月影供Act.3


メッセージ一覧

1: アラヤ式 (2003/06/02 11:32:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

――――きたのね。彼ら。



「はっ。夜にはバーデン・バーデンに到着している頃かと。」



――――リィゾ。あなたはどう思う?



「……と、申されますと?」



――――フォー・デーモンの連れてくる、客人たちのことよ。



「僭越ながら、『王冠』も所詮教会側の代行者。その情報を鵜呑みにするのは危険です。」



――――そうね。それなら、あなたの目で直接確かめてきてくれないかしら。



「御意。」



――――『真祖の騎士』。『復讐騎』。『弓』。 そして『真祖の姫君』。役者は多いわね。



「……。」



――――リィゾ。『復讐騎』との因縁、ここで断ち切ってもよろしくてよ。判断はあなたに委ねるわ。




「……恐れ入ります。では、失礼。」




黒い森。

漆黒がくる。







午後7:14。

一行はシュヴァルツヴァルト北部の町、バーデン・バーデンに到着した。

バーデンとは、ドイツ語で「温泉」の意味を持ち、温泉療養町として栄えている。

今、宿泊先へいくバスの一番後ろの席に、4人は並んで座っていた。

「……ここはどうも、好きになれねえな……」

町の様子を窓から眺め、『復讐騎』エンハウンスはぼやく。

「ちょびヒゲ?……どうしたの?
ココすごくいい町だよ。とっても綺麗だし。」

「ああ、俺もこんな綺麗なところは初めてだ。何が気に入らないんだ?」

目新しい建物に興味津々のアルクェイドと志貴は、彼の不機嫌な理由がわからない。

「人間味がないんだよ、ここには。
この町の繁栄なんてな、余所様からの搾取で成り立っているんだ。
……まあ、人生経験の浅い姫君や志貴には、ピンとこねえよな。」

「……?」

「……?」

いまいち彼の言葉を理解できない二人。シエルがエンハウンスをたしなめる。

「エンハウンス。あんまりヒガミ根性ださないでください。
まあ、2人とも名家の生まれですからね。田舎出身の私たちの苦労はわからないですよ。
……でもわたしには、故郷なんてもうないですけどね……。」

顔が曇るシエル。

彼女も、死徒ロアによって帰るべき場所を失っていた。


志貴はそんなシエルを励ます。

「……先輩。ロアはもういないよ。」

アルクェイドもそれを察していた。

「そうだよシエル。……あいつは、志貴が倒してくれたもん。」



――もう、アカシャの蛇はいない。



「……トオノくん。アルクェイド。ありがとうございます。
でも私、今でも時々こう思うんです。
もしかしたら私の奥底で、ロアはまだ巣食っているんじゃないかと……。」

コツン。

「バーカ。」

エンハウンスは、人差し指でシエル先輩のおでこをつっついた。

「おまえは蛇じゃない。
埋葬機関の創始者だかなんだか知らないが、
あんなウス汚い野郎に、もうおまえは負けねえよ。
おまえは前より確実に強くなっている。いろんな意味でな。
俺が保障する。」

