路空会合三話8


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1: 烈風601型 (2002/10/24 17:18:00)[kouji-sugi at mtj.biglobe.ne.jp]

「・・・ふうっ、しかしまた厄介な依頼がきたものだ」
「鳳明さん、あのような死体物の怪が作れると思いますか?」
「さあな・・・そいつは判らぬが、俺達とて異界の全てを知り尽くしていると言う訳ではない。あのような事を行う事の出来る奴が現れてもおかしくはあるまい」
「はい・・・」「そうですね・・・」
謁見の間を辞し宮廷を出る途中、俺は翠・珀とその様な事を話し合いながら牛車に戻ろうとしていた。
すでに周囲は夕闇に包まれ、夜が完全に辺りを支配しようとしていた。
「まあいい、安部殿が退治してくれればそれで良し、手におえぬ相手ならば改めて俺達が動けばいい・・・で、翠・珀お前達今宵の・・・というか今回の滞在中何処に宿をとる気だ?」
「そう言えば・・・姉様、逗留先は何処なの?私は何も聞いていないけど」
「・・・あ、あはは〜」
珀は視線をあらぬ方向に彷徨わせている。
「・・・姉様、忘れたのね・・・」
そんな珀に翠は厳しい視線を向ける。
「ご、ごめんね翠ちゃん」「ふふっ、そう言えば珀、お前あの時からそうだったな。用意周到なのに肝心な所で失敗するのは特にあの時のままだ」
「あーーーっ!!鳳明さんひどすぎます!」「姉様、鳳明様の仰る通りです。」
「翠ちゃんまで〜」「はははっ、・・・まあ、それはさておき、どうだ?今回は俺の屋敷で逗留すると言うのは?」
「えっ?」「で、ですが・・・」「そんなに遠慮するな、衝もいるから」
「衝の小父様も?」「じゃあ、行こうよ翠ちゃん、それに鳳明さんとも一緒にいられるから」「あっ・・・」
何故か知らないが翠の頬が赤く紅潮してしまった。
「翠?どうした?体調が悪いのか?」
俺がその額に手を当てようとすると、
「!!い、いえ、大丈夫です!!・・・そ、それよりも・・・お願いします・・・鳳明ちゃん」
翠は体を紅くさせたまま、そう言った。
「??・・・それなら話は決まったな・・・それなら・・・ん?」
「どうかしましたか?あらあの子は・・・」「はい・・・」
話が決まったところで歩き出そうとした時俺たちの前方に見覚えのある、少年がこちらをじっと見ながら佇んでいた。
「??確か・・・貴殿は・・・紫晃殿だったか?」
俺が内心首を傾げながらも紫晃に近付くと、彼は一礼して
「これは七夜殿、はい私は陰陽師見習いの紫晃と申します」
「そうか・・・?貴殿もしや女か?」
ふと俺は紫晃の声に違和感を感じた。
確かに紫晃は髪を短くし見た目は少年の様に見えるが注意深く見ると、顔つきや佇まいの所々に女性特有の空気を纏っていた。
「!!」
俺に指摘された紫晃は驚いたようだったが、
「は、はい・・・よくお解かりに・・・」
「なに、仕事柄他者を用心深く観察するのに慣れているだけだ・・・それよりも紫晃殿何か?」
「はい・・・先刻は師が失礼極まりない口を・・・申し訳ありませんでした。ですが、師は陰陽師の仕事にほこりを・・・」
「ああ、その事か・・・別に構わんさ。彼には彼の事情があった。それだけの事だからな。それにそれほど根に持っている訳ではない」
「そうですか・・・そう言って貰いますと私も気が楽になります」
「それで、当の省晴殿は?」「はい、師はただいま、除霊儀式の準備の最中です」
「貴女は手伝わなくても良いのか?」「い、いえとんでもありません。私の腕では師に迷惑を掛けてしまいますし、それに私がここにいますのも師に皆さんが自分の儀式の邪魔をしない様に見張りを・・・」
「そうか・・・惜しい事を・・・」「は?」「いや、なんでもない・・・安心しろ紫晃殿、俺達は邪魔をする気は・・・」
その時だった、
「ぎゃああああああああ!!!」
すざましい絶叫が響いてきた。
「!!正門か・・・」
そう呟くと俺は、何事か理解出来ていない翠達をその場に置いて一人で走り出していた。

