月影供Act.11


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1: アラヤ式 (2003/06/10 21:29:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」




肩を組み合って大笑いする2人の死徒。



「あはははははは!!オーテンロッゼの奴!!
志貴が腕を振り上げた瞬間『ひぃぃぃぃぃぃ』だってよ!!
あははははははははははは!!だめだだめだ!!俺もう笑いが止まんねえよ!!あははははははははははははは!!」

「アハハハハハハ!!本当だねぇ!!あのときの白翼公の顔ったら!!
僕も長年生きてきて、こんな痛快なのは初めてさ!!アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」


『復讐騎』エンハウンスと『白騎士』フィナ=ヴラド・スヴェルテンである。





『真祖の騎士』と『死徒の姫君』一行は、会合を無事(?)乗り切り、帰路についていた。

一行の乗っているのは黒のリムジン。

長い客席右側には、エンハウンス、ヴラド、遠野志貴。

客席左側には、シエル、アルトルージュ、アルクェイドの順番で座っている。(魔犬はアルトの膝でお眠り)

運転席にはシュトラウト。

「そこのヤサグレとホ○、笑いすぎです。……全く。もう少しで大戦になるところでしたよ。」

カソックを着たシエルは、目の前のバカ笑いしている吸血鬼2人に釘をさす。

「おいおい、死者狩りまくって『手応えなかった』とか言っていた奴がなにいっていやがるんだ!!
あのときのお前だって、目ぇキラキラさせていたじゃねえか?」

「そうだよ代行者。君ったら肩をあらわにした格好して、
あんな重そうなパイルバンカー振り回せるんだもの。そんな怖い人にいわれたくないねぇ。」

「……くっ。この死徒ども……。」

シエル、反論できず。

「でも、本当すっきりしちゃった。志貴とエンハウンスがアイツぶっ飛ばしてくれて。
私、二十七祖のなかでもあの古狸、一番気に食わない奴だったの。
だって毎回毎回やり口がねちっこくていやらしいんだもん。」

アルクェイドは積年の恨みを晴らすかのように笑う。

「ははははは。姫君に喜んでもらえて光栄だぜ。
おまえも恋人冥利に尽きるってもんだな。志貴。……あ。」

遠野志貴は、空想具現化(アルク)と固有結界(アルト)のダブル・マーブルを喰らって満身創痍だ。

「……アア、……ソウダナエンハウンス。ホントソウ……。」

「おいおい、姫様と姫君よぉ。ちょっとやりすぎたんじゃねぇか?精神崩壊寸前だなこりゃ。
コイツが今回の一番の功労者なんだぜ?もうちょっと労われよ。」

エンハウンスは、『自業自得だバカ』といって、彼を見捨てたことをすっかり忘れている。

「ちょびヒゲ。あんたにいわれたくないわよ。ね、アルトルー……」

相槌を打とうとしたアルクェイドは、急にそれをやめた。


私は、彼女と対立していたはず。

一度は殺しあった仲だ。

しかし、

隣に座るアルトルージュへの親近感を、彼女は否定できなかった。


―― もしかしたら、今ならいえるかも。『姉さん』って。


「あの、あ、アルトルージュね……」

意を決するアルクェイド。

だが、

「あははははは。アルクェイドさんのいうとおりよエンハウンス。
あなた、志貴くん思いっきり見捨てていたじゃない。あはははは。」

魔犬の頭を撫でながら、ヒマワリのように笑う黒い少女。

「そのとおりだ。……志貴、俺の体を捧げるから許してくれ〜!!」

「わっ!!抱きつくなエンハウンス!!やめろよキモ!!」

「エンハウンスくん!!それは僕の専売特許だよ!!さあ僕の胸に飛び込んできたまえ!!」

「やめろ〜〜!!2人ともキモイよ〜!!」

「あはははははは!!志貴くんモテモテね!」

「何やっているんですか変態吸血鬼!!トオノくんを襲わないで下さい!!」

「……。」

アルクェイドは千載一遇のチャンスを逃す……。


「おい。車の中で暴れるな。」

運転中のシュトラウトの一言で、喧騒がおさまる車内。

「……志貴殿。片刃。貴様ら、自分たちのしでかしたことがわかっているのか……!!??」

『黒騎士』は怒っていた。

「シュトラウトさん……。」

「あんだとシュトラウト?てめぇ何の文句が……」

「大ありだ。貴様たちの行為は姫様を窮地に追いやったのだ。
『白翼公』は必ず報復にうってでる。
もはや戦争は避けられん。長きに渡って築きあげた均衡関係を白紙に戻しおって……。」

