月影掘Act.6


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1: アラヤ式 (2003/06/28 11:18:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

『The dark six』。

最初の死徒で最初のシステム。とはいわれているが、その正体は謎に包まれている。

それは死徒なのか、真祖なのか、それとも他の精霊種なのか。一切不明。その謎の一端を、『月飲み』は握っている。




四次元和室での会議。

「まさか、その名を聞くことになるとはね……。」

アルクェイドは、ヴラドの入れた紅茶にミルクを足し、その甘美な香りをたんのうしながら呟いた。

「ザ、ダーク、シックス??……あ、すいません。」

隣の志貴は、紅茶を足しながら熱い視線を送ってくるヴラドにおびえつつ、半笑いで会釈する。

「あの化けガラスが?解せねぇな。」

エンハウンスは、体中に開いていた穴も回復してきた。

「いえ、可能性はあります。もともとブラックモアの封印は、第2階位とはいえ過剰を通り越しているものでした。
ナルバレックは最初からそのことを知っていたんでしょうね……。」

シエルは注がれた紅茶の水面に、教会史上最狂性悪女の面影をみる。

そして、シュトラウトが背後に控える中、上座で正座しているアルトルージュ・ブリュンスタッドは口を開いた。

「間違いないわ。そうでもなければ、この子を倒せる理由がないもの。」

傍らの白い魔犬の頭を撫で、彼女は確信する。

「『The dark six』とは、この星の根源。地球の構成因子を司る『アラヤの怪物』。
『月飲み』はそのうちの一つ、第3の権利を保有していると私は考えます。」

『The dark six』には6つの構成因子が存在する。『6』は、六芒星や獣の数字に代表されるように、霊的要素の意味合いが強い数字だ。

第1の権利 人類に対する絶対殺害権利。 第2の権利 真祖に対する拘束殺害権利。 第3の権利 死徒に対する相対殺害権利 。

第4の権利 有機流動体に対する相対干渉権利。 第5の権利 無機流動体に対する絶対干渉権利。 第6の権利 地球に対する支配権利。

「皆さんもご存知のとおり、この子、ブライミッツ・マーダーは、人類に対する絶対的な殺害権利を保有するゆえ、ガイアの怪物と呼ばれているの。
それは同時に、アラヤの怪物『第1の権利』を保有していることになるのよ。」

以前、志貴に牙をつきたてた白い魔犬。今は円らな瞳でアルトに尻尾を振ってはいるが、この犬は死徒番付一位の最強超越種なのだ。

「……ちょっと待って。」

アルクェイドが彼女の話を遮った。訝しげに腕をくむ彼女。

「アルトルージュ。あなたの説明だとガイアの怪物とアラヤの怪物は、同一の存在ってことになるわよね。
でもそれはおかしいわ。ブライミッツ・マーダーは、地球の意思が生み出した人間排除を目的に生み出された精霊種のはず。
逆にアラヤの怪物は、人間の意志が地球の脅威に対して生み出した対抗精霊種。その総意ともいえる存在よ。
ロアも二つの存在は対立し、分離するものとして捉えていた。あなたのいっていること矛盾してない?」

アルトルージュの目に、感情の揺らぎが消えた。

「そうね。……『蛇』の認識。それ自体は間違っていないわ。
でもねアルクェイドさん。『生』と『死』のように、
『ガイアの怪物』と『アラヤの怪物』は、相反する存在でありながら、同時に同一の存在でもあるの。矛盾した意義を内包する矛盾した存在。
人間への懲罰者としての宿命を背負った『月の民』のあなたが、その人間と酷似してつくられたようにね。」

その瞬間、アルクェイドのアルトを見る眼は、今まで久しく見せていなかった凄みを増す。

逆鱗。アルトルージュはアルクェイドの、最も触れて欲しくない、晒したくない部分に触れた。

真祖の王族Brunestud。魔王・死徒の処刑人。人類への絶対的な懲罰者。

遠野志貴という人間を愛していながら、自分は人間を罰する存在。決して、相容れぬ運命。

そのもどかしさ、やるせなさ、矛盾の源を、よりによって一番見せたくない志貴の目の前で晒されてしまったのだ。彼女の憤激は凄まじい。

「……最近、あなたのこと見直していたけど、やっぱり見込み違いだったのかしら。
私、あなたのそういう所が嫌いなのよ……。あの時もそうよ……。どうして、あなたは……!!」

