横たわる闇の中で



 薄らぼんやりとした覚醒。
 常に意識をはっきりと保っているシオンは、この曖昧にして模糊な覚醒に対して、気持ち悪ささえおぼえた。
 エーテライトで蓄積した情報に照合させると宿酔いと称されるアルコールを大量摂取した時におこる人体の反応に類似していると認識した。

 薄らぼんやりとして暗く濁った世界が広がっていた。視界は正常なはずなのに何も見えない。ただ昏い闇が横たわっているだけだった。目隠しをされているよう。
 何も――――見えない。

 記憶を検索するが、このような場所にいる理由が算出できない。
 記憶が途切れている。いくら遡ってみても、途切れ途切れではっきりせず、なぜこのような場所にいるのかが、どうしてもわからない。

 体を動かそうするが、押さえつけられているかのように動けなかった。まるでなにかが絡みつき、拘束されていると、シオンは冷静に判断した。

 そしてゆっくりと肉体が覚醒しはじめる。するとじんわりとした痛みがあった。なにかが躰のあちこちに食い込んでいて、きりきりとた痛みを感じた。
 神経が覚醒すると同時に痛覚も目覚め、しびれにも似たきりきりとした痛みは神経をついばみ、全身を苦しめる強い痒みとなった。

 ただ全身にある痛み。痛覚だけがそこに残留している感じ。他の感覚は麻痺し、感じられない。あるのはただムズ痒さと痛みだけ。

 意識を集中させる。
 どうしてこうなったのか分割思考を用いて試算し、探求しようとする。
 しかし、躰中が、苦痛と違和感を訴え始める。

 なにかがゆるりとのたうちまわるような、肌が粟立つような、そんな違和感。そのくせ痒みのような痛みときりきりとした痛覚神経を逆撫でるような圧迫感。

「――――――――――はあぁぁぁぁっ」

 緋桜色の唇をわななかせながら深い息を吐き出した。その吐息はか細く震えて、体中の酸素を出しても、まだ足りないほど、全身が熱く疼いていた。

 熱い。
 そう認識した途端、躰中にムズ痒い熱さが蠢いた。
 ひりひりするような、ずきずきするような、いてもたってもいられない、熱さが。
 じわりじわりと、血管に流れる熱い血潮がさらに熱く、濃厚になったかのように。躰のあちこちがじんわりと熱く、痒く、痛く、そして疼いた。
 火照っていた。しなやかですらりとした肢体は火照り、疼いていた。

「――――――――――はぁぁ」

 再び緋桜色の唇が開き、声を漏らす。それは確かに喘ぎだった。艶めいたオンナの喘ぎ声だった。口がひらき、涎が流れるままに、舌さえも突きだして、躰をむずむずとさせ、いたぶり、なぶるこの熱さから逃れようと、シオンの理性が気づかないうちに、漏らしていた。

 躰が狂っていた。熱く、狂おしく、火照っていた。怜悧な思考と冷静の判断と膨大な知識の蓄積によって成り立つ錬金術師としてありえないエラー。不可解にして不可思議な熱にじりじりと焦らされていく感じ。

 気怠いくせに居てもたってもいられない矛盾した躰のエラー。乾き、飢え、苦しい感覚。
 早く正常な状態に戻らないと、とシオンは慌てる。しかしその思考でさえも、どろりとした熱いものが蕩けていってしまう。怜悧な思考も、冷静な判断も、蓄積された知識も、どこかへと追いやられてしまう。
 この熱に、この乾きに、この火照りに、この飢えに、錬金術師たるものが犯され、凌辱され、蹂躙され、バラバラにされてしまう。
 シオン・エルトナム・アトラシアという存在が。
 栄えあるエルトナムの血筋が、最高峰であるというアトラシアの称号が。
 そしてシオンという存在そのものが。
 引きちぎられて、ズタズタに切り裂かれ、ボロボロにされていってしまう。

 とたん、口に何かが注ぎこまれた。
 突然のことにシオンはむせ、喘ぐ。口の中いっぱいに何かが入り込み、喉奥にまでぬるぬると入り込んでくる。
 何が口に入り込んでいるのか見えない。世界は曖昧で暗いまま。
 それが顔にさえ浴びせられる。
 熱いものがかけられている。

「――――……はあぁぁぁぁぁっっっっ」

 あまりにも熱くて錬金術師は鼻にかかった掠れた声を上げた。
 ただ、どろりと粘液質で灼けるほど熱いものが、顔にへばりつくのだけがわかる。
 そのスミレ色の髪を、柳眉を、とおった鼻梁を、緋桜色の唇を、つんと尖った顎を、閉じた瞼を、どろどろにしていく。
 ふれたところが熱い。
 熱くて苦しくて口を開け、少しでも涼を求める。躰の奥を焦がすこの熱を逃がすように、口を大きく開けて、喘ぐ。するとその口の中また注がれる。
 熱い、どろりとした粘液質なものが。
 口を、歯茎を、舌を、喉を、汚していく。