シュトラウトは表情を変えない。

「何いっていやがるんだ。俺は『復讐騎』だぜ?おまえらの都合なんか知るかよ。
それに俺はムカつく野郎はぶっ飛ばす。それだけだ。
大体俺らが出てこなきゃ、おまえら『白翼公』殺していたじゃねえか。」

相変わらず気勢のいいエンハウンス。

「貴様……。」

「シュトラウトさん。俺、アイツ許せなかったんだ。
アイツのせいでアルクェイドは怪我したし、人も大勢喰われた。
やったのはネロだけど、裏で糸引いていたのはアイツなんだ。
その上、アルトルージュを侮辱して……。
もうアイツの声を一秒だって聞きたくない。絶対に。
……でも、アルトルージュを巻き込んじゃって、ごめん。」

「……志貴殿。」

シュトラウトは、バックミラーで2人の戦士を確認し、一言。

「ただ、姫様の名誉を守ってくれたことには感謝する……。」

それっきり、彼は運転に集中した。

「シュトラウトさん……。」

「ハッ。素直じゃねえな。」

「……片刃。貴様は黙れ。」

黒いリムジンは、彼らを城へと乗せていく。





城に到着した一行。

ドーム型の天井の下。中央ロビー。

アルトルージュが、主役たちをねぎらう。

「リィゾ、フィナ、お疲れ様。ゆっくり休んでね。」

「恐れ入ります。」

「ありがとうございます。」

『黒騎士』・『白騎士』はうやうやしくお辞儀をする。

「シエルさん。あなたが死者を掃討してくれたおかげで余計な犠牲が出ずに済みました。ありがとうございます。」

「……いいえ、当然のことをしたまでです……。(???)」

死者を倒し、死徒を助けたシエル。彼女の胸中は複雑だ。

「アルクェイドさん。あなた、あんまり無理しちゃダメよ。
志貴くんの努力を水泡に帰したくなければ、今後は自重してくださいね?」

「む〜っ、何よ。少しは感謝してくれたっていいじゃない!」

志貴の目の前には、おてんばな妹に釘をさす、優しい姉の姿があった。

「志貴くん。エンハウンス。」

そして、『黒の姫君』は『真祖の騎士』と『復讐騎』に振り向く。

「私はずっと、この城でただ時間の経過を貪っていただけに過ぎなかった。
私は『死徒の姫君』。
その役割さえ果たせればいいってずっと……。
でも、違った。
世界にはこんなに楽しいことが一杯あるなんて思わなかった。
あなたたちの『白翼公』を捉えた打撃、本当に面白かったわ。」

「う〜ん。あれはとっさだったからな……。」

「スカイフックっていうんだぜ。今度教えてやるよ。」

「ありがとう。……本当に。……ありがとうね。」

目にうっすら涙を浮かべるアルトルージュ。

「……姫様、お先に失礼いたします……。」

不意に、その場から退場するシュトラウト。

「??どうしたんだ??シュトラウトの奴??」

「あーあ、彼、感極まって泣いちゃったみたいだねぇ。」


!!!!!!!!!!!


「……ヴラドさん、それって本当ですか!?」

「……そ、そ、そ、そんなばかな!!あの万年堅物野郎が泣く???ありえねぇ……。」

口をパクパクさせる志貴とエンハウンス。

「失礼だな君たちは。リィゾの姫様を想う気持ちはね、このガイアより大きく、深く、そして美しいんだよ。」

薔薇を両手に持ち、一人悦に浸るヴラド。

「……リィゾったら。
……フィナ、彼のこと宜しく頼むわね。からかっちゃだめよ。」

涙を拭く黒い少女。

「おまかせください。では、お先に失礼します。」

ヴラドもその場を退場する。

「……うらやましいわね、アルクェイドさん。志貴くんはあなたには勿体無いくらいだわ。」

いたずらっぽく微笑むアルトルージュ。

「ちょっと待ちなさいよ!!志貴は私の物なんだからね!!」

「あら、それは志貴くん自身が決めることでしょう?」

「む〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

「やめろよ2人とも!!」

はじまる姉妹大戦。といってもアルクの一方的な独り相撲だが。




代行者と復讐騎は部屋に戻った。

「あいつらに付き合っていたら日が昇っちまうぜ。ふあぁぁぁ。」

ベッドに転がるエンハウンス。

シエルは彼の部屋の椅子に腰掛け、俯いていた。

「……エンハウンス。私たちの使命は吸血種を滅することですよね……。」

「何だよ。いきなり改まってよ。」

横に転がりながら、エンハウンスはシエルの顔を覗き込む。

「私、わからなくなってきちゃいました。
アルクェイドとは、比較的付き合いも長く私情が入ってしまうことは認めます。
ですが、アルトルージュたちにも同様の感情が芽生えてきそうで怖いです……。
彼らはホンモノの吸血鬼なのに。
私、代行者失格ですよね……。」

