誘惑 〜 seduce 〜


「ねぇ志貴……」

 そう言ってみる。
 自分でもわかる、鼻にかかったかすかに甘く粘ついた声。
 欲情した声。
 志貴の驚きの顔。
 ヘンな顔。
 喉の奥、胸の奥、心臓のところが焦げて爛れてしまったような焦燥。
 でもすぐ真顔になり、顔が引き締まる。
 凛々しい顔。
 わたしの好きな顔。
 志貴が好き。
 大好き。
 だから誘惑する。
 だってシエルや妹がちょっかいをかけてくるから。
 だからわたしはわたしを見て、とせがむ。
 それは欲情と同じ。
 欲している。
 欲しくて、たまらなくて。
 だから、ねだる。
 志貴を。

「……アルクェ……」

 わたしの名がきちんと発音される前に唇を奪う。
 そう奪う。
 だって、これはわたしのだから。
 シエルのでも、妹でも、メイドのでもない。
 わたしのもの。
 唇が触れると同時に志貴の臭いがする。
 男の人の臭い。
 志貴だとより一層わかって、嬉しくなる。
 志貴の唇は柔らかいのかな。
 わからない。
 こんなこと、他の誰にもしたことがないから。
 志貴の熱い息。
 志貴の鼓動。
 志貴の汗の臭い。
 志貴の唇の感触。
 男の、牡の感触。
 ただ唇を重ね、ついばんでいると、我慢できなくなったらしく、志貴の方から求めてくる。
 舌かがってきた。
 柔らかくて暖かいそれを受け入れ、なすがまま。
 唇が痺れる感じ。
 なのに、頭がぼおっとしてくる。
 ダメ。
 またダメ。
 今、わたしが誘惑しているんだから。
 わたしの口の中を蹂躙しようとするそれをおしとどめて、わたしから吸う。
 びっくりしている。
 ふふ。
 ダメよ、これからなんだから。
 口の中で舌をからめ、表と裏をなめ、かるく噛み、たっぷりと吸う。
 わたしと志貴の口からやらしい音がもれる。
 ぐもったような、濡れた、やらしい音。
 すする音。
 荒い息。
 口から涎がたれるのも構わず、舌をからめる。
 甘い唾液。
 志貴の唾液って甘い。
 だから、こんなにもぼおっとしちゃう。
 甘くておいしくて、こんなにも啜ってしまうの。
 そして志貴のを外へ追い出すと、今度はこちらの番。
 ううん。
 最初からわたしの番。
 志貴の口の中をねぶる。
前歯をかるく撫でて、歯茎をこすり、そしてほほの内側の粘膜をそぐように這わせる。
 志貴の口の熱さか頭をじんじんと痺れさせる。
 心地よくて、息が漏れそう。
 そのまま、舌を入れて口蓋をまさぐる。
 今度はわたしの唾液を送る。
 それをおいしそうに飲み干す。
 志貴の口の中がわたしの味になっていく。
 わたしだけのものになっていく。
 唇をかるく噛み、そして舌をはわせる。
 体の奥底にあるチロチロとした火がもっと志貴をもとめちゃう。
 淫靡なとろ火が肌の下にながれる血管を灼く。
 熱くて、たまらなくて、求めてちゃうの。
 志貴の顎の髭の剃ったあと。
 そこをそっと撫でる。
 ジョリジョリする。
 なんとも言えない感じ。
 男の人だって実感する。
 男と女の違いぐらい知っていたけど。
 知っていたのと実感するのでは全然違う。
 こんなにも――違う。
 志貴の口を貪る。
 志貴の手がわたしの躰に触れてくる。
 服の上からまさぐられるのは、少しくすぐったい。躰も――心も。
 わたしも唇を奪いながら――それとも奪われながらかな?――志貴の躰に指を這わせる。
 志貴に溺れそう。
 でも、志貴をわたしに溺れさせなきゃ。
 太い骨格。筋肉。太い腕。厚い胸。男という体つき。
 それだけでぼおっとしてしまう。
 わたしのとは全然ちがう躰。
 こんなにも違う。
 それを指先で、舌先で探る。探り当てて、痺れてしまう。
 ゆっくりと熱いとろ火が躰の奥で燃えている。
 痺れが疼きになってくる。
 焦燥感がこみ上げてきちゃう。
 もっともっとと求め始める。
 志貴、志貴、志貴。
 頭の中は志貴でいっぱい。
 志貴の臭い、志貴の味、志貴の躰、志貴の……。
 志貴の指先がそっと乳房にふれる。
 そしてゆつくりと揉み始める。
 そうされる度に、ざわざわと背筋がなにかをはいずり回る。
 躰が火照り始めて。
 このたまらない感じがとても好き。
 胸のふくらみをやわやわと揉まれる感触がたまらなく淫らで。
 いつの間にか吐息を漏らしてしまう。
 熱くて、粘ついた吐息。
 恥ずかしい。
 でもこれは志貴に出逢ってから学んだ感覚。
 恥ずかしいのに……でもせがんでしまう。
 喘ぎを聞かせたくなくて、志貴の耳に噛みついてしまう。
 耳たぶを噛み、舌をいれる。
 舌でその筋をなめ、吐息を吹きかける。
 志貴の躰も震えている。
 志貴の吐息がくすぐったくて心地よい。
 そのまま、志貴の首筋をなで、いきなり吸う。
 ちゅぅっと吸って、鬱血の跡を残す。
 そこをチロチロとなめて、また別の場所に口づけする。
 シエルに、妹に、メイドに見えるように、至る所にはっきりと。
 これはわたしのという印を残す。
 サマーセーターをまくりあげられ、志貴の手が直接触れてくる。
 ブラジャーの上からもどかしく、そして激しく。
 わたしも早く外して欲しい。
 乳首がこすれて痛くて。
 こんなにも感じている。
 志貴の指がホックを外すと同時に、わたしはセーターを脱ぐ。
 慌ててわたしの胸に吸い付く。
 まずまわりから。
 立っている乳首は嬲るだけ。
 わたしのピンク色のそれは勃って、吸って欲しいとねだっているのに。
 でも吸わない。
 だからわたしは志貴の頭を胸に抱きかかえ、ぎゅっとする。
 志貴の息が、汗が、わたしの胸を刺激する。
 意地っ張りの志貴はわたしのをまだいじらない。
 ただ丹念に揉むだけ。
 ねっとりとした熱いものが何度も背筋を駆け抜ける。
 わたしはちろりと志貴のズボンを見ると、そこへ手を伸ばす。
 硬かった。
 わたしからこうして触るのは、はじめて。
 志貴は驚いている。
 志貴のをズボンの上からいじる。
 それはズボンごしなのに、こんなにも熱くて。
 こんなにも、わたしを求めているとわかって。

