路空会合六話3+余話『魔殺武具』に関する考察


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1: 烈風601型 (2003/03/02 00:30:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

俺と志貴が飛び出したのを見て満を辞して奴も触手を使い俺達に襲い掛かる。
しかし、その瞬間、俺も志貴もそれぞれ『凶断』『凶薙』から真紅の弾丸と妖力の雷が吐き出される。
再び襲ってきた妖力の弾丸と雷を触手は容易く弾くがそれもまた計算の内だった。
その防御行動に移った際に出来た触手の隙間に潜り込む。
それを察したのか、触手が引き返そうとしたのが見なくとも判る。
だがその直後から次々と爆音と紅葉やセルトシェーレ達の声が聞こえる。
「・・・このっ!!私の志貴に近寄るな!!」「聞き捨てなりませんっ!!遠野君は私のものです!!」
「あ、あの御二方しっかりとした方が・・・」「心配は要らぬようじゃな。あれだけ口喧嘩しつつも完璧に行っておる・・・」
「全く何を勝手な事を言っているのかしら。兄さんは私だけのものなのよ」「鳳明殿にまた攻撃が来たわ」「じゃあそっちは、貴女が援護して頂戴」
「あ、間違えたわ。志貴だったわ」「兄さんになに手を出しているのよっ!!」
そんな口論に、俺と志貴は苦笑しつつも正面の触手を次々と叩き切って行く。
あれだけの口論をしているにも拘らず皆しっかりと行ってるようだ。
後方からは触手は一本たりとも俺や鳳明さんに肉薄していない。
そして本体に到着する寸前から一気に物の死に魔眼の力を上げ、微かに見える死点にまず俺が『七夜槍』で貫く。
しかし、奴には何も変化が無い。
「なに?なぜだ?死点は確実に貫いた」「なのにどうして死なないんだ?鳳明さん!!次は俺が」
俺はそう鳳明さんに向かって叫ぶと、ナイフを構え、まだ崩壊の傾向すら見えない奴目掛けて今度は線を一気に通す。
流石にこれには奴も上の部分が一気に削ぎ落とされた。
しかし、「なにっ!!」「志貴、避けろ!!」
その光景を見た俺は絶句した。
俺達は線を通して化物の上半分を叩き斬ったと思っていたがそうではなかった。
奴は先程の様に口をばっくりと開けると志貴を丸呑みにしようと迫ったのだ。
あれは斬ったのではなく、口を開けたに過ぎなかった。
俺は咄嗟に後方に飛び退り、志貴にも注意を促した。
しかし、志貴はまるで何かに魅入られた様に動かない。
俺も本能的に危険を感じて飛び退ろうとしたがその瞬間に目に入ったものに動けなくなった。
俺は尽かさず志貴を強引に戻そうとしたがその時、奴の口を開けた部分の一点に視線が集まってしまった。
それは・・・        そう・・・
奴の体内にある死の点・・・
俺は悟った。(そういうことか・・・)俺は納得した。(通りで・・・)
奴は体内に自らの真の死点を隠し、そして死線の一部を死点の様に偽装していた。
鳳明さんが突いたのが線の一部なら話しは判る。
―だとすれば奴を・・・―    ―殺す方法は一つだけ―     
                        ―尚且つ―        ―チャンスは一回―
      ―失敗は・・・―      ―すなわち・・・―
   ―俺の―          ―志貴の・・・―
                死を意味する・・・