 苦しくて吐き出す。嗚咽にも似た喘ぎ。
 ぺちゃりとしたたり落ちる音。

 吐き出したとしても、その味はわかる。
 ケダモノ臭い、塩っぽいような苦いような味。
 むせかえる強い匂いにシオンは眩暈さえ覚える。

 ――なのに、なぜか美味しい、と感じていた。

 躰にぶるんと痙攣が走る。
 生温かくて出来の悪いゼリーのような喉に絡むものなのに。
 吐き気を催すほど気持ち悪いのに。
 それが喉を通るとかぁっとまるでアルコールを摂取したかのように、全身が熱くなっていく。――否、それ以上だった。
 この濃厚で喉にからみつくものを嚥下するたびに、躰におこりにも似た震えが走る。
 喉奥も熱く、ずるりと嚥下していった喉奥が灼けるように熱い。それを収めた胃の腑もぐつぐつと煮え立つかのよう。
 暗闇の中、まるで加熱する坩堝が躰の中にできたかのよう。

 熱い、熱い、熱い。

 全身が焦げていく。焦がされていく。
 じりじりと焦げつくような火照りは痒みにも似た圧力となって、じわじわと腰奥から這い上がってくる。

 気づかないうちにシオンは、内股を擦り合わせていた。

 熱い、熱い、熱い。

 灼けていく感覚。
 今まで感じていた疼きはムズ痒さとなり、神経をいやらしくねぶる。

「シオンさん」

 最初、シオンには誰の声だかわからなかった。ただ顔からしたたり落ちる粘液が肌の上を官能的にくすぐっていく。
 肌がざわつく感じに、シオンの意識は呑み込まれそうだった。

「――――――琥珀?」

 ようやくありったけの意志をかきあつめて、シオンは名前を呼ぶと、はい、と首肯の声が聞こえた。

「……助けて……ください……」

 琥珀に助けを求める。しかしその声はすでに淫蕩に震え、語尾は弱々しかった。

「今、シオンさんの躰の上を這いまわっていますよ」

 とたん、締め上げられてキリキリとした痛みが、もぞり、と動いた。
 ぬりゅりとした冷たい感触が肌をなで上げていく。
 気持ち悪いはずなのに、シオンは嬌声をあげた。

 ぬるぬるとした粘液の上をはいずりまわる、たくさんの――。

 とたん、全身がぬるぬるに揉まれる。
 顔を、首を、乳房を、鎖骨を、腰を、臍を、腕を、太股を、足首を撫で回される。そしてなによりも、秘所をくすぐる太い感触。
 熱いクセに粘液質でぬめっているものがいくつもはいずり回っていた。

「琥珀っ! わたしは、わたしはっ!」

 顔をふっていやいやしながら、琥珀に助けを、情報を求めて叫ぶ。
 しかしかえってくる言葉は、シオンの求めるものではなく、熱く爛れた声だった。

「シオンさんのあそこを撫でてますよ」

 とたん、ぐにゅりとはいずり回るそれが、こする。
 粘膜と粘膜が擦れ合うやしい水音。
 腰奥にある熱いとろみが一気に氾濫した。

「…………あぁっ!」

 シオンは自分でも信じられないほど、淫蕩な声を漏らしてしまった。
 甘い雷撃が神経をかけずり回り、尾てい骨から一気に背筋をのぼって、脳髄をかき乱した。
 苦しくてイヤイヤする。三つ編みのお下げが大きくゆれる。しかしいくら躰をよじっても、わななかせても、この火照りは消えない。むしろ強まっていく。詰るように、貪るように、強く。さらに強く――――。

 シオンははしたなく股間を濡らしているのが感じられた。
 まるで火がついているかのよう。肉襞が真っ赤になって充血しひくついているのがわかる。

 劣情が全身を甘噛みする。
 欲情が全身を染め上げていく。

 それはさらに動く。濡れている陰唇をくすぐるのがわかる。快楽の愉悦をシオンの躰に刻み込むかのように、はいずり回る。

 悪寒にも似た寒気がゾクゾクと駆け抜ける。なのに、熱い。
 はいずり回るソレが躰のどこかしこも締め上げてくる。からみつき、愛撫する。それがおぞましくも気持ちいい。

 それがずるりとはいずり回るたびに。
 それがどろりとぬめるたびに。
 それがくちゅりとしたたられるたびに。

 躰が甘く、疼いて仕方がなかった。やらしい感覚だけしかない。どろとりした熱いとろみがこんなにもやらしくさせてしまう。

「……ヘン……ヘン……ですぅ……」

 乳房が締め上げられているのがわかる。ぐいぐい締め上げられていて、痛い。痛いほどしめあげられて、乳首がよじられているのに、蕩けるぐらい気持ちいい。

 そして股間をはいずり回るものが、女陰だけではなく、会陰もくすぐり、菊座もなで上げる。汚いところをいじられるというのに、じんじんした妖しい感覚がこみあげていく。ムズ痒くて、腰をはしたなくゆすってしまう。

