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ふたり遊戯

                                稀鱗



「はぁ…。」

 志貴の吐く息で目の前が真っ白に染まる。肌を刺すような寒さに足元は白銀
の雪。前を見れば白銀の世界は闇に染まっている。光の消えた遠野家。志貴は
屋敷から抜け出していつもの離れへと向かう。
 離れへと続く道。降り積もった雪の上に離れへと足跡が続いている。その足
跡は、降り積もる雪で半分くらい見えないくらい。

 「琥珀さん、先に行ってるんだ。」

 志貴は雪の中で呟き、離れへと歩を進めた。
ざくっ、ざくっと歩を進めるたびに音が鳴る。その音を奏でながら離れの前へ
とやって来た。
志貴は離れの玄関を開け中へと入る。外の肌を刺すような凍てつく空気とは違
い、離れの中は心地よい暖かさだった。羽織ったコートについた雪を払い中に
上がる。そして、志貴が離れに来る時に必ず入る部屋に向かう。そこに、琥珀
さんが待っているはずだから。
 部屋の中には明かりが灯り、明かりに照らされて出来た影が障子に浮かんで
いる。
 和服にリボン、毎日変わること無い姿。そして、それを映した影。
 志貴はその影を確認し、障子を開けて中に入った。

 「こんばんは、琥珀さん。」
 「あ、志貴さん、こんばんは。外は寒かったでしょう。ささ、早く入ってく
ださい。」

 志貴は琥珀に誘われて部屋の中に入る。そして、琥珀が用意しておいた炬燵
に両足を入れる。もちろん、志貴は琥珀の隣に座る。

 「琥珀さん、ごめんね。琥珀さんに炬燵を用意してもらって。」

 志貴は申し訳なさそうに言う。琥珀は、

 「いえいえ、志貴さんのお願いですから。それに、こういう和室には炬燵の
方が似合うじゃないですか。」

と、さほど気にした様子も無く答えた。
 部屋の中心に置かれた炬燵が一つ。別に、掘ったのもではなく普通の電気式
の炬燵である。ここに炬燵を置こうと思ったのは、よくここに志貴と琥珀が夜
中に屋敷を抜け出してやってくるためである。特に冬は寒くてなかなかここに
来ることは出来ない。そのために、志貴は炬燵を置こうと思った。しかし、志
貴は秋葉に頼む訳にはいかず、いつも一緒にここに来ている琥珀に頼むことに
した。

 「ささ、志貴さん。お寒いでしょうから、温かいお茶でもどうぞ。」

 と、志貴の前にお茶の入った湯呑みを差し出す。志貴に出した後に、琥珀は
自分の分のお茶をいれて自分の前に置く。
 無音の時間。ただ、炬燵机の上に置かれた湯呑みから立つ湯気だけが時間を
刻んでいく。二人は寄り添い、お互いの温もりを感じあっている。
 二人は無言でお茶をすすりながら、白い妖精の舞い落ちる景色を眺めていた。
妖精達は、部屋の二人を見ては志貴達の視界の外へと消えていく。儚さか、志
貴は妖精達を見て、

 「綺麗だね…。」

と、呟いた。

 「え……。」

 志貴の言葉に、琥珀は志貴の顔を見た。

 「いや、舞い落ちる雪がとっても綺麗でさ。」

 志貴の言葉に、機嫌を悪くしたのか琥珀はふいっと横を向いてしまった。そ
の事に、志貴は何が起こったのか分からなかった。

 「琥珀さん、どうかしたの?」
 「別に、なんでもないですよ〜だ。」

 琥珀はすねたように志貴の肩に頭を擡げる。志貴は少し困った顔をしながら
も琥珀の肩に手を伸ばした。お互いに触れ合った部分が温かく、心地よい。琥
珀から微かに香る石鹸の匂いが志貴の心を蕩けさせる。
 また二人は何も言わず肩を寄せ合ったまま外を眺めている。
 しんしんと降り続く純白の雪。二人の辛い過去を白く覆い尽くしてしまうよ
うな雪。その白さは全てを白紙に還してしまいそうで……

