月影供Act.5


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1: アラヤ式 (2003/06/04 03:14:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

馬鹿な。

馬鹿な。

馬鹿な。

馬鹿な。

馬鹿な。


何故だ。

何故だ。

何故だ。

何故だ。

何故だ。


「同情するぜ。シュトラウト。」


なぜ、私が……











黒い森入り口の戦い。

ここにきて事態は急展開を迎える。

観客の一人、『真祖の姫君』アルクェイド・ブリュンスタッドは驚愕していた。



「……シエル、これはどういうことなの!?」



埋葬機関第7位『弓』シエルは、特に表情を変えることもなかった。



「どういうことも何も、これが結果です。」



『真祖の騎士』遠野志貴も、驚きを隠せない。



「でも先輩、あれは、……圧倒的すぎるよ。」



埋葬機関第5位『王冠』メレム・ソロモンはいう。



「初めてみたかい?でもね、これが『復讐騎』なんだよ。」



『黒騎士』リィゾ=バール・シュトラウト は、地に膝をつけていた。スーツは刻まれ、特に右足の損傷が激しい。

「馬鹿な……。」

彼は信じられなかった。

何故自分が追い詰められているのか。

圧倒的優位、なおかつ油断せずに事を進めていたはずの自分が、何故倒されようとしているのかを。

そして何より、

「……どういうことだ片刃!!その剣は一体なんなんだ!!」

目の前の『復讐騎』の駆る、魔剣アヴェンジャーの形状に驚愕していたのだ。

敵は、不敵に語る。



「この世にはな、おまえの想像を超えた未知の力が存在するんだよ。」



その男、『復讐騎』エンハウンス。

その男の魔剣。例えるなら、幾千もの豪腕の鞭。

『柔』の特性を極限まで極め、伸縮自在。

エンハウンスの間合いに当たる距離を、絶対不可侵にしている。

「……貴様、いつぞやの戦いの時は、そんな超抜能力は無かったはずだ!!」

すでに右足を切り刻まれ、回復途中のリィゾはエンハウンスを睨みつける。

エンハウンスは、不敵。

「ハッ。お前さんは『黒の姫君』の護衛にかまけて忘れちまったのかい?
人間はな、成長するんだよ。といっても俺は半分だがな。」


「シエル、説明しなさいよ!!」

アルクェイドは状況を把握することができなかった。目の前の出来事がとても信じられなかったからだ。

「なんなのよあの剣の形状は!!あんなの反則よ!!
敵を自動追尾しているかのように追いかけて、侵入は許さないし、
魔剣ニアダークの超振動うけても、すぐに回復するしどうなってんの!?」

たたみかけるように質問するアルクェイドに若干うんざりしながらもシエルは答える。

「うるさいですねアルクェイド。
あれは魔剣アヴェンジャーの第2形態『Band(バント)』です。
1秒間に300回の斬撃が可能。その刃に触れれば100ケタ単位で切り刻まれます。
まあ、鞭の特性をそなえた剣といったところですね。」

「ちがうわよ!!私が聞いているのは、どうしてあの剣が自己修復するかってことよ!!
有機元素魔剣属でも、あの回復のスピードは異常だわ!!」

シエルにつかかっていきそうなアルクェイドを、志貴が両手で抑える。

「止せよアルクェイド!!……でも先輩、あの剣は一体なんなんですか?
いくらなんでも、あの『黒騎士』が手も足も出ないなんておかしいですよ?」

シエルは両手を腰につけてフウとため息をつく。

「……2人の質問にお答えしましょう。そもそもあの魔剣は、エンハウンスのものではありません。
エンハウンスの主にあたる前18位が所有していたものです。
しかしですね、その死徒はあくまで、所有していただけに過ぎなかったんですよ。」

「?」

「……そいつの、霊的ポテンシャルが低かったのね。」

「そのとおりですアルクェイド。あの魔剣の能力の一端すら、前18位は引き出すことができませんでした。
しかしそれは当然のこと。
あの魔剣アヴェンジャーは、『ネクロス』なんですから。」

「!!! そんな……!!。まさか、現存していたなんて……。」

「??『ネクロス』?なんですかそれ??」

全てを理解したアルクェイドは、志貴に説明する。

「いい志貴?魔剣というものには2種類あって、
錬金術のホムンクルス合成術を応用して創られた『有機元素魔剣属』と、
魔術によって、ある一定の命令を刷り込まれた『術式無機魔剣属』の二つがあるの。
リィゾの魔剣ニアダークは、後者にあたるわ。」

