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 かんのんさま

                                 阿羅本 景


 
 明かりの弱いホテルの廊下を、志貴は歩いていた。
 絨毯は柔らかく、廊下に並ぶドアの列は沈黙の中で佇んでいる。
 このホテルは志貴の記憶に刻み込まれて忘れようもない。この廊下が、天井
まで血に染まった事があるなどと……そっと志貴はその壁に指を触れる。

 つ、と触った指が湿り、血が――その指先にまとわりついている。
 志貴は指先を暗い瞳で見つめる。指にまとわりついた黒い影を翳すと、白熱
灯の弱い光の中でこびりついた影は消え去り、己の指先がぼうと浮かぶ。

 ……いったい何を俺は神経質になっているのか、と志貴は思う。足は止まり、
壁をじっと見つめている。このホテルはあの日の……ネロ・カオスの惨劇以来、
経営は続けているものの泊まる客も希だと志貴は聞いていた。

 そんなホテルに、志貴は居た。
 
「これとあれとは関係ない……だろうが……」

 コートのポケットの中に手を入れると、志貴は綺麗な透き模様のある封筒を
取り上げ、渋い顔をしながら便箋を引き出した。
 
 三つ折りの便箋を開くと、志貴は目を下ろした。こうやってこの便箋を見つ
めるのは何度目になるのかもう覚えていない。封筒と便箋には差出人がなく、
消印は隣の県の郵便局だった。「気味が悪いお手紙ですけど……お読みになり
ますか?」と琥珀が差し出したこの封書の中には、綺麗な筆跡で薄様の便箋に
こう短く書き込まれていた。

 今日、この夜、このホテルに来てほしいと。
 そうすれば、俺を楽しませてくれると――

 誰の、なんの為の手紙か?さっぱり分からなかった。
 こんな気味の悪い手紙を受け取って、そのまま信じておびき寄せられるの
は愚かな気はした。だが、誰が志貴をねらっているというのだろうか?

 もしかして誘拐?とは思わなくもない志貴であったが……それであれば秋葉
の方が誘拐のターゲットになるはずである。もっとも秋葉を誘拐すればした方
も無事では済まないのであろうが。

 いたずらか?と思いながらも志貴は夜中に屋敷を抜け出て、ホテルに来てい
た。
 無視しても良かったが、ただ……興味はあった。好奇心は猫を殺すという、
だが志貴にはどうしても、この目で確かめたかった。

「……ふぅ」

 志貴は腕時計でちらりと時間を確かめると。便箋を封筒に仕舞う。
 そしてポケットの中に押し込めながら、部屋番号のプレートを読みながら歩
く。一つ一つ番号は志貴の探している番号に近づいて行き、そして最後には…


 志貴は足を止め、ドアに向き直る。
 この部屋に、何が待ちかまえているのか……

 志貴は軽く深呼吸をすると、手を胸ポケットの中に忍ばせる。
 これを使いたくないが、いざとなれば……ナイフを使うことも辞さない。こ
うして胸に金属の塊を抱いているだけで安心感があり、その存在が志貴の精神
安定剤となっていた。

 ナイフのグリップから手を離すと、志貴は拳でドアをたたく

「……来たぞ」
「……入ってください。ロックは解除してありますから」

 女性の声が、ドア越しにくぐもって聞こえる。
 ドアに耳を付けるようにして聞いていた志貴だったが、その声には聞き覚え
はあった。だがそれは志貴にとっては意外の念を掻き立てるものでしかなかった。

 志貴はドアを見つめながら、しばし逡巡する。
 ……なぜ、どうして彼女が、俺を深夜に呼び出すのだ?
 わからない。

「……どうしたんですか?志貴さん」

 中から促す声がする。
 そして、うめき声も……この声の主以外に、誰か居るのか。

 志貴は胸ポケットに手を入れたまま、心中のドアノブを掴む。
 言葉通りに鍵は掛かっていなかった。ゆっくりとドアを開いていくと、クロー
クとバスルームの間の通路があり、奥から指す光が通路の床に明暗の境界線を
描いている。そして志貴の目よりも耳に入ったのが……
 
「ん……ああ……はぁ……ちゃぷぅ……」

 湿った淫らな水音と、憂いを宿した甘い声。
 その微かな息を聞いて、もう一人居るのが誰か志貴は察した。
 なぜ、こんな組み合わせがこのホテルに夜分遅く居て、俺を呼び寄せたのだ
ろうか?