 「志貴さんッ!」
 「え……こ、琥珀さん!?」

 突然、琥珀が大きな声を出した。あまりに突然だったために、志貴は驚き琥
珀のほうを見た。琥珀は上目使いに志貴のほうを見ながら。

 「志貴さん…、あの、雪と私・・・どっちが綺麗ですか。」

 琥珀の問いに志貴は、

 「勿論、琥珀さんだよ。」

 と、迷う事無く答えた。琥珀は、む〜、と言う顔をして、

 「志貴さん、嘘ついています。本当は雪の方が綺麗だと思っているくせに。」

 琥珀は志貴の胸に顔を埋めて志貴の胸をとんとんと叩く。それは強くは無く、
まるで子供が駄々をこねるように叩いていた。

 「本当だって、琥珀さんのほうがずっとずっと綺麗だよ。」

 志貴の言葉をよそに、琥珀は叩きつづける。

 「じゃぁ、なんで雪を見て私を見てくれないんですか。志貴さんはさっきか
ら外ばっかり見…ん、んむぅ。」

 志貴は琥珀を抱きしめて、唇を重ねた。そして、そのまま琥珀と一緒に畳へ
と落ちていく。志貴はゆっくりと琥珀の唇を犯していく。荒くなる志貴の息に
琥珀の顔はほのかに紅くなり、眼は微かに潤んでいた。
 ゆっくりと、志貴は唇を離す。瞳を潤ませた琥珀は真っ直ぐに志貴を見つめ
る。
 志貴はもう一度軽く琥珀の唇に重ねた。

  「志貴…さん。もう、志貴さんは上手ですね。いつもこうやって、女の方
を落としているんですか。」

 志貴は、笑って、

 「そんなことは無いよ、こういうことをするのは琥珀さんだけだから。」

 と言った。琥珀は、ますます顔を紅くして、もごもごと口を動かし何かを言
いたそうであった。
 志貴は、横になった琥珀を後ろから抱きしめ、胸にそっと手を置いた。ゆっ
くりと着物の上から優しく揉みしだく。ふよんふよんとやわらかい感触が志貴
の手に伝わる。

 「あ、ん、だめぇ…。」

琥珀の声を無視して、志貴は胸を弄ぶ。そしてゆっくりとゆっくとその手が和
服の中に入っていく。服の下は下着など無い。志貴の手が琥珀の素のままの肌
に触れた。

「きゃっ、志貴さん、手が冷たいです。」
「琥珀さんの胸、とっても温かいよ。それに、柔らかくて気持ちいいし。」

胸の先端を指で挟み、適度に刺激を加える。力を込めるたびに琥珀の体が小さ
く跳ねる。
もう片方の手が、琥珀の下半身に伸びる。服を捲り上げて、秘裂を探す。それ
は、すぐに見つかり、志貴はそれに軽く触れる。

ぬちゃ

と、いう音がするほど濡れ、ヌメリを帯びている。

「琥珀さん、ここ、すごく濡れてるよ。感じちゃった?」

意地悪な顔をして、志貴は琥珀の耳に囁く。琥珀の顔が、さらに赤みを増す。
琥珀は抵抗をしようと試みるが、志貴の指は秘裂から離れない。志貴は、少し
ずつ焦らすように指を中へと沈めていく。

「ん、ふぁ…ああぁああぁ……。」

琥珀の声により一層色が混じる。その声につられるように志貴の指が襞を掻き
分けながら奥へと進む。
奥から溢れ出る愛液で、指は濡れ、服へと伝う。

「あ、ん、志貴さん?」

志貴は愛撫を止め、埋めた指を引き抜いた。琥珀は不満そうに後ろの志貴を見
た。志貴は、そんな琥珀に、引き抜いたばかりの指を見せた。

「ほら、琥珀さんのエッチなお汁で濡れているよ。」

琥珀の愛液で濡れた指を琥珀の目の前に出し、志貴は囁いた。
それを見て琥珀は、恥ずかしそうに目をそらす。

「ち、違います。これは、志貴さんがいじわるするから…。」
「違わないさ、だって、指を入れる前から濡れてたじゃないか。」

そう言うと、志貴は琥珀の口へと指を近づけた。濡れた指を琥珀の唇にあてる。
琥珀は逆らう事無く、その指を口に含んだ。そして、ゆっくりとしゃぶり始め
る。

「ん、ん、んちゅ、ちゅ、ん、ちゅ……。」

音を立てて、指についた液を舐め取っていく。指にねっとりと舌をはわし、志
貴の指に快感を与える。その舐め方はさながら翡翠のようである。
琥珀は舐め終わると指を口から離す。

