ、ホウ。



「容易いことだ。」



ワレハ、ホウ。



ニクイ。







「オーテンロッゼ殿!?私が必要ないとはどういうことですの!?」

トラフィムに詰め寄る『芸術家』リタ・ロズィーアン。今回のアルトルージュ殲滅に際し、トラフィムは彼女を戦力からはずした。

「……口に出さなければわからぬか?うつけ者が。そなたは運搬役さえこなせば良いのだ。」

ひび割れた松のような顔で、リタを睨むトラフィム。

リタは悔しさをかみ締めながらも、反論することは出来なかった。

リタは先の戦いでオーテンロッゼの死者3000体を失った。自らの固有結界も、ヴラドの『バレード』には歯が立たない。

だがそれは、最初から実験と称し仕掛けた戦いのはず。彼女にとっては理不尽この上ない。

そんな彼女を完全に無視し、トラフィムは後ろに振り向いた。

「500体でよいのか?古き友。」

「……イイ。」

『黒翼公』グランスルグ・ブラックモア。『死徒殺しの怪人』は、『死徒の姫君』打倒に動き出す。

オーテンロッゼ居城のロビー。そこに集結したブラックモアに追随する死者たちは、以前の6分の一の戦力。

「オオイ。ヨクナイ。」

ブラックモアは、自分の膂力と固有結界『ネバーモア』に絶対の自信を持っている。

高速移動による一撃離脱の戦闘を得意とする彼にとって、多すぎる死者は足手まといに過ぎない。

そのことを理解した白マントの老吸血鬼は後ろに腕を組む。

「よかろう。……余からいうことは一つだ。」

地獄の軍勢に向かって、深紅の魔眼をぎらつかせた『白翼公』トラフィム・オーテンロッゼは檄を飛ばす。

「Brunestudを葬れ!!」

その瞬間、ブラックモアの奇声とともに、死者たちは声の無い歓声をあげた。






開戦。







蒼く、暗い空には三日月。黒い森は今、静かな緊張に包まれる。

シュヴァルツヴァルト南西部の針葉樹林帯。

人工色の強いシュヴァルツヴァルトの中でも、ここは商業目的で植林されたところだ。

すらっと伸びた松の幹が、竹林の如く網の目のように張り巡らしている。

志貴、エンハウンス、シエルの3人は、事前にブラックモアがこのルートを通ると予測し、松の幹にそれぞれ隠れ、最前線でその襲来に備える。

ブラックモアの目標はあくまで真祖の王族。アルトルージュたちは城で待機している。エンハウンスの提案だ。

志貴は『七つ夜』。シエルは体中にペイントを施し完全武装。(第七聖典×1・ナイフ×2・黒鍵×アンリミテッド)

