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 むねむね

                              阿羅本

「やっぱり志貴さんも胸が大きな女の子が好きなんですか?」

 ぶぇはぁっ!

 その言葉を聞いた瞬間に、俺は飲みかけの紅茶を噴いた。
 ばっふん、と肺が爆発したように咳き込み、口の中に残っていた薫りの高い
ハーブティを噴霧器のように霧と変える。いや、噴きたくてこんな見事な吹き
方をした訳じゃなかったけども。

 次の瞬間に俺がしたのは、椅子から立ち上がって周囲三百六十度を警戒する
事であった。この居間には俺と琥珀さんの他に誰の居ないように見えるがこう
いう話題に敏感な誰かさんは地獄耳で、どこで聞き耳を立てていると知れた物
ではない。

 ソファーの影、マントルピースの中、とにかく誰か潜んでいそうな所を目で
探し、そこに人影がないことを確かめる。それだけではまだ安全ではない。
 俺はティーカップを片手に握ったままで小走りに駆け、廊下に繋がるドアを
押し開ける。そして廊下に誰かが居ないかを確かめると、ばたんと勢いよく閉
じる。
 まるで、このドアを開けておくとエアロックが開いて吸い出されてしまうよ
うな恐怖を感じながら。

 ――よし、聞かれては居なかったようだ。

 俺の脳裏によぎるのは、あの長い黒髪に薄笑いを浮かべる恐怖の妹、秋葉の
姿であった。完璧な貧乳である秋葉の周囲50mでは胸の話は禁物であり、そ
の禁忌を破る人間は略奪し尽くされた死体になって己の愚かさを悟る羽目にな
る、と言う。
 ドアに背中を当て、どきどきと早くなる鼓動を押さえようとする。落ち着け
俺、まだ琥珀さんに質問されただけで、秋葉にそのことを聞かれた訳じゃない
……

 まだ秋葉には関係ないはずだ、多分。

「……で、なんだって?琥珀さん」

 あまりにも不用意な発言の主を眺めると、そこには準備よく布巾で俺の噴い
た紅茶の霧を片づける琥珀さんの姿があった。琥珀さんは愉快そうな笑いを浮
かべながら布巾を畳んで袂に仕舞い込む。

「はい、志貴さんが好みの胸の大きさのことでして……」
「しーっ!しーっ!」

 俺と胸の単語がワンセットで語られると、危機感を覚えて俺は大あわてで唇
を指で塞ぐ仕草をする。とにかくこの屋根の下では胸の話題は禁物なのだった。
ましてや俺の趣味のおっぱいの話などになると尚更だ。

 だらだらと流れて眉毛を伝う汗を手の甲で拭うった。
 俺はゆっくりと元に座っていた椅子に近づく。そして、大声で胸胸と口にし
なくて良いように、琥珀さんを側に招き寄せた。
 俺は声を潜めて、まだドキドキする胸を押さえて話し始めた。

「……藪から棒な質問ですな、琥珀さん?もしかして秋葉のヤツが何か……」
「あー、いえいえ、今回は秋葉さまは関係ありません。秋葉さまは自分の胸が
世間の平均から秀でて無いことを十分にご存じですから、もうバストのことは
世間には存在しないように扱うことにしていますから」

 琥珀さんはけらけら笑いながらそんな怖いことを言う。そんなこと聞かれた
ら命がいくつあっても足りたものでじゃない……まぁ、秋葉との関係が長い琥
珀さんがそれを知らない筈はないんだけども。
 俺は胸を押さえ、喉を残った紅茶で潤しながら落ち着きを取り戻そうとする。

「……いや、女の子は胸でその価値が決まる訳じゃないから」

 俺はそんな政治的に正しく、人間的には卑劣な迂回の回答を口にする。だっ
て仕方ないじゃないか、そんなことすぱっと好き嫌いが分かれる訳じゃないし。
 有彦なんかは乳に関しては多々益々良し、という分かりやすい思想の持ち主
だと思っていたが、秋葉のあの完璧な貧乳にも来る物があるらしい。有彦です
らそうなのだから、俺にさくっとそんなことを答えられる訳はない……