 わからない。

「……俺を呼んだのは、キミだったのか……アキラちゃん」

 志貴は戸口に立ったまま、硬い顔で尋ねた。
 答えはなかった。ただその代わりに、唇がくちゅりくちゅりを何かを舐める
音が聞こえるつづける。志貴は後ろ手にドアを閉めた。

 そして、一歩、一歩とゆっくりと通路を進んでいく。
 奥にはベッドのある寝室があり、そこから明かりが差している。志貴はその
影の中に隠れるように、足音を殺して歩き続ける。

「……アキラちゃん?」
「はっ……ぅ……そうです、志貴さんを呼んだのは私です。それに……」

 低いあえぎをかみ殺した声。
 もう一歩踏み込めば、志貴の目の前に寝室の光景が明らかになる。
 だが志貴は、廊下の角に背中を付けてじっと中の言葉を伺った。

「……この娘の望みでもあるんですよ、志貴さん」

 ちゃらり、と鎖の立てる金属音。
 鎖、喘ぎ声、淫猥な音。中で何が行われているのか。その中にいるのは瀬尾
晶と、誰なのか……わかりたくないようで、知らずには居られないような。
 ドアは閉まってしまった。もう後戻りは出来ない――

 志貴は光の中に姿を現した。
 微かに瞼を薄めて部屋の中をうかがう。そしてその次には……

「これは……」

 志貴は言葉を失っていた。
 自分の目にしたものが信じられない、言いたそうに頭を振りながら。

「ようこそ、志貴さん。お越しいただきありがとうござます」 

 部屋の椅子に腰掛けた短い髪の瀬尾晶が、笑って志貴に会釈をする。
 だがその格好はいつもの浅上女学院のセーラー服でなく、扇情的で露出の多
い衣装だった。黒のビスチェとウェストニッパー、そしてガーターで黒のスト
ッキングを吊っている。白い透き通る様な肌と黒いインナーのコントラストが
鮮やかで、清純そうな晶にしてはあまりにも冒険をしすぎている格好であった。
 黒いレザーの女王様。

 そして、その足下にうずくまる長い髪の女性。

「……秋葉も、居たのか……」

 晶の足下に跪き、志貴に背を向けているのは彼の妹の秋葉であった。
 それも、格好が普通ではない。エナメルレザーのヒモのようなボンテージ衣
装で体を戒められ、手は背中に回されて袋のような拘束具ですっぽりと覆われ、
ヒモで縛り込まれている。

 あの誇り高い秋葉が、こんな拘束具に縛られながら堪えているというのは…
…志貴には信じられない思いがした。
 だが、そんな秋葉は晶の股間に顔を付け、何かを一心不乱にしゃぶっていた。

 ショーツをはいていない晶の下半身。そこから――生えていた。
 志貴はそれを何かの見間違いだろうと思った。それが生えているはずはない
……自分の見間違いであると思いたかった。

 だがそれは、確かに存在した。存在して今、秋葉が舌を這わせている。
 舌が唾液をまとわりつかせて動くたびに、ぴちゃりぴちゃりと淫らな音がホ
テルの部屋の中に響く。

「な……」

 志貴の目にそれは見間違えようがなかった。
 晶の股間に生えていたのは、男性器――ペニスそのものであった。作り物の
ディルドウなどではなく、肉色の醜悪な突起。
 それは志貴の股間にもある。なぜ、というつぶやきを志貴は口の中で噛みし
める。

「ふふふ……志貴さん、信じられないって眼で私のことを見ていますね。それ
とも……信じられないのは遠野先輩の方ですか?」

 晶の片手に握られているステンレスのチェーン。それは秋葉の首ににつなが
り、秋葉が顔を動かすたびにちゃり、と金属の甲高い囁きを発する。
 志貴はまず何を尋ねようか迷った。何故呼んだのか、なぜ秋葉がそんな格好
で晶に唯々諾々と従っているのか、それよりも……なぜ晶の股間にペニスが生
えているのか。
 