志貴は俺を見た。
鳳明さんは俺を見て静かに頷いた。
記憶を・・・人生を、そして魂すらも一部分だけだが、共有しただけある。
互いに互いの考えが呆れるほどわかった。
(まかせろ)(お願いします)
その瞬間、志貴は化け物に地面ごと飲み込まれた。
後方からアルクェイド達の悲鳴が聞こえる。
その瞬間俺は見事に生きたまま奴の体内に取り込まれた。
中は二つの猛烈な臭いが充満していた。
一つは土の腐ったような臭い。
そして、血の臭い・・・
これは恐らくあの妖術師の死体を食った時の臭いに違いない。
周囲は真っ暗だがイメージで何となくわかる。
俺の周囲にある何百の牙が俺をズタズタに引き裂かんとじりじりと迫ってくる。
しかし、今の俺には点しか見えていない。
俺は志貴が飲み込まれたと同時に上空へと跳躍した。
表からの位置は大体判断がつくし、俺の眼にも今や奴の死点がはっきりと見える。
例え偽装していようとも、一度、真の死点を見てしまえばどれが本物か直ぐにわかる。
触手が俺を貫こうとするが、それらは至近距離から、放射した竜によってまとめて消し飛ぶ。
周囲に蠢く牙が余りにも五月蝿かった為に真紅の弾丸がまさしくマシンガンの様に唸り二、三十本を砕く。
既に鳳明さんはジャンプして『凶薙』を構え急降下している。
俺も『凶断』を手に点に狙いを定め飛び掛った。
俺と志貴は同時にお互い竜の飛翔を脳裏に浮かべたが。
しかし、俺は・・・竜の降臨する様を    俺は竜が天に昇る様子をイメージして・・・
その瞬間、俺と志貴は力で具現化された竜と一体化して同じ死点を内側・外側から同時に貫いた。
奴の触手の動きが全て止まった。
俺に間近まで迫った牙も蠢きを止め、中にはぼろぼろになって消滅する物も現れた。
化け物の体は今までの奴に比べて、ゆっくりだが確実に崩壊を始めている。
そして、今までの奴は死点を刺されてもまだ動くものもいたが、今回はそのような事は無い。
俺と鳳明さんとで、点を完膚なきまで壊したのだから当然と言えば当然と言える。
そして一分後、奴の姿は砂山となり俺はそんな砂山の上で立っていた。
「志貴・・・」誰かが俺の肩を叩く。
振り向くと俺とそっくりな男が穏やかな表情でこちらを見ている。
きっと俺も同じ表情だろう。
「何とかなったな・・・」「ええ」そう言うと俺と鳳明さんはくくくっと静かに笑い出した。
しかしそんな静かな空気も、直ぐに終わりを告げた。
「し〜き〜!!」「どわあああ!!ア、アルクェイド!!少し離れろ!力を抑えないと俺が廃人になる!!」
すざましいスピードで突進してきた天然吸血姫によって、あっと言う間にいつもの空気となってしまった。
さらに遅れて着いた先輩や秋葉達は、俺ごと殺す気かと言いたくなる位殺意を、俺に抱きつき猫の様にじゃれ付くアルクェイドに向けている。
アルクェイドと呼ばれた『真祖』に抱きつかれ四苦八苦している志貴を見て、俺に自然な笑みがこぼれた。
「ホウメイ」「七夜殿」「鳳明殿」「鳳明様・・・」「鳳明さん・・・」
懐かしきその声に振り返ると、そこには既に翠や珀達が安堵に満ちた表情で俺を見ている。
「・・・皆、心配かけた」俺の言葉に全員それぞれの表情を更に緩めて笑顔で俺を見ている。
いつもの喧騒にその身を置きながらも俺は心からの安らぎを感じていた。
それが俺にとって、これこそが日常なのだと嫌と言うほど納得できた瞬間だった。