エンハウンスは背中に魔剣アヴェンジャーを装備。それともう一つ。

「エンハウンス?なんだよそれ。」

志貴がそういって指をさしたのは、彼が右手に持つ銀色のトランクケースだった。

「ハッ。とっておきだぜ。化けガラス退治のな。」

トランクを誇らしげに掲げ、それをポンポン叩くエンハウンス。

「……エンハウンス。」

「なんだよ。」

志貴は心配だった。中央廊下の戦いでは、エンハウンスは完全に我を失っていた。この戦いで、冷静さを保つことができるのか。

「熱くなるなよ。なるべく。」

「心配するな。おまえさんとシエルがいれば千人力だ。」

「……調子いいですね。あなたは……。」

となりでナイフを握るシエルは、ため息をつきながらも笑顔をかえした。

「あんたらしくやれば勝てる。」

「ハッ。最近励まされることが多すぎるな。……リベンジしてやるさ。『復讐騎』の名にかけてな。」

3人は、これから向かう死線にむけて息を合わせる。

彼らは固い決意を胸に秘めていた。ブラックモアは、ここで止める。

それから1時間ほど立っただろうか。

空の月は煌々と輝き、3人の戦士達を見守る。

その時は、唐突に来た。

黒い、黒い、闇の奥から、無数に蠢く赤い光。

その数は、ゆっくりと、ゆっくりと、数を増しながら迫りくる。

「最低限……か……。」

それは、幽霊のように腕を上げながら、ゆっくりと、ゆっくりと、歩いてきた。

エンハウンスは、魔剣を背中から引き抜く。

志貴は魔眼殺しの眼鏡をとった。キリで刺されるような頭痛が走る。

『七つ夜』の刀身を出す。シエルは黒鍵を構えた。エンハウンスは2人にアイコンタクトをしながら、指でカウントをとる。

ひきつける。ギリギリまで奴らをひきつける。ひきつけてから、狩る。

「シエル。援護たのむぜ。」

同時に、志貴とエンハウンスは飛び出した。

志貴が死者の軍勢の右翼、エンハウンスが左翼と中核に突っ込んだ。死者たちは襲いくる。

針葉樹が立ち並ぶ森。それをジグザグに駆け抜ける男2人。

志貴に立ちはだかった死者は、頭を優先的に切断されていった。エンハウンスの前に来る死者は、魔剣で木の幹ごと横凪にされた。

シュヴァルツヴァルトに響き渡る、倒壊音と轟音。シエルは2人の後を追いながら、彼らが狩り損ねた死者たちを黒鍵で屠る。

死者たちの身のこなしは一応に早かった。以前の死者たちより1ランクは上なのだろう。

だが、志貴たちにとってはそんな差は微々たるものに過ぎない。瞬く間に、肉の塊が森にばら撒かれる。

死者の軍勢の源へ、走り抜ける3人。右翼を粗方片付けた志貴は、エンハウンスに合流した。

「エンハウンス!!奴は何処だ!!」

「この奥のはずだ!!奴の目標は城だからな!!死者どもは俺たちの足止め役なんだろ!!」

針葉樹の幹は何処までも続く。死者をいくら倒してもブラックモアの気配が無い。だが、後を追いかけるシエルは、異変にいち早く気がついた。

「伏せてぇ!!」

2人がシエルの警告に反応し伏せた瞬間、あの黒き爪の魔手が、志貴とエンハウンスの頭上をかすめた。

ブラックモア。彼は足を空中ブランコのように松の枝にかけ、二人の顔面を一気にもぎ取ろうとしたのだ。

魔手をもつ黒き羽の怪人は、攻撃をかわされたあと足を開放させ、空中回転して着地する。その瞬間、5本の黒鍵が怪人の頭部を狙った。

「キュルルルルルルルルルアアアアアアアアアアアアアアア!!」

だがブラックモアは、咄嗟にバク転してそれを回避。怪人の恐るべき柔軟性と運動能力。ナイフで身構えたシエルはため息混じりに呟く。

「速いですね……。」

志貴とエンハウンスも姿勢を立て直し、3人は取り囲んで怪人を牽制した。

「あいかわらずいいケダモノっぷりだな。化けガラス。」

「ブラックモア……!!」

怪人は暗緑色の魔眼を見開き四つん這いになった。細かく刻まれた牙から染み出るように唾液を垂らし、その眼球は血走りながら休むことなく蠢く。

「キュルルルルルルアアアアアアアア!!」

グランスルグ・ブラックモア再来。彼は鶏のように首をしきりに動かして、自分の狩るべき目標がいないことに気がついた。