 琥珀さんは俺に隣の椅子を引いて腰掛けると、まるで俺の弱みを握っている
かのような含み笑いを浮かべていた。まぁ、言いたいことは分かるよ少年、と
いう小僧扱いするようなオーラを漂わせながら、俺の手のカップに紅茶を注い
で呉れる。
 こんな事聞いてくる琥珀さんは、よほど思うところがあるのか、それとも思
いつきでこんなデンジャラスなことを尋ねているのか……わからない。
 琥珀さんだからなぁ、この辺はなんとも。

 ストレートのままでハーブティを口に含む。今度はまた霧を作らないといい
けども……

「大丈夫です、秋葉さまには一言も漏らさないと翡翠ちゃんの貞操に誓って」
「……確かに神様に誓われるより確実かもしれないけどね……ほら、女の子は
胸だけじゃないんだよ、うん」

 今日は秋葉は調子が悪くて朝から寝ているとは聞いているけども……そんな
鬼の居ぬ間になんとやら、を決め込むのはどうにも卑怯というか、せせこまし
いというか。
 でもなんだ、女の子の値打ちを決めるのは顔と胸だけではない……と、思う。

「……では、アルクェイドさんのおっぱいはどうですか志貴さん」
「いいねぇ」

 咄嗟にそんな事を呟いてしまい、俺は慌てて口を押さえる・
 アルクェイドのおっぱいというのはもう、その言葉だけで条件反射のように
素晴らしいあのアルクェイドの胸を思い出して頭が一杯になる。おっぱいがい
っぱい、と韻を踏むように……韻じゃなくて実際はオヤジギャグだけど。

 琥珀さんは俺の顔を、ふんふんと頷きながら眺めている。手に握っているの
はまだ中身の残っているティーポット……琥珀さんの煎れたお茶で、飲んでい
るのは俺だけ……
 いやな予感が頭の中をよぎる。手元のカップとティーポット、そしてそれを
全部用意したのは琥珀さんで、他に飲む人間がいない。それに、思ったことを
ぽろっと口に出してしまう……いつもはこんな風じゃない、はずだ。
 そうなると、一つしか思いつくことはない。

「……なにかこの中に薬を混ぜた?琥珀さん」
「いや、そんな経口投与で即効性の自白剤なんかまだ開発できませんよー。ち
ょっと気分が大きくなって良い気分になるハーブは混ぜさせて頂きましたけど」

 やっぱりか。
 成分は何?と琥珀さんに聞きたいけども怖くて聞くことが出来ない。祈るよ
うに思うことは、せめて中毒性のない葉っぱだと良いな、と言うことぐらいで
……琥珀さんはひょっこりと椅子から立ち上がると、壁際のキャビネットに歩
いてく。

「志貴さんからお話を聞くんだったら、こっちの方がよく効きますねー」

 振り返った琥珀さんが手にしていたのは、モルトウィスキーの硝子瓶だった。
 封が切ってあるのは、秋葉が飲んでいたからだろうか……確かにアルコール
を口にすれば気分が良くなってあること無いこと口にするというのは良くある
ことだったし。

 ……ふぅん、そうねぇ、女の子の胸ねぇ。
 アルクェイドのあの形が良く大降りのぷるんとした胸が、俺の頭の中で形作
られる。アルクェイドは背中がきゅっと細いから、その胸が殊更に強調される
ようで……形がわかりにくいセーターの上からでも、あの上向きの胸がこれ見
よがしに分かっていて。

(……志貴、志貴はおっぱい好きだよねー、ほらほらー)

 そう言ってアルクェイドが俺の頭をぎゅっと抱きしめるあの感触が甦ってき
て……ぎゅーっと胸の谷間に俺の頬が埋もれて、眼鏡でふにゅんとおっぱいが
形を変えて……

「さささ、ぐぐぐーっと一杯」
「やぁ、これはこれはご親切に……ぐぐぐー……はっ」

 気が付くと琥珀さんが注いだウイスキーを、ティーカップで口に含んでいる
俺。
 口の中と鼻腔の中はウィスキーのつんとくるけども深い薫りに充ち満ちてい
て、俺の喉はするりと強いアルコールの飲み、食道を熱いアルコールが下って
いくのが分かる。つまり、手遅れだと言うことだった。

 まだ少しカップの中にはウィスキーの雫が残っていたけども、それを舐め取
ることなく下げる。琥珀さんは硝子瓶を抱えて期待満面の瞳で俺を見守ってい
る。
 いったい琥珀さんはどんなマジックを使って……でも、もう飲んじゃったし。
しかし秋葉が具合が悪いのに俺が昼日中にお酒を飲んで女の子の胸のことを考
えているというのはどういう事なのか。