余話
『魔殺武具』・・・人の持てる武具の中でも、
         人為的な法術を込められた『魔を退ける』武具ではなく
         自然に身につきし力で『魔を殺す』事に特化させた、武器・・・
                    (魔術教会著、『呪術辞書』より魔殺武具の項目から)

今現在、魔殺武具の数は極めて少ない。
その最大の要因は魔殺武具を生み出す鉱石、通称『魔殺鉱』の採掘場が確認されているだけで、
東欧州ポーランド・南米アルゼンチン、そして日本のみにしか無いと言う事であろう。
過去ポーランドは仏・独・露を始めとする列強諸国に幾度となく、国土分割の憂き目を見たが、その真の理由は、
この地にしか『魔殺鉱』を採掘できなかったこの一点のみである。
現に我が教会内でも保有されている魔殺武具は、わずか数点に留まりしかもそれら保存状態は極めて悪い。
(伝説ではかのイエス・キリストの腹部を貫いた『ロンギヌスの槍』は魔殺武具であった説もある事をここに付属しておく。
 しかしロンギヌスは失われてしまっている)
保存状態が劣悪の理由としては、『魔殺鉱』自体の硬度が鉄よりも脆く、また鉱石の有する魔力を使い果たしてしまうと、
その鉱石が『死に絶える』為、使い捨ての道具として扱われた事が最大の要因であろう。
また、魔殺武具はその特殊能力の割には教会を始めとする、退魔組織からは評価は低い。
その要因は、事実上魔殺武具は使い捨てられた事、そしてその特殊能力は教会・騎士団の保有する概念武装と比べても貧弱である事が挙げられる。
(銃火器の様に保有する魔力を発射する武具も存在するようだが、威力は微々たる物で、第一から最高位第七聖典の足元にも及ばない)
それゆえ、『魔殺武具は従であって主でない』、これこそが従来の魔殺武具の常識であり、あくまでも最後の切り札としての評価が高いだけであった。
しかし、最近になり我々のその評価を完全に覆す『魔殺武具』が突如として歴史の表舞台に姿を現した。
極東日本において死徒二十七祖第十位ネロ・カオス。
それに準ずる扱いを受けていた『アカシアの蛇』、ミハイル・ロア・バルダムヨォン。
我々埋葬機関をもってしても封印不可能とされた二人の死徒を滅ぼした伝説の『直死の魔眼』を保有すると言われる“殺人貴”が『マガタチ』・『マガナギ』と呼ばれる、魔殺武具を保有していると言う情報が第七位代行者『弓』より届けられた。
詳しい詳細は未だ不明であるが『弓』からの情報を信じるのならば、その二本の魔殺武具は聖典に匹敵する威力の魔力を放出が可能であり、更に武器としても最高水準に達していると言う事だ。
(しかし、『弓』は最小限の情報提出しか応じておらず、更に当の『弓』が“殺人貴”に篭絡されていると言う評判もある為公正な第三者の視線が必要と思われる)
さらに近年“殺人貴”が、かの真祖アルクェイド・ブリュンスタットと短時間であれば対等に渡り合える戦闘能力を保有している事も確認されており、
その身体能力・『マガタチ』・『マガナギ』と呼ばれる『魔殺武具』・更に『直死の魔眼』の保有者、
全てにおいて、“殺人貴”の存在がもはや無視出来ぬレベルに達しており、
教会としては“殺人貴”の洗脳処理を行い、代行者とする事により“殺人貴”の教会への影響の懸念を皆無とする事が急務であると結論つけざるを得ない。
(追記、先日入った最新情報では、“殺人貴”が存在すら不明であった第十三位『ワラキアの夜』をも葬り去った事も確認されており、
その際に教会、魔術教会、双方より指名手配を受けていたアトラス院の錬金術師、シオン・エルトラム・アトラシアもまた“殺人貴”が例の『魔殺武具』を保有している事を確認している。
我等としては、前記述の他に“殺人貴”の封印指定、最終的には断罪の執行、しかる後に『魔殺武具』の回収をも視野に入れなければならない事も追記しておく)
             (埋葬機関内極秘文書『魔殺武具』と“殺人貴”の処遇から)

『魔殺武具』、『マガタチ』・『マガナギ』・・・
この二本の『魔殺武具』は現在“殺人貴”の手中にある。
本来評価の低い筈の『魔殺武具』としては最高位の武器性能を誇り、
またそれを実際に目にしたブルーの話だと、外観すらも完成の域に達していると言う事である。
また特筆すべき事として、通常の『魔殺武具』では放出不可能である筈の魔力の放出をも可能としていると言う点であろう。
更にブルーが“殺人貴”から直接入手した情報では、その魔力の放出に関しては、魔術の様に呪文の詠唱ではなく、
持ち主の頭の中においてのイメージ通り、自由に具現化されると言う驚くべき事実が確認されている。
以下はその能力名である。