 わからなかった。まずどこから尋ねるのかすらも。

「……それは、いったいどうしたんだい?」

 志貴は指を上げて、晶の股間を指さす。
 そこには今も秋葉が舐め、わずかに振り返り志貴の顔を見ると、妖しく微笑
む。
 そんな秋葉の頭を撫でながら晶は笑みを浮かべていた。

「これ、ですか……ふふふっ、やっぱり志貴さんもこれは不思議に思うんですか」

 晶はわずかに腰を上げて、秋葉に舐められている肉棒の角度を変える。
 志貴の視界の中で、晶のペニスはぬらぬらと唾液にまみれて光っている。黒
い下着姿の晶の股間に生えている男性のシンボル、その姿はあまりにもアンバ
ランスでありながら……ひどく魅惑的に思えてもしまう。

「私の学校に……言い伝えがあるんです。裏庭の社に好きな娘の名前を書いて
捧げると、望みが叶うって……望みはこれが叶えてくれるんです」

 晶はそう言いながら、そっとそのペニスを撫でる。
 志貴はだまって晶の言葉を聞いていたが、その話の内容は理解しきれなかっ
た。ただ、なぜか晶は秋葉のことを想っていて、この事態に及んだのだと。

「……秋葉のことが好きだったのか?」
「いえ、書いたのは志貴さんの名前でした……でも生えちゃったんです。だか
ら私は考えました、どうしてこうなっちゃったのかと……そして結論はこうでした」

 すっと晶は真面目な顔になると、言葉を着る。
 志貴は黙って、話の続きを促す。

「これで秋葉さんを堕とせば、志貴さんが手に入れられる……」

 そう言いながら、晶はくしゃっと笑いをさざめかせる。
 志貴は何とも言えない暗い顔で顎を引いていた。なぜ晶がそんなことを考え
たのか……や、なぜ晶がペニスが生えるという事態をこんなにすんなりと受け
入れているのかが理解できないかのように……

 だが、そんな暗い顔の志貴の口元は、微かに笑っていた。

「だから、先輩をこのおちんちんでまず言いなりにさせました……最初は暴れ
て大変だったんですよ?でも、いまでは遠野先輩もこの通り……すっかりおち
んちんの虜です」
「あっ、ふぅ……ああ、瀬尾……もっとぉ……」

 鎖がジャラリと引かれ、秋葉の顔が股間から離される。
 腕を塞がれた不自由な格好で、秋葉は晶の足下に倒れ込む。長い髪が広がり、
床の上に垂れた。そしてその髪の下に、エナメルレザーで戒められた秋葉の体
が……

 秋葉は晶の脚を、ぴちゃりぴちゃりと赤い舌を伸ばして舐める。
 手を背中に拘束され、犬のように床に這う秋葉。そんな秋葉の普段からは想
像もできない被虐の姿にしばし志貴は、言葉も忘れたように見下ろす。

 椅子の上から晶が立ち上がる。鎖を手にして。
 その顔は志貴を、最初は見ている方が痛々しくなるような、真摯で不安そう
な瞳で見つめていた。だが足下の秋葉の淫らな姿を見つめると、ふっとその頬
を緩ませる。

 そして、勢い良くその鎖を引き上げる――

「きゃうぁああ!」
「……ふふふ、志貴さん?まずは……まずは二人で遠野先輩を愉しませてあげ
ましょう?志貴さんはどちらが良いですか?」

 鎖を強く引き上げると、床に倒れ込んだ秋葉の顎が引っ張り上げられ、苦痛
に歪む。今までゆるんでいた鎖がぴんと張り、はぁはぁと苦しげな息が流れる。
 
 晶の足が、秋葉の膝を押し広げる様に開かせる。

「さぁ、先輩……志貴さんにぐちょぐちょに濡らしたおまんことお尻の穴を見
せてあげてください」
「はぁ……うっ……兄さん……見てぇ、秋葉の……秋葉の恥ずかしいあそこを
……」

 ぱっくりと割られた秋葉の足。
 黒いレザーの拘束着が太股まで絡みつき、そのスレンダーな身体も拘束され
ている。だが、秋葉の秘所だけは剥き出しであり、明かりに照らされてぬらぬ
らとした輝きを放っていた。

