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「わかったよ。じゃあ先輩、すまないけど秋葉を頼む」
 短いけれど心のこもった言葉。
 頭を下げる志貴に、シエルはこちらも優しい笑みをちらりと浮かべる。
 後ろで秋葉が嬉しそうな、あるいは恥ずかしそうな表情をしている様子がシ
エルには容易に想像できた。
 まかせて下さいとシエルは答え、それでもまだ「いいのかな」と後ろ髪を引
かれている志貴を送り出した。

 くるりと笑顔のまま秋葉を振り返る。
 シエルの想像通り、志貴が心配してくれているという事実に、秋葉はどこか
幸せそうな表情をしていた。
 いいですね、と皮肉でなくシエルは呟いた。
 はい、とこちらも素直に秋葉も答える。
 志貴などが見たら、微かに違和感を覚える雰囲気がそこにあった。
 いつもの対立する雰囲気どころか、和やかな仲間意識すら漂うような空気。

 シエルは既に着替えを済ませていた。
 半乾きのショーツとブルマーを再び穿いて、スカートを身に付けると、体操
服を脱いで制服のブラウスを着て終わり、と実に簡潔な流れだった。
 お家でゆっくり体は綺麗にしますから、と眺めていた志貴には答えたシエル
であった。本当は、体操服の上から制服も着てしまえば楽なんですけどね、と
悪戯っぽく笑いもした。

 あいにく体操服は、胸の辺りをくしゃくしゃにして、なおかつぐっしょりと
濡れて離れてもわかる程の精臭を放っていた。
 秋葉を休ませた後、志貴のペニスを清めるという名目で、シエルは体操服の
上から柔らかい胸の谷間に志貴を挟み込み、結局最後には顔まで飛び散るほど
激しく射精を誘うまでむにゅむにゅとパイズリを続けたのだった。

「きつすぎましたか、秋葉さん?」
「いえ、大丈夫です」

 大きめの着せ替え人形か、マネキンでも相手にするように、シエルは秋葉の
着替えを手伝うと言うより主体的に行っていた。
 あらかじめ用意してあった替えの下着をつけさせ、制服を着せていく。
 自分のものとは違うセーラー服を物珍しそうに見ながら。

「ふふ、まだぽーっとしてますよ。気に入ったようですね」
「……はい」

 シエルは秋葉の乱れた長い黒髪を梳いてやりながら会話を続けた。

「学校の中、知っている人がいっぱいいる中での、禁断の行為に感じてしまっ
たんですね」
「……」

 恥ずかしそうに秋葉は返事をしないが、その顔は否定をしていない。

「わたしはこういうのぞくぞくしますよ。別に露出趣味は無いつもりですけど、
放課後で部活動をしている外の声が聞こえて、もしかしたらこの扉を開けられ
てとんでもない処を見られてしまうんじゃないかって思うと……」

 うっとりとした顔。
 秋葉はそれを肯定とも否定ともつかぬ目で見ていた。

「それに今日は、秋葉さんが隠れて見ていると思うと、凄くぞくぞくしてしま
いました」
「私も、あんな縛られて、シエルさんの見ている前で兄さんに……、恥ずかし
いほど感じて……、何を言っているんだろう、私」

 少し二人は黙る。
 ただ、シエルの手が動き、やがて止まった。
 そして、会話を再開したのはやはりシエルだった。

「学校は、わたしと秋葉さんのテリトリーなんです」
「テリトリー?」

 唐突な話の転換に秋葉は戸惑った。
 前に回ったシエルの顔を、眉毛を寄せた顔で見つめる。

「はい。学校の外、例えば秋葉さんのお屋敷だと競争相手がいますけど、ここ
は二人だけ。私と秋葉さんだけしかいないんです。」

 にこりと笑ってシエルは秋葉が言葉を理解するのを待ち、そして続けた。

「ならば、二人で仲違いをして、せっかくの機会を潰しあうのは愚かだと思い
ませんか」
「そうですね」

 考え深げに秋葉は頷く。

「確かに、ここには琥珀達もさすがにやって来ないし」
「あのあーぱー猫も姿を見せません」

 シエルも頷く。

「考えて下さい、平日なら一日の三分の一ほどは、ここで過ごしているんです
から、有効活用すればどれだけ実りがあると思います?」
「ああ、うん、そうね」
「もちろん、授業をサボってなんて真似は出来ませんけどね、まあ、遠野くん
が倒れて保健室に行ったなんて知ったら、思わず心配のあまり駆けつけてしま
うかもしれませんけど」
「保健室……」

