シロウ、チョコレートは好きですか?」
「………何?」


「ビターライフ」

                           ぜん


今年の冬は雪が頻繁に降る。
冬木の町もすっかり白くなってしまった。
そして新都のデパートや地元の商店街はバレンタインセールで大忙し。
もうすぐそこに二月十四日が来ているからだ。

買い物している途中、商店街では女子生徒が多く目に付いた。
これから好きな相手にチョコレートを渡しに行くのだろう。
多くの子は目を輝かせながら、ショーケースを眺めている。

その集団の近くで、セイバーらしき人を見つけた。

少し隠れて見ていようと思ったが、かなりの挙動不審である。
周りを何回もキョロキョロしながら同じ所をグルグルと回っている。
これでは怪しい人扱いされてしまう。
つーかやっぱりセイバーだな、ありゃ。
もっと見ていたいという好奇心を振りほどき、とりあえず後ろから近づいて声をか
けた。

「セイバー、何してるんだ?」
「―――っっっ!?シロウッ!?」

急速で振り向くと同時に、あたふたし始めた。
「あっあの、コレは! あっ、凛が教え、えっと――」
そしてバタバタし始めた。
コッチは何がなんだか全く分からない。
「セイバー、落ちついて話してくれ。ろれつ回ってないぞ?」
「えっ、あ―――ハイ。」

とりあえず鎮火したようだ。
大きく肩で息を吸い込んで、そしてゆっくり吐いていく。
そして一言、口にした。

「シロウ、チョコレートは好きですか?」

………えーっと、そうだ。

「………何?」
違う!違うだろう!
俺は何を言ってるんだ!?パニくって混乱してるのか!

「あー…うん、好きだよ。」
「そうですか、ではまた後で会いましょう」
そう一言残して、騎士王はスタコラサッサと走っていった。
いや、違う。走ってはいない。
ただセイバーは走ってないのに徒歩のスピードを超越していた。

「……なんだ?」
もの凄く呆気ない。
心の中にはどうしていいのか分からない自分が一人。
それと、この急な展開に二号のハンドルをガッシリと掴んだまま固まっている自分
がここに一人。

「なーにしてんだ?衛宮。」
「うおっ!?何だ蒔寺か…」
蒔寺が後ろからヒョコっと顔を覗いてきた。

「何だとは失礼だなー、私だって傷つくぞ?」
「蒔の字、君はそんなに純情無垢な女の子だったかな?」
「こんにちは衛宮君、今日は買い物?」
「あぁ、こんにちは三枝さん。」

そこには冬木の黒豹と愉快な仲間達がいた。

「ほほう、主婦だな衛宮。コレは今晩の食材かね?」
「ご名答、家では腹ペコさんが待ってるんでね。氷室こそ何してるんだ?」
丸い眼鏡がキラリと光る。
「無論、チョコレートを買いに来たのだが、変かね?」
「………蒔寺とかもか?」
「当たり前じゃん、めったに来ないよ、こっちの商店街。」
「三枝さんも、チョコを?」
「う…うん、作りたいから…」

「…………彼氏いたのか?氷室達って」

「「「……え?」」」

いや、三人同時にカブらても困る。
「あ、アホかぁー!違う!彼氏なんかいない!好きな奴もいない!」
「衛宮、どうやら蒔は純情な女の子だそうだ、優しく接してみては?」
「だそうだ、って何だー!?」
「いいから、街中で少林寺木人拳をキメるな。俺が恥ずかしい。」

槍(ゲ○・ボルグ)を持ったお花屋さんを思い出すだろうが…!

「あのね、毎年お互いに作りあってお互いで交換してるんだ。」
「あ、そうなんだ…へぇ……」
以外だ…あの蒔寺がチョコレート作れるなんて……
「含みがあるな、衛宮。素直に言ってみるがいい。」
「あ…いや、乙女チックだな…ってさ。」
「ふむ…確かに普通なら聊か行き過ぎな点もあるだろう。」
「いや、そう言う意味じゃないんだが……」
って言ってみたけど氷室女史はなにやら一人で考えている。
だが、直ぐに意を決したように顔を上げた、少し赤かったけど。

「よし、衛宮。十四日を待っているがいい。きっと良い事が起きる。」
「え…バレンタインの日か?」

「……おい、氷室。まさか…」
「鐘ちゃん…え?うそ?」
後ろの二人はオロオロしていた。

でも俺は何がなんだか分からないので、とりあえず頷いておいた。
「よし、では私達はこれで失礼する。時間をとらせてすまなかったな。」
「あ、あぁ…いいんだ。じゃあ…」
三人とも少し頬を赤らめて帰っていった。
あの顔に何か意味でもあるのか…?