「やめろよ。」

アルトに詰め寄ろうとしたアルクェイドを、志貴のかざした左手がとめた。

「おまえの気持ちはわかるよ……。でもアルクェイド。アルトルージュだって……。」

「……。」

アルクェイドは押し黙る。過去の城屋上での戦いで、感情の高ぶりのみで己を見失い、『第2段階』と化したアルトルージュ。

彼女もまた、死徒と真祖の力が混合しているという矛盾を抱えて、気の遠くなるような永劫を生きている。

正座するアルトルージュの双眸が、切なく、悲哀の揺らぎを湛えた。

「アルクェイドさん。この世は矛盾だらけよ。その道へ行きたいと思っていても、いつの間にか全く逆の方向を歩いている。その繰り返しなのよ。」

紅茶の水面を見つめながら、シエルはアルトルージュの話に黙って耳を傾けている。

ロアの転生体となり、自分の親や友人を手にかけた過去。咎人としての記憶。忌まわしき業。

シエルの表情がみるみる強張る。彼女のティーカップを持つ手が、小刻みに震えていた。そんな彼女の肩に、節のしっかりした手が優しくおかれる。

「……エンハウンス。」

「シエル。気にするな。……だが、姫様のいうとおりだぜ。ほんとこの世は矛盾だらけだ。
志貴、おまえさんほど人様の幸福願っている奴なんか今時珍しいのに、『直死の魔眼』なんていう厄介なものもっている。ハッ。訳わかんねえよな。」

「……矛盾だらけのアンタにいわれたくないな。」

志貴とエンハウンスは、お互い顔をあわせて皮肉交じりにののしりあう。

アルトルージュはそんな2人に笑みをこぼしながらも、アルクェイド、シエルには憐憫の情を隠せない。

「アルクェイドさん。シエルさん。気に障ったらごめんなさい。でもこのことはきちんと把握しておかなければいけないこと。
そうでなければ、『月飲み』は倒せないわ。」

話は戻る。

「『月飲み』は魔術の探求の末、死徒となった希少種。
彼は何らかの儀式によって『The dark six』の第三権、『死徒に対する相対殺害権利』を手中に治めたのでしょうね。
もっとも私が90年前、彼と戦ったときは今ほどそれを使いこなしてはいなかったわ。そうでしょう?アルクェイドさん。」

「……そうね。彼が人間であった頃、その魔術のスキルと霊的ポテンシャル自体は、決して高いものとはいえなかった。
そのくせ、彼の固有結界『ネバーモア』は、その有効範囲が自然体の状態で周囲直径2〜3mに拡大していたわ。」

アルクェイドの恐るべき観察眼。しかしながら直径2〜3mの固有結界。志貴はそんなにすごいことなのかと少し疑問に感じた。

「志貴。たかが一介の魔術師が、ガイアの怪物と肩を並べる精霊種を一部とはいえ取り込んでいる時点で、とてつもないことよ。
死徒の力をキャンセルできる『ネバーモア』は、おそらくそれを魔術と組み合わせて具現したもの。
『月飲み』はそれを、高速戦闘の最中でも、体表面に薄くコーティングするように維持していたわ。その意思力はネロに肉迫する。
現に、厳密にいえば死徒ではないブライミッツ・マーダーですら、アイツに負けた。おそらくこの中でアイツに勝てるのは……」

