月影供Act.6


メッセージ一覧

1: アラヤ式 (2003/06/05 21:34:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

シュヴァルツヴァルト。

黒い森。

まっすぐに伸びた高い針葉樹・広葉樹との混合林に囲まれた北の地域と、

森というより森林地帯と丘陵が入れ替わり立ち替わり現れる南部とにはっきり分かれている。

入り口の戦いを乗り切った一行は、南西部へ向けて歩く。

『黒の姫君』の城は、もう間近。











「真祖の騎士ご一行ご案内〜!」

「……。」

フィナ=ヴラド・スヴェルテンは漆黒の森の中、陽気に一行の先頭をいく。

リィゾ=バール・シュトラウトとエンハウンスは、互いに睨みあいながらその後ろを歩く。

さらに、志貴、アルクェイド、シエルの3人が続き、

案内役のはずのメレム・ソロモンは、なぜか一番後ろを歩いていた。

「フィナ……」

「なんだいリィゾ?そんなに怖い顔で睨むなよ。血は足りているのかい?」

明らかに不機嫌な黒騎士にも、おどけて答える白騎士。

「……フィナ!!おまえが邪魔をしなければ、この忌々しい片刃はとっくに消滅していたはずだ!!」

「ハッ。何言っていやがる。それはこっちの台詞だクソ騎士!!」

「リィゾ。だから言ったじゃないか。姫様は客人全員を歓迎するって。
大体あのまま戦いつづけていたら、君たち全員死んでいたよ。
君は、姫様が一番期待をしている『真祖の騎士』をも一緒に消滅しかねなかった。違うかい?」

「……くっ。」



今より少し前。

雌雄を決しようとしていた『黒騎士』と『復讐騎』を止めたのは、『白騎士』だった。

突然の仲裁に納得のいくわけがない二人に剣を収めさせたのは、

「君たち二人が死んだら、姫様は悲しむよ。」のフィナの一言だった。

そして『白騎士』が新たな先導役として加わったのである。




「……先輩、メレムさんどうしたんです?さっきから全然話さないんですけど……。」

シエルにそっと耳打ちをする遠野志貴。

メレム・ソロモンの様子はおかしかった。黙ってずっと俯いたまま。

愛しの真祖の姫君と一緒に歩いているのだから、彼が不機嫌な理由はどこにも無いはずなのだが。

「メレムは『白騎士』が嫌いです。」

ケロッというシエル先輩。

「ってなんですかそれ……。」

「嫌いなんです。『白騎士』フィナ=ヴラド・スヴェルテンは、美少年狩りの吸血鬼として知られています。
……もうここまで言えばわかると思いますが。」

なるほど。

メレム・ソロモン本体は金髪の美少年である。

「前に会ったときに襲われかけたことがあったらしいんです……。
それ以来、『あのホ○野郎、魔獣に喰わせることすら汚らわしい』がメレムの口癖です。」

「……。」

志貴は青ざめる。

「『真祖の騎士』くん!」

突然、そのホ○野郎に声をかけられ、彼は当然硬直する。

「君のお名前はなんというんだい?」

フィナは何故か左手に薔薇をもち、瞬間移動したかのごとく志貴の隣にいた。おまけに肩に右手をまわしてきた。

志貴は、おぞましい冷や汗を止めることが出来ない。

彼は金色の魔眼を見開きながらにっこりと微笑む。

「そんなに怖がらないでよ。別にとって喰おうってわけじゃないんだからさ。
……ところで三方とも、その物騒なものをしまってくれないかな?」

フィナが肩に手をまわした瞬間、アルクェイドが爪を、シエルが黒鍵を、エンハウンスが魔剣を彼の首に突きつけていた。

「志貴に手を出したら殺すわよ。……白騎士。」

「トオノくんから離れてください。」

「気をつけろ志貴。こいつは姫君と同じ『魅了の魔眼』使い。しかも美少年専門だ。」

白騎士は名残惜しそうに志貴から離れる。

「……まったく無粋だねぇ。僕の魔眼なんか彼の『直死の魔眼』には敵わないことぐらい知っているでしょ。
彼の名前くらい教えてもらわなきゃ、姫様に紹介できないじゃないか。」

