遠野君の60分クッキング


「はい、みなさんこんにちは。今日のクッキングを担当する遠野志貴です」
「助手の弓塚さつきです」
「「そして、今日のゲストは人気急上昇中の女優、シエルさんです」」
「どうも、シエルです」
ぺこり、
パチパチパチ。
「志貴くん、今日のメニューは?」
「シエルさんの大好物である、カレーライスです!」
「材料はにんじん、豚肉、じゃがいも、たまねぎ、カレー粉で〜す♪ カレー粉は市販のルーでも代用できます」
「じゃあ、まずは野菜・肉を切ります。さっちん、眼鏡を持ってくれるかな?」
「はい」
「みなさん、野菜や肉に限らず、全ての物には切れやすい「線」があります。その線を優しく包丁でなぞってあげてください。多少、均等でなくてもOKです」
「詳しくは「遠野シェフの魔眼でレシピ」35ページを御覧ください」


「……はい、次はカレー粉ですね。今回は市販の琥珀印のカレー粉を使います」
「今、大人気の琥珀印ですね」
「そうです、この中に666種類のスパイスが入っていて、とても風味豊かなカレーができるのです」
「このカレー粉は通販もできますので、簡単に手に入ります。テキストの60ページにある通販のページでもお買い求め頂けます。商品番号は589です」


「……はい、後は30分間ルーを寝かせるだけです」
「じゃあ、カレーができるまで、ゲストのシエルさんとお話しましょう」

(一同、ソファーへ移動)


「改めまして、こんにちは」
「はい、こんにちは」
「シエルさんは今、大ヒットの映画「月姫」でエクソシストの役をしていましたが」
「ええ、あれが映画初出演なんです」
「そうなんですか、それにしては落ち着いた演技でしたね」
「そんなことないです。内心は緊張しっぱなしでしたから(笑)」
「そういえば、志貴くんも「月姫」に出ましたよね」
「あ、そうです。シエルさんの通っている学校の後輩という脇役で出させてもらいました」
「わたしも出ていたんですけど、その部分はカットされていました……(泣)」
「まぁ、まぁ、気を落とさないで……(汗)」
「シエルさんはカレーが好きだという事ですが、いつ頃から好きになったんですか?」
「つい最近なんですよ。カレーと初めて出会ったのは日本に来た時です」
「えっと、シエルさんは確か外国に住んでいたんですよね? 本当にカレーを一回も食べた事がなかったんですか?」
「はい、実家の父にカレーは絶対に食べてはいけない、って言われ続けていましたから。だから、私もカレーは不味いものなんだな、って何となく思っていました」
「だけど、日本に来てカレーと出会った」 「はい、映画で共演したアルクェイドさんにカレー屋へ連れていってもらいました」
「そういえば、シエルさんとアルクェイドさんはとても仲が悪いって聞いたんですけど……」
ギロッ、
「……その事には一切お答えできません(怒)」
「「(うっ……、噂は本当みたいだ……)」」
「そうそう、シエルさんの実家は確か、パン屋さんですよね」

「そうです。父はインドのナンをものすごく敵視していましたから、カレーも嫌っていたんです」
「そうなんですか。じゃあ、初めてカレーを食べた時の感想はどうでした?」
「この世にこんな美味しいものがあっていいのか! って思いましたね」
一同(笑)


「では、今日のメニュー「遠野風カレーライス」です。どうぞ」
「おいしそうな匂いですね。では、いただきます」
ぱくっ、
ぱくっ、
ぱくっ、
「シエルさん、ものすごい勢いで全部食べていましたね。それでは、感想をどうぞ!!」
「ルーの風味がとても香ばしいですね。それに野菜やお肉がとてもおいしいです」
「素材の味が落ちないように、必要最低限の「線」しか切っていませんから、おいしいはずです。多少、不揃いですけど……」
「なるほど、これは今までで、一番おいしいカレーライスでした」
「「ありがとうございます」」
「それでは、シエルさんに今日のメニューとトークに星をつけてもらいましょう」
「えーっと、メニューの方が星5つで、トークの方は3つです」
「「(やっぱり、不仲説の事を聞いたのがまずかったかなぁ)」」
「「本日はありがとうございました」」
「こちらこそ」 「それではまた来週、お会いしましょう」
「ばいば〜い」




後日談


番組放映後、
「野菜の「線」が見えない。あれは詐欺だ」
「お母さんが「線」をみようとがんばり過ぎて、倒れちゃった。えーん、お腹が減ったよー」
などの主婦やその家族達の苦情がテレビ局に多数、寄せられたため「遠野君の60分クッキング」は1回目の放送だけで、その短い番組生命を終えた。



おわり