「じゃぁ、魔剣アヴェンジャーは……」

「急激な形状変化、自己修復能力をそなえているから前者のほうよ。
『術式無機魔剣属』はそれを創造した魔術師の固有の伝達領域さえ理解すれば使役できる。
だけど『有機元素魔剣属』はそうはいかない。あれはレンと同じ一種の擬似生命だから、自ら使い手を選ぶの。」

「レンと同じ!?じゃあ、あの剣は生きているのか!?」

「そう。しかも圧倒的な攻性と標準をはるかに凌駕する驚異的な自己修復スピード。
『有機元素魔剣属』のなかでも最高純度の完成度を誇るモノに冠される、『ネクロス』の称号をもつ魔剣よ。
あれを創造したのは、第六法という神秘にたずさわった錬金術師でしょうね。」

「まさか……ワラキア……」

「それは今となってはわからないわ。でもこれだけはいえる。
『ネクロス』を扱えるのは、霊的ポテンシャルが少なくとも二十七祖クラス上位に食い込めるアデプトのみよ。」

「そういうことですトオノくん。エンハウンスは負けません。」

「……すごい。」

志貴は、エンハウンスの底知れぬ力に、とめどなく流れる汗を抑えきれなかった。


エンハウンスは攻撃を一端やめる。

「ハッ。いつか言ったよな志貴。切り札は最後にだした奴が勝つってな。
俺はな、いつも多数対1の狩りをしているから、こういう武器のほうが効率がいいのさ。」

笑ってこたえるエンハウンス。

みな、『復讐騎』の勝利を信じて疑わなかった。

しかし、『王冠』の悪魔使いだけは、その状況を楽観視していない。

「……エンハウンスソード。早く決着をつけたほうがいい。」

「どうしたんですか?メレムさん。」

「彼の右手をみてごらん。」

メレムが指をさしたその先には、どす黒い緑色になっているエンハウンスの右手があった。

「〜〜!!……なんですか、あれは…手?」

「腐食がだいぶ進んでいるね。彼の体は半人半死徒。もともと脆いものだ。
そこに加えて魔剣の力を解放すれば、当然ああなるのさ。
あの腐食が半分以上体を覆いきったら、彼は死ぬ。」

「な!!」

エンハウンスの黒緑色の壊死した部分は、徐々に今も拡がっている。

「……もって10分だよエンハウンスソード。『黒騎士』相手にできるかい?」

彼は不敵に答えた。

「余裕。……おい立てよシュトラウト。おねんねの時間はこれからだぜ。」



『黒騎士』は立つ。

目の前の敵を、猛獣をも絞め殺すかのような眼で睨みつける。

「まさか、貴様の得物が『ネクロス』だったとはな……。
……くッ!!時の病といえど、数百のパーツに刻まれては回復は遅いか……。
だがそれはそれ。貴様だけは、絶対に姫様の元にいかせるわけにはいかないのだ!!」

エンハウンスはそれを聞くと、それまでの飄々とした態度を一変させる。

普段は絶対にみせない、相手を侮辱するような笑い。

かつて、志貴との戦いのときに垣間見せた侮蔑の笑顔。

「……シュトラウト。てめえの病が足を治している間に面白い話をしようか。
俺は、やっぱりアルトルージュを殺すぜ……。」

「!!!」

志貴は驚いた。

「っ冗談だろエンハウンス……。アルトルージュに会って情報を得るだけじゃなかったのかよ!!」

「大真面目だぜ志貴。いったじゃねえか。情報は力づくで奪うってな。
ここで黒騎士をぶっ殺して、謁見の最中に一気にかたをつけるつもりだ。」

アルクェイドも驚きを隠せない。

「……ちょびヒゲ、どういうことなの?」

「姫君。俺が『復讐騎』だっていうことを忘れていたのか?
俺は、吸血種全員をこの地上から抹殺するために生きているんだ。
今回の謁見は、死徒第9位である奴を滅し死徒の勢力図を崩す絶好の機会だ。これを逃す手は無ぇ。」