3人は武器をおさめる。

少し落ち着いた真祖の騎士は、控えめに答えた。

「遠野志貴です……。」

それを聞くとフィナは、満面の笑みで嬉しそうにはしゃぐ。

「いいねぇ。君はいいよ。その素直で謙遜したところとかが実にいい。
僕はね、きみのその純日本人的なところがとても好きだな。
日本の文化に最近興味があってね。
納豆などの発酵食品は素晴らしい。
マンガも好きだな。
たしか麦わら帽子をかぶった主人公が仲間とともに冒険の旅に出るってヤツが面白い。
それにこうみえても僕、幽霊船団の船長をやっているんだよ。」

「……へ、へぇ。そうなんですか……。」

彼の砕けた雰囲気に、遠野志貴は少し警戒感を削がれた。

だが、エンハウンスをはじめとする3人は、全く白騎士に気を許していない。

「志貴、油断するな。過去100万人を超える少年少女が、そいつの餌食になったんだ。」

「そうです。故に彼は、血にまみれきった『吸血公爵』の異名をとっているんですよ。」

「ひどい言いようだねぇ。最近はこれでも一日一食に限定して控えているんだよ。」

息を呑む。

志貴は久しく忘れていたのだ。

吸血鬼というものがどういうものか。

『混沌』ネロ・カオスがいかに残虐非道に人間を咀嚼していたか。

『アカシャの蛇』ミハイル・ロア・バルダムヨォンが、周りの人間の運命をどれほど翻弄していたか。

そのことを、彼は忘れていたのだ。

見透かしたかのようにアルクェイドはいう。

「志貴、これが吸血種なの。あなたは今まで例外ばかりをみていたけど今度でそれも終わり。
白騎士はそういう意味では本当に純粋な吸血鬼よ。
これから見る世界は、人間にとって非情この上ないことばかり。あなたはそれに耐えられる?」

彼女の問い。

彼の答えは決まっていた。

「正直、俺は人間が喰われたりするのをみるのは、もううんざりだよ。
だけど、俺行くよ。
おまえ助けるためには、やっぱりにげられないんだ。
アルトルージュに、会わなきゃいけない。
俺は、逃げない。」