アルクェイドの視線は、上座のアルトにむけられていた。

真祖の力を引き出した彼女の『第2段階』ならば、ブラックモアの『死徒に対する相対殺害権利』の拘束から逃れられるかもしれない。

しかし、アルクェイドはすぐに彼女から視線を落とした。

それは不可能な想定に過ぎない。もう一度変身すれば、アルトルージュが理性を取り戻せる保障など何処にもないのだ。

歴戦の兵シュトラウトとヴラドも、死徒である限り『死徒殺しの怪人』には勝てない。

志貴の『直死の魔眼』も相手を捕らえられなければ力を発揮することは出来ない。先の戦いでの優勢は、シエルの助力があったからだ。

場に暗い空気が流れる。それがたまらないかのように、エンハウンスは魔眼をぎらつかせた。

「……俺が勝つ。あの化けガラスは俺の獲物だ。」

「でもちょびヒゲ、ボコボコにされたじゃない……。」

「姫君。それはそれだ。あのとき頭に血が昇ってなけりゃぁよ、あんな化けガラスに……!!」

「……悪いけど、それを抜きにしても、一方的だったわ。」

「……。」

アルクェイドはわざと冷たくいった。もうエンハウンスに、あまり無茶はして欲しくないという、彼女の気持ちの表れなのかもしれない。

アルトルージュは、一応エンハウンスに助け舟をだす。

「アルクェイドさん。あなたもお腹に穴あけられたでしょ。……確かに私達死徒では、『月飲み』を打倒することはむずかしいわ。
志貴くん。シエルさん。今回はあなたたちの『人間』としての力が、ブラックモアを倒す突破口になります。」

「俺の……力……。」

志貴は自分の手を見つめた。

「エンハウンス、あなたもね。半人半死徒のあなたのなかに流れる『人間』としての力、私は信じているわ。自分を見失わないでね。」

アルトは、くやしさで歯軋りするエンハウンスを見守る。傍らで控えるシュトラウトは終始無言であった。

「志貴くん!!僕も君の力を信じているよ!!あらゆる面で協力は惜しまないよ!!」

焼きたてのライベクーヘンを運んできたヴラド。妖しい双眸と満面の笑顔を湛え、最優先でケーキをアルトと志貴に配る。

志貴はひきつった笑顔で返しながら、手には『七つ夜』をしっかり握っていた。ヴラドにまた襲われないとも限らないからである。

「ヴラド……。それにかこつけて手を出したら殺すわよ。志貴は私のモノなんだからね。」

「ハッハッハ。僕はそんな無粋なことはしませんよ。姫君。」

「……。」

前科持ちヴラドの目は妖し過ぎる。この男色の手強い恋敵(?)に、宣戦布告するアルクェイド。志貴をめぐり『真祖の姫君』と『白騎士』の火花が散る。

アルトルージュはその異質なバトルに困惑を感じながら、咳払いをする。

「……私たちも『月飲み』討伐のために助力します。みなさん、今は体を休めてください。」









会議を終え、エンハウンスは自分の部屋へ戻った。夕暮れのシュヴァルツヴァルト。紅葉と夕日の紅が、秋の深みを増してゆく。

エンハウンスは椅子に腰掛け、タオルでブラックメタルの大剣を磨いていた。

「今回おまえさんの出番はなさそうだ。綺麗にしてやるから機嫌直せよ。」

物言わぬ剣に語りかけるエンハウンス。はたからみるとかなり危ない人であるが、擬似生命である魔剣とのコミュニケーションは重要なのだ。

魔剣の有機素体が、それに呼応するかのように、ウネウネと動く。

「はわわ〜!!」

唐突にどこかで聞いたような声。テーブルに息も絶え絶えのウマ娘が倒れていた。

シエルの概念武装、第七聖典の守護精霊セブンである。

「どうしたセブン。またシエルに折檻されたか。そうかそうか。かわいそうに。」

作業の手を止めず、素っ気無く反応するエンハウンス。全然かわいそうには思っていない。

「そうおもうならマスターに掛け合ってください〜!!あのカスタマイズはもう病的です〜!!ううぅぅぅ〜〜〜!!」

涙ながらに訴えるセブン。エンハウンスはシカトする。

「 はぁ。やっぱり埋葬機関の人たちなんて血も涙も仏心もないんですね。ひどいですぅ!!あんまりですぅ!エセ神論者!魑魅魍魎!あくまぁ〜!!」

絶望しきってため息をついた後、およよ〜と泣きはじめるセブン。見かねたエンハウンスは作業の手を止め、ポケットから人参を取り出した。

それをもらったセブンは目をキラキラさせ、ひづめを器用に使って人参にかぶりつく。

「……隠れても無駄なんだから、食ったら帰れよセブン。俺は化けガラス退治の準備で忙しいんだからな。」

「勝てませんよ。今のエンハウンスさんじゃ。」

真面目な顔でセブンは食を止めた。エンハウンスの表情が怒気を帯びる。

「てめぇ……。」

「死徒との戦いでは、自分を制御する『意思力』の高さが勝敗を分けます。
今のエンハウンスさん、奥さんと子供の敵とることで頭一杯なんじゃないんですか?それじゃあ、あのブラックモア相手には5秒も持ちませんね。」