正門についた俺の第一声はこれだった。
「なんだ・・・これは?」
すでに周囲には、布となめし皮のよろいを身に着けた皮膚が周囲に散乱している。
省晴はそれに向かって呪術をぶつけ、護衛の兵士が槍を突き立ててくる。
しかしそれは、何の苦も無く攻撃を受け止め、じわじわと間合いを詰めていく。
それをなんと表現すれば良いだろうか?
それはたとえるなら並みの家屋ほどの大きさの鞠だった。
苔の様な毒々しい緑の色をして同じ色のざわざわと蠢く触手を無数に出している。
そしてその触手の内の一本が護衛の兵士を捕らえた。
「ひぃぃぃぃぃぃ!!た、たす・・・」
其の次の言葉を彼は継げる事は出来なかった。
その哀れな兵士の体が瞬く間に、平らに萎み始めたのだ。
眼球は体の奥に引っ込み、口から突き出した舌は硬直したまま飲み込まれるように口だったものの中に消えていく。
ほんの数刻で、生者が皮膚だけの死体と化したのだ。
それはまさに悪夢だった。
その触手はそれを捨てると、新たな獲物を捕らえようとする。
しかしそれ以上に異常な事はあの化け物の後ろで起こっていた。
二つの人影が攻撃を仕掛けているのだ。
その人影は自分たちに襲い掛かってくる触手を一つは触れる前に、もう一つは何か長いもので瞬く間に切断していた。
しかし、触手は瞬く間に再生し容易に近付く事が出来ない様だった。
どうにか近付き攻撃を加えても、本体の傷もたちまち治ってしまう。
また、あの二つの人影は互いに協力し合っていると言う訳では無さそうだ。
その証拠に二つの人影は互いに連携をせず、自分勝手に攻撃を仕掛けている。
しかし、その戦闘力は脅威そのものだ、到底人の領域では無い。
「・・・魔の者か?」
俺が呟いた時、
「ひぃぃぃ!!」「助けてくれぇぇーー!」「は、離せーー!!」
無数の悲鳴が俺の意識を覚醒させた。省晴を含め、全員が遂に触手に捕らえられたのだ。
咄嗟に俺は七夜槍を構えると、力を解放し、化け物に突撃を開始した。
襲い掛かってくる触手の死線を俺は寸分の狂い無く、断ち切り、本体に肉薄する。
そして、死点を貫こうとした時俺は愕然とした。
(点が・・・線すら・・・無い?)
そう、その本体には線も点も存在していなかった。
(馬鹿な・・・何故線も点を存在しない?)
俺は一瞬躊躇した。
そしてそれは化け物には十分な時間だった。
俺に斬られた触手が再生し、俺を包囲しようとしていたのだ。
「ちい!!」
俺は自分の迂闊さに舌打ちすると、触手を薙ぎ払うように切り裂くと、一旦、攻撃範囲から退避した。
と、そこに、「鳳明様!!」「鳳明さん!!」「七夜殿これは一体??ああ!!お師匠!!」
遅れていた翠達がようやくついた様だ。
「鳳明様?!これは一体・・・」「多分・・・いや、ほぼ間違いなく今回の事件の大本だなあれは」
「くっ・・・お師匠を・・・放せぇ!!」
不意に紫晃が呪符と思われる紙を無数放ち、口の中で何かを唱え始めた。
その途端、呪符が腹部だけ膨れ上がったやせ細った小人に変貌しあの化け物に襲い掛かった。
「餓鬼か・・・」
俺は呆然として呟いた。
餓鬼を式神として使役できる陰陽師などそう多くは無いと言うのに・・・
餓鬼式神は、触手にまず喰らいつき、触手を引きちぎりながら、本体に肉薄しようとするが、そこまでの様だった。
触手が次々と餓鬼式神を捕らえ、瞬く間にただの紙切れとしてしまった。
