月姫 18禁SS
鉄の処女



 気だるげにナルバレック女史は本を読んでいた。
 真っ白な壁。真っ白な床。真っ白な天井――。
四方すべてを沁み一つない真っ白な壁で覆われた部屋で、彼女はくつろいでいた。
 部屋には窓もなく、あるのは机と椅子、外界と唯一の接点であるドアと壁に掛けられた銀製の十字架のみ――。
 彼女はぺらりとページをめくる。
しかしその音に混じって、何か音がする――。
どこにも変わった様子はない。
ナルバレック女史は、ただ本を読んでくつろいでいるだけ。
 しかしその瞳は潤み、
 頬は上気し、
 呼吸は荒かった。
 興奮しているのだ。
 欲情しているのだ。
 その濡れてゆれ動く瞳で本を読む。
 字を追う。
   意味を咀嚼し吟味し、理解する。
 それだけで――。
 彼女は興奮していた。
 「――次はこっち」
何も見ず、かすれた声で命じ、足を組み直す。
「――あ」
 なにか残念そうな声が漏れてくる。
 机の下には、一人男がいる。
 目隠しされ、全裸の男が一人――。
 彼は男というよりまだ少年で、あどけないという言葉がよく似合う。
 少年は彼女の足の指を舐めていたのだ。
 少年は舐めていたものが突然なくなり、とまどう。
しかしその面前に組み直された足がくる。
 すると、少年はそっと恭しくその脚にふれ、まずは足の甲に口づけし、そして――。
 しゃぶりはじめた。
(……はぁぁぁ)
ナルバレックは熱い吐息を吐きたかった。
ゾクゾクする。
しかし漏らさない。漏らせばこの少年に感づかれてしまう。
 少年の下が小指から一本一本丹念に舐める。爪をなめ、指をしゃぶり、指と指の間に舌先をいれる。
 少年は全身が紅潮していて、呼吸も荒い。
 我慢できない様子で一心にしゃぶっている。
 ちらり、と視線を本から少年に移す。
 少年のそれはすでに高ぶり、鼓動に合わせてびくんびくんと動いていた。
 切っ先には腺液がもれ、てらてらに――それはとてもおいしそうに濡れていて――。
 ナルバレックは目を細めた。
 (あんなに勃起して――)
 ごくり
喉が鳴る。
 しゃぶりたかった。
 思う存分その味を、固さを、熱さを頬張って感じたかった。
 それをしゃぶるとはどんな味がするのであろうか。
 とても気持ちいいのであろうか。
 甘いのであろうか。美味しいのであろうか。
 それとも苦くまずいのであろうか――。
 その判断はナルバレック女史にはつかない。
 そもそも彼女には男性経験というのはない。
 それどころか口づけをかわしたことさえない。
 あるのは、埋葬機関の激務ばかり。
 男性を口説いている暇も口説かれている暇もない。
 異端審問と死徒の浄化が急務であり、日々の予定はすべてそれで埋没していった。
 この少年の幼稚な愛撫のみが、彼女の知る性技であった。
 目隠しした少年は、感じているのか、荒い呼吸で、そのままくるぶしに口づけする。
 舌をちろちろとなめ回し、口づけする。
 脚が溶けていくようであった。
 腰はじんじんとして熱く、感覚はない。
 この少年の口にすべて溶かされていくような快感。
 じんじんとした熱さが脚から広がっていく。
(――気持ちいい)
 声を漏らしそうになる。が我慢する。
目を閉じ、それに耐える。
 しかし目を閉じれば、むず痒い痛みが昇ってくる。
 自分でもあそこが濡れていくのが解る。
  とろり
と蜜がこぼれ滴るのがわかる。
 女性の生理とわかっていても気恥ずかしい。
 濡れるという行為が恥ずかしいのだ。
 しかしそれを拭うことはできない。
 それは少年に気づかれるからだ。
 雫が滴りおちていき、脚をゆっくりとゆっくりと伝わっていく。
  気づかれてしまう。
  気づいてしまう。
しかしその焦りも彼女を高ぶらせるだけ。
 視線はそのまま、本に向ける。
 自分に許された自由時間は少なく、趣味に回せる時間はもっと少ない。
 それは拷問の歴史書であった。
