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 いつものように、面白がってツンツン突付くような真似をして、と琥珀を見
て志貴は、言葉尻を半疑問形にしてしまった。
 琥珀はいたって真面目な顔で、答えを伺うという表情をしている。

「だから、自分で処理をしていたよ」
「はあ……」

 反応が鈍い。
 言葉の使い方がまずかったかな、でも琥珀さん察しがいいし、などと志貴が
考えていると、ようやく琥珀の反応が変わった。
 琥珀はわかったという顔をしている。

「ああ、志貴さん、自慰行為をなさっていたんですか?」
「なさっていたんですよ」

 どうも、会話の調子がおかしいなと志貴は内心頭を捻る。
 なんだか急に琥珀との間にクッションが挟まったような感覚。

「まあ、隠しても仕方ないけど。琥珀さんの事考えて我慢できなくなったりし
たら、自分の手でね。
 琥珀さんの体とか、した事とか思い出して……、何度かしました」

 かえって冗談めかして「それはもう琥珀さん、俺の頭の中でとんでもない格
好をしたり、とても言葉では言えないような事を」云々と言った方が志貴とし
ては楽だった。
 でも、どうにもそういう軽く話をする雰囲気が、今の二人の間に無い。
 幾分顔を赤らめた琥珀の反応が、どうにも志貴には違和感を与えていた。

「琥珀さんはしたりしなかったの? 独りでいる時にさ」

 うわ、恋人とはいえ女の子相手にとんでもない質問。
 いったい自分は何を訊ねているのだ、自分でも訳がわからないと志貴は心で
呟く。
 しかし、琥珀は明るく応対するでも怒るでもなく、ただ黙っていた。
 なんだか当惑しているけど、と志貴は琥珀の顔を見つめた。
 ためらって、そして琥珀は答えた。

「しなかったですけど……」
「そうか」

 少し志貴は寂しくなった。
 男と女とは違うからなと思いつつも、残念とでもいうべき思いは志貴の顔に
出ていた。
 琥珀さんは俺の事想い出して切なくなったりしなかったんだな、と小さく呟
いてみたり。
 俺なんか立て続けにしてもおさまらない事もあったのに、とこれはさすがに
口にしない。
 そんな志貴の様子に、琥珀は申し訳なさそうな顔をする。

「あの、志貴さん。志貴さんの事は毎日想い出していましたし、寂しくてこの
まま志貴さんの処に帰ろうかなって何度も思ったりもしてました。
 自分で決めた事とは言え、ちょっぴり後悔していたんです」
「え……、そうなのか」
「そうなんですよ。でもですね、あの、わたし……」

 琥珀は口ごもった。
 志貴は言葉を待った。
 微妙な間を空けて、ようやく琥珀はぽつりと言葉を紡ぐ。

「わたし、した事がないんです」
「何を?」
「だから、自分で……、じ……、一人遊びをです」

 穏やかな表現に言い換えて、恥ずかしそうに志貴を見る琥珀の目。
 志貴は、一瞬、琥珀の言葉を理解できなかった。
 そしてようやく頭で消化して、目を見開く。

「え……。嘘、嘘でしょ?」
「本当です。こんな事で嘘ついても仕方ないでしょう」
「まあ、そうだけど。でも、信じられない。だって琥珀さん……」

 言いかけて、志貴ははっとして言葉を発せずに殺した。
 何を言い出すとしても、非情にまずい事を言い出しそうだったから。
 琥珀は、それを読んで、笑みを浮かべた。
 明るい暖かい笑みではない。
 幾分濁った暗い笑顔。

「不思議ですよね」
「……」
「でも、本当なんです。もちろん、やり方はよく知っていますよ、ええ」
「そう……」

 ぎゅっと、琥珀は志貴の胸に自分の顔を押し付けた。
 そして囁くように言葉を口にする。

「わたしはですね、ちゃんと人並みに性欲というものはありますし、好きな人
に愛してもらえればきちんと気持ち良くなって感じるんです。志貴さんはよく
ご存知ですよね?」
「うん」
「でも、何と言いますかね、性衝動というものがほとんど無いんです。多分先
天的にではなくて後天的なものですね」
「よくわからない」