「見たよー、衛宮―♪」
「…あ、美綴。見たって…何をだよ…?」

そこには弓道部の顔なじみがワクワクした顔で立っていた。
「いや、何も言わなくていいよ…自分から頼むとはねぇ…プライド捨てた?」
「何の話かは分からないけど、プライドはそう簡単に捨てないぞ。」

「あれ、氷室達にチョコくれって言ってたんじゃ?」
「――――――何でさッ!?」
憤怒が俺の心を覆う、そりゃあ声も大きくなるさ。
「あ、違うの?」
「当たり前だッ!誰がそんな悲しい事するか!」
この衛宮士郎、女には弱くても己の意思だけは貫き通す!
「ふーん、誰もいなかったらどうするの?」
「…ロンリーナイトだろうな。別に悲しくは無いけどな。」
でも本当にいなかったら―――とてもじゃないが…キツすぎる。

「あっはっはー、見栄張っちゃって♪」
「…確かに、ちょっと強がってた…」
でも一昨年くらいまではそうだったんだよな…
いや、貰ってたけど、藤ねぇに。

「まぁ、誰もいなかったら――――私があげようか?」
「……え?」

「あ………実典のついでね!勘違いしないでよ!」
「あぁ…いや、ありがとう。」
正直、ビックリした。
美綴の奴いきなりドキッとする事言い出すからな…
「んじゃ、複雑だけど、来る事を期待してるよ♪」
「ソレ、要するにロンリーだろ…」
「あははー、じゃーね!」
そう笑って美綴は走って帰っていった。

「……帰るか、そろそろ下準備しないとな。」
そして俺は意識を取り戻し、我が家への帰路につく事にした。




「――――――――――ッ」

なんてこったい。
家に着くや否や、なんで門番に赤鬼がいるんだ?
嫌、正確には赤い服を着た鬼なんだが……
それもどういった理由でか、何か接近阻止オーラが漂ってる気が…!
腹くくって行くしかないのか……

「ただいま、遠坂。」
あくまで普段通りに振舞ったつもりだ、冷や汗をかきながら。

「…ちょっと待って、衛宮クン♪」

首の後ろを明らかに故意でグイッ、と引っ張られた。
もちろん気管がグエッ、と潰れた。

「ガハッ!な…いきなり何するんだ遠坂!?」
「黙りなさい、士郎。色んな物打ち込むわよ。」
「―――――はい。」
その“色んな物”の見当は大体ついている。
多分、俺が学校でさんざん撃たれた物だろう。

「いい、簡単な質問するから、素直に答えてね。」

人差し指を立てて、俺を軽く威圧する遠坂凛さん。

「あぁ、無理難題じゃなきゃ、なんだって言うさ。」
「よろしい、それじゃまず一つめ。さっきセイバーに会ったでしょ?その時何か聞
かれた?」
さっき、と言うのは多分商店街での出来事の事だろう。

「あぁ、チョコは好きか、って聞かれたな。」
「―――っ!……意外と早いわね……!」
何か闘争心っぽいのが出てるんですが、気のせいかな?
「やっぱり……私も………でも……士郎は……」

「……あの、遠坂。とりあえず上がらないか?」
「え―――えぇ、ゆっくり話をしましょうか。士郎?」

あぁー、こりゃ逃げられないな。うん。


「あぁ〜〜〜疲れたぁ〜〜〜……」
遠坂の事情聴取も終わり、自分の部屋に戻る。
結局、遠坂は眼鏡まで取り出し、何やら悩みながら質問してきた。
一時間近くに及ぶ正座は、俺の歩行を平和にはさせてくれない。
だが最後の最後に、ドアノブに手を掛けた瞬間に呼び止められた。

「士郎は―――――っと、チョコ。とか、あー…食べ、ん…好き?」

セイバーと同じシチュエーションだった。

「あぁ、甘い物は大好きだよ。チョコはその中でも上位、かな。」




「先輩!」
台所で切れ味の悪い包丁と格闘していると、桜が居間に入ってきた。
「ん…どうした?桜」
「どーしたもこーしたもありませんっ!!先輩、姉さんに何を言ったんです!?」

デジャヴが発生しているな…

「それって、やっぱり魔力供給の話?」
何となくこんな事を言ってみた。
「なっ…違います!バレンタインのチョコレートの話ですっ!」

やっぱりなぁ…
桜も同じ事考えてるんだろうな、姉妹だし。
「あぁ、チョコは好きかって。それがどうかしたのか?」
「…モチロン好きな人にお渡ししますよ、今年こそ!」
「へぇ、去年は渡せなかったのか?………!?」

口にした途端、桜の周りがブルーになっていった。

「え、えぇ…ちょっと……いろいろありまして…………」

な…なんか黒くなってません!?