「……気持ち、いい……志貴……」
「どうしたんだ、アルクェイド……」

 志貴の声が震えて可愛い。
 それに笑いで答えて、そのままチャックをおろし、トランクスの上から志貴のをまさぐる。
 触れた途端、吐息を漏らしてしまった。
 脈打っていた。
 柔らかい感触なくせに硬くて、こんなにも逞しくて。

「志貴……気持ち……いい……」

 志貴はかすかに震えた吐息だけで答える。
 志貴の指がわたしの胸の先をつまむ。
 甘美な電流がそこから発する。
 ビリビリと痺れちゃう。
 躰の奥のとろ火に熱せられた、ねっとりとしたものがわき上がってくる。
 それがあまりにもつよくて、躰をゆすってしまう。
 汗がどんどんでる。
 あそこが濡れていくのがわかる。
 まだいじられてもいないのに、濡れるなんて――わたしってやらしいのかな?
 他の女の人についてもまったく知らない。
 ただ掠れる声で――。

「志貴……好きよ……愛してる……志貴」

 ただ志貴を、志貴だけを求めて甘く啼いちゃう。
 躰を灼く熱さに身悶えながらも、志貴のをこすり上げる。
 トランクスから志貴のが見えている。
 その先の粘膜をぐにぐにになるまでいじる。
 先からなにかこぼれている。
 最初なんだかわからなかった。
 男の人も濡れるんだね、といったら志貴は真っ赤になって慌てて――。
 志貴が感じているのか嬉しくて、もっといじる。
 右手で肉棒をしっかりとにぎり、少し強めにこする。
 左手で先の切れ目をこする。
 どんどんあふれてくる腺液をしっかりとぬり、こすりつけ、指先で弄ぶ。
 志貴が乳首を噛む。
 びくん、と反応してしまう。
 そして暖かい唇で挟んだまま、もっと熱くてぬるぬるして柔らかい舌でチロチロされる。
 疼きが何度も発して、躰をゆすってしまう。

「……志貴……」

 志貴の名を何度でも呼ぶ。
 呼べば呼ぶほど、疼きはたかぶっていく。
 うねりとなってわたしを飲み込んでいく。
 胸がとけていく。
 志貴の口によって、まるでアイスクリームのように溶けていくの。
 ぺろぺろと舐められて、ちゅうちゅう吸われて――でも、なぜか熱くて。
 頭がどんどん胡乱になっていく。
 志貴ばっかりだった頭が、さらに志貴だけになっていく。
 それがこぼれちゃって、声をだして志貴の名を呼んじゃう。
 呼ばないと狂っちゃう。
 この淫悦によがり狂っちゃう。
 そして志貴の指は下へ、女へとせまる。
 そのゆっくりとした指使いが。
 そのじっくりとしたすすみ具合が。
 たまらなくて、はしたなく求めちゃう。
 早くさわってほしくて、腰を浮かしてしまう。
 恥ずかしい。
 なのに、こうして浮かせて、脚を開いてしまうの。
 いじってほしくて。
 いじられてもいないのに濡れているここを触って欲しくて。
 そしてショーツの上から触れる。
 それだけで、頭が真っ白になる。

