月影供Act.9


メッセージ一覧

1: アラヤ式 (2003/06/09 19:22:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

ドイツの商業金融の中心地・フランクフルト。

フランクフルトから車で約20分の近郊にタウヌスと呼ばれる丘陵地帯がある。

この丘陵地帯には高級ベットタウンがいくつかあり、その1つがクロンベルグ・アム・タウヌス。

この町のはずれに、シュロスホテル・クロンベルグは建っている。






死徒二十七祖、集結する。








「明るいところね。」

『黒の姫君』アルトルージュ・ブリュンスタッドは、見た印象のままそう漏らした。




死徒の姫君一行は今、クロンベルグ城内のゴシック様式の階段を上っているところだ。

白く清楚な内部は、長年培われた洗練さを醸しだす。




「はっはっは。ここは挙式場として使われておりますからな。
人間たちにとっての祝福の門なのですよ。」

『魔城』ヴァン=フェムは、小気味よく答えた。

「……しかしヴァン=フェム殿。ここはお世辞にも、吸血鬼の集会にふさわしい場所ではありませんねぇ。
あなたのセンス、あまり美しいものとはいえませんよ??」

胸を魔剣で貫かれ、一時退場した『白騎士』フィナ=ヴラド・スヴェルテンは早々に復帰し、皮肉を述べる。

「……ヴラドくん……。(もう回復しやがったのか、このホ○。)
ここは、私が選抜したところではないのだよ……。今回の一切の演出は彼女にお任せしたのだ。」

「『芸術家』か……。あの女のセンスは未だに理解に苦しむ……。」

『黒騎士』シュトラウトは、ポーカーフェイスのまま苦渋を漏らす。

「まぁそういってくれるな。
これも彼女が会合に出るため提示した、交換条件の一つなのだから。」

「リィゾ。私はここ嫌いじゃないわ。暗いところばかりだと気が滅入っちゃうもの。
ブライミッツ・マーダーもね。」

蓮のようなやわらかな微笑をうかべ、黒い少女は楽しそうに階段を上っていく。

白い魔犬は尻尾を振りながら、その後をついていく。

「……姫様。」

シュトラウトは、ここ最近、アルトルージュの微妙な変化に気付いていた。

以前と比べ、彼女の感情が伝わるようになってきたのだ。

もちろん、今までの彼女に慈愛が乏しいなどというつもりは毛頭無い。

ただ、前より意思を汲み取りやすくなったような気がしていた。

その変化は、彼らが来たときからはじまったものだ。


シュトラウトは想う。

――本来、我々を滅ぼす運命のもとにあるであろう『真祖の騎士』と『真祖の姫君』。

――だが、

――彼らとの邂逅はもしや、姫様の忌まわしき業の鎖を解く……


「どうしたんだいリィゾ?君がボーッとするなんて。」

「……フィナ。……なんでもない。少し考え事をな。」

焦点の合わない目をしているシュトラウトに、ヴラドは興味が湧く。

「へぇ。君が隙だらけで考え事をねぇ……。またエンハウンス君とケンカして、仲直りでもしたいのかい?」

「片刃は関係ない。」

「でも彼、昔姫様と……」

「……フィナ!!その話は二度とするなといったはずだ……!!」

「ははは。怒らないでよ。わかっている。昔の話さ……。」

シュトラウトは一瞬怒りを露にしたが、いつものポーカーフェイスにもどった。

ヴラドはバツが悪そうに笑う。

「2人とも。私に内緒で何を話しこんでいるのかしら?」

アルトルージュは手を後ろに組んで、騎士二人の顔を不思議そうに覗き込む。

「……いえ、大したことではございません。」

「そっそうですよ姫様。……あ、もうすぐゲストルームでございますねぇ。
ささ、参りましょう。」

半ばゴマカシ気味に、ヴラドはアルトルージュを前へすすめた。

「なんなの?まったく。……あれ?……ここって……」

アルトルージュは階段を上りきると、その場で立ち止まってしまった。

「……あれれ?僕たち、本当に結婚式に呼ばれたのでしょうか????」

「姫様どうなさいました?……なっ!!」

そう。そこはゲストルームではなく、挙式につかうサロンだったのである。

しかも、キツイピンクのド派手な装飾が施され、直視すると目が非常に痛い。

「ヴァン=フェム殿!!これはどういうことですか!!」

シュトラウトは怒りを抑えきれず、ヴァン=フェムに詰め寄った。

「……彼女に聞いてくれ……。」

項垂れている彼の指がさしたのは、誰の姿も見えない廊下。


「オーホッホッホッホ!!!!!!!」


!!!!!!