 わからない。ま、いいか。

「……やっぱりアルクェイドさんの胸がいいんですね?志貴さん」
「いやぁ、そんな紋切りな断言はよくないよ、うん……アルクェイドの胸が良
いってわけじゃなくて、あいつはこう……ああもう!」

 アルクェイドのことを旨く言おうとするけども、言葉にならない。
 それなのに、頭の中はアルクェイドの胸のことでいっぱいだった。今なら俺
はこのウィスキーの雫を指にして白いレースの布の上にあの立派な胸を模写す
ることが出来そうなほどに。
 おかしい、何か今の俺はどうにかしてしまっている、どうにかしているのは
分かるけども、それが楽しいのが困り所だ。

 ……おっぱいねぇ、おっぱい、うん、良い物だ。
 俺はふんふんと鼻歌でハミングしたくなる。身体が軽く弾むような気がする。
 琥珀さんがまたどぽどぽとウィスキーをカップに注ぎ入れてくる。

「アルクェイドは胸だけが良いってわけじゃないからね。とにかくどこかに欠
点ってものがない身体だから……」
「そんなアルクェイドさんの胸は大好きなんですね?志貴さん」

 そりゃもちろん、と言う変わりに俺は軽くカップを持ち上げてみせると、ぐ
いーっと乾杯する。ぐほっ、とアルコールの刺激で噎せそうになるけどもそれ
も心地よい刺激になる。
 一体昼日中に何をやらかしていて何を話しているのか、よく分からない……

「じゃぁ、シエルさんの胸はどうですか?結構大きいと思いますけども」
「先輩かぁ……うん、確かにね」

 俺は頷く。先輩の胸も確かに立派なものであった。頭の中に思い浮かぶのは、
裸の上にワイシャツを着ている先輩の姿。前のボタンは全て外れていて、胸が
ワイシャツの白い布地をぐっと持ち上げ、胸の合間に大きな谷を作る。
 下にはストライプブルーのショーツが見えるけども、引きつけられるのはブ
ラもしないでその存在を誇示する胸、胸、おっぱい。

 うんうん。と感慨深そうに頷く俺に、琥珀さんはウィスキー瓶を揺らしなが
ら俺を覗き込んでくる。

「でも、アルクェイドさんほどでもないと?」
「ううーん、確かに形というかこう、観賞用としてはアルクェイドの胸は最高
だからなぁ……でも」
「愛玩用はシエルさんですね?さささ志貴さん、まだまだ飲みが足りませんね、
ぐぐぐーっと」
「や、これは恐縮」

 あられもないことを言いながら、お酌する琥珀さんと調子に乗って飲む俺。
 ……ウィスキーってアルコール度数高いような気がしたけども、なんかどう
でも良くなってくる。ほふんほふん、と鼻が勝手に歌を歌い出すようで、俺は
襟元を緩めて熱い体の熱を放散させようとした。

 そう、愛玩用というか愛撫用というか先輩のおっぱいは……いい。
 アルクェイドの胸もボリュームも弾力も申し分ないんだけど、実際に触れて
遊ぶというか、えっちのときに胸を触っていたり頬摺りしたり揉んだりすると
楽しいのは先輩の方だった。身体が下に筋肉がきっちりある為か、先輩のおっ
ぱいは柔らかいけどもその全体がきゅっと立つようで申し分ない。

(遠野君……んっ、噛んじゃだめです、女の子の身体は敏感なんです……)

 とか言われながら立った乳首を口に含み、柔らかい胸を両手でマッサージす
るように揉みしだく。その胸に溺れるような快感は、他には代え難い。アルク
ェイドの胸を揉むのもいいんだけど、そこにしゃぶり付いて忘我の世界に誘っ
てくれるような陶酔が今ひとつ欠ける。

「……というわけなんですよ、琥珀さん」
「なるほど、志貴さんは赤ちゃんがお母さんのおっぱいにしゃぶり付くような
のが好きなんですねー」
「いや、男に生まれてきてお母さんのおっぱいにすがって育ってきた以上それ
は仕方ないのですよ、うん」