「……エンハウンス。
……はい。」

代行者は、復讐騎に優しく微笑んだ。

じぃ〜〜〜〜〜〜〜〜。

その様子をみていたアルクェイドと志貴は、妙にいやらしい笑みをうかべる。

「……むふふ。し得るってば、最近ちょびヒゲと一緒にいるのが嬉しそうにみえるにゃぁ。」

「〜〜!?ななな何言っているんですかこのバカ猫ぉ!!違うっていっているじゃないですか!!」

ねこアルクの疑惑を、ものすごく紅潮した顔で否定するシエル先輩。

「うーん。確かにそうかもしれないな。
先輩最近妙に大人しいというか、慎ましいというか、そんな感じがするよ。」

「トオノくんまで!?ちっ違います!前にも言ったじゃないですか!!
こんなヤサグレで飲んだくれで不潔で足が臭い半吸血鬼男なんかに興味はありません!!」

「……シエル。足が臭いは余計だ。」

いつものドタバタを繰り返しながら、4人を乗せたバスは宿泊先へ向かう。




4人が泊まる『Brenner's Park-Hotel』。

著名人の休暇ホテルでも名高い、

バーデン・バーデン最高峰、ヨーロッパでもトップクラスのホテルである。

夜の闇の中、

木々と花々のコントラストと、風格を漂わせる建物自体が見事に調和している。

「……すごい。おれたち、ホントにこんなトコに泊まれるのか?」

「人間もなかなかやるわね。千年城より手の込んだ造りかも。」

「あーぱーさんと違って、短い貴重な時間を有効に利用した結果です。」

「ハッ。メレムの奴、こりゃ相当気合入っていやがる。」

フロントで受け付けをし、ボーイが荷物を運ぶ。

圧倒的な質量の魔剣アヴェンジャーと聖葬法典・第七聖典は、持ち主が運ぶしかないが。




ぐ〜〜〜〜ぎゅるぎゅる〜〜〜〜〜〜〜。




お姫様のおなかが鳴いていた。

「……志貴ぃ、おなかすいちゃった。」

「……アルクェイド、はしたないです。
知っているとは思いますが、おなかの音は欧州ではマナー違反ですよ。
日本の暮らしに慣れ過ぎたんじゃないんですか?」

「しょうがないですよ先輩。追いかけられてて昼飯もとれなかったんですから。
エンハウンス、どうする?」

「……ちょうどディナーの時間には間に合ったみたいだな。食いにいこうぜ。」

4人は男女2人ずつの部屋に分かれ、着替えることにした。







志貴は、秋葉から持たされた紺のスーツに黄色のネクタイ、

エンハウンスは、昼間と同じ灰色のスーツに身を包んでいる。トレードマークのヒゲは剃らない。

着慣れないものに苦戦しながら志貴は尋ねる。

「エンハウンス。……俺、こういうところ初めてなんだけど、こんな格好でいいのかな?」

「それで十分だ。最近はどこも服装にこだわらない所が多い。まあここは別格だがな。
この国は貧富の層がハッキリ別れていて、インテリと労働者の食のステージは全く違う。
俺もこんな贅の限りを尽くしたところは初めてだぜ。」

「へぇ。……あっ」

バタン。

「えへへ、お待たせ志貴!」

「2人ともお待たせしました。」

彼らの部屋に元気よくはいってきたのは、、

白のワンピースの上にカーディガンを一枚羽織ったアルクェイドと、

黒のハイネックに黒のフレアスカートをあわせたシエル先輩であった。

「―――。」

志貴は、しばらく口を開けてポカンとしていた。

「……志貴?おーい志貴ぃ?どうしたの?」

アルクェイドは彼の顔の前で手を振る。そして彼はようやく戻ってきた。

「……あ、わるいアルクェイド。…綺麗だな。」

「ありがと志貴!!どう、ちょびヒゲ?」

「似合っているぜ『白の姫君』。うらやましいな志貴、両手に花じゃねえか。
シエルも落ち着いていて、なかなかのもんだ。」

ほめられたのがよほど嬉しいのか、くるりと回っておどけてみせるアルクェイド。

シエルは一瞬紅くなるものの、すぐに落ち着き自慢気に語る。

「……当然ですよエンハウンス。
あなたの服をコーディネートしたのは私なんですからね。
さて、全員用意もできましたし行きましょうか?」

「そうだな。」


公園レストラン。

最大45人のディナーを提供できる、ホテルの代表格の一つである。

一行は予約のテーブルをみつける。

「あそこが俺たちの席か。
ひい…ふう…みい…よう…い…?????」

「どうしたの志貴?はやくテーブルにつこうよ。」

「……アルクェイド。あそこの椅子、一つ多くないか?」

「え?……あ、ホントだ。なんで?」

一行の人数はもちろん4名。あきらかに一つ椅子が多かった。

「どういうことでしょう?予約は4名だったはずですが……。」

シエルも首をかしげる。

だが、4人のなかでエンハウンスだけは気付いていた。

「もう一人のゲストが、きているみたいだな……。」

??

「こんばんは。ようこそシュヴァルツヴァルトへ。」

!!

一行の後ろには、音もなく、気配もなくあらわれた、タキシードを着こなす金髪の美少年が立っていた。



埋葬機関第5位、『王冠』メレム・ソロモンである。



「……メレムさん!?」

「お久しぶりだね遠野君。あの時はお世話になったよ。」

「本体が出張るとはめずらしいな、フォー・デーモン。
上司には、今回のことをどうやってゴマかしたんだ?」

「その呼び名はやめておくれよエンハウンスソード。それは僕が死徒であるときの名前なんだからさ。
ナルバレックには、『ドイツでリア王の遺産の手がかりを見つけた』って吹いてみたのさ。」

