例えばこんな遠野家が――「仮面の復讐騎?編」


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1: ししりい (2002/05/13 21:50:00)[yurikamome6 at hotmail.com]

      例えばこんな遠野家が――「仮面の復讐騎?編」


 朝、いつもと同じ時間。コンコンッと部屋をノックする音が聞こえる。
「志貴さま、失礼します」
 一礼するのはメイド服を着た少女、翡翠。
 
 俺を起こしに来た翡翠は行儀よくお辞儀をするとそのまま俺の枕元に
「志貴さま、起きてください」
・・・・・返事が無い。
「志貴さま、起床のお時間ですよ」
・・・・・やはり起きる気配が無い。
 ふう、と溜息をつくとその綺麗な顔を志貴の顔の間近までちかづき
そして耳元で――――――
「志貴ちゃんッ!起きろ〜〜〜ッッ!!!!!」
「!? っっ?!!」
 これには流石に目が覚めた・・・ 翡翠はというと先ほどの暴挙を微塵も感じさせ
ない毅然とした佇まいで控えている
「おはようございます、志貴さま。秋葉様がお待ちですよ」
「あ、おはよう翡翠ちゃん」
毎朝起こしてもらっているとはいえ、流石にこの起こし方はな〜
そんな俺を翡翠はニヤソと口元で笑っていた。
「あのさ、もう少しやり様ってのがあるだろ?」
「あら、何言ってるのよ。朝の忙しい時に要らない手間をかけさせる志貴ちゃんが悪
いんだからね〜♪」
 そうなんだ。目覚ましの類が一切きかない俺の為に翡翠はわざわざ時間を割いてくれ
ているのだ、が、・・・しかしな〜、この性格はなんとかなんないかな?
 
 ちなみに以前、翡翠の双子のお姉さんの琥珀ちゃんに起こしてくれるよう頼んで見たら
大人しい性格の娘だから無下に起こす事も出来ず延々と俺が自然に目を覚ますまで
『志貴ちゃんおはようございます―――志貴ちゃんおはようございます―――志貴』
のエンドレス。翡翠ちゃんはそれ見た事かと大笑いしてくれた・・・

「着替えはこちらに用意してございますので。では、失礼します」
 バタンッ。と、一分の隙の無い動作で下がる翡翠。いつもながら見事な変わり身に
感心しながら着替えを終えドアを開けると
「よお、兄弟。おはようさん」
 何故かドアの前には遠野家の長男で俺の悪友である四季がいた。
「ああ、おはよう四季。で、お前、人の部屋の前で何やってんだよ?」
 すると馴れ馴れしく俺の肩を抱きながら四季は
「待ってやってたのに連れないな〜、一緒に育った俺とお前の仲じゃないか」
「・・・・秋葉が怖いのか?」
 ギクっとする四季。本当の兄妹である筈の四季と秋葉は洒落にならないくらい仲が
悪い。まあ、正確には秋葉が一方的に敵意、いや殺意を抱いているんだが・・・
「―――怖い、マジであいつ俺の命を狙ってるぜ?なあ、お前だって分かるだろ」
 真剣な顔で俺に助けを求める、が
「ああ、分かる。でも自業自得ってのも事実だと思うが?」
 うう〜、と反論できなくなる四季。そう、全てこいつが悪い。その事に関しては俺も
翡翠ちゃんも琥珀ちゃんも同意見だった。
 
 秋葉は今年の3月までこの屋敷に居なかった。期間にしてざっと8年、秋葉は次期当主
の英才教育とかで海外留学と同時に社交界の顔見せとやらも余儀なくされていた。
 ――――それも全てこの四季という馬鹿兄貴のせいでだ。
 
 事の起こりは8年前。幼い頃から社会不適合の毛があった四季は当主としての習い事や
ら何やらを一切放棄しては俺や秋葉、この屋敷の執事の娘である双子の姉妹と日がな一日
遊んでいた。そんな事が続いたある日の事。親父が四季に
『お前は遠野家の次期当主になる気は無いのか?』
と聞くと四季は『うんっ♪』即答した
 親父は度量が広く、子供の意見を尊重する人間だったがこの時は判断を誤った。
『じゃあ、秋葉。お前が四季の代わりに当主になるかい?』
 子供ながらに賢かった秋葉はこう答えた
『あ、あのね。志貴お兄ちゃんといつも一緒だったら頑張れると思うの』
『そうか、秋葉は偉いな』
『うんっ、』
 もともと俺の本当の親父とは旧友で、天蓋孤独になった俺を引き取った時には既に
秋葉と一緒にさせる事を考えていたらしい親父はここでも秋葉の意見を『尊重』した。

 そしてその結果、秋葉は四季の代わりに次期当主としての責務を負う事となり秋葉は一人
この家を出る事になった―――――その時の秋葉や翡翠達が別れたくないと泣いて嫌がり、
それとは対称的な晴れ晴れとした表情の四季という光景は今でも胸が痛む。
 ・・・て言うかアタマが痛い
 
 最初の数年はそれでも年に何度か会えたものの、ここ数年は会う事も出来なくなり―――

 ―――――そして秋葉は帰って来た。しかも現当主としての実権を握って。
 余談だが、それと入れ替わりになぜか親父の姿が屋敷から消えた。逃げたんだか仕事にかこ
つけて追い出されたのかは定かではないが・・・・