怒りを露にする死徒二十七祖第18位にも、全く臆さない守護精霊。

普段は能天気なセブンも、ここぞという時は痛い真理をつく。エンハウンスは握りこぶしをつくり、セブンを睨みつけた。

「おまえさんに、なにがわかる……。」

「……私も目の前で、お母さん死にました。」

エンハウンスは思い出す。セブンは元々人間であった。精霊への生贄とされ、彼女の母親は衰弱して死んだ。彼女もまた、一人ぼっちなのだ。

「……わりぃ。」

「いいんです。それは私が望んだことの結果ですから。
それよりエンハウンスさん。自分を見失っちゃダメですよ。魔剣と聖葬法典の腐食と浄化は、あなたの精神状態とリンクしています。
できるだけ長い時間、冷静に戦うことができるかどうかは、あなた次第です。」

自分を見失うな。それはアルトルージュにもいわれたこと。勝負の世界で、自分のスタイルを常に保つということほど難しいことはない。

だが、それができなければ奴は倒せない。エンハウンスは髪をかきあげ苦笑する。

「……ハッ。俺も焼きが回ったな。セブンに説教されるとはな……。」

「どういう意味ですか!!ひどいです〜!!」

半泣きでぷんぷん怒るセブン。エンハウンスはそれがたまらなく可笑しかった。同時に、救われた気がした。

「ありがとよ。」

しばらく泣いていたセブンは、不意に顔を俯かせた。

「……エンハウンスさん。志貴さんと一緒に戦うんですよね。」

「ああ。」

「エンハウンスさん。志貴さんは常に『死』を背負って生きています。もしかしたらその運命に、あなたも巻き込まれるかも……。」

夕暮れの光が差し込む中、向かい合う死徒と精霊。セブンは、エンハウンスが心配だった。

セブンは志貴のことが嫌いではない。だが、『死』の匂いを感じる人間は、それを周りに移しかねないのだ。

ポケットに手を突っ込み、エンハウンスは笑った。

「そんなこと、当にわかっている。だけどなセブン、俺はあいつほど頼れる人間を他にはしらねぇ。
俺はな、化けガラスを最初は一人で倒すんだって息巻いていた。
でもな、志貴の姫君に対する恥ずかしいくらいの情を見ていたらな、何も一対一にこだわる必要はねぇって思えたんだ。
それにな、アイツと付き合っていると面白れぇ。考え方を180度変えられちまう。だから放っておけねえんだよ。
もともと無駄に長く生きてきた命、アイツに巻き込まれて死ぬなら、俺は本望さ。」

セブンの心配は杞憂だった。エンハウンスは志貴と死地に飛び込むことなど、全く恐れていない。

「……エンハウンスさん。似ていますね。」

「?」

首をかしげるエンハウンス。セブンは、日本で待っている有彦の姿が思い浮かべていた。志貴の無二の親友に、エンハウンスはそっくりだ。

「ところでエンハウンスさん。マスターのこと、あなたはどう思っているんですか。」

「なんだよ……。ぶしつけに……。」

顔を赤くさせ、頬をポリポリ掻くエンハウンス。それを見逃さないセブンは、小ずるい笑みを浮かべる。

「マスターは粗雑乱暴そうにみえて、あれで結構傷つきやすいんですよぉ〜。
エンハウンスさんの気持ちは知りませんけど、なるべく早く決着つけてあげてください。それでなくても寂しがり屋で……いたたたた!!」