 思わず志貴は口を挟んだ。
 琥珀が少し顔の向きを変える。
 目が合った。
 いつもの琥珀に近い表情なのが志貴をほっとさせた。

「ちょっと的確な表現ではないかも知れませんけど、わたしは火を点けて貰え
ば燃えるのですけど、自分ではすぐに燃やす事のできる火種を持っていないん
です」
「……つまり、俺から琥珀さんを求めれば応じるし、そうすればいつもの琥珀
さんみたいに感じてくれるけど、自分からはしたくなったりはしないって事か
な?」
「はい、そういう事です」
「なんで……」
「やめませんか。寝物語としてはあまりそぐわないと思いますけど……」
「ううん、話してよ。琥珀さんさえよかったら、知っておきたい」
「そう仰るのなら。……子供の頃の話は省略させて貰いますね。
長じて受身でなくていろいろな手管を覚えて、体も否応なく慣れて。
 でも、心は拒み続けたんです。自分がしている事も、体の反応としての快感
も。自分からその手の行為や快楽を求める事も」

 痛みや苦しみを拒絶して人形になろうとした琥珀さんには、体に起こる他の
あたりまえの感覚は敵だったのだろうか、志貴は考えた。
 一方の感覚だけを感じない、それは矛盾だったから。

「でも、志貴さんがわたしを人形ではなくしてしまいました。魔法みたいに、
わたしを変えてしまって。
 わたし志貴さんの事が好きです、愛されたいと思います。
 でもそれは、志貴さんの暖かい手や、優しい笑顔、志貴さんが愛してくれて
生まれる体と心の喜びが嬉しいのであって、それを切り離して快楽を求めてい
るのかと言うと少し違うと思うんです。
 だから、一人でいる時に、自分の手で気持ち良くなるような行為をって事は
考えませんし、そんな真似は出来ないんです」
「そうか……」

 自分がそんなたいした事をしただろうか、と志貴には疑問だった。
 それを上目遣いにしてちらりと見て琥珀は言葉を続けた。

「交合の最中に、自分で胸や性器を弄る事はありますが、それはそれを見る男
の人を楽しませたり、あるいは自分以外の手によって高められたから行ってい
るんですよ」
「琥珀さん、俺とするのは嫌じゃないの?」
「もちろんです。志貴さんに抱かれて、初めて、わたしはこれが気持ちいい行
為なんだって、心も体も納得できたんですよ」

 そう、と僅かに視線を外しつつも志貴は気恥かしそうにしていた。
 琥珀は、その志貴を優しい目で見ていた。
 志貴の手がゆっくりと琥珀を抱き締め、琥珀もまたさらに志貴に身を摺り寄
せた。



                 ◇



「琥珀さん、お願いがあるんだ」

 何日か後、また二人の時を持った志貴からのお願い。
 琥珀はいつもと違い、一瞬動きを止めて、それから何でしょうかと訊ねた。

「自分でしてるのを見せて欲しい」
「……」

 ああ、やっぱりと内心琥珀は呟く。
 そんな事を要求される気がしていた。

「なんでですか?」
「うん、何とは無くと言うか。今なら琥珀さんも自分で感じられるんじゃない
かって思ってさ。それに琥珀さんの初めてなら見てみたいしね。ダメかな?」
「そんなの見て楽しいですか?」
「楽しい、と思う」
「せっかく二人きりで、いろいろとしてあげられるのに、ただ見ている方がい
いのですか?」
「ただ、見てるだけじゃないよ」
「え?」