「ブリュンスタッド!!イナイ!!ブリュンスタッド!!キュルルルルアアアアアアアアアアアアア!!〜〜〜!!」

「ばかの一つ覚えみてぇにわめくな……!!」

刹那、ブラックモアの目の前にエンハウンスがやってきた。彼の強靭な脚力に志貴は驚く。

エンハウンスの左手から聖葬法典、至近距離で閃光の一撃が放たれる。だが、怪人はわらっていた。

エンハウンスの聖葬法典は先の戦いで一回も当たらなかったのだ。ブラックモアは余裕で回避できると踏む。だが

「グギュ!!キュルル!!」

気がつくとブラックモアは、力なく大地にひざまずいていた。彼自身は、なにが起ったか理解できていない。腹からは大量の出血。

聖葬法典の直撃を受けたのだ。弾丸に刻まれた『原点回帰』の教義が、彼の腹を焼く。

それに耐えかねた怪人は、手を体内に突っ込み、肉をまさぐって弾丸を引き抜いた。

「キュルルルルルルアアアアアアアアアアアア!!イタイ!!イタイ!!イタイ!!イタイィィィィィ!!」

引き抜いた弾丸が今度は怪人の手を浄化していく。ブラックモアはそれを投げ捨てると、余りの苦痛にその場でもがき苦しんだ。

「耳障りだぜ。タコ。」

転がりまわるブラックモアの腹を、エンハウンスはゴミのように蹴飛ばす。

「キュルルルアアアア!!ナンダ!?ソレ!?オマエ!!!」

蹴飛ばされた怪人は、埃まみれになった顔を上げ、エンハウンスの左手に注目する。

彼の手に光る、チタンの銀と強化プラスチックの黒が織り交じった銃身。

それは、以前のショットガンではなかった。形状は拳銃。十字の刻印が施されたグリップは大きめで、エンハウンスのごつい手に馴染んでいる。

突然の猛獣狩りに、志貴は戸惑いを隠せない。

あの見慣れないエンハウンスの得物。志貴は心当たりに聞いてみた。

「……先輩、あれはなんですか?」

「はい。聖葬法典ハンドガンタイプです。」

「なんですかそれ!?」

眼鏡をクイッとあげ、誇らしげにシエルは説明する。

「ふふふふふ。今までのショットガンタイプでは取り回しが悪く、動きの速いブラックモアを捕らえることは出来ませんでした。
そこで、デザートイーグル44をベースに私がカスタマイズしたんです。
ボディはチタン合金を使い剛性をアップ。さらに肉抜きすることによって銃自体の軽量化にも成功しました。
マガジンに込められる弾丸は20発。喰らった相手はその銃痕から浄化されるんですよ。」

瞳を妖しく光らせながら、ウンチクする銃マニアシエル。志貴は若干後ずさり。

シエルは今までの戦いの合間に、聖葬法典の改良にコツコツと取り組んでいたのだ。

「シエル、ありがとよ。コイツすごく軽いぜ。」

聖葬法典をエンハウンスは軽快に回す。彼のオーバーコートにはマガジンをいれるポケットが増設されていた。

「いいからさっさと仕留めてください。魔術回路も改良しましたから、あなたが浄化されるスピードは遅らせることができました。
しかし、同時に弾丸の破壊力自体は下がっているんです。急所にうち込まないとだめですよ。」

「というわけだ化けガラス。コイツで、てめぇの息の根止めてやるぜ。」

銀色の拳銃をかまえ、エンハウンスはその銃口をブラックモアに向けた。

だがブラックモアは、四足の跳躍でその場を咄嗟に退避し、森の影に身を潜める。

「キュルルルルルルアアアアアアアアアアアアア!!!ジャマ!!ジャマ!!ブリュンスタッド!!ブリュンスタッドォォォォォ!!」

黒い森に響き渡る怒りの怒号。ブラックモアは3人を取り囲む殺気で、姿もなく牽制する。

「おまえなんかにアルクェイドとアルトルージュはやらせない……。」

「お姫様2人はバケモノには勿体ねぇ。ストーカーな化けガラスなんぞ、醜さの極みだ……!!」

「ナルバレック……、あなたの思い通りにはさせませんからね……。」

見えない敵に、感覚を鋭敏にさせる3人。

闇の中、チリチリと旋回するように取り囲む、ブラックモアの純粋な殺意。

ブラックモアは憤激していた。自分の目標の障害となるものは、許さない。

―― ブリュンスタッド。

―― ワレハ!!