突如、何も無い空間から虹色の螺旋が出現し、

クリスタルが散りばめられているピンクのドレスをきた、豪華絢爛なセレブが出現した。

「私の演出、お気に召していただけたかしら!!オーッホッホッホッホ!!!!」

死徒二十七祖第15位、『芸術家』リタ・ロズィーアンである。

「……お久しぶりねリタ様。……相変わらず独自のセンスをお持ちのようね……。」

アルトルージュは顔を若干ひきつらせながら、キチ○イセレブに挨拶をする。

「お褒めに預かり光栄ですわ!!さすが二十七祖第2位の美貌を誇るアルトルージュ様でございますわね!!」

第1位はもちろん、彼女リタ自身のことである……。

「……貴様!!ななななななんなんだこの部屋は!!
しかもその頭は一体なななな何なんだ!!」

リタのマリー・アントワネット級のデカイ頭には、何故か帆船モデルが取り付けられている……。

「オホホ。この部屋の従来のバロック様式に大胆にピンクを加え、『温故知新・統一感』をテーマに基調しましたわ!!
私の頭のこの装飾は、中世フランスで流行したハイクオリティモデル!!
まさに!!玉石混合の荒海を華麗に乗り越える我ら死徒二十七祖にふさわしい場所となりましたでしょう!!
シュトラウト、この壮大なるテーマ、あなたに理解できて!?オーホホホホホホホホホホホホ!!」

黒騎士は頭を抱える。

「……この女だけは、時が一億年経とうが絶対に理解できん……。」

ふらつくシュトラウトを支え、比較的耐性のありそうなヴラドはリタに話し掛ける。

「やぁ。相変わらず微妙な美しさだねぇ。
ところでお友達のウォーター・ボトルはこの席に誘わなかったのかい?」

リタは途端に、腕を組んでムッツリしてしまう。

「勿論誘いましたわ。……『めんどい』の一言で却下されましたけど。……まったくスミレときたら……」

来なくて正解だねぇ。と心の中で呟くヴラド。



「戯れはそこまでにせえ。リタ。」



!!!!!!!

緊張が走る。

しわがれてはいるが、威圧感のある声。

「3秒遅刻だ、アルトルージュ。我ら超越種らしからぬことではないかな?」

白いマントを羽織、ドラキュラ伯爵を思わせるオーソドックスな衣装。

白髪混じりの長髪をオールバックでまとめ、

龍髪虎のようなヒゲをたくわえ、

年季の入った、ひび割れたマツのような印象を持つ男は、サロン中央テーブルの椅子に霧とともに出現した。

「……お待たせてして申し訳ありません。オーテンロッゼ殿。」

死徒二十七祖形式上の王。

第17位『白翼公』トラフィム・オーテンロッゼ である。

「……貴様、3秒程度がどうしたというのだ……!!」

激しい嫌悪を露にするシュトラウト。エンハウンスに対するそれの比ではない。

「なんだ?余に刃でも向けようというのか?護衛風情が。」

歯牙にもかけないトラフィム。

「……まあまあ、オーテンロッゼ殿。アルトルージュ様もリタ様と話し込んでいましたので、ここは一つ穏便に。」

ヴァン=フェムはその場を取り繕う。

「ふん。……まあいい。さっさと席につくが良い。」

入り口からむかってテーブル左側に、『黒の姫君』とその従者たち。(魔犬はアルトルージュの隣でお据わり)

右側に、『魔城』、『白翼公』、『芸術家』の順番で着席する。

トラフィムは辺りを見渡す。

「……ふむ。『宝石』はいないのだな。
しかし、栄華を誇った我らも残り少なくなったものよのう。」

「オホホホホホ!教会の粛清も厳しくなった今日この頃、この人数でも上出来ではなくて?オーテンロッゼ殿?」

「……。ふん。……久しいな。アルトルージュ。」

「ええ。お互い顔を合わせるのは、『月飲み』の一件以来ですもの。」

「……ふふ。おい、あれをもて。」

『白翼公』が軽く指をならすと、ソムリエ風の死者が一本のワインを持ってきた。

別の死者がアルトルージュとトラフィムにグラスを用意する。

グラスに注がれる深紅の液体。

「……血……ですね。」

ワインではなく、人間の血。

「ふははは。この舞台に相応しい一本であろう?今日のために特別に用意したものだ。
共に死徒の未来をしょってたつ身。
我らの再会を祝して乾杯といこうではないか。」

「ええ。」

テーブルを挟んで向かい合う2人。

乾杯。

深紅の液体は、2人の死徒の口に吸い込まれる。

「……そうそう。言い忘れていたが、」

いつの間にか、トラフィムは血を飲み終えている。

「それは白血病患者の血液サンプルだ。」



!!!!!!!!!!