 志貴は答えず、琥珀には読み取れぬ笑みを浮かべる。
 何か意図がありそうだと気づいたが、琥珀は黙って頷いた。

「わかりました。志貴さんが喜んでくれるなら、してみましょう」
「ありがとう。ごめんね、変なお願い事して」
「いいですよ」

 琥珀は躊躇ったのが嘘のように、身に纏ったものを一枚一枚脱いでいった。
 もともと志貴と甘い一時を過ごす為に志貴の部屋に来たのだし、口で言うほ
ど嫌がっている訳では無い。
 それに志貴の意図もなんとはなくわかっていた。
 おそらくこれも志貴なりに自分の持つ傷痕を癒そうとする行為なのだろうと。
 効果の程は不明だったが、それはそれでいいと琥珀は思った。

 それと、ただ見たいからというのも志貴さんの本当なんでしょうね、とも琥
珀は内心呟く。
 じっと、露わになる肌に見入っている志貴の視線。
 何度か見ないで下さいと言ったものの、志貴が脱衣の様を余さず見ようとす
るのは止まなかった。
 琥珀にしてみれば、ただ裸になった姿を見られるより恥ずかしいのだが、一
方でその賞賛と喜びを露わにする志貴の表情は、喜びでもあった。

「ちょっと待っててね」

 琥珀が一糸纏わぬ姿になると、志貴は手早く着ているものを脱ぎ始めた。
 随分と気の早い事、と琥珀はちょっと違和感を感じる。
 
「ベッドに上がって」
「はい……」

 琥珀は素直に従い、ベッドの片端に腰を下ろした。
 女の子座りで、腿はぴたりと合わせている。
 胸も片手で隠し、いつもよりもずっと恥ずかしげな表情。

「ええと……」

 戸惑った声を上げる。
 琥珀にしては珍しい表情。

「とりあえず、琥珀さんの綺麗な処を見せてよ」
「……はい」

 指示を受けて、どこかほっとしたように志貴の言葉に従う。
 ぴたりと閉じた腿がずれていく。
 志貴の視線を感じながら、ゆっくりと琥珀は脚を開き、隠された部分を晒す。
 胸を覆っていた手も下へとずらす。

「うん、綺麗だよ、琥珀さん」

 偽り無い賞賛の言葉。
 惚れ惚れとした表情。

 志貴の目が琥珀の胸、脚、そしてひそやかに息づく秘処を舐める。
 柔らかい白い胸。
 口に含まれ吸われるのを待つ薄桃色の乳首。
 すべすべの肌触りの腿。

 そして、視線を受けて琥珀はさらに心持ち脚を広げる。
 羞恥を示しつつも、男の欲求を自然に受ける習性故にか。
 肌色の唇は腿の動きによって既に開いている。
 中から、艶やかな桃色と紅とが顔を覗かせている。 
 志貴の目に、少しひくつく。
 
「手で触れてみて」

 志貴の声におずおずと琥珀の指が、まだ迎える用意の無い自らの性器に伸び
る。
 軽く、人差し指の先が潜る。
 爪の先が肉の重なる谷間へと沈む。
 そのまま、ゆっくりと上下に指が動く。
 ほとんど抵抗が無さそうに滑らかに。

「中を見せてよ」
「はい」

 両手の指を谷間を作る柔肉にあてる。
 志貴の視線を痛いほど感じながら、琥珀はそれを左右に広げる。
 薄く切れ目を入れた果実を割るように、中の様が開かれ露わになる。
 周りの白い色の皮とはまるで違う、紅と桃色で彩られた熟した実の部分が。

 志貴が息を呑む。
 何度も見た処だった。
 今琥珀にさせたように自分で広げてもっと至近距離で観察したこともあるし、
指や舌で存分に探ったこともある。
 でも、何度見ても琥珀の女の子は溜息が出るほど綺麗で、それでいて淫靡だ
った。
 特に今は、羞恥に頬を染めつつ、自分の為に自らの細指で奥の尿道口の窪み
やぴらぴらとした花弁のような小陰唇までを曝け出しているのは、頭がおかし
くなるほどいやらしく興奮を誘う眺めだった。