闇を切り裂く轟音。松の枝を利用して、テナガザルのように遠心力をきかせて飛び出すブラックモア。

豪腕の黒き爪は志貴の右頚動脈を狙った。怪人は『死』をみる人間を一番危険だと判断したのだ。

志貴は反応が遅れた。シエルは黒鍵を怪人に放つが、避けられる。

「キュルル!!」

だが、阻まれた。エンハウンスの銃身が彼の爪を防いだ。ことごとくジャマされる自らの攻撃。

銀の銃を駆る赤いオーバーコートの男。この男にすべて阻まれてきた。ブラックモアは怒りに震え、古に喪失したはずの理性を一瞬取り戻す。

「……オマエ!!ジャマダァァァァァァァァァ!!」

「やらせねぇぞ。化けガラス。」

エンハウンスの右足から繰り出されたミドルキック。ブラックモアは見極め、体をずらす。

ブラックモアは的確にかわしたはずだった。だがエンハウンスのミドルキックは途中で軌道を変え、ブラックモアの右側頭部にめり込む。

吹き飛ばされ、再び地面に転げまわるブラックモア。

―― ナンダ。アイツハ。ナンダ。

思慮を巡らす暇もなく、聖葬法典の弾丸が宙を切り裂き襲ってきた。ブラックモアは避けられない。

「キュ!!キュ!!キュルルルルアアアアアアアアアアアア……!!!!」

脇腹、左上腕部、右太腿に銃痕。そこから立ち上る白煙。3発の教義が死徒を焼く。

怪人は自らの固有結界が、目の前の男に何も意味をなさないことに気がついた。

「オマエ!!ナンダ!!オマエ!!シト!!シト!!ネバーモア!!ナンデ!!」

「無効化なら通じねぇ。聖葬法典は俺の『人間』としての力だからな。」

ブラックモアの固有結界『ネバーモア』は、死徒の事象を無効化する能力。神の御名において執行される概念武装は防げない。

そして連射される聖葬法典。ブラックモアの肉体を引き裂き、抉り、地獄の苦しみが次々と増幅される。

怪人は全身から汗を垂れ流し、苦痛にわめく。爪が地面を握りつぶし、それでも焼けるような痛みは治まることをしらない。

エンハウンスは白煙をあげる銃からカラのマガジンを取り出し、ポケットから新たなマガジンを出し、聖葬法典に込める。

仇敵は体中の弾痕から白煙を上げ、地に伏す。エンハウンスに容赦は微塵も無かった。

「化けガラス。いてぇか?」

転げまわる怪人を蹴り飛ばし、無表情で弾を放ち続けるエンハウンス。急所はわざと外している。

「てめえにやられた奴らはこんなもんじゃないぜ。てめえの曾孫に、俺の家族は殺されたんだ。
しかしあれだな。オマエといい、ロアの野郎といい、魔術師あがりの吸血鬼どもは人の魂を弄びすぎる。
そういうのを世間じゃ、『オイタが過ぎる』っていうんだよ……。」

ブラックモアを襲う弾丸と蹴り。その交互の嵐。怪人はもはや呻き声さえ上げられない。痛みが脳髄まで浸透し、ブラックモアの意識は沈んでいく。

壮絶で壮烈。深紅の双眸で『黒翼公』ブラックモアをいたぶり続ける『復讐騎』エンハウンス。

ここまで来ると、いかに残虐な怪人といえども、同情してしまうほどの拷問の連続。

志貴とシエルは黙って見守った。見ているしかなかった。

積年の恨み。幾星霜の慙愧。その全てが、今、この場で吐き出されている。その男の思いを、止めることなど出来ない。

そして、一体何発の銃弾と蹴撃が、ブラックモアに打ち込まれたのだろうか。

ブラックモアは黒い血綿と化し、その呼吸は蟲に等しいほど弱々しくなっていた。その目に凶獣の面影はなく、暗緑色の魔眼は輝きを失っていく。

「もう、ブラックモアは動けませんよ……。」

しばらく見守っていたシエルは、淡白に呟いた。

「……ちくしょう。」

拷問が終わった。虫の息のブラックモア。エンハウンスは、怪人に向けていた銃口をおろす。

「……なんでだ。」

拳を握り締める。

「……なんでだよ。」

唇が震える。

「……なんでだ!?」

口火を切る。

「なんでだ!!なんで、なんでこんなに空っぽなんだ!!俺は!!俺は!!俺は『復讐騎』だぜ!!!!!
コイツぶっ殺すために俺は生きてきたんだ!!コイツぶっ殺すために俺は死徒になったんだ!!
やっと……やっと……コイツ殺せるってのに……、やっと……敵がとれるのによ……。なんでだ!!なんでだよ……!!」