「貴様ぁ!!どういうことだ!!姫様を愚弄しているのか!!」

怒りのあまり、テーブルに両手をたたきつける『黒騎士』。

「……オーテンロッゼ殿っ!?」

『魔城』も驚愕を隠せない。

びくとも動じず、『白翼公』は尊大な笑いを浮かべる。

「ふはははははは。貴公ら、何をそんなにうろたえておる。
余はアルトルージュの体を気遣ってこの血を用意したのだぞ。
我らにとって血とは、生命の根幹を維持する神秘に満ちたもの。
不安定で維持が難しい力も、一風変わったものを食することで劇的に変化するかも知れん。
余の深い思慮。そちらが計り知るにはちと大きすぎるかな。ふははははははははははは。」

もちろんこれは、アルトルージュに対する侮辱である。

「……貴様ぁ、取るに足らない屁理屈をよくもヌケヌケと……!!」

いまにも飛び掛らんとするシュトラウトをヴラドが制する。

「よすんだリィゾ。……姫様をみろ……。」

アルトルージュは表情一つ変えずに、血を飲み干していたのだ。

そして笑顔でトラフィムに返す。

「お心遣い恐縮ですわ。オーテンロッゼ殿。」

「……姫様……。」

シュトラウトは、断腸の思いで席に戻った。

「ふ。ふはははははははははは。さすがは我らの『死徒の姫君』。ふははははははははははははははははは。」

トラフィムの笑いは、酷く癇に障る侮蔑の篭りきったもの。

魔犬ブライミッツ・マーダーは唸り声をあげ、

シュトラウトを制したヴラドの目にも、激しい憤怒が充ちている。

「……しかしオーテンロッゼ殿。
美しくないお戯れはこの程度にしてもらえませんかねぇ。
今回の会合の趣旨は、あなたの進退問題に関わることですよ。」

場が張り詰める。

ヴラドは爆弾を投下した。

「貴方の提案した『真祖狩り』。
『唯一現存する真祖・アルクェイド・ブリュンスタッドを滅することにより、我ら死徒に永遠と永劫がもたらされる。』
というものでしたか。
そしてあなたの選抜により、第10位ネロ殿が極東の国へ向かわれた。
……しかし、結果は惨憺たるものでしたねぇ。
『混沌』は消滅。不名誉な二十七祖の欠番をいたずらに増やす結果となった。
これはもはや、貴方の見通しの甘さがもたらした不祥事といわざるをえません。
貴方に死徒としての誇りが在るのなら、潔く第17位の地位を返還すべきでしょうねぇ。」

ヴラドの追及は完璧だった。

二十七祖の前で、ここまではっきりと失態による責任を明確にされれば、罷免は免れない。

――はずだった。

「……アルトルージュよ。……客人たちに変わりは無いか?」

トラフィムの不意な問いかけ。

「……オーテンロッゼ殿?今は貴方の進退について……」

「だまれ。貴公には聞いておらん。
……アルトルージュよ。そなたの城に『真祖の騎士』が滞在しているそうだな?『真祖の姫君』もな……。」


!!??


「お耳が早いのですね。」

「ふん。余に届かない情報など皆無だ。
聞けば、『混沌』は『真祖の姫君』単体にではなく、その『真祖の騎士』にとどめを刺されたそうではないか。
アルトルージュよ。なぜネロの敵共を庇う?これこそ問題ではないのかな?」

予想外だった。

ヴラドは読み誤っていた。

確かに、遠野志貴たちとの接触はばれてはいたのであろうが、

この席で、それを利用されるとは思わなかったのだ。

――狸爺め。

だが、一つ腑に落ちないことがある。

そんな機転を、『白翼公』が持ち合わせているとは思えない。

密告と入れ知恵した者がいる。

「おほほほほ……。」

トラフィムの隣の『芸術家』は妖しく笑う。

ヴラドは全てを悟った。

「(やってくれるねぇ……リタ。君は舞台だけではなく、このストーリーも演出したのだねぇ……。)」

形勢は逆転。

トラフィムは勝ちを悟ったかのように尊大・傲慢になる。

「アルトルージュよ。『目には目を』という言葉を知っておるだろう?
これは、我ら超越種の絶対原則だ。
これを平気で破るような真似をするとは、そなたも随分と図太いものよのう。」