 ……俺はなにか、こう、饒舌に大演説していたようだ。自分の頭の中で考え
ていたはず
なんだけど、いつの間にかべらんこべらんこその内容を口にしていた。頭のど
こかでこの屋敷で先輩のおっぱいのすばらしさを説くというのは命知らずだなー、
とか思うけども。
 ……わからない、というかおっぱいが好きで何が悪いんだ、人殺しとか吸血
行為が好きとかそう言うのよりはよっぽどノーマルな筈なのに。

 世が世なら日本民主おっぱい党が宣伝カーでおっぱいの素晴らしさを説いて
走り回って可笑しくないんだよ、いやほんとに

 琥珀さんは感心したようにうんうん、とボトルを抱いて頷く。
 琥珀さんは一滴も飲んでないようなのに、軽く頬が赤らんでいて……どうし
たんだろうか?まぁ、でも、俺の頭は今度はシエル先輩の魅惑のおっぱいでい
っぱいになる。

 一度、右からアルクェイド、左から先輩のおっぱいでサンドイッチされたい、
とかそんな馬鹿げていても快感極まりなさそうなことを考えて仕舞うほどに…
…ああ、もうどうなってるのやら。

「ですがね琥珀さん?そういうおっぱいを手と目と口にしていると、あの秋葉
のナイムネもまた堪えるのですよ」
「ほぅほぅ、それはあれですね?フランスコースのフルコース責めのあとでわ
さびを乗せた鮭茶漬けを食べると胃にじーんとしみ通るような感じだというこ
とですねー?」
「良いことを言うじゃありませんか、琥珀さん」

 どぽどぼどぼ、ぐぐぐー
 ……なんか、あれだ、秋葉の飲み方みたいだった。この無謀な飲み方が出来
ると言うことは俺も遠野の立派な一員だと言うことか。いやいやもしかして最
初の琥珀さんのハーブのせいですごいことになっちゃってるのかも知れないけ
ども。

「でも、志貴さんはアルクェイドさんやシエルさんみたいな立派な胸が好きな
ものだとてっきり」 
「確かに二人の胸はいいものだけど、胸の大事なのはむしろサイズよりもひき
しまった感じであるのですよ。バスト85でウェスト60だとグラマーだけど
も、バスト100でウェスト100なら単なるでぶの脂肪で、そんなもの揉ん
でも楽しくない」
「世の中にはデブ専とかいるそうですが、そういうのは例外ですからねー」

 やけにマニアックな言葉を口にする琥珀さん。秋葉や翡翠なんかデブ専とい
う言葉は愚か、そんな趣味が存在することも知りはしないだろう。ただ、俺は
我が意を得たりとばかりに頷くと話を続ける。

「そうそう、でも秋葉のあのウェストとバストがほとんど同じ領域はスリムか
つスレンダーに引き締まった世界の究極なんだな。それに、秋葉はすごく感度
が良いし」

 アルクェイド、シエルとりっぱなおっぱいが俺の頭に浮かんでいたが、秋葉
の話になると今度はあの、見事なナイムネが思い浮かぶ。秋葉は脂肪の少ない
身体で、うっすらと肋骨が浮いているのが分かる。首筋の細さや腕の華奢さな
どはアルクェイド以上の物がある。
 そんな秋葉が白無垢の襦袢の襟元をはだけさせ、俺の腕の下に横たわる。そ
こから覗くのは桜色にうっすらと色づいた肌と、ピンクの可愛らしい乳首。

(兄さん……恥ずかしいから見ないでください……はぁ……)

 そんな秋葉の胸を襦袢の上から優しくさすると、秋葉の身体はひくひくと震
える。指を咬み、はしたない声が漏れないようにと我慢する秋葉は抱きしめた
くなるほど儚げで美しくて……

「………というくらい秋葉は秋葉のナイムネが良いのですよ!」

 俺はまたしても脳内の妄想を開陳してどどどどーん、とコップをテーブルに
叩きつける。
 心理的には今俺の背中には葛飾北斎の描く波濤のよーな、主義主張の怒濤が
押し寄せている感じだ。なんというか、飲み屋のオヤジの愚痴みたいになって
きたけども……ぷへぇ、と口から熟柿くさいゲップが漏れる。
 琥珀さんも硝子瓶をテーブルの上に置き、まるで呑兵衛が一升瓶に縋り付い
て背中を起こしているような格好でこっちを向く。その目はきらきらと輝いて
いて……

