月影供Act.2


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1: アラヤ式 (2003/05/31 19:59:00)[mokuseinozio at hotmail.com ]

遠い異国の地に、

彼女はいる。

はじめて邂逅する不安。恐れ。疑念。

それらを抱きつつ、

彼らはやってきた。

『黒の姫君』が待つ、この国へ。







ドイツ。

フランクフルトにあるラインマイン空港。

ドイツ唯一の国際線乗り入れ空港。

一行は、約11時間の長きフライトを終え、

長い旅路への第一歩を踏み出していた。

アルクェイドとシエルは両手をあげ、体を伸ばす。

「……う〜ん!!……はぁ、つかれたあ。」

「……アルクェイドが機内で破壊の限りを尽くしましたから、全然休めなかったです。」

「なによ。シエルだって大暴れしてたじゃない。それに暗示でゴマかしたんでしょ?」

「何いっているんですか!!いくら暗示でごまかしても、壊れたモノは壊れたままです!!」

「2人とも!!着いたばっかりでケンカするなよ!!
ていうか、何でそんなに元気なんだよ……。」

「……。志貴。最初から答えを知っている質問は、するもんじゃないぜ……。」

志貴は、初めての飛行機とマイナス8時間もの日本との時差で、すっかりグロッキーだ。

エンハウンスに肩をかつがれ、満身創痍で歩いていた。

4人は早々に入国手続きを済ませ、手荷物を受け取る。

空港のロビーで小休止。

ある程度、志貴は座っていて気分がよくなった。

「ありがとうエンハウンス。
ところで、これからどうす……?」

「……。」

エンハウンスは黙っている。

「どうした?エンハウンス。」

「……。」

「……トオノくん。ちょっと。」

シエル先輩が、そっと志貴に耳打ちする。

「……ここは、エンハウンスの母国です。
彼から、聞いたことありませんか?」

「あっ……。」



そうだ。

ここは彼の故郷。

始まりの場所であり、終わりの場所。

全てを失った場所。



「シエル。ヒソヒソ話はやめろ。」

!?

「……地獄耳ですね。あなたは。」

「見りゃだれでもわかる。
前に話したよな、志貴。
そう。
ここは俺の生まれた国だ。
正直、もう戻ることはないと思っていたがな……。」

「エンハウンス……。」

「ちょびヒゲ……。」

「……。」

3人は、彼の過去をもう知っている。

暗い沈黙になりそうだった。

だがエンハウンスは、それを吹き飛ばすかのように笑った。

「……ハッ。何シケた面しているんだよ。最強3人衆がそろいもそろってよ。
今回はちょうどよかったよ。
過去の因縁に、そろそろ決着つけようかと思っていたところだ。
いつまでも、逃げている訳にはいかねえからな。」

志貴も頷く。

「エンハウンス……。
ああ、そうだな。
俺も逃げない。
あんたと、
シエル先輩と、
アルクェイドと一緒に、俺も自分の責任を果たす。」

「トトトトトトトトトトトトトトレビアーン!!」

!?

突然、いい雰囲気の2人の男に、

おかしなフランス語(?)が割って入る。

ボボンッ!!

いつまにか、

3組の椅子と机、黒板が用意されており、

ちょっとした青空教室が出来上がっている。……といっても空港内だが。

「ボンジュール!!お久しぶりです!!
熱い友情を交わす2人のオトコのためにおくる、
『教えて!?知得留先生!!海外出張旅情編』の時間ですよ!!
さあ、そこのお2人さん、さっさと席に着いちゃってください!!」

――知得留先生。登場。

「ムフフ。久しぶりだから知得留ノリノリだにゃ。」

――ねこアルク。推参。

あまりの2人のキチ○イっぷりに、エンハウンスは戸惑いを隠せない。

「……。シエル。
そりゃ一体何の真似だ……??」

「はいはい。そこの交換留学生のエン之助くん。
おとなしく座りやがってください。」

笑顔で諭す知得留先生。

「 ってめえ!!いつから俺が交換留学生になったんだよ!!
ていうかエン之助って俺のこ……グハッ!!」

「いいからさっさと着席するにゃ。」

ねこアルクと、黒鍵の連携プレーで、強制的に着席させられるエンハウンス。

「……。」

志貴、閉口。

黙って着席する。



「さて1時限目は、海外チョー初心者のトオノくんのために送る社会。
ドイツの基礎知識について学びましょう!!」

「……。」

「……。」

志貴とエンハウンスは、あきらめて授業を受けることにした。

「正式名称はドイツ連邦共和国。
人口8,216万人。面積35.7万km2。日本の94%のほどです。
通貨はユーロ。
首都はベルリン。
民族は、ゲルマン系を主体とするドイツ民族で構成されています。
1989年11月のベルリンの壁崩壊にともなうドイツ統一は、まだ記憶に新しいことでしょう。」

