路空会合五話1


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1: 烈風601型 (2003/01/10 16:41:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

ふと目を覚ました時、まだ辺りは薄暗かった。
手探りで目覚し時計を手に取ると時刻は朝の四時少し過ぎ・・・
「・・・嘘だろ?」
いくらなんでも二日連続で、しかもまだ夜明け前に目を覚ますなんてどうかしている。
「理由は・・・あの夢かな?・・・それにしてもすごかった」
そう俺は今回も七夜鳳明の夢をはっきりと覚えていた。
そして、夢にも関わらず、俺の手には翠・珀と呼ばれた翡翠と琥珀さんに瓜二つの少女の感触をはっきりと覚えていた。
また・・・双子の純潔を俺が・・・いや、七夜鳳明が奪った時のあの興奮もはっきりと覚えている。
「でも・・・もう一つの方だよな・・・ここまで早く眼が覚めた理由は」
そう・・・『俺』の命がもうそんなに無いと言う事・・・それにショックを受けたから・・・
「ってちょっと待て。何で俺なんだ?長くないのは鳳明の方だろ?なのに・・・っ!!!」
そこまで呟いた時突然、嘔吐感に襲われた。
それこそ今すぐ吐いてもおかしくないほど強い・・・でも、これはどこかで・・・
「ま、まずい・・・このままだと本当に吐く」
俺は危険だと判断すると部屋を飛び出し文字通り三階から一階に飛び降りた。
着地の際すごい音が聞こえたが気にしていられない。
そのままトイレに駆け込むと、便器に顔を突っ込み
「うげぇぇぇぇ・・・・」口からそれを吐き出した。
涙眼で一しきり吐き出しようやく落ち着いてきたので、口でも濯ごうかと、立ち上がった時、便器の中を見た瞬間
「えっ?・・・こ、こんな馬鹿な・・・嘘だろ・・・」
俺は凍りついたまま同じ台詞を呟くしかなかった。
中には胃の内容物は何も無かった。
ただあったのは、墨の様に黒く染まった水だけ・・・
俺は震える手で唇に触れてみた。
ぬるりとした感触と共に、指先が黒く染まり、それを軽く舐めると・・・血特有の鉄の味がする・・・
誰の血?俺しかいない・・・
「は、はははは・・・じゃ、じゃあ・・・何か?・・・俺の命も・・・もう無いと言うのか・・・はははは・・・」
俺が狂った様に笑い出そうとした時、
「なに?何なの?今のすごい音?」「誰なのよ、人が気持ち良く寝ていたのに〜」
そんな声と共に誰か複数の人の気配がしてきた。
「まずい、皆起きてきた・・・」
何にまずいと思ったのかはわからなかったが、とにかく俺は便器の水を流し、口を濯ぎ、顔と手を洗い、タオルでふき取ると、
「ふぅ〜危なかった〜あれ皆?どうしたの?」
いつも通りの表情でいつもの様な口調を演じた。
俺の姿を確認した皆はというと、俺を凝視して絶句した様に見ている。
「??どうしたんだ?」「志貴・・・起きたの?」「おい待て、アルクェイドなんだそりゃ?まるで俺が目を覚ましちゃいけない様な口調だな」
「あっそ、そのごめん・・・」「??なんだ?随分とおとなしいな?」「それよりもどうしたんですか?遠野君、まだ・・・朝にもなっていないのに・・・」
「えっ、そうなんですか?翡翠今何時なんだ?」「まだ四時です・・・志貴様、もう暫くお眠りになられた方が・・・」
「あっちゃ〜そうなの?やばいな、すっかり目が冴えちまった・・・ち、ちょっと・・・俺夜明け前の散歩に行って来るよ・・・」
目が冴えているというのもあったが、それ以上に、今この気分を落ち着けたかった。
正直言って、今この状態で俺が何をしでかすのか?自分に自信がもてなかった。
「えっ?・・・ですが志貴さん・・・」「だ、大丈夫だよ琥珀さん。少しこの辺りをぶらつくだけだから」
「志貴さま・・・私もご一緒して・・・」「!!だ、駄目だっ!!!皆まだ休んでいてくれ!!・・・あっ・・・ご、ごめん・・・だ、大丈夫だから・・・さ、三十分くらいで戻るから・・・」
それだけ言うと俺は皆の視線を振り切るようにそのまま外に抜け出した。