「そ、そうか。んじゃ渡せるといいな、今年こそは。」
流石に立ち入っちゃいけない領域だと踏んだ…!

「えぇ、とびっきりなのを作ります!」
「よし、んじゃその前にとびっきりの晩御飯を作ろう、そろそろ藤ねぇが突撃して
くるはずだから。」
「はい先輩、それじゃエプロン取ってきますね。」
「あぁ、じゃあ先に下ごしらえしとくよ。」
とりあえずビニール袋の中身を冷蔵庫へ移さなければ。

「……先輩?」
振り返りながら桜が尋ねて来る。

「先輩って…確か、あの……チョコレート…た、食べれますよね?」
「えっ…あ、あぁ、うん…好きだよ…」

それから藤ねぇが顔を出したのは、すぐの事だった。




食卓は賑やかな食事となった。
財政的に辛かった所なので豆腐でハンバーグを作ったのだが、これをセイバーが気
に入ったらしく、やはり三杯目はそっと出さなかった。
「あ、そーだ士郎。もうちょっとでバレンタインよねー。」
藤ねぇが付け合せのポテトサラダを自分の皿に移しながら、ポロッと言った。
「あぁ、あと明日だろ?」
「そーねー、例年通り。あーん…してあげようか?チョコレート」

な…なぁーっ!?なぁーにを言っておるんですかコノ虎はぁー!

「ふ、藤ねぇ!例年通りって、一回もやってないぞ!?」
うぅ…周りの視線×5が痛い…!
「なに言ってるのよー、毎年私がチョコを食べさせてあげてるじゃない♪」
「何でさ!って言うか藤ねぇが勝手に突っ込んでくるだけだろ!」

そうだ、藤ねぇったら口の中に指まで一緒に入れて来るんだもん。
確かそれで以前唇切れたんだよな…

「シロウ、今のは聞き捨てなりません。詳細の説明を。」
「そうねー、士郎ってそんなに甘えん坊だったかしら…?」
「先輩……私、気付きませんでしたよ?」
「……あーん……?」
「シロウ…あーん……って何?」

急激なスピードでアタフタする俺。
み…皆様、ご理解願いたいのですが!!

「…………私だって……あーん…やってみたいです………」

バッ!←桜への視線×6(俺を含む)

「え…?ヤダ、聞こえちゃいました…?」
赤くなりながらオロオロと戸惑う桜。
そんな発言を許すほど甘い考えを持つ者は、少なくともこの屋敷には一人しかいな
い、虎ね。

「桜、アンタこの頃調子にのってるんじゃないの…?」

うわぁー、赤い悪魔だぁー。

「姉さんこそ、この頃になって…押しが足りないんじゃないんですか…!」

うわぁん、こっちは黒いよー。

そんなガクガクブルブルしてる俺に、ライダーとイリヤが話しかけてきた。
「士郎、あーん…とは何でしょうか?」
「シロウ、ワタシもわからない。食べれるの?」
「え、食えないぞイリヤ。」

そりゃそうだろうなー、ライダーはギリシャ神話の伝説の中の人物(?)だし、イ
リヤなんて、セラは知ってるだろうけど真面目だからやらないだろう。
リズはしそうだけど。

この説明は難しい、難しい、と言うよりも、しづらい。
「えーっとな……えぇー、……」
言葉を選ぶ。って言うよりもどう説明していいのか迷う…!
「口頭では難しいのですか?士郎」
「いや…簡単だ、もの凄く……」
と言ってもやはり黙ってしまう。
アッチはアッチで赤VS黒だし、セイバーは藤ねぇと食事再開してるし。
あぁ…俺の豆腐ハンバーグ取られた…やめてよお姉ちゃん…

「では、私に実践してみて下さい。」
ライダーはサラリと言った。
「無理です。」
俺もサラリと言ってみた。
「―――――――――、そうですか。」
ライダーと実践なんかしたら桜が令呪使って阻止しそうだからな…

「ねーねー、シロウ、私には?」
「うーん、イリヤだったら出来……や、やっぱり恥ずかしいからダメ!」
自主規制。流石に妹っぽいからやりやすいかもしれないけど、恥ずかしすぎる。
確かにライダーよりはやりやすい。
だがしかし、実践しては世間体的にどうか、と。
「仕方ないから口で説明するよ、あぁ恥ずかしい…」
何で俺がこんな目にあわなきゃいけないの…

「えっと、食べ物を相手に持ってもらって、あーんって言ってもらうんだ。それで
コッチがあーんって口を開いて食べさせてもらうって事…なんだけど」

コレで大体あってる筈だが……

「――それだけですか?」
「――それだけですが…」
「――意味はあるの?」
「――多分。いや、無いとあんなに恥ずかしい訳が無い。」

意味不明だ。俺もライダーもイリヤも。
ライダーは拍子抜けの模様、イリヤの方は多分この行為の意味が分からないんだろ
う。
でも何で俺は敬語になってるんだ?