 それは様々な拷問の様子、手引きがのっている。
  口から酸を飲ませる。
  腹を割き、内蔵を傷つけず、そのまま放置。
  ウジがわくまで放置される様は、甘美だ。
  足先をネズミにかじらせ、そのまま狂い死にさせる。
  皮膚の下にウジ虫を入れ、孵らせる。
  両手両脚を切断し、治療した後に瓶にいれ、トイレの下におき、糞尿まみれのまま放置。
(あぁ――なんて素晴らしい)
 うっとりとする。
 目の前が赤く染まる。
 血の匂いが感じられる。
 それだけで躰がぞくぞくする。
 震えてしまう。
 手が思わず彼女自身へと伸びる。
 しかし伸びかけた手を止める。
 ふるふると震えた後、手はそのまま本へ戻り、ページをめくる。
 少年の舌がつつっと昇ってくる。
  気づかれた
 雫のあとを舌が舐める。
  気づかれてしまった。
 全身の血管が破裂しそうな羞恥心が貫く。
  かーっとなる。
「……それ以上はダメだ」
 震えそうな声をなんとか抑え、太股まで舌を伸ばそうとした少年を制止する。
 舌は残念そうに膝裏を舐め、そして下へ降りていく。
 その降りていくぞわぞわとした感覚が、彼女に吐息をつかせる。
 魂を吐き出すような長く細く、ねっとりとした吐息――。
 そのまま舐めて欲しい。
 まだ誰も触れたどころか見たこともないあそこを
 広げて、舐めて、いじって、そしてにちゃにちゃとして――
 そしてそして
 貫いてほしい。
 どれだけの興奮が、どれだけの快感が自分を貫くのかわからなかった。
 自分でそこを慰めたこともない。
 しかしその最後の一線を越えないのが自分への戒めであった。
 越えてはならない。
 堕ちてはならない。
悦楽に溺れれば、この埋葬機関を、人類のための聖なる機関を私物化してしまいそうで――。
 自分が悦楽に、快楽、愉悦に溺れないように、彼女は耐えていた。
 ナルバレックという血のつながりの重みに耐えられないような惰弱者はこの機関の長になることはできない。
 ある者は発狂し、ある者は自害し、ある者は前線に立って死徒と共倒れとなった。
(……わたしは溺れない――)
しかし甘い疼きが躰の奥から響く。響いてくる。
 それは甘く、頭の芯からくらりとさせるような、女の性――。
 全身が心臓になったよう脈動する。
 白いの肌は火照って赤くそまり、いやらしく蠢いていた。
 たぶん彼女の女性自身は花開いているであろう。
そう思うだけで太股と太股をこすり合わせたくなる。
 でも彼女は喘ぎ声ひとつ漏らさず耐えていた。
 だがその目は潤み、まなじりには涙をうかべ、口は半開きとなり、愉悦に溺れきっているようであった。
 胸に手を伸ばす。
いたいほど先が尖っている。
 さわると、気持ちいい。
(――ダメ、よ)
自分を叱咤する。
手をゆっくりと離す。
 頭の中が沸騰する。
 熱くてわからなくなる。
 離してはならないという思いが募る。
 つまみ、もみ、にぎりつぶし、こねまわしたい。
 それができたら!
 それでよいのなら!
 口を大きく開け、涎を流す。
 少年が口を開けて脚の指をしゃぶる。
(――溶けていく)
 たまらない。
 たまらない。
 たまらない。
 でも――。
それでも手を胸から離し、栞を挟んで、本を閉じる。
 しばし目を閉じ、高ぶった感覚を抑えようとする。
「あっ」
彼女は声を漏らしてしまう。
少年が口を大きく開き、指を吸い上げたのだ。
 それだけで蜜がどんどんあふれてくる。
白い革張りの椅子がびちゃびちゃになっていく。
 スカートもショーツも愛液で汚れ、使い物にならない。
 全身にねっとりとした汗をかきながら、ナルバレックは、部下が送ってきたレポートを開く。
仕事ではない。
すでに読了し、評価し、別の報告書としてまとめてある。
読む理由はその中で気になる文章があったからである。
  死徒は数名の人間を引きちぎり、投げてきた。
この一文である。