「すごいな……アルクェイド……」

 志貴の声。
 その声に顔がさらに熱くなっていくのがわかる。
 耳どころか首までも熱くなっちゃう。

「こんなに……濡れていて……」

 志貴の嬲る言葉がかけられると、感じちゃう。
 羞恥が全身をめぐって、熱くさせるのに――その言葉がこんなにも激しくわたしを捕らえる。

「だって……だって……」

 涙目になりながら、言い訳する。
 志貴はショーツの上から割れ目にそってゆっくりと動かす。
 じんじんと甘くしびれる。

「だってもないだろ」

 わざわざ激しくそこを弄ぶ。
 ショーツの布地ごしにくちゅりと鳴って、かあっとなる。
 恥ずかしい。
 恥ずかしい。
 顔を覆いたくなるのに。
 わたしは志貴のをいじるのをやめられない。
 じれったさがムズムズとのぼってきて。
 熱くむっとする牡の匂いに、くらくらしちゃう。

「もう、お姫様ったら……」

 揶揄する。
 その言葉にわたしは答えられない。
 たとえブリュンスタッドだからって、真祖だからといって、志貴の指が気持ちいいんだもん。
 私が何も答えないのをいいことに志貴はもっといじる。
 ショーツをズラして、直接ふれる。
 花弁をそらき、花芯の芽をそっといじる。
 嬌声を上げちゃう。
 そこから電気が流れて、躰がぐにゃぐにゃに。
 力が抜けて、どろどろの液体になっちゃったみたい。
 アルクェイドという名前のいやらしい粘液。
 それがわたしの躰の中でうねっている。
 鼻にかかった嬌声をあげる。
 でも志貴はやめない。
 あそこをひろげ、こすり、指をいれてくる。
 指をまげて、上のざらついたところをこする。
 そこをこすられるたびに、痙攣しちゃう。
 快感しか感じられない。
 口を大きく開けてよがっちゃう。
 イヤイヤしながら、こんなにも大きい声。
 まわりが見えない。
 涙がこぼれている。
 口からはよだれ。
 あそこからは愛液。
 全身から汗。
 たまらない。
 なにかだしてないと、このオンナの肉の悦びに狂っちゃう。
 どんどん突き上げてくる。
 いやらしい淫蕩な愉悦が、おこりのように躰をふるわせる。
 わたしの躰はこれだけしかないのに、それ以上に官能のわななきがあふれてくる。
 こんなにも、こんなにも。
 こんなに突き上げてきて、いっさぱいになって、あふれかえっちゃう。
 焦げついたようなあせりとなって、つきあげてくるの。
 声をあげないと。
 涙をこぼさないと。
 涎を流さないと。
 汗をかかないと。
 あそこを濡らさないと。
 ダメ。
 狂っちゃう。
 わたしのあそこが全身にひろがって、わたしが飲まれていく感じ。
 それしか感じられない。
 その一点だけにすべてが集中してしまって。