エンハウンスのとどめの一言。

アルクェイドは衝撃のあまり、志貴に寄りかかり倒れこんでしまった。

「アルクェイド!?」

志貴は、彼の理不尽な言葉に憤慨した。

「……エンハウンス。……あんた、そういう奴だったのか?
わかっているのかよ……!?
アルトルージュはアルクェイドの、この世でたった一人の姉さんなんだぞ!!」

エンハウンスは、氷のような魔眼を見開いて笑う。

「いいか志貴。わるいが俺に例外なんて概念は存在しない。
吸血種はぶっ殺す。それだけだ。」

「エンハウンス……!!でも……。」

志貴は、奈落のさらにその奥底まで叩き落された。

アルクェイドは彼にかろうじて支えられ、その胸の中で白い頬を濡らす。

「……私、……私。
志貴とちょびヒゲがあの時、握手したとき、とってもうれしかった……。
ちょびヒゲは志貴に『俺たちはチームだ』っていってたよね……。
あれ……、全部ウソだったの?
全部お芝居だったの?
利用するための手段だったの?
やっぱり、私が憎いの?
……最後は、やっぱり私も殺すの?
ねぇ、答えてよ……!!」

アルクェイドの必死の問いに、『復讐騎』はもう答えない。

ただ一言。

「……おまえら、だから甘チャンなんだよ。
おれらがこれから相手するのは二十七祖だぜ……。先手は確実に取らなきゃ、このさき勝てない。」

「……そんな。」

「おいシュトラウト。どうだ?
この話聞いて、少しは元気が出たか?」

刹那。

空気から伝わる全てのものを萎縮させる殺気。

『黒騎士』リィゾ=バール・シュトラウトは、全身からあふれ出る怒りを抑えきれなかった。

「……おのれ貴様ぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!この下衆がぁああ!!!!
やはり、最初から姫君を狙っていたのだな!!
『真祖の騎士』の前ではネコを被っていたらしいがそれが貴様の本性だ!!
だがな、出来損ないごときに姫様はやらせん!!
あの方は、この混沌とした現在の世に、今必要とされているお方なのだ!!」

エンハウンスは、嘲笑う。

「ハッ。何寝言いっているんだてめぇ。
必要?あはははははははははははははは!!
人様の血吸って、それでも浅ましくも生き残ろうとするおれらが必要?
面白いギャグだな。
おれたちはな、醜悪この上ない今すぐにでもこの世から失せなきゃいけないバケモノなんだよ。
アルトルージュとおまえら、少しそのことについて自覚が足りねえんじゃねえのか?
まあ、おれが出来損ないなら、あの女は失敗作だからな。」

それが最後だった。

リィゾは既に、エンハウンスの間合いを侵略していた。

「貴様は万死すらなまぬるい!!」

エンハウンスは迎撃態勢をとる。

「『Band』!!」

黒鉛色の鞭の刃がリィゾに襲い掛かる。先の戦いで彼の右足を破壊した攻撃。

「二アダーク……揺れろ……。」

リィゾの暗紫色の魔剣が、揺らめきはじめた。

目の錯覚ではない。

ニアダークの刀身が、幾重にも在り重なって見える。

リィゾの周りに、リング状の剣山。

そしてそれは、幾千もの鞭となったアベンジャーを、あっという間に一つ残らず相殺した。

「ヒュゥ、やるなシュトラウト!空気中の分子に干渉して擬似の刃をつくりやがったか!!」

「私が本気になった以上、貴様はもう最後だ!!出来損ない!!」

「ハッ、それはどうかな!?」

アベンジャーの再生がはじまると同時に、ニアダークはその根幹を破壊する。

それはまさに、破壊のいたちごっこ。




「あのバカ……リィゾを本気で怒らせやがったな……。あと10分っていったじゃないか。」

メレム・ソロモンは、ため息をついていた。

彼の隣では、志貴に支えられて泣いている真祖の姫君がいた。

彼は、白いハンカチを差し出した。

「姫君、泣かないで下さい。綺麗な顔がもっと美しく……じゃなかった台無しですよ。」

アルクェイドはそれを受け取ると、涙を拭く。

「……そんなこといったって、ちょびヒゲあんなこというんだもん……。
アルトルージュも殺すっていってたし……。」

彼女はエンハウンスから受けた『甘チャン』の辛辣な一言に、まだショックを受けていた。

シエルは、その様子をみてあきれていた。

「……あーぱーさん?あんなの大ウソに決まっているじゃないですか。」

「へっ?」

「……やっぱり日本の暮らしに慣れすぎてボケているんですか?
これから情報得ようってときに、出会った瞬間供給源を断ってどうするんです?
あれは『黒騎士』に対する単なる挑発です。」

「え!!うそっ!?」

「本当なのか?先輩?」

「彼は、潜在能力を開放したリィゾ=バール・シュトラウトと戦いたいんです。
普段のリィゾは基本的に全力を出していません。
なぜなら、魔剣ニアダークの真の力を解放すれば、」

メレムがその言葉につづく。

「ここら辺一体、消えちゃうよ。」

!!??