 大きく股を広げた秋葉の秘裂。
 濡れて、ぬらぬらと光り、粘膜の襞は物欲しげに疼いている。

「ふふふ、遠野先輩の前も後ろも、これでほぐしておきました……志貴さんが
すぐにも楽しめるように。先輩の前がいいですか?それとも……後ろが良いで
すか?」
「あっ……はぁ……うう……」

 秋葉の膝頭を踏みつけ、足を広げさせる晶の挑発的な顔。
 だがその身体の股間には、隠しようもなく勃起した陽物がある――

 志貴は秋葉の股間と晶の股間に目をやってから、つ、と眼鏡の蔓に指を掛け
た。かすかに俯き、反射の具合で志貴の目は光るレンズの陰に隠れる。
 志貴はしばし無言だった。だが、戸惑い迷っている様ではなかった。

 身動き一つせずこの淫らなフリークショー、SMショーに向き合い、やがて
ぽつりと漏らす。

「ひとつ、聞いて良いかい?アキラちゃん」
「ふふ……なんですか?志貴さん」

 秋葉の足を踏みつけ、背をかがめて秋葉の顎に手を掛ける晶。
 志貴はすう、と一息深く吸うとと……

「その、学校の社って……何が祀ってあったんだ?」
「社……ですか?金山様ですけども、それが……やっぱり不思議なんですね、
志貴さんも。私にこんなのが生えちゃうのが」

 晶は悪戯そうに笑うと、己の股間に生えたシャフトをそっと撫でる。
 秋葉の顔の間近にあるペニスが、びくびくと勃起し震えている。それに物欲
しそうに舌を伸ばす秋葉の、とろけた笑み。
 
 志貴は軽く首を振った。
 そして、ベルトのバックルに手を掛けた

「いいや……不思議なんじゃないよ、ただ奇遇だなと思って。俺の学校にも似
たような話があってね」

 志貴はベルトを外しながら、淡々と喋り始める。
 晶が陽物を生やして秋葉を虜にし、目の前で慰み物にしていることをあっさ
りと受け入れているかのような……晶はそんな志貴の、顔を見つめる。
 だがその瞳は眼鏡の陰になって見えない。

 ひやり、と晶の背中に汗が伝った――ような気がした。

「志貴さんの学校にも……ですか?」
「そう……焼却炉脇の小さな祠に願い事をすると叶うってね……それは」

 志貴はベルトを外し、ズボンを脱いだ。
 女性二人の前で、恥ずかしそうでもなんでもなく……いやむしろ、露出狂の
ように嬉々としてその行為を、その反応を楽しむかのような志貴の脱ぎ方であ
った。
 口元に微笑みすら浮かんでいるのを、晶は見た。





 でろん、と




 まるでもう一本足が生えたような長さのものが





 トランクスの中からまろび出てきて






 晶の目の前が真っ白になって、思わず素に戻ってしまう程の













「……馬頭観音だったんだ」




 でろーん




 晶は口をぱくぱくさせて、頭から失せていく血液と酸素をなんとか補充しよ
うと努力する。だが、秋葉を嬲って雰囲気を出していた晶の正体を吹き飛ばし
てしまうほど、これのビジュアル的な存在感はすごかった。

 なにしろ、だらんと膝まで垂れているのだ。
 太さも長さも、自分の股間に生えたものとは比べものにならない。生えてし
まった肉棒はレギュラーサイズ、と計りながらも耳学問で晶は思っていたが、
今目の前にある志貴の逸物は常軌を逸していた。

 譬えるなら、晶のものがウィンナーなら、志貴のものはボンレスハム
 フランクフルトとかそう言う中間のサイズを飛び越した、質量共にまさにド
レッドノート級の肉棒であった。まさにちんこ界の戦艦クラス、噂に聞く列強
の黒人ペニスにも引け劣らない主力艦たる威風を備えている。

 ぶらーんぶらーん、と振り子運動をする、志貴の馬並。

「ひっ、ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

 異形の肉棒に、思わず恐怖に陥る晶。
 晶の手から鎖が落ち、じゃらんと床の上で激しく鳴る。秋葉は膝立ちになり
ながら、その……そのあまりにもたくましすぎる、もはや凶器としか言いよう
のない兄のペニスを――

