空の怪奇シリーズ 第1話【青い血の女】


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1: ししりい (2002/05/24 23:13:00)[yurikamome6 at hotmail.com]

 
 昭和43年のある昼下がり。聞こえるのは事務所備え付けのラジオが流す
余り好きじゃない流行歌。

「黒桐、仕事だ」
「今、やっている最中ですよ」
 トンッ、と 煙草の灰を落とす。そして僕の雇用主はフフッと笑いながら
「言い直そう。黒桐、君にとても似合いの仕事だ」

 そして見せられたのは二日前の大衆新聞。仕事用の机に広げられたソレに載っ
ていたのはよくある話。 
 街で起こった殺人事件。それも男女間の痴話喧嘩の末・・・
   
    ――――の、筈だった――――


   
     ≪ 空の怪奇シリーズ 第1話【青い血の女】 ≫




「この記事が何か?」
 いまいち燈子さんの意図が掴めない。どうせろくな事では無いだろうけど。
「この痴話喧嘩の末の殺人って奴だがな、容疑者の女は無罪だ」
 そう言いきる燈子さん。
「・・・真犯人を探せと?実は三角関係のもう一人が犯人とかですか?」
 やれやれと首を横に振ると、
「まさか、そんな在り来たりのオチじゃないさ」
「勿体つけないで教えてくださいよ。」

「簡潔に言うとな。男を殺したのは『人形』だよ」


  容疑者 『鬼島啓子(きしまけいこ)』
 なんでも今回捕まったこの女性の祖父は『鬼島竹彦』。かつて燈子さんが世に
出るずっと以前、不世出の人形師と詠われた人物だそうだ。
 彼の手による人形達は戦争のドサクサで全て消失してしまい、その後、彼が
手掛けた仕事は無かったと聞いていたらしい。

「私はな、鬼島の作品をずっと探していたのだよ。」
 燈子さんが言うには、しつこく付きまとっていた男から容疑者の女性を護る様
に鬼島は自らの人形に命じていた為に起きた事件だという。


  ――――― しかしその考えは間違いだった――――


 式と一緒に調査を開始した僕が見たのは自宅で皆殺しにされた『鬼島啓子』の家族。
「・・・誰がこんなことを?」
「これをやったのは人間じゃないな」
 式の推測が正しいとしたら例の人形が命じられていたのは鬼島啓子を護る事で
はなく
         
    ―――――殺す事だった?―――



 二日後、鬼島老人の居場所を突き止めた僕等は燈子さんと妹の鮮花と合流。
 体制を立て直し、鬼島老人の屋敷へ向かった。

 そして姿を現す殺人人形。燈子さんは捕獲を主張するが
「こいつは手加減できるシロモノじゃないぜ。見るだけで諦めろ、燈子。」
 ナイフを取り出す式の眼が青く光る。そして殺人人形との死闘。

 
「―――! 何だこれは?無粋な、あまりにも愚かな仕事ではないか!」
 式によって破壊された人形の残骸を見て、失望の余り怒りを露にする燈子さん。
 ゼンマイや歯車で造られたソレは希代の人形師から見ればあまりにも無様な代
物だったのだろう。


 ――――だが、その失望すらも裏切られる事になる―――


 屋敷の中で鬼島老人は、あの殺人人形によって既に殺されていたのだ。
「どういう事なのですか?燈子師」
「・・・どうなっているんだ?じゃあ誰が何の為に殺人人形に命じていたんだ」
 その時何かの気配に式が気が付いた
「おい、この部屋になにかいるぜ!」

 カサ、カサ、カサ・・・微かに聞こえる音の方角には子供仕様のベッドがあった。
        
         ―――そこにいたのは―――

「!?何だ、こいつ?」
「キャ―ッッ!!」
 ソレを見た瞬間、絶句する式。僕にしがみ付く鮮花。そして
「バ・・バカな!人形、だと?これがか!ふざけるな鬼島!貴様は何を造った!?」
 初めて目の当たりにする不世出の人形師鬼島のその業に驚愕する燈子さん。

『コロサナキャ、コロサナキャ、オジイチャンヲ ウラギッタ アノヒトタチヲ
コロサナキャ・・・・』
 高く乾いた声。ソレは僕等が見守る中、起き出した。
『ワタハモモウオトナヨ。オジイチャンカラドクリツシテ クラシタクナッタノ。
ダカラ、ワタシハワタシヲ コロサナキャ コロサナキャ コロサナキャ』


 そして『アレ』は屋根から自ら身を投げた。・・・僕等の目の前で。
 家族から見放された鬼島老人が寂しさを紛らわす為に造ったであろう『アレ』は
最後まで鬼島老人に忠実だった。
 老人の願いのまま、孤独な老人を省みる事をしなかった家族を殺し、
       そして『自分』まで・・・・コロシタ


 後味の悪い事件だった。僕にとっても、誰にとっても・・・

「コイツ・・・何だったんだ?」
 式が遣り切れない思いを込めて呟く。
 足元に転がってる『アレ』は青い血を流しながらもう動かなかった。
「人形だったのですか?それとも人間―――?」
「――― 分からん。もはや確かめ様もない」
 問い掛ける鮮花に、そう吐き捨てる希代の人形師。
 
「人形でもない、そして人間でもない・・・」 
 きっと世の中が分からなくなってくると全て『アレ』になるんだろうな。

「 青い血の女 か―――」



  

        
           【あとがき】

 ちゃんちゃ〜ちゃちゃららっちゃっちゃっちゃんっ♪ ギャ〜ッ!!
 
 これもクロスオーバーになるんでしょうか?怪奇の世界と空の世界を合わせて
みたらどんなだろうと思いまして・・・
 元ネタは分かる人には分かりますよね。(笑)もうマンマですから。
 舞台は昭和43年。携帯もインターネットも無い。日本が戦後復興を遂げ得体
の知れないエネルギーが人間を衝き動かしていた混沌の時代です。
 CD化記念という事で・・・・


 BGM 「怪奇大作戦ED 恐怖の町」


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