クールトー君のホワイト・デー

 クールトー君は気になって仕方がありませんでした。
 え? 何がって?
 もちろん、ご主人様の態度です。
 いつも陽気で妖気なのですが、今日はひとまわりもふたまわりも違います。
  あえていえば、はっちゃけている、というべきなんでしょうか?
 いつものこと、というのにしては、やはりはっちゃけすぎていて、クールトー君としてはドッキドキです。

 これって……恋かしら?

 なんてボケをしたくなるぐらい、ドッキドキなんです。

 …………。
 …………。
 …………。


  !

 そうです、思いつきました。
 なぜご主人様がこんなに妖気なのか! 
 どうしてご主人様がこんなにも陽気なのか!
 そうです、違いありませんとも!

 今日がおかえしの日なのです。
 なにって?
 とうぜんヴァレンタイン・デーのお返しの日なのです!

 もらってないって?
 いえいえそんなこと関係ありません。
 ノープロブレムです。
 前のご主人様でいうところの、

 そのような些事などあずかり知らぬ

 というところなんです! というところなんですよ!!

 いきりたつクールトー君。
 耳も尻尾もピンとはり、全身に力がみなぎっています。

 そうです。そうなんです!

 ご主人様は、プレゼントをまっているに違いありませんとも。
 雄として、いえ男として、いえいえ漢として、ぜったいにわたさなければなりませんとも!

 ぐっと肉玉を握りしめるクールトー君。
 ……んなことできるの? というつっこみはなしにして。

 しばし考えます。
 このご主人様がもらって喜びそうなモノといったらなんでしょうか?
 ……このあいだ狩った雀……ではいけない気がなんとなくします。
 ……この間こっそりため込んだ骨……でもいけない気がします。
 ……この間こっそり食べて口から泡をふいて大変だったヘンな植物……でもいけない気がします。
 ……なんとなく、ですけどね。

 クールトー君、ずっと考えます。真剣に考えます。
 オスだから、とかそんな些細な問題ではないのです。
 そうです。
 この群れの一員として、仲間に敬意を表したいだけなんです。
 あの陽気なご主人様と、あの無口な妹と、髪の長い怒りんぼのメスと、黒猫と、新参者の菫色のメスと、ただ仲良くやっていきたいだけなんです。
 ……リーダーはどうしたの? とつっこみをいれてはけいません。
 やっぱりクールトー君もお年頃(謎)なんですから。

 …………。
 …………。
 …………。

  !

 これならきっと喜んで貰えます。そうです、みんなに喜んで貰えるはずです。
 にんまりと笑うクールトー君。
 きちんとカメラ目線で、クールトー君的に、もっとも格好良いと思う角度、斜め23度の角度に構えてみたり。
 俺って頭いーってかんじ。
 猿知恵ならぬ狼知恵ですげと、確信があります。
 新参者の言葉を借りれば、

 …………すでに予測していました

 ですとも!
 えぇクールトー君的にそうですとも!

 ノリノリです。
 鼻歌を歌いそうなぐらい。
 狼なのにできるの? といわれそうですけど、♪ぐらいならば見せることぐらい、なんちゃって生物のクールトー君ならば可能なんです。
 そしてプレゼントを狩りに行きました。






































 「あれ、クールトー君?」

 厨房で働いているご主人様のとこにまずプレゼントをもってきました。
 ご主人様はクールトー君を見て、びっくり。
 思わず、あはー、と笑っちゃうぐらい。
 クールトー君が口にくわてもってきたものは、この群れのリーダー、でした。
 クールトー君、ない知恵を絞って絞って考えた結果が、これ。
 この群れのメスのみんなに愛されているリーダーをプレゼントすれば、喜んでもらえるに違いありません。
 クールトー君、尻尾をふりふり。胸をちょっとはってみたり。

「……志貴さん、大丈夫ですか?」

 恐る恐る尋ねてくるけど、そのあたりはクールトー君はしっかりしていますから大丈夫。
 きちんと逃げないように気を失わせていますから。
 木によいしょよいしょと爪をたてて登った甲斐がありました。
 そしてかえってきたところを、ご主人様の妹に見つからないうちに急襲。
 200kgをこえる体重でボディープレス。
 ばたんきゅーとノびちゃったわけです。
 これもフランスで覚えた作戦なんです。そのときは岩の上からで、しかも爪と牙をつかいましたけど。
 これで騎士を幾人退治したことか。
 こうして群れをあの狩り立てる人間どもから守ってきたのは伊達ではありません。
 狼王としての矜持がこの獲物を狩らせたといって過言ではありません。
 ……ほんとうは志貴がぼぉっとしていただけなんだけど。
 そんなことはどーでもよくて。クールトー君からすれば仕事きっちり。
 いわゆるパーペキというヤツなんですよ。

 ご主人様がちらりとこちらを見ます。

「……もしかして、タンジョウビプレゼントですか?」

 タンジョウビという言葉はわかりませんけど、後半のプレゼントという言葉があっているので、

 パタパタパタ。
 コクコクコク。

 と必死にアピールしてみたり。

「………ありがとうクールトー君。じゃあ、あとで翡翠ちゃんと分けて食べちゃいますからねー」

 ご主人様が喜んでくれて大満足。分けるっていっているから、これでみんなにもいきわたる!
 俺ってかっこいー、なんて微笑んでみちゃったりして。
 とうぜん、斜め23度の角度でご主人様に接してみたり。
もう尻尾をパッタパッタ、ほこりがたつぐらいふっている。

「じゃあ、クールトー君には生ハムをご馳走しますね。たぁーくさんね、ふふ」

 その言葉を聞いてクールトー君は満足な様子で、くぅーん、と一言。
 それはそれは、とてもとても、ホントウに嬉しそうに鳴きましたとさ。




 ……そのあと、志貴がどうなったのかは、ひ・み・つ。


<おしまい>




あとがき

 まずはクールトー君のホワイトデー。ってまだなんですけどね(笑)
 クールトー君だってやるときはやります。えぇ、やりますとも!
 たとえ志貴でもクールトー君は、“愛”さえあれば、狩ることもできるんですよ……たぶん(笑)
 でも七夜だったら無理なんですけどね(爆)

12nd. March. 2003 #97

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