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男の絶頂
                          西紀貫之


 晶は小脇に藁半紙の束を抱えて、板張りの廊下をてくてくと歩いていた。
 日も傾きかけた土曜日の放課後、中等部と高等部の生徒会室へと続く渡り廊下に
彼女は出る。

「予算案……OK。出資報告書……OK。部活動の会計報告書……OK」

 手もとの帳簿をチェックしながら、ろくに前も見ないで小走りになる。生徒会室は目
前だった。
 突き当たりの正面。防災機能もある観音開きの鉄扉が見えてくる。プラスチックの
プレートがかけられており、古めかしい行書体で「生徒会本部」と書かれている。脇
にはアンケートボックスとメモと筆記用具が置かれた棚があり、大きく「目安箱」とも
書かれている。
 トテトテと扉の前に行くと、一旦立ち止まって深呼吸する。

「ふー」

 もじもじしながら、目安箱の蓋をあけてみる。
 何も入っていなかった。何か入っていたとしても生徒会の誰かが回収してる可能性
も合った。

「なんもないかぁ」

 ノブを見つめながら、もう一回持ってきた書類のチェックをはじめる。

「予算案……OK。出資報告書……OK。部活動の会計報告書……OK……よねえ」
「……なにグズグズしてるの?」

 後ろから、それも耳元で声をかけられて、ギョっと身を竦める。

「入れないわよ、瀬尾」
「す、すみませんっ」

 高等部の生徒会副会長の遠野秋葉に気が付き、晶は扉の前から二歩ほど横にどく。

「はいらないの? 定例会でしょう」
「あ、は、はい」

 言われ、慌ててノブを回して室内に入る。……で、ドアを開けたまま秋葉にどうぞと声
をかける。

「ありがと」

 当然と言った風に秋葉は入り、早々に高等部のメンバーと挨拶を交わしている。

「はふー」

 とりあえず一息ついて、晶は自分の席についた。
 中等部のメンバーはまだ誰も来ていなかった。

「……どうしたんだろうみんな。もうすぐ始まるのに」

 こわーい年長者を前に、よく遅れて来れるなと晶は身をふるわせた。
 高等部の秋葉を筆頭に、晶は人数を数える。
 ひーふーみーよー。
(あれ? 会長さんがまだみたい)
「さて……と」

 と、秋葉が双掌を打ち鳴らして立ちあがる。

「はい、はじめるわよ」
「へ?」

 晶が逡巡しているあいだに、数人の役員が動いてドアの鍵をしめ、カーテンを下し、
室内灯を点ける。

「へ?」
「さ、定例会をはじめるわよ」

 副会長の秋葉が、会長を待たずに言い放つ。
 順順に着席していく他の役員は、これといって疑問に思うわけでもなく清ました顔
で秋葉を向いている。

「きょ、今日は生徒総会の議案書作る打ち合わせ、じゃなかったのかな」

 確かに時期的にそのはずだし、つい先日の中等部生徒会でもそのこと言われた
し……。

「さて、今日の議題です」

 秋葉がホワイトボードに向き直り、大きく書き始める。

「…………っと」

 ペンのキャップを閉め、秋葉はくるりと振り返り着席する。
 ホワイトボードには秋葉の几帳面そうな字でこう書かれていた。

「瀬尾晶嬢の膜の破り方」

 
 きっかり三秒、晶は固まった。

「って、あたしですかー!?」

 構わず、秋葉は役員の一人を促してプリントを配り始めさせる。

「今手元に回っているのは今回の資料です」

 膜の破り方という字に固まりつつも、晶の卓にもそのプリントは置かれる。

「せせせせせせ、生徒総会の、あのあのあの」
「プリントをご覧下さい」

 無視して秋葉は促す。
 釈然としないまでも、晶は目をプリントに落とす。

兄「…………むにゃむにゃ」
妹「ふふふ、寝顔も可愛いっ」
兄「んー。……むにゃ」
妹「好きよ、兄さん(ちゅっ)」
兄「……んー、俺も好きだよ。あ……あき……」
妹「あらあらまぁまぁ」
兄「あき……あきらちゃん。むにゃむにゃ」

 A4の紙に、それだけが大きく書かれている。
 晶は愕然とした。

「ということがあり、瀬尾晶の遠野志貴への危険性をかんがみて、今のうちに処理
しといたほうがいいと思いますが……とりあえず可決をとりたいと思います」

 秋葉が見まわしながら言う。

「では、賛成、『膜やぶっちゃおう』と言う方は挙手をお願いします」

 速攻上がる多数の手。
 晶は呆然としてたが、キョロキョロと周りを見渡してオロオロしはじめる。

「え? え? え? え? え?」
「瀬尾っ!!」
「はいいいいいいいいい!」

 と、秋葉の怒号に条件反射のように手を挙げる晶。

「あ」
「全員賛成ということで可決……ですね」

 秋葉が席を立つと、役員があわただしく動き始める。
 瞬く間に長机が片され、四人がかりで隣の準備室のほうからベッドが運ばれてくる。
 何人かは秋葉の制服を脱がし始め、当然のように秋葉は目を瞑ってそれに身を任
せている。まるでメイドに服を脱がせているかのような錯覚を覚える。
 そんな慌しい動きを呆然と見つめながらパイプ椅子に座っていた晶は、急に脇から
手を入れられて立たされると急に素に戻った。

「ななな、遠野先輩これはなんなんですかー!?」
「百合の園よ。今日は膜破ってあげるから観念しなさいね」

 下着姿の秋葉が当然そうに言う。

「ななな、なんでー!?」
「質問に答えてあげるわ、瀬尾。まず貴方の膜を破るのは兄さんに手出しさせないた
め、私が貴方の相手をするのはいじめたくなるあなたがいけないのよ。わかった?」
「わかりませーん!」