「入れるよ」

 なにかなんだかわからなくて、頷く。
 息が出来ない。
 唇が震えちゃって、何も出来ない。
 そして志貴のが入ってくる。
 躰をわってはいってくる。
 志貴の熱くて硬くて、いきりたったものがわたしの中に。
 わけいってはいってくる。
 ゆっくりと入ってきて。
 内蔵をかき乱される悦楽。
 入って出て、入って出て。
 言葉にならない。
 思考さえバラバラ。
 志貴のが躰にすっぽりとはいって、押し広げられて。
 どんどん入ってくる。
 志貴が入ってきて、わたしを犯していく。
 わたしの躰が志貴のものになっていく。
 何度もこうしているのに。
 なじんでいるはずなのに。
 なんどやっても、新鮮。
 志貴のが入ってきて、わたしを乱して。
 志貴のが出ていって、わたしを痙攣されて。
 志貴の唇が目の前にある。
 わたしはそれを貪る。
 志貴のその指が。
 志貴のその唇が。
 志貴のその躰が。
 志貴のその吐息が。
 志貴のその姿が。
 志貴のその顔が。
 喜悦に耐えているような顔を見ると。
 堪えているような、震える顔を見ると。
 さらに痺れるの。
 苦しい。
 なのに気持ちいい。
 たまらなくて。
 すごくて。
 エッチで凄い。
 恥ずかしくて。
 苦しくて。
 不格好で。
 汗をかいて。
 疲れて。
 こんなにもやらしいのに。
 すごく嬉しい。
 志貴とつながって。
 すごく気持ちいい。
 こんなに気持ちよくて。
 こんなにも、こんなにも、こんなにも。
 躰が震える。
 志貴の震え? それともわたしの?
 わからない。
 わからないほど一体になっちゃう。
 志貴、志貴、志貴。
 躰の中も、頭の中も、志貴でいっぱいになって、どろどろになって、あふれちゃうぐらい。
 こんなにも、凄い。
 体位をかえて志貴はわたしをつく。
 背後からつかれる。
 志貴が見えないのに、つながっているところがこんなにも熱くて。
 おしりをさわられていて。
 力がはいらくて。
 顔をシーツにうずめて。
 喘いで。
 背中をぴったりとくっつけて。
 志貴の震えがわたしにも伝わる。
 そのまま胸を揉まれて。
 またきちゃう。
 白くなる。
 何も。
 何にも考えられなくなっちゃう。
 志貴のそれだけ。
 熱く高ぶったそれがえぐられることだけを。
 指先が乳房をなぶることを。
 腰が深く交わることを。
 突き上げられて、下半身が感じられなくなるぐらい。
 ダメ。
 また。
 なにを言っているのかわからない。
 ただ喉が、声帯が、肺が快感にふるえて、声がもれてしまう。
 官能に喘いじゃう。
 はしたないことを言っている。
 やらしいことを叫んでいる。
 いやらしいことをせがんでいる。
 志貴の指はわたしのおしりの穴をいじる。
 すごい。
 イヤらしいものが幾度も躰をなぶっていく。
 駆け抜けて、犯していく。
 あそこをつきあげられて、腰が蕩けていくのに、さらに別の官能が躰を火照らせる。
 あそこからどんどんやらしい液が垂れちゃう。
 太股を伝わって、こぼれちゃう。
 こんなにも突き上げられて。
 ぬちゃぬちゃいっている。
 喉からでちゃうぐらい。
 脳髄がぐちゃぐちゃ。
 神経が淫乱な信号しか流さない。
 淫らな信号だけが脳に送られてくる。
 パンクしちゃう。
 はじけちゃう。
 ああ、また。
 また。
 混乱。
 パニック。
 躰が勝手に反応してしまう。
 わたしの意識下から外れて。
 あああ、また。
 白く。
 くらくらするほどの官能のうねり。
 そして志貴が奥深く入った途端。
 躰がのけ反る。
 のけ反っちゃう。
 指までのびちゃう。
 びりびりと痺れて、うねりが全身を包んで。

「あああああぁぁぁっっっっーーーーーっ」

 ただ声が出ちゃう。
 こんなに長く、こんなにも――。
 躰の奥に精がかけられる。
 それが熱くひろがっていって、染みこんでいく。
 痺れる。
 躰の奥で発生した志貴の震えが、躰に、頭の芯まで伝わってきて。
 くらくらする。
 そのまま何もかも真っ白になってしまって……。

 …………志貴……。
















 志貴はいぶかしげにわたしを見ている。
 ふーんだ。
 今日こそは負けないからと思ったのに。
 また負けた。
 今日は誘惑するつもりだったのに。
 気がつけば。志貴にこんなにも蹂躙されちゃっていて。
 でも好き。
 大好き。
 志貴、愛している。
 志貴さえいればいい。
 それだけでいい。
 イフの話は大好きだけど、志貴がいない、なんて仮定したくない。
 志貴がいないなんて考えられない。
 志貴の一番じゃなくてもいい。
 でも。
 やっぱり一番がいい。
 シエルに、妹に、メイドに負けたくない。
 志貴のその澄んだ目でわたしを見て欲しい。
 わたしだけを見て欲しい。
 わたしだけが志貴の心の中にいたい。
 志貴の良さを、志貴の心を占めているのはわたしだけ。
 そうなりたい。
 我が儘?
 ひどい?
 ――ううん。
 わたしだって、女、だから。
 だから誘惑する。
 わたしをちゃんと見て、と。

「……ねぇ……志貴……」
「なんだい、アルクェイド?」

 志貴の目がわたしを捉える。
 まっすぐわたしを、わたしだけを見てくれる。
 こんなにもくすぐったくて、こんなにも心地よくて――。

「……愛しているよ……志貴……」

 そういって、また誘惑するのよ。
 この愛しい唐変木を。





あとがき

  TAMAKIさんリクエストで志貴とアルクェイドのラブラブHです。
 ちょっと違うかもしれませんが(笑)
 きちんとアルクェイドのエッチシーンを書いたので、秋葉とかと重ならないようにするのに注意しました。
 どうだったでしょうか?
 やっぱり

 志貴、大好き、むちゅ〜〜〜〜の方がストレートでよかったのかも?
 かもかも?

5th. December. 2002 #76

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