月影供Act.4


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1: アラヤ式 (2003/06/02 15:51:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

「どうしたシエル?随分ボロボロじゃねえか。」

シエルは、カソックにたくさんの切り傷をつくっている。

「……いえ、ちょっとした紛争がありまして。あなたもなんかボロボロですよ。」

エンハウンスも、自慢の赤のロングコートがとごろどころ食いちぎられている。

「……こちらも同じく魔剣・魔獣大戦が勃発しちまったんだよ。」


夜10:30。


ホテルから出てきた遠野志貴、アルクェイド、シエル、エンハウンス、メレム・ソロモン5人は、森の入り口にいた。

「じゃ、そろそろいくか。……!!」

メレムは急に立ち止まった。

「どうしたんですか?メレムさん?」

「わるいねみんな。どうやらすんなりとはいかなくなったみたいだ。 ……でてこいよ、『黒騎士』。」

「!?」

志貴は『七つ夜』を構え、アルクェイドを背後に置いた。

シエルも黒鍵を構える。

エンハウンスも魔剣アヴェンジャーを抜く。



ザァァァ。

ザァァァァァ。

ザァァァァァァァァ。



静かな森の静寂。

一瞬通る風。

その闇の奥から、漆黒の男はきた。

男の出で立ちは、まるで葬式のような黒のスーツ。髪はオールバックでまとめている。


「さすがだな『王冠』。気配は殺したつもりだったのだがな。」

「リィゾ、君のような男がウソをつけるんだね。その殺気、全然隠すつもりないじゃないか。」

男はポーカーフェィスを保っている。

メレムは、少し憤り気味で男に尋ねた。

「……それにどういうことさ。僕は『黒の姫君』とちゃんとアポをとったはずだ。
君がどうして今でてくる?『黒騎士』。」


キィィィィィィン。


メレムの殺気と黒騎士と呼ばれる男のそれが、ぶつかる。





志貴は、魔眼殺しの眼鏡をとる。なぜか体が勝手に動き、そう判断したのだ。

彼の中の七夜の血が告げる。


――アレハ強イ。

――アレハ強大。

――アレハ、手ニ負エナイ。


「アルクェイド。……アイツは何なんだ?」

「……死徒二十七祖第6位『黒騎士』リィゾ=バール・シュトラウト。アルトルージュの護衛の一人よ。 」

「!!あいつが!?」



『王冠』と『黒騎士』の対峙はつづく。

「今回の謁見について変更事項があり、それを伝えにきたのだ。
……『復讐騎』と『弓』の両名、ここでお引取り願いたい。」

「君が冗談をいうとはね……。おかしいなぁ。『黒の姫君』にもその旨は伝えたはずだが……。」


ビリビリッ。


メレム・ソロモンの怒りが空気を熱くさせる。

「……リィゾ。僕は同僚2人も謁見に立ち合わせてくれるように頼んだはずだ。」

「今回は姫様に派遣されてきたのだ。
私の目で、お主の客人たちの素養を見極めるためにな。
……『真祖の騎士』と『真祖の姫君』は歓迎する。
ただし、姫様に微量でも害意のある因子との接触は、最小限にしなければならない。
もう一度いう。『復讐騎』と『弓』の両名、お引取り願う。
邪魔をすればフォー・デーモン、お主とて容赦はしない。」