 うっとりと見つめていた。

「ああ……素敵ですわ、兄さん……」
「すーっ、すーっ、素敵って何処が素敵なんですかっ、志貴さんのあれはあん
なにこんなにそんなにあうあうあうあうあうあ!」
「ふふふ……馬頭観音だから馬並みになったんだよ、アキラちゃん。いささか
ベタなネタのような気もするけど、金山様でちんこが生えるこのご時世、それ
くらいの御利益があっても罰は当たらないだろう?」

 そんな訳の分からない事を呟きながら、志貴は己の肉バットを掴む。
 ぐわしっと握ると、まだ硬さの足りない肉棒はゆっくりと起きあがる。まさ
に肉バット、お中元のハムを股間にぶら下げているような。

「ふふふふ……サイズだけじゃないよ、アキラちゃん。見せてあげよう……
ほうぅっぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 一声叫び声を上げると、志貴は二人の目の前で己の逸物をしごき出す。
 まさにしごく、という言葉はこのためにあると思えるほどの――アグレッシ
ヴでダイナミックな肉棒へのチャージングであった。
 あたかもボディービル選手のバンプアップの様に、志貴の手に握られた肉棒
は脈打ちながら太さも堅さも立ち上がり具合も、先ほどのでろんと垂れていた
頃とは比べものにならないほどの……

「兄さん……ますます素敵……」

 秋葉は眦を随喜の涙でにじませながら、うっとりと呟く。
 だが一方の晶は、この目の前で繰り広げられる悪夢のような勃起シーンに言
葉を失っていた。志貴のしごき方やその勃起の具合、激しさは晶の耳の中で鬼
太鼓座の大太鼓の激しい乱打を脳内BGMにしてしまうほどの。

 どんどんどんどんどどどんどんどん

「せいりゃせいりゃせいりゃせいりゃ!」

 志貴のかけ声も祭り拍子じみてくる。
 晶の頭の中で、どんがどんがどんがどんがと褌で締め込みをした男達が、巨
大な太鼓を連打するビートが絞める。思わず、締め込みのお尻も良いかも、な
どと現実逃避をしそうになる晶。

 だが、そんな晶の焦点の遠くなってしまった目の向こうで、志貴の主砲がそ
の砲身を擡げてくる。ひょっとしてこれって肉中華キャノン?とか微かに訳の
分からぬ事を思う晶。

 そんななか、ぐぐぐ、ぐぐぐぐぐ、と。

「ふ、ふふふふ、ほぅぁぁぁぁぁ!」

 志貴は一声吠えると、まるでボディービルダーが己の鍛え上げた肉体を誇示
するように両手を首の後ろにで抱え、その腰をサンバの如くくねらせる。
 その八の字を描く腰と共に、志貴のその、握り拳を握った三本目の腕か、小
さな三本目の足の様な巨根が立ち上がっていた。

 ぐぅん!と

 四方を睥睨する志貴の逸物は、あたかも四海を制覇する戦艦の巨砲のように
旋回し、そしてその照準を――ぴたりと晶の方向に定めた。
 志貴の怒張した、これはもう人間の代物とも思えぬエラが張り膨れあがった
ガラパゴスゾウガメのような魁偉な亀頭はまるで目を持つかのように、晶の眉
間をねらっている。

 ――殺される

 晶の脳裏に過ぎったのはそんな言葉であった。
 いままで秋葉に折檻されそうになったときもそんな言葉を感じた晶であった
が、今回はその度合いが違った。志貴のものはいかにも巨大であり強靱であり、
このようなものに狙われたら命はない……文字通りヤリ殺されてしまう、とい
う恐怖。

 今にもこの滾る巨砲から白濁液がウォータージェットの様に噴射し、自分を
なぎ倒すのではないのかと。

「ひっ、ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!」

 晶の喉から上がるのは、屠殺される動物のような悲鳴であった。
 先ほどまで女王様然として秋葉をなぶり物にしていたのが全く嘘のような……

「ふっ、ふふふふ……なんとたくましく恐ろしげな事よ、この俺でも恐怖する
わい……」

 志貴は相変わらず自己陶酔ちっくなボディービルのポーズを取りながら、そ
う呟いた。なんとなくキャラ違わないか今の俺、と感じる志貴であったがもう
収まりはつくものでもない。