   人間を引きちぎり

 どう引きちぎったのであろうか。
 死体を――それとも生きたまま?
 生きていれば抵抗する。
 それを虫けらのように
 ただ無造作に
 懇願したであろうソレを
 無視して
 絶対的かつ圧倒的な暴力で
 むしりとったのだ。
 悲鳴が聞こえてくる。
 魂が消え去りそうなほどの切なく、
 あのゾクゾクさせるような、あの悲鳴――。
 まだ心臓が動いているから、血しぶきがあがって
 死徒もこいつも血で真っ赤に染まって――。
 ――あぁ。
 びくんと
体が震える。
 あるのは少年の舌による指舐めだけ――。
 熟れきった女性の躯には、可愛らしい刺激だといのうに。
 耐え難い快感が何度も走る。
あまりにも感じすぎていて、快感以外感じない。
 声が止まらない。漏れていた。
ナルバレックは少年の方を見る。
 少年のそれが限界までふくれあがっているのが感じる。
 少年は熱くいきり立ったソレを脚にこすりつけていた。
 ぐちゅぐちゅと脚が腺液で濡れる。
 それがしたたり落ちた雫とまじり、ぐちゃぐちゃになる。
 組んでいた足をほどく。
 股間から熱気がもれていく。
 少年は奉仕する目標を失い、またおたおたとする。
 それを見据えて、そっと脚を伸ばす。
少年のそれにふれる。
  ビクン
とそれは大きく脈打つ。
ああああ、と少年は悲鳴を上げる。
 それだけでいってしまいそうになる。
 少年は無抵抗のまま、上気させ、口の周りをベタベタさせたままで、熱い荒い息をしている。まるで犬のよう――。
 目隠しされた様子が、とてもそそる。
 そのまま頭をつかんで股間に埋め、アソコを舐めさせたい。
 少年はまるで犬のように舌を出している。
 あの舌でもぺろり、と舐められたら――。
 それだけで絶頂を迎えてしまう。
 自分も男性のそれを頬張ってみたい。
 文献で読んだような、セックスをしてみたい。
 男性経験のない彼女にとって、すべては想像だ。
 でもそんな様子を思い浮かべるだけで、体が震えてしまう。
 もし本当にそうなったら、それだけでイってしまいそうで。
 このまま戒めを破ってしまいそうになる。
 もし破ったのなら、その時は自害するつもりであった。
 その時には、引き出しの拳銃で胸を打つ。
 あぁ――死ぬ。
 引き金をひきたいために、破りたくなる。
     少年は銃声にびっくりして、目隠しを解く。
     そして、見るのは――。
     胸の中央を射抜き、大輪の血の花を胸に咲かした、
     私の肢体
     私の死体
     それがこの真っ白な部屋に、ごろりと無造作に転がっていて――。
 それだけでイきそうになる。
 しかしナルバレックはそのもっとも甘美なこの世の法悦とは思えない光景をうち消した。
 それができるのは子供を産みその子が埋葬機関の長になることが決まった時か、別のナルバレックが埋葬機関を継ぐことが決定された時だけ――。
 それまでは堕ちるわけにはいかない。
 しかし、そう決意すればするほど、堕ちたくなる。
 誘惑される。
 たまらないほどの甘美。
 蛇にそそのかされて禁断の果実を食べたイブはこのような気持ちであったか――。
 イブが堕ちたのも無理はない。
 なんてソソられる行為。
 ゆっくりと少年の一物をこする。
 ああああ、少年の声はうわずっていく。
 はやくはやくはやく
 少年は懇願する。
 涙を流している。
 少年の陰嚢を、
 男根を、
 先の粘膜を、
 切っ先を
 嬲り、
 なで上げ、
 踏みつける。
 びくんびくんと動き、熱いそれはさらにひときわ大きくなる。
少年は口を閉じ我慢している。
 そうすると足でなぶるのをやめ、少年が達するのを阻止する。
少年は手を伸ばし、自分で達しようとするが、それを脚で止める。
 少年はぶるぶると震え、哀願する。
 その様子がソソる。
 お願いします、という言葉がわたしの脳髄を灼く。
 でもそう簡単にイかせるものか――。
ナルバレックは舌なめずりしながら、その痴態を観察する。
 自分が達っしていないというのに、この愛玩動物――少年――が絶頂を迎えていいという道理はない。
 喘ぐ少年は自分の絶対的権力を感じさせてたまらなかった。
 浅ましくよがり、喘ぐ少年を見れば見るほど、自分が堕ちてないことを感じる。
 堕ちていないことに安堵し、そして落胆する――。
 またゆっくりとこする。
 少年は首を振り、いきそうになっている。
 ナルバレック様、ナルバレック様
と哀願する。
 わたしのあそこから刺激が再び昇ってくる。
 軽く達しそうになる。
 震える、その喘ぎ声が
 目隠しされた眼から流れ落ちる、その涙が
 甘くあそこに響く。疼かせる。
「いきたいか」
ナルバレックは浮かされたようにしゃべる。
「……は、はい」
少年は答える。
しかし彼女はその返答を無視して、
「いきたいのか。この浅ましい犬め。淫蕩な犬め」
少年に向けられたそれは、自分への罵倒の言葉。
「このいやらしい」
 ――そう、いやらしい。
「この淫らな」
 ――そう、淫らな。
「このこのこの」
 声がうわずっていく。
 脚は動きをやめず、少年自身をいたぶる。
 少年は感じきってなされるがまま――。
「この牡め」
なじる。
「変態め!」
その自分の言葉に痺れる。
「見られていて、嬲られて、気持ちいいのか!」
――気持ちいい。たまらない。
「そんなにいいのか!」
 脚を動かし、絶頂へと導く。
「いけ!」
躰がビクンと反応する。
「達してしまえ!」
躰にふるえが走る。
「その欲望をそこから吐き出せ!」
あそこから雫がどんどんあふれていく。
「まき散らせ!」
したたっていく。
「この淫売な牡犬めっ!」
――わたしは淫売?
「達っしろ」
白くなる。目の前が真っ白になっていく。
「ほら、ほら、ほら!」
 そしてぐっと力をこめて、えら張ったところをぎゅっとこすり上げると、
少年は悲鳴をあけて、白濁した液を出す。
 それはびくんそびくんとうごき、白濁した液をまき散らす。
 ねっちゃりとした液が脚にかかり、それが熱い。
(ああ、火傷しそうに熱い)
 その熱は、ナルバレックの芯まで辱める淫蕩な炎。
 炎にあおられて、躰が、ぶるん、と震える。
 それは太股まで飛び、椅子に、わたしのスカートにまで飛び散った。
 青臭い匂いが漂うと、鼻の奥がつんとして、また震える。
 また達する。達してしまう。
 たまらない。
 躰の奥の牝が若い牡の匂いに反応して蠢き、疼く。
 ナルバレックも躰を丸めて動かない。
 白濁した粘液を浴びて、ナルバレックの意識は淫悦に蕩けていった。