「〜〜!!」

反論は出来ない。だがやりきれない怒りが、白騎士、黒騎士、魔犬の体をマグマのように駆け巡る。

「ふははははは。だがな、失態の汚名は注ぐつもりだ。
余に『真祖の騎士』と『真祖の姫君』を引き渡すのだ。然るべき措置をもって奴らを断罪しよう。」

アルトルージュは凛として答えた。

「お断りします。彼らは私との契約で城に滞在してもらっています。その処遇は私が決めることです。」

トラフィムは卑しく笑う。追及の手はゆるめない。

「アルトルージュよ。まさかそなたほどの者が情にほだされおったか?
実の妹を手にかけるのは忍びないというのか?
とうの昔に超越した感情が、舞い戻ったというのか?
ふはははははははは!!それではまるで人間ではないか!!」

「貴様ぁ!!いい加減に……」

「リィゾ。抑えなさい。
……どう言われても構いません。彼らを引き渡す気はありません。」

トラフィムの攻勢はつづく。

「ふむ。或いはこうも考えられる。
アルトルージュよ。そなた、『真祖の騎士』を好いたのか?」

「!!??」

「そなたも永劫の隠遁生活でたまっているであろう。
久しぶりの若い男に自らの女でも騒いだのかな!?
慎ましい外面の裏には、どんな淫乱な素顔が隠されているのかな?
ふははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。」

『白翼公』の下卑た笑いは、まさに醜塊の頂点を極める。

「オーテンロッゼ殿!!失礼にも程がありますぞ!!」

ヴァン=フェムの叱責にも、トラフィムは耳を貸さない。

我慢の限界であった。

シュトラウトは、もう憤怒を隠さない。

「……姫様。次にあの古狸が薄汚い口を開いた瞬間、私は……!!」

「リィゾやめて!彼を殺せば、統制を失った数百万の眷属がドイツの半分を喰らい尽くすわ!」

「……かわいいお姫様をここまで侮辱されて、黙っていられないのですよねぇ……!!」

「グルルルルルルルルルゥゥ……」

「……フィナ!……ブライミッツ・マーダー!!ダメ!!」

ヴラドも理性を失いかけている。魔犬も爪を研ぎ澄ます。

トラフィムは強気。彼らが手を出せないことを知っているのだ。

「アルトルージュ。だからそなたは甘いのだ。
吸血種たるもの自らの純然たる能力のみを研鑚し、高みへ上ればよいものを。
そなたは感情などという一時の気まぐれに惑わされ、死徒としての本懐を果たすことも出来ぬ。
だから未完成品なのだよ。そなたは永遠に欠けたままの器なのだ!!
ふふふ。ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは。」


『黒騎士』は、魔剣を。

『白騎士』は、レイピアを。

『霊長の殺人者』は、牙と爪を。

目の前の唾棄すべき敵に向けた。アルトルージュの制止も聞かず。

だが。

その三つの刃が『白翼公』を捕らえることは無かった。





――― そのとき、壁が「死」ぬ。






豆腐のように鋭利に切られた壁の穴から飛び出す、蒼と紅の影。



その2つから繰り出された右・左スカイフックが、白翼公の後頭部を捉えた。

「はははハベッ!?!?!?」


轟音とともにテーブルに顔をめり込ませるトラフィム・オーテンロッゼ。それもアルトルージュの目の前で。


「……あ。」


ヴァン=フェムはそのまま止まった。


「……そ、そんな!!」


リタ・ロズィーアンは白翼公の無様な姿に、開いた口が塞がらない。


「……。」


リィゾ=バール・シュトラウトは沈黙。


「……プ。あはははははははははははははははははははははははははは!!!」


フィナ=ヴラド・スヴェルテンは腹を抱えて笑う。


「グルルゥゥ……」


プライミッツ・マーダーは牙と爪をおさめる。


「……どうして?」


アルトルージュ・ブリュンスタッドの前にあらわれたのは、


おなじみの青のTシャツを着た遠野志貴と、

赤いオーバーコートを羽織るエンハウンスであった。


「アルトルージュ、大丈夫か?」

「ようアルトルージュ!!とりあえずコイツ殴ってみたぜ。どうだ?」



「……志貴くん。……エンハウンス。どうだっていわれても……。」

アルトルージュの目の前には、完全にテーブルに埋没しているトラフィムの頭。





『真祖の騎士』と『復讐騎』の登場に、

『黒の姫君』は、ただ戸惑う。


記事一覧へ戻る(I)