述べた項目を、すらすらと書き込む知得留先生。

その黒板を哀れにも、

第七聖典の守護精霊、『セブン』ことななこが必死の形相で支えていたりする……。

「おおお重いですぅ〜〜。」

「!?ななこちゃん!?」

「お?やっと出てきたか、セブン。」

「あ、志貴さんにエンハウンスさん。お久しぶりですぅ〜。」

「……なんで、ななこちゃんが黒板を支えているの?」

「……はい。よくぞ聞いてくれました。
実はマスターから逃れて有彦さんの所に逃げていたんですけど、すぐに見つかっちゃいました……。
罰として、『青空教室で、実体化して黒板を支える』刑が確定しちゃったんですよ〜。
もし、黒板を途中で落としたりしたら、毒にんじん食べなきゃいけないんですぅ〜。
でも、お2人がいてくれて助かりました!!
マスターを何とか説得してください〜!!」

地獄に仏でもみるような顔のセブン。

だが、現実は厳しかった。

「ごめん、ななこちゃん。俺には、先輩は止められない……。」

「!!そっそんなぁ〜!!」

「精霊ゆえに哀しきものだな……。セブン、おまえは運がわるかった……。」

「エンハウンスさんまで!?っひどいですぅ〜!!」

男2人、見捨てる。

「ムフフ。知得留は動物虐待が得意だからにゃぁ。」

「人聞きの悪いこと言わないで下さい、バカ猫。
……ところでセブン?
もっとしっかり支えないと、ソクラテスの二の舞になりますよ?」

ニッコリ微笑む知得留先生。

「!!ひいぃー!!マスターの鬼ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」

ななこの断末魔を無視し、授業はつづく。

志貴は、琥珀さんにあずけた夢魔レンのことが、とても心配になった……。





「……というわけでドイツは、北緯44度から55度くらいの位置ですから、
日本より、1ランクぐらい涼しいんです。
皆さん、わかりましたか?」

「はーい。」

ななこのことはすっかり忘れ、志貴、エン之助、ねこアルクの三人は元気よく返事をしている。

空港内で日本式授業をやっちゃっているこの奇妙な光景に、当然人だかりができる。

「はい、みなさんいい子ですね。
それでは次に、ドイツの食文化について……」

「それは、俺にまかせてもらおうか。」

自ら進みでるエン之助。この男、もうノリノリだ。

「そうですね。ここは本場出身のあなたにおまかせましょう。」

エン之助、知得留先生とチェンジ。

「さて、おまえらも知ってのとおり、
ドイツ人の主食はジャガイモだ。
その摂取量は一年間70kg。
これは、日本人の4倍に相当する量なんだぜ。」

「へぇ、そんなに食っているのか。」

「肌がイモ肌になりそうにゃ。」

「私はカレーで食べていますけどね。」

「当然、ジャガイモ料理のバリエーションは豊富だ。
炒める。煮る。焼く。デザートにする。なんでもござれ。
おれのお勧めは、アップルソースをかけて食べるケーキ『ライベクーヘン』かな。」

意外と甘党のエンハウンス。

「それと、自家製ソーセージ。
ジャガイモとコイツ抜きでドイツ料理は語れないぜ。
最近日本でも人気の高い血のソーセージ、
『ブルートブルスト』はここが本場だ。
姫君には一番ピッタリな食物じゃないか?豚の血だしな。」

「血のソーセージ!?食べたいにゃぁ。」

「……俺は、ちょっとパスかな。」

「大丈夫ですよトオノくん。見た目は真っ黒ですけど本当にやわらかくて美味しいんですよ。」

「ドイツはもともと、土地が痩せているから、あまり多くの収穫物は期待できねえ。
そんな中で、ジャガイモとソーセージが多く作られたのはな、
それらが、非常に保存に適していたからなのさ。」

「なるほど。」

「まあ、近年はアメリカ文化やインスタント食品の影響で、食生活も激変しつつある。
日本と同様に、土地に根付いた良い食文化が失われるのは、とても哀しいことだな。」

パチパチパチパチッ!!