 考える前に飛べ、いや飛ばせ。

「ああっ、兄さん、素敵です、さすがは遠野の長男です……」

 怯える晶と対照的に、秋葉は床の上をずるずると這いながら志貴の元に進ん
でいった。腕が縛られ体を起こせない秋葉は志貴の足下までたどり着くと、そ
の臑に接吻すらする。そして譫言のように……

「だから、だから兄さん……兄さんの大きなおちんちんを、卑しい妹の私のア
ソコにねじ込んでくださいっ、お願いです……兄さん」

 足にキスをし、拘束された身体でももどかしげにお尻を這いながら振ってね
だって見せる……秋葉の痴態。
 その淫らな姿を志貴は目にしながら、志貴は……ふっと笑いを浮かべた。
 それは歪んだ冷たい笑いであり、秋葉はそんな瞳を見下ろされてゾクゾクと
背筋を期待と興奮で震わせる。


「……いつもなら相手をしてやるんだがな、秋葉……だがしかし!


 アキラちゃんにヤラれまくって後ろがばがばのお前には用はないッ!」



 その瞬間の秋葉は、文字通り天が崩れ落ちてきたかのような衝撃の中に居た。
 がーんがーんがーん、と顔を見るだけでも分かる秋葉のうちひしがれた顔。

「がーんがーんがーんがーん……そんな、がばがばだなんて……ちょっと入り
やすいように慣らしただけなのに……」
「残念ながら慣らしでも男にとってちんこの有無は大きいのだよ、秋葉……」

 なにかよく分からない、兄妹の会話であった。
 志貴は哀れみを以て見下ろしていた瞳を上げる。その先には、もはや仕留め
られるのを待つ小動物のような、震え上がる晶が……

「あー、さて……今この俺様のたぎる馬頭観音サマが求めるのは、処女の血の
生け贄よ……ふふふふ、楽しみにとっておいた秋葉の前も後ろをも俺より先に
手を付けた不信心者に……仕置きをせねばならんなぁ」

 志貴はビシィ!と晶を指さす。
 指と巨根のダブル指名。

「ひっ、ひぃぃぃぃぃ!」
「アキラちゃん……いいや瀬尾晶!おとなしくこの遠野志貴と、わが愛刀・二
尺四寸名物大典太の贄となれいッ!」

 まるで死刑宣告を下すような志貴の吠え声。
 本人にはその気はひょっとすると無かったかもしれないが、される方には十
分に死刑宣告の響きを帯びていた。

 そのボンレスハム製バットのような、巨大な肉棒は晶の顔を見据えて離さない。
 これによって、されることをさてしまう……晶には想像も出来なかったし、
支度もなかった。するとベッドの上で股間から血を染めて失血死する哀れな自
分の姿しか想像できないからだった。

 だらだらと冷や汗を流し、全身で恐慌に震えながら晶は悲鳴を上げるっ!

「そっ、そんな志貴さん!私いまおちんちん生えているんですよっ!」
「生えていようがいまいが一向に構わんっ!ちゃんと膣口はあるんだろう!」
「う、確かに下の方にありますけど……」
「ふふふ、もし無くてもこの遠野志貴、一向に構わん!
その時はぬしの菊門を貫いてみせるだけのことよ……なぁに、恐れることはない」

 志貴は不敵な笑いを浮かべた。
 どちらかというと、無敵な笑いに近い物があったが……

「……ひっ、ひぃぃぃぃ!おかーさんっ!たすけてぇぇぇぇ!」
「ふふふ、おかあさんだと?今更ヌルなことを申す小娘じゃわい……そもそも
まろにされたかったのであろ?本望であろ?」
「でっ、でもそんな、そんな電信柱みたいなのがあるなんて!」

 晶はじりじりと退きながら、真っ青になって悲鳴を上げる。
 何か先ほどから妙なキャラが三種類ぐらい混じっている妖しい言動の志貴は、
ずずい、と歩を進める。

「やっ、やっ、やぁぁぁぁぁ!」
「ふふふふふ、まろの手からはもはや逃げ延びることは叶わぬでおじゃる!さ
ぁ娘よ、おとなしくその尻を貸すが良いぞ、たちまちにまろが汝を仏国土に導
いて進ぜようぞ!仏国土だけにぶっこくど、なんちゃってぬはははははは!」