ドクン。


「……喰うぞ。……おまえ。」

赤紫色の魔眼を見開いた凶相。4大魔獣で構成される彼の体がウネウネと蠕動する。

本性をあらわにするフォー・デーモン・ザ・グレート・ビースト。

「メレムさん……?」

初めてみるメレムの本性に、志貴は嫌な汗が止まらない。

『混沌』ネロ・カオスの最終形態に、似ていた。

「トオノくん。あれが『死徒メレム・ソロモン』です。」

シエルは、感情のない瞳でそういった。

アルクェイドも、同じ目をしてみつめている。

シュゥゥゥゥゥゥ。

黒騎士の右手からも魔剣が発現する。

死徒二十七祖第6位と第20位。

激突は近い。



「よせ。フォー・デーモン。」



エンハウンスがそれをとめた。

彼は、本性をあらわしたメレムの肩に手をおく。

「おまえの魔獣たちはどれも攻撃が大味過ぎる。こんなところでガチンコやったら周りを巻き込んじまうぜ。
……『黒騎士』はおれの獲物だ。」

エンハウンスはリィゾを睨む。

「……エンハウンスソード。……そうだね。僕としたことが冷静さを欠いてしまったようだ。
君も彼と決着をつけたいだろうしね。ここはお任せするよ。」

落ち着いたメレムは、その場を離脱しアルクェイドたちのところへ戻った。


『復讐騎』が『黒騎士』と対峙する。

「よぉ。相変わらずお堅いアタマしてんなぁシュトラウト。ヒメサマの護衛そのいち。」

「……貴様。……この下郎が。」

いままで無表情だったリィゾは、嫌悪をあらわにしている。

「俺は確かに『復讐騎』っていわれているがよ。今回の趣旨はメレムから聞いたはずだろ?
俺とシエルがそんなに信用できねえのか。……ったく昔から変わんねえよな。
その苔の生えきった脳みそ、キャベツと一緒に酢漬けにしたらどうだ? 」

「百年も生きていない若造がなにをほざく。
忌々しい片刃め。
特に貴様だけは、姫様にお目通りすることは叶わん!!」

「その若造に昔、剣を折られたのはどこのどいつだよ。
それとな、俺は相棒と約束したんだ。
『黒の姫君』に会うってな。」

魔剣アヴェンジャーを構えるエンハウンス。

「シュトラウト、どうしても邪魔するなら消すぜ……!!」

リィゾも魔剣ニアダークを片手で上段にかまえる。

「出来損ないの成り上がりめ。身の程を思い知るがいい……!!」


他の4人はもはや、見守ることしか出来なかった。

志貴の後ろに守られているアルクェイドは、腕を組む。

「志貴。この戦い、瞬き一つしないで見届けなさい。
死徒二十七祖同士の戦いというのがどういうものか、わかるわ。」

「アルクェイド……。わかった。」

志貴は、魔眼殺しの眼鏡をかけ直した。

シエルは、メレム・ソロモンとともにエンハウンスを見守る。

「メレム、よくあそこで我慢しましたね。」

「いいや、エンハウンスソードのおかげさ。あれで頭が冷えた。
おかげさまで愛しい姫君を戦闘に巻き込まずに済んだよ。
でもアイツ、大丈夫かな?聖葬法典を使うつもりはないみたいだけど、相手は『黒騎士』。手強いよ彼は。」

「大丈夫ですよ。あのヤサグレなら。」


黒い森入り口での戦い。はじまる。





ザンッ。

ガッ。

キィン。

キィン。

キィン。

遠野志貴は、目の前で繰り広げられる光景に目を疑った。

―――『魔剣アヴェンジャー』。ブラックメタルの有機的な装飾が施されている刀身2.5mの大剣。

それを両手で豪快に、隙を与えず振り回す『復讐騎』エンハウンスには、かつての志貴も苦しめられた。

だが、『黒騎士』リィゾ=バール・シュトラウトは、それをはるかに凌駕していた。

―――『魔剣ニアダーク』。暗紫色だが、オーソドックスなデザインの両刃の剣。

魔剣アヴェンジャーの半分くらいの刀身しかないその剣で、

しかも片手一本で、リィゾはエンハウンスの斬撃を捌いていたのだ。

この時点で、2人の力量の違いは誰の目にもあきらかだった。

「どうした片刃。貴様、その程度か?」

優勢だが、リィゾは攻勢を崩さない。

「ハッ。最近『真祖の騎士』ぐらいしか、骨のあるやつがいなかったからな!!
体がどうもなまっているらしい!!」

エンハウンスの気勢は変わらない。

トン!!

エンハウンスが飛び出す。

下方から斜めに繰り出す魔剣アヴェンジャーの一撃。

ザンッ!!

「ばかめ。貴様の太刀筋、とうに見切っている。」

リィゾは体を右方にクルリと回転させて避ける。

そのままエンハウンスの懐に入り、魔剣ニアダークを構えた。

「終わりだ!!片刃!!」

剣を振り切った腕のままのエンハウンスは、腹部ががら空きだった。

迫るニアダークの切っ先。

「『Saide(ザイデ)』!!」

エンハウンスが唱える。

先の戦いで志貴を苦しめた、魔剣アヴェンジャーの超抜能力が発動する。

『剛』から『柔』。

魔剣の有機素体がエンハウンスの体を血脈のごとく包んだ。

だが、

「繭など、ニアダークには利かん。」

「何!?」

リィゾの言葉は真実だった。

ボォォォンという爆音とともにアベンジャーの有機素体ははじけ飛び、

ニアダークは『復讐騎』を貫いていた。

志貴が思わず叫ぶ。

「エンハウンス――――!!!!」

「……ッち、いってぇぇぇぇ……。」

ドカッ!!