「さあ、みんなここから逃げよう。失礼します、姫君。」

そういうとメレムは、ポカンと呆けているアルクェイドを抱えて離脱しようとする。

あわてて志貴はそれを制する。

「ちょっと、どういうことですか!?逃げるって……いやその前に消えるって!?」

「遠野君。時間がないから一言でいうよ。
『魔剣ニアダーク』は、原子に命令できるんだ。」

「!?」

「超振動も、擬刃創造も、ニアダークの一端の能力に過ぎない。
あの剣は、魔法使いクラスの魔術師がつくったもの。
その気になれば、半径200mの空気分子を分解するなんて容易い。」

志貴はそのまま止まった。彼は、なぜか怒りが込み上げてきた。

魔眼殺しの眼鏡をはずす。

「トオノくん!?」

「志貴、何やっているの!?」

「遠野君!?……まさか」

「メレムさん、アルクェイドを連れて逃げてください。
シエル先輩も、空気が無くなってしまったらどうしようもないでしょう?
あの2人、おれが止めます。」

そういって戦闘中の復讐騎と黒騎士のところへ向かおうとする殺人貴。

メレムは、はじめて深刻な顔をみせる。

「……よすんだ遠野君。2人の実力はもうわかっただろ?行っても死ぬよ。確実に。」

「メレムさん。黒騎士の右腕くらいなら、何とか落とせるかもしれません。」

「無茶ですトオノくん!!今はエンハウンスも完全に戦いに取り憑かれています!!
今の彼は時間制限付きの興奮に酔いしれている吸血鬼です!!
アベンジャーはあなたと黒騎士を区別はしませんよ!!」

「先輩、それならあのバカも止めるよ。このままじゃ2人とも死ぬ。」

「トオノくん……!!」

殺人貴はいく。絶望の戦場へ。

アルクェイドは、震えて懇願した。

「……ダメだよ、志貴。いっちゃダメ……。やめて……。お願い……。」

志貴は、振り向かなかった。

「……アルクェイド。姉さんに必ず会わせてやるからな。」

「志貴ぃ!!」




彼は、もう見て見ぬふりが嫌だった。

このまま戦いが続けば、あの2人は死ぬ。

黒騎士が死ねば、アルトルージュにはもう会えない。

エンハウンスが死ねば、シエル先輩はきっと悲しむ。

だから止める。

アルクェイドの笑顔、失わせないと決めたのだから。




殺人貴は走り出した。3人の制止も聞かず。

彼は、黒騎士の『死』の『線』をみる。

右腕上腕部。

そこを切れば、黒騎士は魔剣を握れない。

それだけに彼は集中する。

「シュトラウト。長い腐れ縁にケリつけようぜ……!!」

「片刃。もう貴様は見たくない。……死ね。」

『魔剣アヴェンジャー』は唸る。目の前の獲物を欲するかのように。

『魔剣ニアダーク』は轟く。敵を完膚なきまでに消滅させるために。

殺人貴は行く。『七つ夜』は黒騎士を狙う。


3人の力が衝突しようとした、

そのとき





「オイタはそこまでだよ!お2人さん!!」






白い男が、『黒騎士』と『復讐騎』の前に、突如あらわれた。

「おまえ……!?吸血公爵!!」

「フィナ……!!」


ブロンドの長髪を後ろで束ね、白のスーツを着こなす不敵な紳士。

手には何故か薔薇。

「まったく2人とも。そんな危なっかしいものは収めてくれないかな?
リィゾ。君が熱くなったら人間たちを巻き込んじゃうよ?それって美しくないねぇ。」

そして彼は殺人貴に気付く。

「はじめまして『真祖の騎士』。刃物をおさめて下さい。いやぁ実に、美しい目だ……。」


その男。

死徒二十七祖第8位『白騎士』フィナ=ヴラド・スヴェルテン。




終幕は、唐突。


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