「なるほど、志貴さんも貧乳スキーでもあったんですねぇ……」
「何を仰る琥珀さんともあろう方が、胸は量じゃないんですよ、質なんですよ
これが」

 ……酔っぱらって何を主張しているのやら。
 しかし、何杯飲んでこんなに出来上がっているのか……よく分からない。

「じゃぁ、秋葉さまのご友人の月姫さんや瀬尾さんの胸も?」
「……直に見たことはないけども、きっと質の良い貧乳だと踏んでいる。晶ち
ゃんはまだまだ成長過程だからこれからいろいろんな意味で楽しめるかも知れ
ないけども」

 まぁ、聞く人が聞いたら殴られそうだな、確実に……殴られるだけで済むの
やら。
 琥珀さんはふんふん、と興味深そうに頷いている。興味深いというよりも、
節操がないと思われているかも知れないけども……でも、おっぱいに節操なん
か必要なーい。

「そうなると、シオンさんとかは微妙ですねぇ」
「シオンかぁ……いや、シオンも良いよ?確かに秋葉ほど極まっていないし先
輩ほどボリュームがあるわけでもないけども、丁度いいサイズと形だし」

 もややややーん、と頭の中に浮かぶシオンの胸。
 ベッドの上に腰掛けるシオンは、長い三つ編みはそのままで肩から胸に垂ら
し、薄紫のそれが微かに色の濃い肌に映えるようだった。片手で軽く隠してい
る胸は、その大きさを高らかに主張する程ではなくても、女性であることを隠
しきれないみずみずしさがあって……

(志貴……そんなにじろじろ眺めないでください。姫君ほどの立派なものでは
ないですから)

 そう言いながらゆっくりとシオンは腕を下ろす。小降りながらつんと上を向
いた、細身の身体に合った良い胸だ……それはあたかもみずみずしい果実をも
ぎ取られるのを待っているかのような。
 指を触れると、何とも言えない弾力感のある指触りが――

「……………という具合に」
「なるほど、黄金の中庸という訳ですねぇ……」

 しかし、酔っぱらって言いたい放題な俺。シオンは俺がそんな胸の印象を述
べていると知ったらどういう顔をするものだか……いつもの冷静な顔にわずか
な困惑を浮かべてじっとこちらを眺める、そんな顔が思い浮かぶ。

 琥珀さんはなにやら感心したように頷いている。こんな話を蕩々とする俺に
内心呆れていると思うけども……まぁ、アルクェイドから始まってシオンまで
話せばそれはなぁ。
 でも、まだ誰か言ってない……それは……

 俺がそれに思い当たるのと同時に、琥珀さんがきらりと目を光らせた。
 そして椅子をずるずると俺に近寄せると、額をぶつけそうに顔を近づけてき
て――琥珀さんの身体からゆらりとなにか、異様な空気が細波立ったような気
がした。

 そうだ、それは――

「そーですか、で、志貴さん?翡翠ちゃんはどうなんですか?」

 シオンまで口にすれば、当然翡翠の事も語らなければいけない……
 でも、双子の妹である翡翠を溺愛する姉の琥珀さんの前でそんな赤裸々な妄
想話や体験談をすることは躊躇われるが、だからといって完全黙秘を貫き通す
のも無理っぽい話だ。

 口の中からすっと言葉が融けて消えていき、俺はどう答えたものか……琥珀
さんはなおも目を輝かせながら、ごちんと額をぶつけて俺の目を覗き込んでい
る。熱いのはアルコールのせいか、それとも琥珀さんへのプレッシャーか、ど
っちか……分からない。

「う……」
「志貴さん?アルクェイドさんやシエルさん、シオンさんに秋葉さままであれ
ほど克明に胸に対する萌えな拘りを見せてくれた志貴さんですから、翡翠ちゃ
んの胸にも思い入れはありますよねー?」
「ううう………」

 琥珀さんは俺の心の中にぐさぐさと刺さる視線を注いできた。見えるのはア
ンバーブラウンの光彩と黒い瞳孔の中に戦意に似たものを浮かべている、やる
気まんまんの琥珀さん。俺は小刻みに身体が震えるのがわかった……あの四人
のことを如何に論評しても無害だが、琥珀さんに翡翠のことを言うのは違う。

「あああう……いや、その、それは」
「志貴さんのお話を伺うと満更想像ではないよーですし、もっちろん翡翠ちゃ
んの胸のこともご存じですよね?」
「あう……それは……」

                   

                                      《つづく》