「メレム。今回は色々お世話になりましたね。素直にお礼をいっておきます。」

「ははは。シエルから素直に誉められると、後が怖いなあ。」

『真祖の騎士』、『復讐騎』、『弓』3人を目の前にしても、物怖じもせず受け流す『王冠』の悪魔使い。

彼の実力・策士ぶりは、容易にうかがい知ることが出来る。

だが、そんな悪魔使いにも弱点はあった。

「お久しぶり、メレム・ソロモン。」

「……姫君!!……お、おお、ぉぉぉぉ久しぶりです!!!!!」

あれだけ老獪だったメレムは、アルクェイドに声をかけられると別人のようになる。

このときばかりは見かけ通り、少年の精神年齢に移行するのだ。

「ひひひひ姫君みみみ……。そのおおお姿とてもももも素敵ですすすすす!!」

「ありがとう。
……シエルから聞いたわ。
今回あなたはお金振り込んでくれただけじゃなくて、アルトルージュと直接交渉してくれたって。
じいやに危険だとかいわれて、止められなかったの?」

「ほほほ宝石の老人は、ちゃんとせせせせ説得しました……。ひひひ姫君のののためですから……。」

全然呂律がまわっていない。エンハウンスは面白がる。

「ハッ!!メレムの奴、姫君相手だと形無しだな!あははははは……ッグハ!!」

「あなたは魔獣に食べられたいんですか?。メレムは今、すごくナイーブになっているんですからね。」

シエルは黒鍵をブスッと刺して、彼を黙らせた。

「メレム・ソロモン。私、正直いってあなたのこと少し苦手だったの。
でも今回、あなたは命を賭けてくれた。本当にありがとうね。」

「そそっそそんなことななないですよ!!
ひひ姫君みみのためええですから……」

すると、アルクェイドはメレムの前に進み出て中腰になり、、

「お礼しなきゃね。」

チュッ。

彼の額にキスをした。



『ゴールッ!!ゴールッ!!ゴールッ!!ゴールッ!!ゴールッ!!ゴールッ!!ゴーォォォォルッ!!』




ワラキアの『カーット』ばりの叫び声がメレムの脳内で反響し、彼は倒れた。

バタン。

志貴とシエル先輩がかけより、彼をささえる。

「メレムさん!!」

「メレム!?ちょ、ちょっとしっかりしてください!!」

「……シエル。……遠野君。
もう、僕、埋葬機関だの二十七祖なんてどうでもいいや……。
僕はこの日のために、千年の時を生きながらえてきたんだよ……。
もう、思い残すことなんて何もないや……。」

すっかりアッチの世界に逝きかけているメレム・ソロモン。

「メレムさん!しっかりして下さい!!
アルクェイド!!お前一体何したんだよ!!」

「???なにもしてないわよ。おでこにキスしただけだけど。」

「……トオノくん。
メレムにとってアルクェイドのキスは、
どの教会製の概念武装よりも致死率が高いんです……。このままだと……」

生きたまま廃人な死徒になりかねなかった。

「俺にまかせろ。」

一部始終を見ていたエンハウンスは、メレムの側にかけよる。

「おいフォー・デーモン。おまえそのまま逝く気かよ?
おまえさんには仕事が残っているだろ?
俺たちを『黒の姫君』に会わせるっていう仕事がな。」

「……ごめんエンハウンスソード。僕しあわせ過ぎて、その役果たせそうにないよ……。」

メレムのあまりにうっとりした顔にちょっとひきつつ、エンハウンスはそっと彼に耳打ちした。

「……『真祖の姫君撮り卸し生写真10点セット』、ほしくねぇか?」

「……。希少価値のあるものも、つけてくれるかい?……」

「……『姫君は意外とネコ舌(限定1部)』もつけてやる。」

「……。のった。」

ムクッと起き上がったメレムは、何事もなかったかのように立ち上がる。

「さあみんな、テーブルについてくれ。
今日のメインディッシュはGulasch(グーラッシュ)。
日本のハヤシライスの原型なんだよ。
さ、どうぞこちらへ。」

復活したメレム・ソロモンは、アルクェイドを優先に着席を促した。

あまりの唐突な復活劇に志貴は、エンハウンスの耳打ちした内容がヒジョーに気になった。

「……エンハウンス?一体メレムさんに何を吹き込んだんだ?」

「志貴。世の中にはな、俺たちの想像を越えた未知の力が存在するんだ。」

「……撮り卸しがどうのこうの言っていたような気がしますが?」

シエル先輩はピクピク顔を引きつらせながら、エンハウンスに疑惑の視線を送っている。

「知らんな。さあ、飯にしようぜ。」

「ゴマかしましたね……。」




ディナーを済ませた後、4人+1人は志貴たちの部屋に集まり作戦会議をすることとなった。

みな、いつもの格好に着替えている。

アルクェイドは白のハイネックに紫のロングスカート。

シエルはカソック。

志貴は紺のコートに中はトレーナー。

エンハウンスは赤のオーバーコートを羽織り、ビール缶を片手に持っている。

神父の服装にきがえたメレム・ソロモンは、地図を用いて説明する。

「今日の夜12時に、謁見の予定になっている。
場所は、シュヴァルツヴァルト南西部。移動手段はここから歩いていく。
道順は完璧に把握しているから、心配することはないよ。」