ズルッ……。

エンハウンスはその瞬間、右足の蹴りでリィゾをつきとばし、魔剣ニアダークを引き抜いた。

だが腹部を貫通した魔剣のダメージは大きい。息が荒い。

「……へへ、テメエの魔剣の能力忘れていたぜ。たしか、超振動で分子結合を解くってやつか……。
……はあ、はは。使い手と同じで、腹の立つ能力だな!!」

「虚勢を張るな片刃。貴様は私には勝てん。剣腕も、能力も、おまえは私には及ばない。
しかし弱体化したものだな。極東の国で人間と馴れ合いすぎたのかは知らんが、
所詮は出来損ないだったということだ。」

「時の呪いを病んでいるてめえに、出来損ない呼ばわりされる筋合いはねぇ!!」

「……死にたいようだな。」

ガキィィィィン。

再び激突する魔剣と魔剣。

しかしその戦い、一方的。








戦いを見守る4人。

アルクェイドは、絶望したようにつぶやいた。

「……ダメだわ。ちょびヒゲは、『黒騎士』には勝てない。」

「!!アルクェイド……おまえ……!!」

「志貴、わかっているはずよ。あれはね、もう格が違うとかいう問題じゃない。
エンハウンスの攻撃はたしかに凄まじいわ。
でも、リィゾはそれを寸分の狂いもなく打ち払っている。結果は、火を見るより明らか……。
せめて彼が、聖葬法典を使えば勝機があるんだけど……。」


シエル先輩は、この絶望的な雰囲気の中、笑っていた。


「……まったく、あーぱー吸血鬼はその程度なんですか?」

アルクェイドはキッと睨む。

「……シエル。あなたの目は節穴なの?この戦闘みていたらわかるでしょ?
聖葬法典を使わない限り、ちょびヒゲに勝ち目はないのよ。」

志貴も、アルクェイドと同じ考えだった。

そう。エンハウンスは聖葬法典を使おうとしない。

対多数死徒殲滅用に創られたあの概念武装と魔剣アヴェンジャーを同時に使えば、かなり優位にたてたはずだ。

無論、エンハウンスはその技能をもっている。

なぜ?

「アルクェイド。あなたは知っているはずですよ。
魔剣と概念武装の同時使用は、もともと時間制限付きの彼の肉体にもっと負荷をかけてしまいます。
半人半死徒は魔剣には腐食され、聖葬法典には浄化されてしまいますからね。」

「何をいっているのよシエル。彼はその同時使用で死徒と戦ってきたはずよ。
短時間で決着をつけて、傷ついた肉体を回復させる戦法でしょ?
なんでリィゾを相手にそれを使わないのよ?」

シエルは一端目を閉じ、しっかり見開いてこういった。

「彼の男としての意地です。」

「?」

「先輩、どういうことだよ。」

「彼とリィゾは、過去に対戦しているんです。結果は引き分けだったらしいですが。
彼は剣と剣の勝負で決着をつけたいんです。
その気持ち、同じ男のトオノくんなら、少しわかるんじゃないんですか?」

「……。」

「シエルのばか!!あれじゃ勝負にならないわ!!あなたちょびヒゲが死んでもいいの!?」

「死にませんよ。彼は。」

シエルは月光のなか、優しい微笑をたたえていた。

「アルクェイド。あなたはエンハウンスを知りません。
彼がなぜ、『復讐騎』と呼ばれ、吸血鬼狩りの魔人とよばれているそのわけを。」

「……。」

納得できない様子のアルクェイド。メレムが声をかける。

「姫君。僕たちは見守ることしか出来ません。アイツにまかせましょう。
遠野君もみててごらん。アイツはココからがすごいんだ。」

「メレムさん……。」






黒い森は待っている。

人間で在らざるものたちの死闘を。

黒い森は待っている。

バケモノたちの血と肉を。

黒い森は、待っている。


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