 意味ありげなシエルの言葉に、何を想像したのか、頬を染める秋葉。
 それを見てシエルは少し艶かしい笑みを向ける。

「知ってますか、学校って意外と普段は誰もいない空間ってあちこちにあるん
ですよ。ここもそうですけど、保健室、図書室、屋上、空き教室、校舎と校舎
の陰、生徒会室……」
「放課後の教室なんてのもありますね、私の教室、兄さんの教室」
「はい。そんな処で遠野くんに愛されるのはは素敵ですよ。いつ誰が来るかわ
からないというスリル、なんとも言えない背徳感。
 そのエッセンスの甘美さは秋葉さんも今日味わった訳ですけど。
 一度と言わずいろんな場所で何回も堪能してみたくはありませんか?」

 さっきまでの和やかな雰囲気に今は共犯者めいた親密さが増している。

「いいですね、それは」
「ご賛同頂けて嬉しいですよ」

 同時に頷き合う。
 何かが二人の間で調印されたとでも言うかのように。

「でも、自分だけでとは思わなかったのですか」
「思わなくもありませんけどね。でも、さっきも言ったように、仲良くと言わ
ないまでも、敵対してせっかくの機会を潰しあわない程度の関係を築いた方が
良いかなって思ったんです。お互いに有益な関係の方が建設的でしょう?」
「そうですね、学校の中だけの限定なら」
「それで結構ですよ。交替でも何でも構いませんしね。それに、私達が頑張れ
ば、アルクェイド達への遠野くんの傾斜は小さくなりますよ、確実にね」
「そうね。でも兄さんは学校内でなんていいのかしら……」
「嫌がるわけがありません。だって初めに懇願したのは遠野くんですから。
 それとですね、すぐにとは言いませんけどわたしと仲良くするのに抵抗が薄
れたら、バリエーションを広げる為に二人で遠野くんを……、というのも考え
てみて下さい。
 二人で遠野くんに可愛がってもらったり、苛めてもらったり。今度は秋葉さ
んがお兄さんとわたしを苛めてみたり、それとも二人で一緒に遠野くんを、と
いうのも楽しそう……。
 茶道室でなら、かなり騒いでも大丈夫ですし。もちろん、同性と肌を合わせ
るのは嫌だ、あくまでお一人でと仰るなら、それを尊重いたしますけどね」
「そういて抵抗はありません。それに何事も経験ですから……」
「良い心がけです。やっぱり今日お誘いして正解でした」

 艶然とシエルは微笑み、秋葉も艶のある表情で応じる。
 
「さてと、話はおしまいです。そろそろ行きましょうか、秋葉さん」
「はい、シエル先輩」

 幾分かの親しみを込めた声。
 あるいは共犯者としての連帯感か。
 珍しい呼び名にちょっと驚いたように、秋葉を見るシエル。
 しかしこちらも形だけではない笑顔で頷く。

 そして二人は体育倉庫から出て歩き始めた。
 肩を並べて。
 二人が愛する志貴が待っている処へと。

                                      《FIN》






―――あとがき
 
 わりと捻りなく、お題の素敵な絵に素直に添う形で書いてみました。
 いや、もっと素直になると鬼畜バリバリな志貴になってしまうのかもしれま
せんが、そーいうのは書けませんので、へなちょこな方向で。

 しかし、体育倉庫ですよ。
 素敵なインモラル体験の場。
 いくらでもえろな方向へ行けるなと思ってみたのですが、意外と難易度が高
くて苦労しました。
 秋葉orシエル先輩ならいろいろバリエーション考えられそうなのですが、
二人とも使ってとなると、かなり難問でした。 
 どうも個人的に、バイブとかの道具使うの何とも好みでなくて、なんだか書
いてて上滑りしている感じです。せっかくだから目一杯使ってみましたけど。

 体操服の裾は外程度のこだわりはありますけどブルマー属性乏しくて、表現
が控えめですね、なんだか申し訳ない気が……。
 
 長めのお話ですが、お読みいただきありがとうございます。

   by しにを(2002/10/03)