  わたしはナルバレック。埋葬機関を束ねる長。
  別の者が埋葬機関の長になるまでは
  けっして……堕ちはしない、と――。

 肌を上気させ、荒い息をし、淫蕩な炎で灼かれ胡乱な頭のまま、ナルバレックはそう誓うのであった。

あとがき

 ナルバレックの変態さん、をキーワードに書き始めたのですが、きちんと変態さんになっていますか?
 ちょっと疑問に思う瑞香です(笑)

 書き終わって読み返してみると、ひゃーと悲鳴を上げたいぐらいの内容で(笑)
 えっちなのかそうでないのか(笑)

 少年嬲りもの、としてかきはじめたはずなのに――なんかよくわからないものに仕上がっているあたり、とてもとても、それは瑞香らしい(笑)SSに仕上がりました。
 少年は誰? といわれそうですが、特に考えていません(笑)
 小道具です。えぇ。ナルバレックの変態さんっぷりを表現するためのよい小道具ですから、これが実は埋葬機関の一員というわけではけっしてありせん。
 いや、でも本当はそうだったらどうしよう……ドキドキ。

 コホン。
 ええっと、今回はきちんと、18禁を目的として、かつ心情も描き、読み物としても耐えられる――18禁としてはもしかしていまいち、かな?――という目標で書いてみました。

 実はMoonGazerさんのところに掲載されている「甲冑少女」(しにをさん著)が瑞香にはとても書けないSSで。
 直球ストレート勝負な自分としては、あういうキャラクター造形に、とても憧れまして。
 でも書けないのは目に見えてまして。
 負ける勝負はしないことにしているので(笑)
 だから、まぁ――自分の書くことができるナルバレックの変態さん(笑)を書こうかというのが今回の動機なのです。

 それができていれば幸いです。

 ではまた別のSSで。
8th. April. 2002
#014
11th. April. 2002 Ver.1.2


追記
しにを様がこの変態ナルバレックで続きというかそういう作品を書いてくださりました。しにを様のナルバレックも素敵ですので、NEXTで読んでみてください。

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