 オヤジギャグの寒さも、今では逆に恐怖を煽るばかり。

 一歩すすむ志貴と三歩下がる晶。
 その背中に、どんと壁がぶつかる。
 先ほどまで硬く勃起していた晶の肉棒も、恐怖のあまり縮み上がっていた。

「ふ、ふ、ふわはははははは!破れたり金山様!破れたり瀬尾晶!」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!」





待てっ!」





 やおらその時、高らかな叫び声が部屋を震わせた。

「何奴!この遠野志貴のおもしろおかしい儀式を邪魔する奴は誰ぞ!」
「ふふふ、志貴……小学生時代からの有間に志貴あり乾に有彦ありと言われた
この俺を忘れて貰っては困るな、わが好敵手……」



 ドォン!



 なぜかドアの蝶番を逆向きに吹き飛ばして現れたのは、赤毛にピアスになぜ
か白衣一枚の……有彦であった。
 毛臑が寒々しく、いったいどこからそんな格好をしてきたんだ?と思わぬで
もないが……

「有彦か!」
「遠野、お前は馬頭観音様の御利益ごときで天下を獲ったつもりらしいが……
この有彦様に言わせれば笑止千万旋盤工場!」
「フライス盤やNC工作機は?」
「いや、今は工作機械の話じゃなくってな、遠野……ふふふふ、あの学校には
まだお前の知らぬ神秘と謎がある……まさにスカラ・インコグニタ!
「なにィッ!テラ・ミラビリスだと!ラテン語とは小癪な!」

 たじろぐ志貴とえらそうにふんぞり返る有彦。
 そして妙に息のあった掛け合いに取り残される晶と秋葉。

「その目を見開いてとくと拝みやがれッ!!」

 やおら有彦が白衣の前をはだける―――

「き、き、きゃぁぁぁぁぁぁあああああああああああああーーーーーーーー!」

 絹を引き裂くような、晶の悲鳴が上がった。

「ぬ、ぬぅっ!なんとなっ!」

 志貴もその姿にうめき声を上げる。






千手観音様のご威光をな!」





 うねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうねうね



 有彦の股間には、何本もの……数え切れない何本ものペニスが密集して生え、
その一本一本が意志を持ったかのようにうねうねうねうねとうごき、あたかも
肉色のイソギンチャクを股間に生やしたような、それは――志貴以上の異形の
イチモツであった。

 むしろキミ、一体どうやってそれをかくしてここまでぶら下げてきたの?と素に
戻って尋ねたくなるほどの。

「…………素敵……」

 驚く晶と志貴と対照的に、さっきからそればっかりの秋葉の溜息。

 ふふふんと誇らしげに胸と股間を張る有彦が、さも満足そうに解説を始める。
 それにいかにもな見切りのポーズをを着けて聞く志貴。

「馬頭観音の他にも、千手観音の祠が体育館裏にあるのだよ……観音がその手
で衆生をお救いになられるように、このイチモツはおなごを極楽浄土に導くのじゃよ」
「やりおるわ……さすがは我が永遠のライバル、有彦よ!」
「さて、口上はこれまでだ……いざ尋常に勝負!」
「おうさぁ!冥土でこの志貴と手合わせした噺を手みやげにせい!」

 竜虎相打つ!
 馬頭観音の馬並と千手観音のイソギンチャクがちんこ界の雌雄を決するべく――
 嵐逆巻き雷鳴が天をも振るわせ、二人の肉獣が大地を割らんとその勢いたるや!

 ―――――――――――!!!