「ハッ。そうだな。おまえもう失格だ。全然ダメ。さようなら。ばいば〜い。」

「〜〜!!エンハウンス!!人が真面目に話しているというときにあなたって人は!!!!!」

彼のふざけた言動にシエルは顔を真っ赤にして怒った。

「なあシエル。そんなこといったら俺なんてとっくに失格だぜ?」

「…あっ。」

「俺は、吸血種はぶっ殺すなんて公言しながら、姫君は殺せねぇ、アルトルージュも殺せねぇ。情けねえ限りだ。
だけどな、この世に悪と善の境界線なんてのものは存在しないんだよ。
使命だとか運命だとかに縛られて、自分のお気に入りをむざむざ失う。
俺はそんなのはもうごめんだな。糞くれえだ。
シエル。くどいようだがおまえはもうロアじゃねえ。
自分のやりたいように生きて、やりたいように死ねばいい。それでいいじゃねえか。」

「……エンハウンス。
わかりました。
私、好きに生きて、好きに死にます。
トオノくんにせっかくもらった、人生ですからね。」

エンハウンスはニカッ笑った。シエルも微笑み返した。

だが、

その刹那。

「……。シエル。気付いたか?」

ベッドから飛び起き、警戒するエンハウンス。魔剣アヴェンジャーを用意する。

「……ええ。この存在規模、大きいです……。でも、覚えがあります……。」

シエルも黒鍵を構える。

「……ああ、奴とはバチカン以来だからな。この胸糞わるい殺気。奴しかいねぇ。」

「ですが、信じられません。どうしてあの……」

「―――――――『性悪女が?』というところか。」


!!!!!!!!!


エンハウンスとシエルは後ろを振り向く。

そこには、白い聖衣を着た長髪の女がいた。


「ひさしぶりだな。『弓』。『復讐騎』。
『王冠』の小賢しいウソに、たまには乗ってやるのも一興というものだ。」

「……てめえには、認識不可結界も効果なしか……。」

「やっぱりあなたですか。ナルバレック。」


―――埋葬機関第1位。ナルバレック。


「フフフ。わざわざ敵地の部下を激励しにきたのにつれないことだ。」

「ハッ。てめえがそんな殊勝なタマかよ。」

「裏切り者の私たちを、自ら粛清しにでもきたのですか。」

魔剣と黒鍵を構え、凄む2人。

ナルバレックは丸腰。全く動じない。余裕をあらわすかのように後ろに手を組んだまま。

彼女はため息をつく。

「おまえたちには失望した。
『弓』。おまえは世界の矛盾を失い『不死』を失った役立たず。
その上、極東の国で男に逃げて……もはや何もいうことはない。」

「嫌いな上司をもつと、ドロップアウトしたくなるものです。」

シエルは、はっきりとした目でナルバレックを見据える。

「『復讐騎』。おまえは再三の好機があったのにもかかわらず、『白の姫君』を仕留めきれず。
おまけに『黒の姫君』の懐に飛び込んでいるにもかかわらずこの体たらく。
『薄汚い血吸い共をぶっ殺す』か。寝言は寝てから言うがいい。」

「俺がきまぐれだって、契約したときから知らなかったのか?性悪女。」

エンハウンスは悪態をつく。



殺気。

幾星霜の年を経て、磨かれつづけた石のような殺気。

シエルとエンハウンスは、動けない。



「……フフフフフフ。
『弓』。おまえを今すぐ粛清することなど造作もない。
『復讐騎』。おまえは契約の反古で、世界に消されろ。」

ナルバレックの嘲笑。

それは、静かなる絶望。


「……エンハウンス。好きなときに死ねって言いましたよね。今がその時みたいです。」

「付き合うぜ。肉体消される前に、奴の腕一本くらいは落としといてやる……!!」



――2人は、覚悟した。



「フフフフフフフ。ハハハハハハハハハハハハハハハ。
ばかものめ。私に敵うとおもえるその単純思考。
ばかが。
私が自ら手を下すことなど、わずらわしいにも程がある。」