黒い森にわずかに差し込む月明かり。その下で、エンハウンスは泣いた。

今まで嬲られようが、どんな傷を受けようが、涙一つ見せなかった男は、立ち尽くして嗚咽をもらした。

シエルは、初めて彼の涙を見た。どんな窮地に陥っても、冷静に、冷徹に死徒を狩りつづけたエンハウンス。

そんな不遜な男が、涙を流して慟哭している。

「あんたが、人間だからだよ。」

志貴は、立ち尽くす『復讐騎』の肩に手をおいた。

「……寝言いうなよ。俺は……」

「体の違いなんか関係ないよ。あんたは人間だ。復讐なんて空しいって、そうおもえるあんたは、誰がどう言おうと人間だよ。」

「……。」

エンハウンスはしばらくの間黙っていた。

「……志貴。俺の通り名は『復讐騎』だぜ?……存在意義否定してくれるなよ。」

恥ずかしさに彼の顔は紅潮し、鼻を掻く。

「そりゃ悪かったな。泣き虫。」

「このやろぉ!!」

エンハウンスは志貴の頬をつねった。志貴も負けずにそれに返す。シエルはそんな二人を見て、笑みがこぼれた。

「エンハウンス。気は済みましたか?」

「……ああ。」

志貴の首を羽交い絞めにしながら、エンハウンスは、心のそこから満足していた。

「ふふ。メレムにこの事いったらなんて言うでしょうね〜。『エンハウンスソードがオイオイ泣いた』といってバチカン中に広まることでしょう。」

意地悪な笑みを浮かべるシエル。いつかの復讐である。

「シエル!?そ、それだけはやめろ!!性悪女の話のネタにされちまう!!いや〜〜〜〜〜!!勘弁してくれ〜〜〜〜〜!!」

『復讐騎』エンハウンス。彼の顔は、幾年の重圧から開放されたかのような笑顔だった。




――― ブリュンスタッド。



「志貴。そこの化けガラスに引導渡してやってくれ。」



――― ワレハ。



「……いいのか?」



――― ワレハ、ホウ。



「もう充分痛めつけた……。最後くらいは苦しめずに逝かせてやるさ。」



――― アカイツキ。


「成長しましたね。エンハウンス。」

「うるせぇ!!保護者面すんな!!……頼む相棒。」

「わかった。」


――― ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!ニクイ!!






「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」






志貴が『七つ夜』を振り下ろした瞬間、大地に戦慄が走る。

ブラックモアの嬌声。その空気振動が志貴の刃を遮った。

突然のことに志貴はバランスを崩しながらも飛び退き、エンハウンスとシエルは彼を抱えて退避した。

ブラックモアの元の肉体は崩壊していく。そこに新たに形成されていく、巨大な黒い肉隗。

木も、草も、地面も、すべて彼の黒羽の一部となる。

胎動するブラックモアの魂魄。彼の中心に吸い込まれるように、黒い森が『飲』まれる。

「……なんだよ……アイツ!!」

目の前の超常現象に驚きを隠せない志貴。

「志貴。あれがな、化けガラスたる所以だぜ。」

エンハウンスの瞳に、鋭い光が戻った。

「しくじりました。……まずいですよエンハウンス。」

シエルは見上げる。そのバケモノを。



円形状に削られた地面から姿を現す、巨大な鳥獣。

そのバケモノが羽を広げると、その漆黒の翼で、天空に浮かぶ月は覆い被さってしまう。

巨躯の鴉は、嘴に刻まれた牙を、丸ごと見せるように鳴いた。




「アァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」




グランスルグ・ブラックモア。最終形態。その正体は伝説の『鵬』。


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