空と月の死期〜陸章・月の襲撃〜


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1: 舞姫ますたー (2002/12/29 02:04:00)

純白を知っているか?

恐怖を知っているか?

知りたければソイツに会えばいい。

知りたければソイツと戦えばいい。

嫌と言うほど教えてくれるさ。

ソイツは地球上で、最もソレらを司るに相応しい存在だ。

純白の、

恐怖の、

姫君。

アルクェイド・ブリュンスタッド

彼女に会えばいい。

彼女と戦えばいい。

或るモノと引き換えに

彼女は教えてくれる。

純白という色を。

純粋な恐怖を。

代償は、そう一つでいい。

命というたった一つで。
















「アルクェイド・・・・ブリュンスタッドだと!?」

橙子は、いや彼女が彼女だと確認でき得る範囲を越えたその顔は、

本人かすら怪しいが、恐怖の表情を浮かべた。

それほどまでに私は彼女のその表情が信じられない。

・・・・恐怖という感情が、彼女にもあったのか。

純粋にそう思った。

「久しぶり。そして・・・・・・さようなら、橙色の人形師」

音はない。

姿もない。

ただ残るのは結果。

橙子の背後にあった窓の硝子が割れている。

そう、それだけだ

そして、少し遅れて自分の耳に「ガシャン」という色気も何もない硝子の割れる音が入った。

橙子と金髪の女は居ない。

どういうことかと理解する前に私は殺気に気付き、正面を向いた。

もちろん長い間、目を離していたわけではない。

一瞬という表現が適当だろう。

それぐらい僅かの間、私はもう一人の女から目を逸らしていた。

しかし彼女にとって、その一瞬という時は長すぎた。

視界に入るのはたたずむ女性ではなく、

一陣の疾風。

私の視界にはソレだけが在った。

色は判断できない。

その他に表現できない。

ただ『風』としか思えない、一つのモノ。

ソレが向かってきた。

風切り音は聞こえない。

いや、いまだ届いていないだけかもしれない。

それ程に疾い一つのモノ。

私はとっさに構えたナイフを振るう。

ザンッ!

と音がして、いやそれが叶うなら音はしなかったかもしれないが、

とにかくソレは斬り裂かれるはずだった。

だがナイフが皮膚に触れるか否か、その刹那。

『風』は激しさを増した。

実際に何があったのかは判断できないが、これも結果だけは解る。

私の手にはナイフが握られておらず、私は吹き飛ばされた。

先ほどできた窓の大穴から、雪の積もる中庭へ、私は平行に宙を移動する。

(やばい!)

最悪の状況だ。

理解でき得るの中で良いことは何もない。

当て身をくらわせられて、倒れこむ幹也と鮮花。

それを0コンマ何秒というスピードで為し、追撃してくる『風』。

このままいけば確実に太い木の幹に当たる自分の体。

(ちぃ! 先ずは自分の状況をどうにかしないと・・)

見たところ気絶しているだけの幹也と鮮花は後で助けるとして、

この状況の打破を考えないと・・・・

着地はできない。

着地後の体勢を立て直す僅かの時間で『風』は私を捕らえる。

かと言ってこのまま木に激突するというのはもっての外だ。

(ならば!)

私は今まさに衝突しようとする自分の体を入れ替え、

自分の全脚力を以って木を蹴る!

膝を曲げ、衝突のダメージを多少なりとも軽減し、同時に力をその足に集中する。

ギシギシと足の軋む音が聞こえたが、精神力で痛みを押さえ込んだ。

「はっ!」

掛け声と共に力を解放し、前進する力に変えると、『風』に向かい突進する。

「!?」

すれ違いざまに蹴りを放つ。

流石にこれは予測できなかったのか、『風』は避ける事叶わず、吹っ飛んだ。

しかしながら飛んだ距離は微小だし、方向は屋敷だ。

幹也たちの所へは向かえない。

辺りを見渡すと、本当に個人の家か疑いたくなるぐらい広大な林が広がっている。

・・・・姿を少し隠すか。

遮蔽物が多い林の中ではあの動きはできないだろうし、

自分のケガも応急処置できる。

もしかしたら、運がよければ橙子に会えるかもしれない。

人二人分の足跡が雑木林の中へと続いている。

相手がどんな奴だろうと、あの女が負けることはないだろう。

サポートがあればあいつも何とかできる。

(よし・・)

私は先ほど吹き飛ばした『風』、いや青髪の女を警戒しながら林の中へと足を踏み入れた。

その時、私は確実にどこかおかしかったのだろう。

大事なことを失念していた。

確かに『普段』なら橙子がやられる事はない。

だが彼女が浮かべた表情はなんだった?

『恐怖』という感情は、強者と理解不能なモノのみに向けられる感情ではなかったのか?

確かに自分の身を隠すのに林という条件は最適だ。

だが同時に敵に隠れる場所も与えるのではないか?

スナイパーにとってそれはただの好条件ではないのか?

ああ、そうだ。

今考えればバカらしい。

その判断全てが、その甘い思考全てが、

私らしくなかったのだ。









月は誤解を含み、空に襲い掛かった。

ソレは吉なのか凶なのか、今は解らない。

だが確実に、死期は近い・・・・



















【アトガキ】
ちわ、舞姫ますたーです。
いやあ、自分にしては少し早い更新でした。
・・・・少しね、少し。
うーん・・・・語るべきことはたくさんあるのですが、
取り敢えず、寝ます。
おやすみー
感想くれると嬉しいなー


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