志貴・アルクェイド・シエルは、惜しみない拍手を送る。

まさに至極の講義であった。

「自分たちが食べているものに、もっと感謝しなくちゃな……。
いい話だったぜ!!エンハウンス!!」

「ちょびヒゲ、やるにゃぁ〜。」

「見直しましたよ、エンハウンス。ただのヤサグレ不潔男じゃなかったんですね。」

エンハウンスも照れる。

「……よせよ。そんな褒めちぎるな。
じゃあ、次はビ……!?」

「どうしたにゃ??」

エンハウンスはたじろいでいる。

「……。おまえら、逃げるぞ!!」

そう。

空港のなかで授業なんかやって不法占拠する行為が、いつまでも見逃されるはずがなかった。

気が付けば、怒涛のように警官隊が迫っている!!

「あ〜!!ヤバい!!
逃げるぞ!アルクェイド!!」

「なんで〜!?やだよ志貴!!
まだ、ちょびヒゲの授業終わっていないじゃない!!」

「なに寝言いっているんですか!!あーぱー吸血鬼!!
アルトルージュに会う前に、犯罪者になる気ですか!?」

「早く逃げろ、おまえらぁ!!
ドイツの警察官は職務に勤勉なんだぞ!!」

一行は、空港をあとにした……。



「はあ、はあ。」

なんとか警官隊を振り切った一行は、フランクフルト市内の路地裏にいた。

道路にはゴミひとつ落ちていなく、

町並みは、どこも均整がとれている。

時刻は、もう午後5:00をまわっていた。

エンハウンスは腕を組んで壁によりかかり、

他の3人はへたり込んでいた。

息も絶え絶えのメンバーのなかで、エンハウンスが口を開く。

「……今回。
どっかのバカなお姫様と、頭のネジがゆるんでいる代行者のおかげで、
空港から電車使って直で行けたものを、みすみす棒にふる結果となったわけだが……。」

彼は頭に血管を浮かべている。

「なによ!!ちょびヒゲだってノリノリだったじゃない!!」

「そうですよ!!『褒めちぎるなよ』なんて言って、調子に乗っていた人はだれですか!!」

怒るアルクェイドとシエル先輩。

「3人ともやめろよ!!
悪ふざけで体力消耗するんじゃない!!」

その大きな声に、3人は驚いた。

志貴はこの旅のなかで、初めて本気で怒ったのだ。

一瞬、沈黙。

「……そうだな。言い争ってもはじまらねえ。
俺たちは、黒い森に行くんだからな。
姫君、シエル、悪かったよ。言い過ぎた。」

エンハウンスは素直に謝った。

「……ううん。私もつい、はしゃぎすぎちゃった。
私のためにみんな一緒にきてくれたのに。
ごめんなさい……。」

アルクェイドもシュンとなる。

「……アルクェイドのためではありませんが、
わたしも、目的から大きく逸脱したことをしてしまいました。
申し訳ありません……。」

シエル先輩も反省する。

「……3人とも、顔あげろよ。
俺たち、チームだろ。」

「……うん。」

「……はい。」

「……ああ。」

4人は、見事に仲直りをした。

この立ち直りの速さが強みになるんだろうな。と志貴は思った。

「よし、それじゃあ、
俺たちの目的地『シュバルツバルト』のおさらいをしよう。」

エンハウンスは地図を広げ、説明する。

「南北160km、東西30-50 kmの広さを持ち、
一番高い山のフェルトベルクでも海抜1493 mしかない。一見なだらかな丘陵地帯という感じだ。
総面積6000平方キロメートルの内3分の2が黒い森に包まれている。
それが、『シュヴァルツヴァルト』だ。」

「……アルトルージュはどこにいるんだ?」

そう。

その広大な森で、彼女を見つけなくてはいけないのだ。

「『黒の姫君』の城は、結界がはっていてな。
霊的ポテンシャルの低い人間には、存在を感じることすら不可能だ。
黒い森は、近年開発が進んでいてな。観光地としても有名になっている。
人間に見つからないためには、必然的に奴らの認識不可結界の壁は厚くなる。
見つけるのは、容易なことじゃねえ。」