志貴は地図をみながら、いくつかの疑問をぶつけてみる。

「メレムさん、ここからその南西部までは結構距離があるみたいなんだけど。
いまから行っても、とても間に合わないんじゃないか?」

地図をみると、現在地とメレムの指を指したところはかなり遠く離れていた。

「ははは、遠野君。今君の目の前にいる4人は何者なんだい?」

「……あ、そうだ。」

そう。目の前にいる4人のうち、3人は吸血鬼で1人は代行者。

彼らの身体能力なら、常人では移動不可能な距離もたやすい。

「志貴。疲れたら私がおぶってあげるよ。」

何気ないアルクェイドの発言。

しかし、彼の驚愕っぷりは激しかった。

「@ななんあんですとぉおぉぉっぉ!?ひっ姫君、ぜぜえぜえぜええ是非僕もその麗しいいい背中にのせ……」

ゴツンッ!!

エンハウンスのゲンコツがメレムの頭にヒット。

「暴走するな。おまえには自動車よりも速い魔獣がいるじゃねえか。」

「イタタ……。キミはシエルと一緒で口より手が先にでるねぇ。
わかっているよ。遠野君はあくまで人間だからね。
でも残念残念。」

「メレム。そこのヤサグレ半吸血鬼と私を一緒にしないで下さい。」

「はいはい。まあ、とりあえず出発は夜10:30ってことにしておこう。
食休みも兼ねて、みんな休んでおくといい。」

「了解。」

男3人、女2人はそれぞれの部屋に戻る。

アルクェイドが部屋を出て行ったのを確認すると、メレムは志貴の隣に座った。

「遠野君。最近姫君とはうまくいっているのかい?」

「唐突ですね。……まあ、それなりに。」

「……そう。それなりにか……。」

「ハッ、フォー・デーモン知らねえのか?2人はもう将来を誓い合った仲なんだぜ。」

「!!」

「ちょっちょっと待てよエンハウンス!!っそんなこと……」



駄々駄々――――――ん。



志貴が恐る恐るメレムに目をやると、彼は目から溢れんばかりに血涙(例えじゃなくて)を流していた。

「……メレムさん!?ちょっちょっと待ってください!!まだ俺婚約なんて……」

「うぅうううぅうう……いや、いいんだ遠野君。君と姫君の幸せを心からお祈りしているよ……。
今日は良い夢みさせてもらったからね……。
う、うわあああぁぁああぁっぁあああん……!!」

「プ。あはははははははははははははははははははははははは!!!
あのフォー・デーモンが、『うわぁん』なんていって泣いていやがるよ!!あはははははははははははは!!
はっはっ腹がよじれちまう〜〜〜〜〜〜!!」

「やめろよエンハウンス!!」

復讐騎はベッドの上で転がり回って爆笑していた。その声は、隣のアルクェイドたちの部屋まで響いていた。




「……シエル。あの笑い声、ちょびヒゲじゃない?」

「……全く。あのヤサグレあれ程注意したのに、やっぱりメレムをからかっているんですね。困った人です。」

シエルは準備をしながら、いじめられているであろう職場の先輩に思いを馳せる。

「ねぇ、シエルぅ。」

「なんですかアルクェイド。」

「やっぱりちょびヒゲのこと好きなんでしょ?」

「……しつこいですねあなたも。」

無邪気に聞いてくるアルクェイドにむけて、殺気の視線をむけるシエル先輩。手には黒鍵を握っている。

「だってシエルってば、ちょびヒゲのこと『足がくさい』とかいっていたじゃない。
どうして詳細な身体的特徴を知っているわけ?」

「〜〜!!そそそそそれは、たまたま靴下を洗濯していただけであって……」

「……へぇ、洗濯もしているんだ。一緒に住んでいたの?」

「!! いい加減にしなさいアルクェイド!!それ以上しゃべると浄化しますよ!!」

「怒らないでよシエル。私、あなたの恋に協力したいんだよ。」

「……では今すぐその口を閉じてください。」


約束の時は、近づいていた。








黒い森、闇の中で蠢く影。

「あそこか。」

漆黒はくる。


記事一覧へ戻る(I)