 じたばた騒ぐが、両脇からがっちり支えられて逃げることもかなわない。

「先輩にそんな趣味があったなんてー!」

 ベッドにつれていかれるなか、晶はじたばたしながら唯一自由な口を使って抗議する。

「女子高で百合なんて珍しいとは思わないけど?」
「ひー、そんなのは都合の良いお話の中だけですよー!」
「それはちがうわ。たとえどんなに迫害されようとも、たとえノンケやノーマルな人間が
大多数を占めようとも、女子高から百合がなくなることなんてないのよ!」

 ブラを取って両手をわきわきさせながら秋葉が言い放つ。

「そ、そんな部屋に必ず落ちてる陰毛みたいなもんなんですかー!?」

 どさりと晶の体がベッドに投げ出される。

「毛も生えてないあんたがそんなこと言うもんじゃありません」

 晶は両手をベッドの端から伸びている手錠で固定されながらあきらめた口調で呟く。

「もう生えてますよぅ」

 万歳型に拘束されて、ぐすんと鼻を鳴らしてから、晶は周りの空気が固まっているこ
とに気がついた。

「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」

 いままでの熱気が嘘のような、凍りつくような沈黙であった。秋葉なんかは顔が青く
なりつつある。

「……生えてるの?」

 搾り出すような秋葉の問に、晶は曖昧に笑って答えた。というか、笑うしかなかった
と言う方が正しいかもしれない。

「確かめなさい」

 秋葉が指示を飛ばすと数人の役員が晶の下半身に群がり、両足を押さえ込むとス
カートをめくってパンツに手をかけてきた。

「きゃっ」
「瀬尾、静かに!!」
「はいいいいっ!」

 またも条件反射的に身を硬くする。
 めくられる感触と、秘部が露になった感触で晶は顔を真っ赤に染める。

「秋葉さん、生えてます! 陰毛確認です!」
「お尻の方まで確認しなさい!」

 言うと晶は後転するかのように腰を浮かせられる。

「……肛門周辺には生えてません!」
「ふう……」

 秋葉は安心したため息をつき、役員がカバンから出してきた安全かみそりを構える。

「やっぱり剃らなきゃね」
「ななななな、なんでですかー!? せっかく良い感じに生えてきたのにー」

 じたばたじたばた。

「そんなの瀬尾じゃないからよ」

 あっさり斬られ、晶は真っ赤になったり真っ青になったりで閉口せざるを得なくなる。

「シャボンをつけないから赤剥け覚悟よ、瀬尾」
「ひいいいい」
「おとなしくしなさい、いいわね?」

 ベッドに上がる軋みが聞こえ、秋葉は晶の丸出しの秘部に顔を近付ける。

「あら、こう言うときはすこしは濡れておくものよ? ものの道理を分かってないのね」
「無茶いわないでくださいよぅ」

 鼻声でうなだれる晶。
 そのデルタゾーンに硬いものが当てられる感覚が走る。
 あ、と思う前にジョリっという音が静かな室内に響く。ともすれば熱っぽい呼吸音しか
聞こえない室内に、軋みと毛を剃る音色が這う。

「……ほーら、赤ちゃんみたい」

 秋葉はつるつるになったそこを撫で、妖しく笑う。

「うう、ひりひりしますぅ」
「んふふ……」

 秋葉は恥丘をねっとりとした舌使いで舐め始める。

「あ……ああ」

 未体験の感覚に、晶は内腿を刷り合わせる。

「逃げないの。……さて、どんな感じで膜を破ろうかしらね」

 と、ベッドを囲むようにして見物している数人の役員が一斉に挙手しはじめる。

「あらあら、それでは順番に発言してくださる?」

「優しく愛撫したあと、一気に膣口に指三本はどうでしょう」
「やっぱりペニスバンドで一気に貫く方が」
「双頭バイブで行くのが浅上正統百合の道です」
「いっそのことバイブ二本で後ろもろとも再起不能にしては」
「拳で」

 みんなうんうん頷きながら秋葉の裁量を待つ。

「そうねえ」

 股間剥き出しの晶の体を見下ろしながら、秋葉はポンと手を打った。

「ローションとピンクローターと双頭バイブでいきましょう」
「賛成!」
「賛成!」
「賛成!」
「賛成!」
「賛成!」

 かなり満場一致で可決される。

「ふふふ、優しくなんてしてあげないから」

 用意された双頭バイブにローションを塗りたくりながら、能面のように凍りついた
笑みで晶に笑いかける。

「ひー!」
「ふふふ、覚悟して膜を破られなさい」
「目が据わってます遠野先輩ーっ」

 ぬりぬり。
 股間の冷たい感触に息を飲む晶。

「かわいい割れ目。まだ自分でも弄くってないようね」
「か、堪忍してくださいいい」
「もう、聞こえない……わよ!」

 バイブの一端を自分の秘裂に埋め込み、秋葉は松葉崩しに足を絡める。

「さぁ行くわよ……」
「……ひっ」
「……んっ!」
「ああああああああああああああっ!!」





 というところで飛び起きた。

「……ま、また変な夢を」

 寝汗で嫌な感じの胸元をパタパタ扇ぎ、秋葉はうーんと唸る。

「でも……」

 秋葉はぼそりと「いいかもしんないわね」と呟いた。
「とりあえず、臨時の生徒会を召集しなきゃね。あらいやだ、私ホントに百合なの
かしら……」
 ふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……。


 そう決心する秋葉を窓辺の木の上から見ていた黒猫は、ちょっと得意げにニャア
と鳴くと、志貴の部屋の窓辺に降り立った。



<完>