「……やはり実践するしかないようです、士郎、協力してください。」
「あ、ずるいライダー!私もするー!」
「だから無理だって。隣、ちょっと見てみな?」
右手の親指で右のほうへクイクイと指示する。
すると庭では赤黒い戦争が勃発していた。
お互いに指一つ動かさず、睨みあいながらオーラで格闘している。
なーんか…魔術ってこんなに簡単に使ってよかったっけ?
あ、ホラ。なんかスタンドっぽいの出た。

「では士郎、こちらへ。」
「え、何?何ナニ?」
ライダーに腕を引っ張られて連行される。
これから部屋にでも連れ去られるのだろうか?
「私の部屋まで行きましょう、そうすれば見られる事も無い。」
「だっ!駄目だって言ってるだろ!」
「ライダーずるいー!持ってくなー!」

あぁ、もう!この娘達しつこいわね!

「ライダー、止まりなさい。」
「何ッ!?」
「せ……セイバー!」

振り返る。
そこには左手に茶碗、右手にエクスカリバー(箸)を持った剣士がいた。
「シロウをどこに連れて行く気です?」
あごに米粒をつけたまま、騎士王は言う。
「無論、私の部屋へ。何か問題でもあるのでしょうか?」
「えぇ、シロウは私のものです。私の許可を取ってから使用して下さい。」

――――――――――は?

「せっ、せせせせセイバー!?」
「…セイバー、それはどういう意味でしょう?」

なんか空気が歪んでませんか?
りゅ…竜VS蛇?

「ですから、シロウは私のマスターです。マスターとサーヴァントともなれば一心
同体と言っても過言ではない。ならばシロウは私のものであり、私はシロウのもの
だ。」

な、なんか今すっごく嬉しいんだけど…
「……なるほど、契約を超えた愛情。と言うものでしょう?」
「えぇ、私はシロウを愛…あっ、愛情などと!?」
セイバー、誤魔化そうと慌ててるけど逆にバレてるよ。
「士郎、少しセイバーと話をしますので、動かずに待っててください。」
うおっ、ライダーの上目使い…!?

じゃ、なかった!
「なっ、魔眼!?」
メガネの隙間から俺の目を直視しやがって!
本当に動かないや。

「はい、シロウ。あーん♪」
あ、チョコボー○だ。目の前にチョコボー○がある。
「あー、あっ、んぐっ!?っは、危ねぇーーー!」
あ…あと口を閉じるのが少しでも遅かったら……
寒気がした。

「あー、おしい!」
「藤ねぇは何言ってるんだ!」

「んじゃ、やっぱりお姉ちゃんがしてあげましょう♪」
「そーゆー事じゃなくて!」
あぁ、もう。酒でも飲んでるのかコノばか虎っ!

「タイガ!私がやるのー!」
小悪魔がっ!こ、こら!チョコボー○の封を開けるんじゃない!

「何やってんのよアンタラはぁぁー!」
キャー、赤い悪魔だー!

「なっ、先輩!私が行くまで口閉じてて下さいっ!」
桜ッ!目がイッちゃってるから怖すぎます!

「シ、シロウ!私じゃなくて誰にするんですッ!?」
まず宝具しまってから言ってくれ!眩しすぎる!

「私だけ仲間はずれですか士郎!」
お前はまず魔眼とけやっ!

この後、結局俺はみんなにあーんして、あーんしてもらって、口の中が甘くなって。
皆で歯をいつも以上に磨いてから寝た。
次の日の朝食、少し味付けを間違えたが、皆も気付いてなかった。




End




<あとがき>
ふぅ…今年もチョコ貰えないんだな…(笑)
どうも、ぜんです。
今回、初めてFateの方で作ってみました。
いやぁ、呼び方とか憶えてなかったんでゲームしながらですよ。

みなさん、士郎が羨ましいですねぇ…orz

では、またの機会に会いましょう☆
したっけ!