      『ファイア』・『発火』(『マガタチ』・『マガナギ』)
      イメージとしては燃焼、爆発。
     (この能力は“殺人貴”の話だとこの二本の基本能力であると言う)

     『降臨』(『マガナギ』)
     天から地に落ちる雷を思い浮かべる。

     『マシンガン』(『マガタチ』)
     機関銃の乱射をイメージする。
    (威力は弱いが、広範囲のカバーには適している)

    『五月雨』(『マガナギ』)
    弱く降り続ける、雨をイメージする
   (ロンドンの煙る様な霧雨を思い浮かべればよいであろう)。
    また、この能力の特徴としては攻撃よりも敵の追跡に適している。

   『ヘビーランス』(『マガタチ』)
   中世の騎士の所有していた投擲槍を思い浮かべれば良い。

   『暴風』(『マガナギ』)
   その名の通り、荒れ狂う風をイメージする。
  (『マガナギ』版『マシンガン』とでも言えば良いであろう。
    ただし、一撃一撃の破壊力は『暴風』の方が上である)

   『ニードル』(『マガタチ』)
   巨大な剣山、もしくは針の山を思い浮かべれば最適であろう。
  (ただし、この能力に関しては、直接地面、若しくは天井・壁に
   『マガタチ』を突き付けないと使用は不可能である)

  『散降臨』(『マガナギ』)
  積乱雲内の荒れ狂う雷を思い浮かべる。

  『メテオ』・『竜帝咆哮』(『マガタチ』・『マガナギ』)
  この二つが、それぞれの『魔殺武具』最強の発射系統の具現化能力とされる。
  『メテオ』は、隕石群の墜落を、『竜帝咆哮』は竜の天翔ける様を思い浮かべると言う。
  (信じがたい事だが、東洋では竜は神として崇められている)

  そして、突撃する能力もあり、それが
  『飛竜』(『マガタチ』・『マガナギ』)である。
  イメージとしては、竜の飛翔思い浮かべると言う、
  更に『飛竜』は水平に突撃するタイプと、
  地上から上空に飛翔する『昇竜』、
  逆に上空から地上に急降下する『降竜』、この三タイプに分けられる。

  以上が現在までで判明している『マガタチ』・『マガナギ』の能力である。
以上の点から、『マガタチ』・『マガナギ』、この二本の『魔殺武具』は我等魔術教会としても到底無視できる物ではなく、
教会に先んじて一刻も早い回収、及びその研究が急務であると考えられる。
(追記、尚この件に関して“殺人貴”への協力要請を協会内で唯一面識のあるブルーに依頼した所
「私がし・・・じゃなくて“殺人貴”から得られたのは、二本の『魔殺武具』の能力情報のみよ。
 それに彼に関しては私達は無暗に手を出さない方が賢明よ」
と、断られた事も追記する。
また穴蔵の錬金術師で一人“殺人貴”との接触を成功した者がいるとの未確認情報も存在しており、確認が進められている)
    (魔術協会内部報告書『『魔殺武具』『マガタチ』・『マガナギ』に関する調査報告書』から)

後書き
  書かせて貰いました(多分掟破りの)二話連続投稿。
  最初はそれほど余波を長くする気は無かったのですが、
  今回の余話の趣向上ここまで長くなってしまいました。
  また、五話の『凶断』『凶薙』の登場場面で
  「ああ、この場面の能力はこれか」と思ってもらえればありがたいです。
  さて、戦闘はこれで一旦終わりです。
  次はこの話の最大の山場である、七話、志貴と鳳明の対話です。
  戦闘が山場じゃあないのかと思われる方もいるかと思いますが、
  あくまでもこの『路空会合』は志貴と鳳明、二人の『直死の魔眼』の持ち主。
  彼らの事を書こうと思ったわけですので。
  終焉まで後もう少しです。それまでお付き合いを。


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