殺気は止んだ。

「……ナルバレック。私たちを消さないのですか?」

黒鍵は、カソックの袖口に吸い込まれる。

「おまえたちにやってもらわなければいけないことがあるのだ。
それまでは好きにするがいい。」

「ほう。てめえにしては随分寛大な処置じゃねえか。
じゃあ、そのやってもらわなければいけないことってなんだ?」

魔剣は、背中に収められる。


「死徒二十七祖、完全消滅だ。」

ナルバレックは蛇のように、笑った


「正気ですか……。」

「ハッ。シエル。こいつは狂人だぜ?
大方、今回の二十七祖の会合、てめえのお膳立てだろ?どうやらヴァン=フェムを上手く言いくるめたんだろうが。
リタ・ロズィーアンに情報流したのも、てめえの仕業だろ?」

「フフフ。察しだけはいいな『復讐騎』。」

「死徒2大勢力をぶつけ合わせ相殺……というストーリーか。ベタだぜ。」

エンハウンスは吐き捨てる。

「フフフ。そのベタなストーリーもなぁ、
『真祖の騎士』という新たな要素でとても面白くなったよ。
『弓』の想い人らしいが。
『混沌』・『蛇』を滅したその力。
どこまで私の舞台を引っ掻き回してくれるか楽しみだ。」

「……ナルバレック。……トオノくんに手をだすなら……!!」

シエルは、激しく憤る。だが、ナルバレックは何一つ揺るがない。

「フフフフフフ。
今回のアドリブで、『白翼公』の積み重ねてきた自尊心は崩壊。憎悪は頂点を極めた。
私は、はやく見たいのだ。
汚らしい吸血鬼どもが殺し合い、自ら滅する地獄の様を。
おまえたちには最後に残ったカスのとどめをさす、役立たずに相応しい役を与えてやろう!!!!
フフフフフフフフフフフフ。ハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

ナルバレックの暗黒の嘲笑。

「……吐き気がします。」

「同感だ……。ナルバレック。てめえは最悪だ。絶対的に最悪だ。どうしようもないほど最悪だ。てめえは。」

侮蔑の目で凄む、代行者と抹殺者。

「フフフ。ではこれで失礼しよう。
用件は伝えた。
時がくるまで、せいぜい惰眠をむさぼるがいい。それともう一つ。」

「さっさと失せろ。」

「ガイアの怪物。奴は今宵、飢えているぞ。」

「!!!!!!」

エンハウンスは部屋を飛び出す。

「……そういうことか性悪女!!」

シエルが後を追いかける。

「どうしたんですかエンハウンス!!」

「志貴があぶねぇ!!」

「!!どうして!?」

「気付かねえのか!?
あの性悪女が城に余裕で侵入したのに、シュトラウトとヴラドはどうして来なかった!?」

「〜〜!!まさか!!」

「そうだ!!性悪女より強大な敵が出現したから来ることができなかった!!」

「でも、一体何者なんですか!!??」

エンハウンスはシエルの質問には答えない。

彼は時間が惜しかった。

―― ちくしょう。

―― 俺としたことが。

―― あの犬っころ。

―― あの犬がアルトルージュから離れて志貴を見る目。

―― あの目は、

―― あの目だけは、

―― 獲物を狙う殺人者の目そのものだった!!

―― くそ!!


城の屋上へ、シエルとエンハウンスは到着する。

「……と、トオノくん。……うそ……。いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「……てめぇ〜〜〜〜!!この犬っころがぁあああああああああ!!」



2人の目の前に現れた驚愕の光景。

黒騎士シュトラウトは、胸に穴をあけられ、

白騎士ヴラドは、両足をもぎ取られ、

アルトルージュは、2人の近くで泣き崩れていた。


そして、

遠野志貴は全身血まみれでうつぶせ。ピクリとも動かず、

アルクェイドは、息を切らせながら、満身創痍で怪物と対峙する。


その怪物。

死徒二十七祖第1位。


『ガイアの怪物』。


『霊長の殺人者』。


ブライミッツ・マーダー。






―――― ヒメサマヲカキミダスモノ。




―――― コヨイ。




―――― ココデ。




―――― クラウ。





白い魔犬は、月を喰らう。


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