いつの間にか、エンハウンスの部屋に侵入していたシエルは、セブンの右頬をつねっていた。

エンハウンスですら、セブンのホッペがねじ切れそうになるまで全く気付かなかった彼女の出現。音も無くとはまさにこのこと。

「……セブン。逃亡のうえに出歯亀は重罪です。というわけで人参は半分に減らします。」

眼鏡を妖しく煌かせた、シエル裁判長の速攻判決。人参はセブンにとっての大好物兼命綱。ほとんど極刑に等しい。

「ひぃ〜〜!!マスタ〜!!この前も減量したばかりじゃないですか!!勘弁してください〜!!」

「知りません。」

セブンの首根っこを猫のように掴み、部屋を出て行くシエル。泣きながら連行されるセブンの行く末を憂い、エンハウンスは胸で十字を切った。

「……エンハウンス。」

ドアノブに手をかけたシエルは一旦止まった。後姿を見せたままの不意な問いかけ。

「なんだよ。」

「……私の部屋にきてください。あなたに渡したいものがあります。」

そういって彼女は出て行った。エンハウンスは魔剣をケースにしまった。




オーテンロッゼの居城。薄暗いゲストルーム。

死者を引き裂く豪腕。切り裂く鋭利な爪。失ったはずの左手を生やし、『黒翼公』グランスルグ・ブラックモアは試し斬りをしていた。

「イイ!!コレ!!イイ!!」

「古き友。お気に召してもらえたらしいな。今度の肉体は特注品だ。」

『白翼公』トラフィム・オーテンロッゼ。彼はソファーに腰掛け、目の前で繰り広げられる血の惨劇を肴に、ワインを楽しんでいた。

魂魄を封印されていたブラックモアの肉体は、教会がまわした選りすぐりの屍を寄り合わせてつくったものだ。

故に、『死』の『線』を斬られようとも、体ごと交換するだけで五体満足は維持できる。怪人は細かく刻まれた牙を剥き出しにし、涎をとめどなく垂らす。

「ブリュンスタッド!!ブリュンスタッド!!カル!!カル!!カル!!キュルルルルルルルルアアアアアアアアアア!!」

「ふはははははは。急くでない古き友よ。貴公の狩りに相応しい場所を用意させよう。それまで待て。」

グラスを掲げ、ブラックモアの血肉だらけの爪を見つめるトラフィム。彼は願う。その血のなかに、忌まわしき吸血姫たちの鮮血が混じることを。




エンハウンスがセブンといろいろやっていたとき、アルクェイドと志貴は、バルコニーにいた。

2人は、並んで座っていた。夕日の赤い光は2人を包む。柔らかな風に、アルクェイドの金髪がたなびく。彼女の白のハイネックが橙に染まる。

「アルクェイド。」

「なぁに志貴。」

「……なんでおまえやアルトルージュは、ブラックモアのことを『月飲み』っていうんだ?」

「……彼の目的が、私たち『朱い月』候補を殺すことだから。」

彼女の赤い瞳に、夕日の赤が写りこむ。

「何故かは知らないけど、ブラックモアは『朱い月』に対して並々ならぬ敵愾心をもっているの。そしてその矛先を転生先候補である私たちに向けている。
そのために彼は自らを怪物と化してまで力を得た執念の死徒。それ故に『月飲み』なのよ。」

『朱い月』のブリュンスタッド。古にアルクェイドとアルトルージュを創り上げた、史上最強と謳われた真祖である。

彼はアルクェイドを完成させた同時期に、宝石の老人によって屠られた。ブラックモアはなぜそれに敵意を持つのか。

だが志貴にとって、そんなことはどうでもいいことだ。

「……あんなバケモノに、おまえとアルトルージュは殺させない。」

志貴は夕日に敵をみていた。彼の目に映る、『月飲み』の、あの禍禍しい凶相。

ブラックモア。あいつだけは、生かしておいては世の中のためにはならない。あいつだけは、完全に『コロス』。

そんな彼の決意を悟ったアルクェイドは、志貴の右手をきつく握り締めた。

「志貴。無茶しちゃだめだよ……。」

その手を志貴は握り返す。

「おまえこそな。今回は大人しくしてるんだぞ。」

2人は寄り添う。そのときを名残惜しむかのように。

明日には怪人の手によって、志貴は肉塊になるかもしれない。『死』の訪れは、唐突で、突然で、誰にも予測などできない。






決戦、前夜。


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