 とりあえず食う物も食わない訳には学校にも行けないので食堂に向かう俺達。
「あら、志貴ちゃん。それに四季くん、おはようございます」
 丁度、調理室から遠野家の食を司る琥珀ちゃんが出てきた。翡翠とは違い控えめな笑顔、物
腰の柔らかい動作と口調が和服に実にマッチしている。
「おはよう、琥珀ちゃん」
「おっす! あ、琥珀、ちょっと・・・」
 琥珀を手招きする四季
「なあ、今、食堂に秋葉の奴いるかい?」
「ええ、先ほどからお二人をお待ちですよ」
 あっちゃ〜。と情けない顔をして俺に助けを求める大親友。それを見かねた琥珀は
「あ、ちょっと待っててくださいね」
 パタパタと調理室に戻り、しばらくすると何か包みを持って戻って来た。
「はい、お握りを包んでおきましたからどうぞ」
 と四季に手渡すと
「ありがて〜♪恩に切るぜ琥珀」
 へへ〜 と、包みを頭上に掲げ、命の恩人の如く受け取りながらアタマを下げる四季
「じゃ、先に学校行ってるから秋葉の事よろしくな〜、志貴」
 気楽に言ってくれるよ。俺だって仲が良いとは言いきれないってのに
 
 全然あの頃から変わってない俺達・・・・・それなのに――――
「――――秋葉は変わったよな」
 つい口に出してしまう俺の本音。それを聞いていた琥珀は『あら』と、微笑みながら
「そんな事はありませんよ?秋葉さまは昔のままの秋葉ちゃんです」
 と、自信満万でそう断言する。
「・・・そうなの?」
「はい、そうですとも。私から見てあの頃の秋葉ちゃんとなんらかわりはありませんもの」 
 
 琥珀ちゃんは昔から『何か』がズレているからどの辺を見てその言葉が出てくるのかが理
解出来ないけど、まあ言いたい事は良く分かっているつもりだ。―――多分。
「じゃ、俺の分の朝飯、頼むよ」
「はい、すぐにお持ちします。その間、秋葉ちゃんのお相手を、ね?」
 ・・・この人が気を効かせると大抵は裏目に出る気が。さて、俺と秋葉のどっちに気
を使う気なのかね〜?・・・・

 ガチャ、とドアを開けると無闇に広い食堂には秋葉が一人でお茶を飲んでいた。
「おはよう、秋葉」
「おはようございます、兄さん。」
 毅然とした態度の秋葉。入ってきたのが俺だけだと気付き
「あら、四季はどうしました?」
「ああ、アイツは弓塚さんと約束があるとかで先に行ったよ」
 実の兄を呼び捨てる辺り二人の関係が伺えるな。ちなみに弓塚さんとは四季が中学の頃
から付き合っているバイタリティー溢れるツインテールが可愛い娘だ。
 「そうですか。さあ、兄さん、席に着いてください」
 其処には触れないが、四季と朝から顔を突き合わさないでいられた為、機嫌は良いと見た
「そうだ、秋葉――――――」
「もう、私はそんなこと・・・・」
 いつに無く話が弾む。しかし、なかなか食事が来ない。つまりはここに琥珀ちゃんは気を遣
っている訳だ・・・・ 腹減ったな〜。 
 
 「秋葉さま、そろそろお時間ですが?」
 翡翠が通学の時間が来た事を知らせに来た。秋葉は飛び級で大学課程まで全て修めていたが
帰国子女なのでこれから過ごす日本の環境に慣れる為に車で1時間もかかるお嬢様学校に通って
いた。
 「分かりました、翡翠。それでは兄さん、行ってきますね」
 「ああ、また後でな?」
 『はい』、と答えた秋葉の表情は見えなかったが何故か昔の秋葉と重なった気がした。

 長い正門までの道。翡翠が鞄をもって秋葉に付き従う様に歩いていく。
「ねえ、翡翠お姉ちゃん。」
 上目遣いに翡翠をみるのは先ほどの毅然とした秋葉とは別人のような秋葉 
「どうしたの?秋葉ちゃん」
 こちらも使用人ではなく「おねえちゃん」の顔になっている
「私、志貴おにいちゃんに嫌われてないかな?」
 一番大切な、甘えたい筈の人に素直になれないもどかしさ。翡翠は胸が締めつけられる想
いを感じた。失われた8年。四季との確執はこの本来は素直な少女からどれほどの奪ってい
ったのか。
「それに、私に合わせるために翡翠お姉ちゃんも琥珀お姉ちゃんも通ってた学校を辞めちゃ
って、おまけに使用人の真似までして、それで・・・」
 自分を本当の家族とも思う少女。そんな秋葉の頭を翡翠は優しくなでる。8年前と同じ様に
「も〜、そんなの気にする事無いのに。」
「でも・・・」
「槙久おじさんのたっての頼みだったし、それ相応の給金はバッチリもらってるしね。それに――」
「それに?」
「私も、琥珀姉さんもこの家のみんなが好きなんだから。結構楽しいんでやってるわよ?」
 『ね?』と、翡翠。一瞬、キョトンとするが直に笑顔に戻り、『うん』っと頷く秋葉。
「じゃあ、いってくるわ」
「はい、いってらっしゃいませ」
 
 ―――――ちょうどその頃
「琥珀ちゃん〜、俺の朝飯まだ〜?」
 わざとじゃないし、忘れていたわけでも無いんだろうけど、そこでの一言
「あら?もう秋葉ちゃんはお出かけですか?」
 


   【あとがき】
 ダークから離れてほのぼのを書きたくなりまして・・・
 実は「仮面の復讐騎」とリンクしてたりしますが・・・・。

 無垢を思わせる白月  アルクェイド=ブリュンスタッド
 狂気が浮かぶ赤月   朱い月のブリュンスタッド
 癒しの蒼い月     アルトルージュ=ブリュンスタッド

BGM  [フルメタルパニック-OP] 下川みくに-TOMORROW


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