アルクェイドは微笑んだ。

「行こう志貴。安心しちゃった。私も逃げないよ。」



その様子を、黒騎士と白騎士は不思議そうにみつめていた。

「……リィゾ。あの子は本当に『真祖の姫君』なのかい?まるで別人だよ。」

「間違いではない。だが、確かに不可思議ではあるな。私が昔みた姫君とはかけ離れすぎている……。」

復讐騎は、そんな彼らを笑う。

「おまえらじゃわかんねえよ。
違う価値観を受け入れることができなきゃ一生わかんねえさ。
そのことに気付いたから、『真祖の姫君』は変わったのさ。」

「……気付くか……。僕にはわかんないな。」

「ふん。知ったような口を聞くな。片刃。」







シュヴァルツヴァルト南西部。

近年酸性雨の影響により、森の荒廃は激しかった。

ところどころ山肌ははげ、枯死した木が散乱している。

「ひどいな……。本当にここって観光地なのか?」

志貴はあまりの惨状に、目を背ける。

「はは。この美しい地獄はね、君たち人間がつくったんだよ。
NoxやらSoxやらを一杯ばら撒いてくれたからね。」

白騎士は、皮肉交じりにいう。

「それは事実だな。まあ汚点は隠したいものさ。
ところでここに城はあるのか?フォー・デーモン。」

復讐騎に尋ねられた悪魔使いは、手に宝玉をかざす。

宝玉は、点滅するように光る。

「うん。彼女の結界はここにある。行こうか。」


ついに。

ここまできた。

『黒の姫君』は目の前。

「わかっていても、緊張するもんだな……。」

殺人貴は呟く。



メレム・ソロモンは宝玉をかざす。

地獄のような森に、波紋がわたる。

偽装は解かれる。

一行の前に現れたのは、黒い城。

バロック様式。

重厚。

空白恐怖に近い豊饒な装飾。



「じゃ、僕はここまでだ。」

「え!?」

メレムは後ろを向く。

「僕はみんなをここまで連れてくるのが役目。
そろそろナルバレックがぼやく頃だから戻るよ。」

突然の別れ。

「……メレムさん、ありがとう。」

「『真祖の騎士』。また会えるさ。」

「メレム。性悪女には気をつけてくださいね。」

「ははは。シエル。それは不可抗力だよ。」

「ご苦労だったな。メレム・ソロモン。」

「エンハウンス。やっとその名をいってくれたね。遅いけど。」

そして、メレム・ソロモンは最後、想い人に別れを告げた。

「姫君。……どうか、お元気で……。」

「ありがとう、メレム・ソロモン。じいやによろしくね。」

志貴は不意に、彼の涙を初めてみた気がした。

それを隠すように、悪魔使いは霧となって去った。

「……。みなさんお疲れ様。
姫様はお待ちしていますよ。」

白騎士・黒騎士は扉を開ける。

城の中央。

ねじり柱。

内部の楕円形ドームに限定されるべき空間。

壁面の大きなうねりによって空間が静止したまま動き始める。

そして様々な小道具がそれを助長するように自己を主張し胎動する。

白騎士・黒騎士は一行の先頭をいく。

「ここだよ。」

城の奥、絢爛な扉の前に立つ。

フィナがノックをする。

彼は扉の前でうやうやしくお辞儀をする。

「姫様、失礼いたします。フォー・デーモンの客人たちを連れてまいりました。」

「入りなさい。」

若い女の声。

透き通るような不思議な感覚を覚える志貴。

重厚な扉は開かれる。

「ようこそ私の城へ。歓迎するわ。」

玉座に座る少女。

傍らには白い大型犬。

黒いレースのセーターを羽織り、下はクリーム色のドレス。

そして、印象的なブロンドの長い金髪。

年は14〜16歳。

死徒二十七祖第9位。

『黒の姫君』。

『死徒の姫君』。

血と契約の支配者。

アルトルージュ・ブリュンスタッドその人であった。

「リィゾ。今回は茶番劇のような真似をさせてごめんなさい。
フィナ、ご苦労様。」

優しい言葉を、護衛二人にかける黒の姫君。

「滅相もございません。」

「ありがとうございます。姫様のねぎらいの言葉は僕の活力源ですよ。」

彼らの忠誠心は高い。

「はじめまして『真祖の騎士』。遠野志貴くんといったほうがいい?」

「……あっ、はい。」

志貴は、その可憐・端麗という言葉がよく似合う、美しい少女におもわずみとれた。

黒い少女は、客人たちに声をかける。

「はじめまして『察戮梁綛埃圈
ここにきた教会関係者はフォー・デーモン以外、あなたがはじめてよ。」

「……それは光栄ですね。」

シエルはやはり不機嫌であった。なにしろここは吸血鬼の巣窟ともいえる場所であるのだから。

「あなたもね『復讐騎』。リィゾと互角に渡り合うなんてすごいわね。」

「……別に。」

ふてぶてしく答えるエンハウンス。

そして最後、彼女は自分の妹ともいえる存在に声をかけた。

「お久しぶりね、アルクェイド・ブリュンスタッド。かわいい恋人を見つけたみたいね。」

「……いい男よ。彼はだれよりも頼れるわ。アルトルージュ・ブリュンスタッド。」

アルクェイドと彼女には、一線を画した微妙な緊張感がある。

「……。まあいいわ。おいで、ブライミッツ・マーダー。」

彼女が手招きをすると、白い犬は頭を擦り寄ってくる。よく懐いているようだ。

彼女の白い手が、頭を優しく撫でる。

「……ところでみなさん。今回この城にきた用件は何かしら?」

志貴は、覚悟を決めた。



「……アルクェイドを、助けてほしいんです。」



黒い少女は微笑む。

そのことを、最初から知っていたかのように。


記事一覧へ戻る(I)