「志貴さん、酷いです。お返しに、志貴さんを虐めて差し上げます。」

そう言うと、琥珀は志貴に向き直り志貴の股間に手を伸ばした。伸ばした手の
先は、大きく膨れ上がっている。琥珀は、ズボンのジッパーを下ろしペニスを
引きずり出す。

「こ、琥珀さん!?」

志貴は腰をひいて逃げようとするが、今は半身が炬燵の中である。炬燵の足に
阻まれ志貴は逃げることが出来なかった。それを見た琥珀は志貴のペニスをぎ
ゅっと握って、志貴の顔を見る。
握られた痛みか、志貴は少し顔をゆがめた。琥珀はそれを見て微かに微笑む。
そして、手を少しづつ動かし、扱く。その動きは強く、弱く、波を付けながら
まるで志貴のペニスをおもちゃの様に扱う。
手を動かすたびに志貴のペニスは大きくなっていく。
それを感じた琥珀は志貴の方へ身体を動かし、ペニスの先端を股で挟み込んだ。

「こ、はくさん!?」
「ん、志貴さんのとっても大きい…。」

琥珀はそう言うと腰を少しづつ前後に動かす。琥珀は炬燵の中と言う限られた
空間で可能な限り動く。熱く火照った秘裂とそこから溢れる液で滑らかにすべ
り、志貴に快感を与え続けた。
志貴のそれは、今にも破裂しそうなほど大きくなっていた。

「こ、琥珀さん。も、もうだめだ。このままじゃ。」
「うふふふ、いっちゃって下さい。」

ペニスがひとまわり大きくなったかと思うと、先端から白濁液を吐き出した。
それは、あらわにした陰唇へとかかる。

「あ、熱いです。志貴さん、いっぱい出しましたね。」

秘裂へとかかった白濁液の熱にうかされるように琥珀は呟いた。そしてかかっ
た白濁液を指で陰唇へと塗りたくる。その行為が終わると、琥珀は志貴へと体
を預け、

「志貴さん、気持ちよかったですか。」

と聞いた。志貴は、

「うん、やっぱり琥珀さんじゃなきゃな。」

と言った。
志貴は琥珀を抱きしめ、炬燵の中に潜る。そのまま、抱き合って二人だけの時
を過ごした。


―――――その後


「もう、志貴さんたらいつもこんなシチュエーション考えるんですから、それ
に合わせるのが大変ですよ。」
「でも、琥珀さんも楽しんでいるんでしょ。」
「そ、それはそうですけど…。志貴さんたらいつもエッチなシチュエーション
ばかりじゃないですか。こう、普通のもたまにはしたいと思う時があるんです
よ。」
「それは、琥珀さんが好きだからついついエッチに虐めてみたくなっちゃうん
だ。眼を潤ませた琥珀さんはとっても可愛いし。」
「も、もう、志貴さんたら…。」

あのあと、二人は炬燵の中から出て、肩を並べてお茶を飲んでいた。
あの行為は、志貴の考えた空想。そして、秋葉や翡翠に内緒でここにやってき
て二人でその空想を演じる。最初は興味本位、そして今はお互いに楽しんで演
じている。
それは、幼い頃、琥珀と遊ぶ事が出来なった事への志貴の思い。
“いっしょに、あそぼうよ。”、それは窓際の少女に投げかけた言葉。それを
8年の歳月を経て二人で実現している。
演じる事は慣れた琥珀。
そして不器用な志貴。
しかし、こうやって肩を寄せ合う事は、決して演技ではない。肩の触れ合う暖
かさはまぎれもなく現実。最初は戸惑った琥珀も、今は志貴の肩に身体と心を
預ける。

それはお互いに、思いあっているから。ただ好きだから…

それだけの理由。


「志貴さん。」
「何、琥珀さん。」

琥珀は志貴のほうを向いて、
「次は私に考えさせてください。きっと、楽しいシチュエーションにしますか
ら。」
と言った。それを聞いた志貴は、

「そうだね、琥珀さんが考えるのも面白いな。」

と、呟いた。それを聞いた琥珀さんは、
「志貴さん、約束ですよ。やっぱり駄目なんて言わせませんから。それじゃ、
志貴さんが約束を破らないように指切りしましょう。」

と言って、琥珀は小指を志貴のほうへと差し出した。志貴もそれに応えて琥珀
の小指に志貴の小指を絡ませる。そして、琥珀は楽しそうにこう言った。

「ゆーびきりげんまん、うそついたらこはくじるしの(かなりあぶない)おく
すりのーます。ゆびきった。」
 
〔了〕


―――あとがきという言い訳

 ……何て琥珀さん物は難しいんだろう。稀鱗でつ。
 なんやかんややっていたら、こんな話になりました。
ほのぼの?、疑問符つきまくりです。
 こんなSSですが、楽しんでいただけたら幸いです。

                         (蓮台野夜行を聴きながら)