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【煮物】
                   you

ことことこと
里芋とにんじんの入った鍋が歌っている。
もうやわらかくなった頃だ。
あとは、このこんにゃくを切って入れ、味付けをすれば煮物の出来上がり。

こんにゃくをまな板の上に置いて、包丁を手に取ったとき。
「おかあさーん」
とてとて と、小走りに近づいてきて、着物の裾を掴んで纏わり付いてくる。
非常に愛らしいのだが、状況が状況だから心を鬼にして叱り付けなければ。
持っていた包丁をまな板に置いてから、膝を曲げて目線を合わせ、諭す様に叱
る。
「こら、お母さんは料理中なの。包丁とか火を扱ってるんだから、危ないでし
ょ」

あっという間に、
しゅーんと項垂れる。

頭では、叱るのは必要な事だとわかっているが、こんな顔をされたらどうも罪
悪感を感じる。
こういう所は父親に似たのかしらね。

「いい匂いだな」
入口の方から突如聞こえた声に、しょんぼりしていた顔が満面の笑みに変わる。
「おとうさん、おかえりー」
後ろを振り返ると一目散に声の主へと駆けてゆく。
「ああ、ただいま」


私も顔を上げて、旦那さまを出迎える。
「志貴さん。おかえりなさい」
「うん、ただいま。はいこれ。頼まれたもの」
そう言って右手に持った買い物袋を机の上に置く。


「琥珀。外、結構寒かったよ」
ふわり と、優しくまわされた腕で抱きしめられる。

「おとうさん、ずるいー。僕もおかあさんをぎゅってするー」
お父さんのズボンを引っ張って駄々をこねる。
「ぼくね、大きくなったらおかあさんをおよめさんにするの。そしておとうさ
んみたいにおかあさんをぎゅってするんだ」

「ふふーん。お母さんはお父さんのだから、結婚はできないんだよ」
自分の身体で遮るように身体を入れ替えてからかう。
「やだやだ、ぼくもおかあさんとけっこんするのー!」
お父さんに負けじと足に抱きついてくる。


「志貴さん、大人気無いですよ。二人とも料理のじゃましないのっ。いい加減
にしないと―――
 ――― 煮込みますよ」

びくっ

瞬間、肩と脚に抱き付いていた二人が手を離す。

「煮込まれるのはまずい。お母さん煮物得意だからな」
「うん。にこまれる。にこまれる」
「向こうでお父さんと遊ぼうか」
「うん!」
顔を突き合わせてこそこそと相談すると、じゃれあいながらキッチンから逃げ
出す。

まったく、二人とも子供なんだから。

背中越しに二人の笑い声を聞きながら、料理を再開する。



そんな、幸福な日々――――




―――――― 了 ―――――――




幸福な琥珀さんのワンシーンです。
「どのエンディングの後」とか、「アルクや秋葉は?」「遠野屋敷なの?」な
どは、
考えないでくださいw

拙い文にお付き合いいただき、ありがとうございました。


2004/01/10 you