「じゃあ、どうやって……。」

見つければいいっていうんだ。

「俺たち4人で、しらみつぶしに探すしか方法はない。」

「そんな……。」

「志貴。エンハウンスの言うとおりだよ。
アルトルージュは、血と契約の支配者。
真の力を解放したときのポテンシャルを、私は知らない。
……その力は、未知数よ。」

アルクェイドの語気が強まる。

「アルク……?おまえ……、
……戦ったことが、あるんだな?」

「……うん。一度だけね……。」

そういうと、しゃがんだままのアルクェイドは押し黙る。

だがそんな中で一人、代行者は笑っていた。

「大丈夫です。」

シエルは、余裕の表情だった。

「黒い森には、彼がいます。」

「……どういうことだ?……っまさか!?」

「?」

「?」

驚くエンハウンスを余所に、

志貴とアルクェイドは話においていかれていた。

「ちょっと、2人で何納得しているのよ。
私たちにも解るように説明してよ!!」


フォー・デーモン


「こういえばわかるか?姫君。」

「……なるほどね。」

「??なんだよ?フォー・デーモンって?」

「トオノくんも一度会ったことがあるでしょう。
メレム・ソロモンのことです。」

「!!」

志貴はアインナッシュの森で、一度彼と対面している。

死徒27祖第20位でありながら、同時に埋葬機関の第5位でもある黙認の死徒。


「今回も、アルクェイドのために旅費を捻出してくれていたのは彼です。
ただいつもと違うのは、彼が事前に『黒の姫君』と連絡をとり、
謁見の機会を取り付けてくれたことですね。」

驚く。

これ以上ない吉報。

しかし、エンハウンスには納得できないことがあった。

「……シエル、おまえ最初からそのこと知っていたな?
なんで話さなかった。」

「……それは……。」

「シエル。俺たちはチームだよな。
例え、『味方をも欺け』っていう言葉があるとしても、
その情報は隠すべきではなかったはずだ……。」

腕を組んだままのエンハウンスは、憤りを隠していない。

するとシエル先輩は、困ったようにこういった。

「……メレムから、口止めされたんですよ。」

「なんでだ。」

「『恥ずかしいから』って。」

エンハウンスは一転、それを聞くと腹をかかえてわらった。

「ハッ。
あはははははははは。相変わらず食えねえなぁアイツも!!
まあ、愛しい姫君と秘宝のためなら、奴はオルトとでも話をつけるだろうけどよ!!
でも奴が、『恥ずかしいから』ってか!!
あはははははははははははははははははははははは。」

「笑いすぎですよ!!エンハウンス。
……もう。
『あいつにだけはいうなよ』って口止めされてたのに。
向こうで会っても、からかうのは絶対やめてください!!」

シエル先輩は釘をさしたが、

エンハウンスはたいして聞いた様子もない。

そして、しゃがんだままのアルクェイドと志貴の肩に、ポンッと両手を置く。

「志貴、姫君。よかったじゃねぇか!!
こりゃ思ったよりもはやく会えそうだぜ!?」

「ほんとうか……?」

「間違いない。メレムにぬかりはないさ。
現に奴は、アルトルージュと接触できたんだからな。」

「……そうか。」

志貴は、いつの間にか涙目になっていた。

アルクェイドを救う手がかりに、一歩近づけたのだから。

それがうれしかった。

「あはは。志貴。目が潤んでるよ。」

そういうアルクェイドも涙をふく。

「姫君の涙腺も、ゆるんでいるみたいだな。
ったく2人とも、まだ泣くには早すぎる。
俺たちは、スタートラインにすらまだ立っていない。
大変なのはこれからなんだからな。」

「ああ、わかってるよ。
……先輩、メレムさんと連絡は?」

「はい、現地集合ということで、
今日の夜に一応会うことになっています。
ただ、あの人がそんなに素直に姿をみせるとはおもえませんが……。」

シエル先輩の目は、少々疑惑に充ちている。

「……アルクェイド。」

真祖の騎士は、吸血姫の手を優しく握る。

「……とりあえず、アルトルージュには会えそうだけど、
お前は、大丈夫か?……」

白のお姫様は、とびっきりの笑顔でかえした。

「心配しないで。志貴。
会いにいこう。アルトルージュに。」

「ああ。」

見つめあう2人。

「オイオイお二人さん。
頭のぼせちまって、俺らの存在すっかり忘れているだろ?」

「……。トオノくん。アルクェイド。
一応、TPOを考えてくれませんか?」

シエルとエンハウンスにちゃかされ、顔を紅くして2人は目線を逸らす。

「おしどり夫婦の決意も固まったみてえだな。
……もう5:30か。
ここからなら、フランクフルト中央駅が近い。急ぐぞ。」

「うん。」

四人は向かう。

目的地。

シュバルツバルト北部の町、バーデン・バーデンへ。


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