空と月の死期〜序章〜


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1: 舞姫ますたー (2002/03/15 01:12:00)[akiko28@tcn−catv.ne.jp]

空と月の死期〜序章〜


「黒桐、仕事だ」

昨日の夜、燈子さんにそう言われ、僕は調べ物をしていた。

頼まれたのは、遠野という家について、解る範囲で全て。

家族構成から過去、現在、とにかく解る事は全部、だそうだ。

「まったく、うちの所長は人使いが荒いんだから」

などとぼやきつつ、結局調べている僕も僕だろう。

すっかり燈子さん専用の探偵となっている。

しかも無償で・・・・

「はあ・・・」

こっちは二人分の生活費を稼がなきゃいけないっていうのに。

・・・・あれから一年の月日が流れていた。

この一年、それほど変化があったわけではないが、一つだけ、

式が一緒に住むようになった。

お互いのアパートを行き来しているうちにそうなったのだ。

もちろん鮮花には内緒で。

それでも、式と僕はそのままだった。

式は相変わらず男言葉だし、 深い関係にもなっていない。

まあ、しばらくはこれでいいかなんて思っている。

時間はたっぷりあるのだし・・・


調べ物を済ませ、燈子さんの事務所の前まで来た。

と、誰かが事務所から降りて来た。

僕の知らない人だ。

その人は燈子さんと同じ、青髪に眼鏡をかけていた。

すれ違う時、その女性はにっこりと微笑んで会釈をした。

それは挨拶を返すのを忘れるぐらい、優しい微笑だった。

「うーん、燈子さんにも見習わせたいな」

「誰に見習わせたいって?黒桐」

「うわぁっ!・・・・いたんですか燈子さん」

気づかなかったけど、燈子さんは事務所から降りて来て、外にいた。

「いたよ。さっき来た客の見送りに来たところだ」

「珍しいですね、所長が見送りなんて」

燈子さんの性格から考えると、こんなことは稀だろう。

たとえ大会社の社長でも見送りなんてしないだろうに。

「ああ、正確に言うと『見張り』だ。結界が壊されてはたまらんからな」

「壊すって、さっきの人がですか?」

とてもそんな人には見えなかったけど、

燈子さんの知り合いなら見た目を信じるのは止そう。

「黒桐、今なんか失礼なこと考えなかったか」

「いえ、なにも」

この人はエスパーか魔法使いだろうか?

時々こっちの考えを読んでくる。

・・・・よく考えればばうちの所長は魔術師だった。

「そうか、ならばいい。  

 それよりあいつには気をつけろ。  

 あいつの前で奇怪な行動はとるなよ。  

 異端憑きで始末されるぞ」

「あの人はエクソシストかなんかですか?」

「そんな生易しいもんじゃないが、まあいい。  

 それより頼んだ仕事はできたか?」

燈子さんはそれまでの話題を変え、仕事の話をした。 

その続きに興味はあったが、

また長くなりそうなのでこちらも聞かないことにする。

「まあ、表の顔は何とか」

僕は表の顔という言葉を強調して言った。

「ほう、裏の顔があるとでも?」

燈子さんは真顔で聞き返してくる。

そうなのだ、この遠野という家は何か胡散臭い。

「はい、おそらく」

「ではそれを聞かせてもらおう。  

 そうだな、とりあえず上がるか」

「はい」

僕と燈子さんはこの廃ビルみたいな仕事場を上がって行く。 

いつも通りの日常だ。

でも次の日からしばらく僕、黒桐幹也はこの日常を失うこととなった。


青い髪の女性は町の喧騒の中を歩いていた。

何か独り言を言っているようだった。

「まずいですね、まさかこんな近くに封印指定の魔術師がいるとは。  

 しかも、あのオレンジ色の人形師ですか・・・・  
 
 でも大丈夫でしょう。以外に友好的でしたし、  
 
 魔術師は基本的には、自分のテリトリーを荒らされなければ、  

 手を出してきませんし・・・・  

 聞いてますか、アルクェイド?  

 そういうことで彼女には手出し無用です」

彼女は虚空に向かって言う。

そこには誰もいないように思えたが、そのはるか頭上、

ビルの頂点には金髪の女性がたたずんでいた。

「わかってるわよ。私もそれほど馬鹿ではないわ。  

 ただ、もし志貴に危害を加えるようなことがあれば、  

 そのときは容赦しない」

その女性は周囲の空気を振るわせるほどの殺気を放っていた。

それはまさに純白の吸血姫、アルクェイドと、

埋葬機関の弓、シエルだった。

空と月。

交わる筈の無い、しかし似かよった二つの物語が今、交わろうといていた。                                                       



                            続く・・・・


ういっす、舞姫ますたーです。
どうでしたか?今回の物語。自分では結構良さげです。
何話になるかわかりませんが、最後までお付き合いいただけると幸いです。
ではまた一章で。


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