 少し潤みかけた目で琥珀が志貴を見た。
 志貴は無言。
 しかし、琥珀は頷き、僅かに視線を落とす。
 小指と親指が粘膜を曝け出したまま、人差し指と中指がためらいがちに動き
始めた。
 指の腹でわずかに触れるように動く。
 粘膜のそこかしこを。
 薄桃色の花弁の先を。
 その中心たる処の縁を。

 恐々と触れるだけのそよ風のような動き。
 異性の性器に触れる時の手馴れた、絶妙なる動きとはまるでレベルの違う稚
拙さ。
 だが、志貴は黙って見ていた。
 琥珀に自分でさせる事に意味があったから。

 それに、これはこれで興奮を誘う眺めだった。
 それぞれの指が独立して動くのでなく、拙く動いているのも。
 大胆に花弁を掻き分けるのでなく、周辺をさ迷っているのも。
 膣口より深くじゅぽじゅぽと水音を響かせながら出し入れするのでなく、穴
を覗き込むのすら怖がっているのも。
 快感を生み出す陰核を指でくりくりと刺激するどころか、僅かに触れて逃げ
出してしまうのも。

 どこか初々しい様子が、かえって情欲につながった。
 まだ性行為はおろかくちづけすらしらぬ少女が、どこで知ったのか一人遊び
をこっそりと行っているのを、陰から覗いているような……。
 琥珀のいつもの濃艶なる姿は頭に強く残っているが、そう見える。
 もっとも、志貴自身の要望によって、ほとんど未経験の自慰行為を行ってい
るのは確かであったが。

 しかし、まだ緊張し感じるまでには到っていなかったのだろう。
 琥珀の体は、快楽を得ている兆しはなく、指に新たに触れるものはない。
 それでも、少しだけ指が大胆になった。
 わずかに膣口を探り、強弱の動きをつけていく。
 それは、志貴を少し強く惹きつけた。

「あっ」

 少し近づいた志貴の動きに、半ばつぶられていた琥珀の目が開く。
 驚いたようにそれを見つめる。
 隆々と大きく屹立した志貴のペニスが目に入る。

 志貴の手が幹を握ってゆっくりと上下に動かした。
 強くしごく動きではないが、皮が引きつり、充分な摩擦を生じさせている。

「志貴さん、何を……?」
「一緒にしよう。琥珀さんも、俺の見てよ」

 言われなくても、琥珀には目が離せなかった。
 何度も手で触れ、口に含み、そして秘裂に挿入したペニス。
 その熱さも、硬さも、触れている時の脈打つ強さも知っている。
 先から腺液を滴らせててらてらと光らせている時の味も、鼻をつく、それで
いて魅惑的な匂いも知っている。
 でも、それでもドキドキとする。
 さっきまではまだ小さかったものが、恐らくは自分を見ただけで、こんなに
破裂しそうに漲っているのを見るのは、琥珀には恥ずかしい事だった。
 でも、目を離すことが出来なかった。

 初めてではない。
 琥珀にとって志貴がそうやって自ら、ペニスを手で弄んでいるのを見るのは。
 でも、それは志貴が、口や秘裂やお尻で終局を迎える寸前にペニスを引き抜
いて、方向を定める時の事であった。
 志貴が琥珀の膣内や口での抽送の果てにそのまま射精するのではなく、あえ
て外に出すのを望んだ時に、あるいは琥珀が志貴に自分に熱いものをかけてと
ねだったりした時にそれは行われた。
 最後の一押しとして、志貴が自分でビクビクと震えるペニスをしごき、琥珀
の胸に、顔に、開けた口に向って精液を激しく撒き散らす。
 その馴染みの志貴のフィニッシュに付随する動きしか、琥珀は見たことが無
かった。

 今のように、肌を合わせてもいない志貴が、手をペニスにあてている様は、
普段からは考えられないほど淫靡に感じられた。

 膝で立っていた志貴は、琥珀の方を向いたまま、少し後ろに下がり、そのま
ま胡座をかいた。
 股間からは、正面の琥珀を威圧するような屹立。

「続けてよ」
「はい」

 離していた指をまた、秘裂に沈ませようとして……。

「えっ?」

                                      《つづく》