「待て、有彦。おまえりたいのどっち?」





 ――と思いきや、存外に冷静な志貴の声。
 有彦はすっと指を伸ばすと、相変わらず発情した犬のように腰を振りながら
はいつくばっている、ボンテージ姿の秋葉を指さす。

「秋葉ちゃんに決まってるじゃないか。ちんこ生えたのやるほど俺は獣じゃないよ」
「ちんこ生えても処女は処女だ、有彦。じゃ、争う謂われはないわけだ」

 ふたりとも、やれやれと肩をすくめてみせる。
 壁にへばりついて震え上がる晶と、期待に目を輝かす秋葉の前で、志貴がす
っと右手を差し出す。

「じゃぁ、協定成立だな」
「ああ……腕が鳴るな、遠野。鳴るのは腕だけとは限らないけど」

 有彦がその手を力強く握る。
 方や馬並の巨根、方やイソギンチャクのような触手ちんこの男達は、不適な
笑みすら浮かべてその手を振る。
 それは熱い、感動の光景であった。あたかもエルベ川で米兵とソビエト兵が
握手を交わし合うかのような――

「さて……そういうわけだアキラちゃん、覚悟は良いね」

 くるり、と志貴は振り返る。
 まるで戦車の砲塔が回るように、志貴の肉棒もまたぴたりと照準を定める。
 晶は悟った。悟らざるを得なかった。悲しいかな。

 ――己の死期を

「やっ、やっ、じょぉ、冗談ですよね志貴さんっ、あ、あはははー」
「残念ながらキミにはえたちんこと同じくらい、これは現実なんだよアキラちゃん」
「あああっ、兄さんでも乾さんでもいいのっ、早くこの身体の疼きを鎮めてぇぇ〜」
「秋葉ちゃん、焦ることはない……今夜は寝かさないぜ!」

 男達は二人、力強く絨毯を踏みしめて歩く。
 その異様な股間のシルエットを床に記しながら。

「いっ、いっ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!」
「ぬぅん!はっ、ははっ、はははははははあああッ!」

            §            §

「あー、やっぱり一回出すとおしまいなのか……」
「そういう意味では俺の方がお楽しみだったけどな、遠野。回数多いし」
「抜かせ。ほらよっ」

 シャワールームからバスタオルを巻いて出てきた有彦に、志貴は缶ビールを
放ってみせる。志貴も先に風呂を浴びたと見えて、同じようにバスタオル姿で
あった。

「お、サンキュー……さて」

 カシュッとプルタブを押し、溢れる泡を舐めながら顔をベッドの上に向ける。

「……これ、どうする?」
「そうだなぁ……」

 志貴と有彦の眺める先には、ベッドの上の晶と秋葉が寝転がっている。
 晶は仰向けになって失神して、大股を開いて転がっている。そしてそのお腹
の上にはたぷりと滴るほどに白濁液が浴びせかけられている。股間に生えてい
た肉棒はなくなり、いっそ哀れにすら思える姿であった。

 秋葉は秋葉で、拘束されたまま俯せになってぴくりとも動かない。
 長い黒髪とエナメル皮、白い肌と飛び散る大量の白濁液。

 二人ともまるで輪姦されたかのような、惨憺たる光景だった。
 到底、二人でやったと信じられないほどの。

「……とりあえず晶ちゃんも秋葉も、空いたから風呂に入ったら?」

                                          《おしまい》






《あとがき と弁明》

  どうも、阿羅本です。あはははは〜〜〜〜




  どっ、どっ、どうももうしわけありまぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!(涙)




  すいません、お見苦しいモノをお見せしてしまって……浅上凸の企画なのに
気がつくと異形のちんこ対決を喜々として書いているという倒錯したSS書きに目
覚めてしまっていてなんというのか、あうあうあうあうあうあうあ(笑)
 ……でも、馬頭観音発言以後が書いていても面白くて面白くて仕方ないという
困った事実が……有彦の千手観音とか(爆)

 というか、許してください、千手観音様、馬頭観音様、こんな哀れな衆生である
阿羅本の所行を笑って極楽浄土に導いて下れ……(笑)

 しかし、なんでこんなSSを思いついたんだろう、私……わからんちんぷぅ(笑)


 ひっじょーにお見苦しいSSではございますが、感想とかいただけるとすごく
ありがたく存じます、ええ、ちゃんと晶ちゃんの秋葉調教劇を書けとか、志貴は
どうやってズボンにボンレスハムつっこんでたんだとか、有彦は何本挿入できた
んだとかそんなことでもぜひ(笑)

 みなさま、おつきあい頂きありがとうございました。
 でわでわ!!

                                        阿羅本 拝