「ちっあれにとっては、何でもかんでも食事になるようだな」
俺は思わず毒ずく。
しかしそうこうしている内に捕らえられた人達が遂に、
「ああああぁぁぁぁぁ・・・」「うぇぇぇぇぇ・・・」「おがぁぁぁぁ・・・」
次々と皮膚のみに変貌し打ち捨てられる。
そして、最後に残された省晴も、「ぎゃぁぁぁぁぁぁ・・・・」
皮膚と化しごみの様に捨てられていった。
そして、化け物が次に俺達に狙いを定めた様にじりじりと近づく。
しかし俺はそんな中で奇妙に冷静になっていた。
(この段階で見えぬとすれば・・・試すか・・・)
俺は静かに目を閉じると、力を更なる高みに上げた。
俺の予測は的中した。目を開けると、本体に点と線がありありと見えたのだ。
「やはりな・・・奴の大本は物か・・・見えぬはずだ・・・お前達はここにいろ。こいつは俺が始末する」
そう呟くと、俺は再び奴に突撃を掛けた。
触手は俺をいい獲物と見たのだろう、触手が一斉に襲い掛かってきた。
「鳳明様!!」「鳳明さん!!」
翠と珀の悲鳴が聞こえた。
だが俺は、再び触手を薙ぎ払いながら本体に肉薄すると、今度はなにも躊躇い無く、化け物をまっ二つに両断した。
更に止めとばかりに、二つになった化け物の死点を間髪入れず貫くと、その瞬間砂となり、消滅してしまった。
俺が一息つき力を押えようとした時上空から気配を感じた。咄嗟に俺は本能の赴くまま跳躍し屋根に飛び乗った。
「・・・信じれぬ・・・鷲の創った芸術品がこんなにも容易く・・・」
屋根で相対している筈の何かが、うめく様に呟いた。
微かな月明かりだけでは判別できないが、どうも老人のようだ。
「芸術品??・・・なるほどな、あんなはた迷惑な怪物の親玉は爺、貴様か・・・自分のとった行動に対しての責任をとる覚悟はあるんだろうな?」
「くくくっ・・・鷲を何処の誰か知っておるのか?」
人を小馬鹿にした尊大な口調に
「さあな・・・死ぬ奴の事を知ってもしょうがねえだろう・・・さて・・・死ぬ前のおしゃべりには満足したか?」
「いやいや、まだ行わなくては成らぬ事があるゆえこれにて失礼しよう。・・・とそうじゃった。お主の名を聞いておこうか?」
「・・・七夜鳳明・・・七夜の当主だ」
しかし俺の名を聞くと奴は驚いた様に、
「!!なんと!この様な所で『死の眼』を持つ『凶夜』と会うとは!!」
「・・・貴様それを何処で聞いた?そいつもついでに吐いて貰おうか?」
「分が悪すぎるわ。さらばじゃ」
「まちやが・・・ぐっ」
俺が追おうとした瞬間、突如前方から生暖かい突風が俺の行動を制限してしまい、収まった時にはすでに誰も居なかった。


恒例後書き
    やっと書けました、戦闘場面。
    かなり、拙いと思いますけど、我慢して読んで見て下さい。
    志貴の方は・・・もう少し時間掛かりそうです。
    何しろ、この話は戦闘が主では在りませんから・・・
    これで第三話終了です。
    次は間章の意味合いもある四話です。
    それと、今回出てきた餓鬼式神これも創りですので、『こんなの無いぞ』という苦情は止めて下さい。
    あくまでも物語ですから気楽に考えましょう。


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