「ふう・・・どうしたんだ?一体・・・あんな事でかっとなるなんて・・・」
まだ薄暗い道を俺は寝間着でぶらぶら歩いていた。
かすかに肌寒い夜明け前の空気を受けてようやく落ち着いてきた。
そして恐怖に駆られたためと言え、あそこまで声を荒げた事に反省していた。
「・・・この感覚・・・あの時に・・・ロアの時に似ている・・・でも・・・何か違う・・・」
そう、この感覚はあの事件の時体を乗っ取られそうになった時に酷似していた。
ただ何か違う・・・そんな事を漠然と考えてぶらついていると、何時の間にか森の中にある小さな池に立っていた。
「あれ?何でこんな所に?」
散歩にしては場所が離れすぎている。
おまけにどれだけ歩いたのか、振り返ると日が昇り始めている。
「さてと・・・早く帰らないとな・・・!!!」
慌てて帰ろうと池に背を向けた時だった。
後ろに人の気配と殺気を感じた俺は、咄嗟に距離をおいた。
周辺は照らされ始めているというのに・・・ここだけ夜のように暗い。
だがその池から、視線と殺気を感じる・・・どこだ・・・ああ、いた。
     ―誰かいる―            ―何者だ?―
           ―俺はナイフの刃を出すと身構える―
   ―俺は本能に従い七夜槍を取り出す―
                ―何者なのかはわからない―
  ―しかし目の前の奴は危険だと本能が伝える―
       ―でも直ぐには突っ込まない―
 ―当然だ、相手がわからない以上みだりに動くべきではない。
  ―でも・・・―      ―だが・・・―
      ―・・・一つわかる事がある。―
             ―確信はある―
         目の前の奴に下手をすれば殺される
  ―それは間違えようの無い確信―
              ―それは暗殺者としての本能が出した結論―
   ―しかし・・・何故奴は攻撃を仕掛けない?―
            ―どうしてあの男は動かない?―
 ―と言うよりも・・・どうして俺は―
                  ―何故俺には―
            あの男の考えている事がわかる?
―そんな事を考えると急に敵意が失せた。向こうも俺に対して殺意が無くなった様だ―
―奴が構えを解いた・・・俺に対しての警戒が消えたと言う事か・・・ありがたい―
      ”このままぶつかってはお互い無事に済みませんから。”
   ”その点には全面的に賛成する。お前ほど完成された暗殺者は見た事も無い”
     ”冗談はよせ。俺は一度も人を殺していない”
         ”そういう意味ではない。お前は俺に極めてよく似ている”
    ”・・・どういう意味だ?”
 ”お前には生まれながらにして、暗殺者の道しか用意されていない。俺のように”
   ”・・・・・・”       ”どうした?”
      ”・・・名は?”
               ”なに?”
  ”お前の名が知りたい”
       ”お前の名は?名を聞くからには名を名乗るのが礼儀だと思うが”
  ”それもそうか・・・俺の名は遠野・・・いや、七夜志貴”
          ”なに?・・・そうか・・・”
     ”貴方の名は?”
              ”俺の名は・・・七夜鳳明”
「えっ?」
俺が更に言葉を紡ごうとした時、
「あーーーっ!!!こんなところにいたーー!!志貴ぃーーー!!」
後ろからの絶叫に俺はぎょっとした。
見ると向こうでも、何かに驚いたように振り返ろうとしたがその途端、気配が消え池も明るく照らされだした。
まるで先程までの出来事が幻想だと言わんばかりに・・・
「もうっ!こんな所にいたの志貴!心配したんだから!」
そこにぷんぷんと言う擬音が相応しいアルクェイドが俺に近寄って来た。
「ああ・・・悪いな・・・で、どうしたんだ?」
「何言っているのよ!!志貴が出てからもう四時間も経つから探しに来たのよ!!」
思わぬアルクェイドの台詞に絶句した。
「えっ?何だって!」「もう朝の八時よ!!」
改めて見ると、確かに太陽はもうすっかり昇っている。
一体俺は何時間ここにいたんだ?
いやそれよりもあの池の人影は何だったんだ?
本当にあれは七夜鳳明だったのか?
「志貴・・・どうしちゃったの?」「えっ?どうしたって?」「なんか志貴昨日から、様子が変じゃない」
・・・俺が変?
すると、「そうですね。確か様子がおかしいですよ」
更に先輩も来た様だ。
「遠野君ここにいたんですか」「先輩・・・すみません」
「まあそれは良いですけど・・・本当にどうしちゃったんですか?いつもの遠野君らしくありませんよ」
「えっ・・・」「そうよねー最近の志貴って心ここに在らずって言うのが多いから」
その言葉に昨日のアルクェイドの台詞が甦った。
―七夜鳳明の魂が俺の中に―
その瞬間からだの震えが止まらなくなった。
なんで?夕べの先生の言葉で吹っ切った筈じゃあなかったのか?
なのになんで体の震えが止まらない?
何故?何故?何故?何故?何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故
「志貴!!」「!!!っ・・・」
アルクェイドの言葉にはっと我に帰った。
「志貴本当に・・・大丈夫なの?」
「・・・ご、ごめんな少し取り乱しちまって・・・」
「さあ、帰りましょう、遠野君。琥珀さん達も待っていますから」
「そうね。それにお客も待っているから」
「客?一体誰が??」「それは帰ってから自分で確かめたら?」
そう言いながら俺はアルクェイドと先輩の三人で別荘に戻っていった。

後書き
 五話の1いかがでしたでしょうか?
 ちなみに、今回在りました思考と会話?は志貴→鳳明?→志貴・・・となります。
 次回であらかじめ予告しましたオリジナル武器を登場させます。
 かといって無論ナイフを捨てると言う訳でないですから安心を。


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