 どんどん濡れているのがわかる。やらしく、はしたなく、秘所から愛液がこぼれ滴っているのがわかる。それがお尻も内股にも滴っているのがわかる。

 痺れて、震えてしまう。
 あまりにも強い性悦に、シオンは口を大きく開け、甘く粘ついた息を吐いた。

「そんなところを開けて、おねだりだなんて……」

 その言葉と同時に、口に何かが入り込んできた。熱くて、固くて、ぬるぬるしていて、脈打っているものが。
 驚いているシオンに構わず、口の中を蹂躙していく。舌の上をこすり、喉奥にまで入り込む。苦しくて悲鳴をあげようとしても、それが許さない。
 そしてそれが前後に動き始める。口の中を攪拌し、汚していく。

 嘔吐したいほどの嫌悪感。けがわらしいとさえ思う。
 なのに、唇がこすれるとじんじんと痺れる。喉奥が突かれると、じぃんと疼く。気持ちいい。シオンはそれを押し出すかのように舌を押し当てた。とたん、舌の上が擦られると、肉欲が疼いた。
 じんじんとした疼きが、舌の上を、喉奥を、唇を甘く刺激しはじめる。
 口の中を犯されているのに、それを求めるかのように、口をすぼめる。
 きゅっというぐらいすぼめると、唇が擦れて気持ちいい。こんなに乱暴に蠢き、突かれているのに、それが堪らない愉悦で、頭が白くなってしまう。
  快感が後頭部を白く灼きつくそうとする。シオンは口が性器になったようだと感じた。入れて、つっこまれて、掻き回され、押し込まれ、ぐちゅぐちゅにされているのが、こんなにもいい。蕩けるほどいい。

 シオンは鼻息も荒く、それにしゃぶりついた。穢れたなにがであるにもかかわらず、その形良い唇で奉仕を始めた。
 ちゅっと吸い付き、舌を絡める。唇をすぼめ、こする。舌先でチロチロと擦り、少し歯をたてる。

 それも気持ちよいのか、激しくなっていく。
 意識がもうろうとなるほど喉奥をつかれる。
 乱暴にされているのに、蹂躙されているのに、気持ちいい。被虐のわななきに頭の芯まで痺れていく。
 錬金術師の最高峰であるはずのシオンが女性として敬意をもって扱われず、まるで売春婦のように、しかも最低の淫売かのように、手荒く、やらしく、扱われる。

 それが、たまらない。

 錬金術師の矜持が惨く傷つけられる。
 女性としての誇りがここまで蔑ろにされる。

 それが、こらえきれないほど――オンナを疼かせる。
 やらしい牝として手ひどく扱われれば扱われるほど。
 淫売として、卑しい穴として、やらしい雌犬として扱われるほど、頭が熱く、白くなっていく。どろどろにやらしい汁になっていく。

 だからシオンはもっとはしたなく、もっとやらしくそれに吸いつき、性悦に顔を歪め、涎を垂れ流しながらも、激しくねぶった。

 どうすればいいのか、躰が知っていた。どうすればこれが悦ぶのか、この牝躰は知っていたので、それに従ってシオンは口を、舌を、喉を、唇を動かす。
 躰を灼く、吸血衝動に似た熱い衝動。歓喜にみちた愉悦に喘ぎ、悦楽にこの身をぶるぶると震えながら、顔を羞恥と肉欲に赤く染めながら、頬張り、銜え続けた。

「やらしいですね、シオンさん。乳首がこんなにぷっくりと尖っちゃって……」

 琥珀の声にシオンの意識がふたつのふくらみに集中する。
 胸をまさぐる力が強くなる。シオンの女の子のように示す柔らかくでも芯があって固い乳房をぐぃっと潰される。幾重にも巻き付き、乳房が尖っていく。息が出来ないぐらい揉まれ、強くしごかれるのに、そこから発せられる快感がビリビリと甘く疼かせ、躰が捩れてしまう。
 ぐいぐいと揉まれ、巻き付かれる。淫らな湿った音が鳴り響き、ぬめぬめとしたものが躰を駆け抜けていく。

 深く、あまりにも深くて、狂いそうだった。
 内蔵さえも、この劣情に身悶えているかのように、躰をゆすってしまう。やらしく揺すってしまう。

 暗闇に閉ざされているけど、そこには琥珀がいるはず。なのに、やらしく喘ぎ、こうしてはしたなく腰をゆすってしまう。隠すべきところなのに、股を大きく開いてしまう。それを迎え入れようと、悦楽の前に、ただやらしい穴を、いやしく啼く穴を晒してしまう。

 見られているという感覚が肌を灼く。
 見せているという感覚が心を灼く。
 燃やし尽くしてしまう。

 この被虐感が。
 この淫虐感が。
 躰も心も、魂でさえも、どろどろに溶かす背徳感という悦楽となっていく。わななきとなって、震えとなって、幾度も躰を駆け抜ける。背筋を駆け上り、脳髄をざらりと舐めあげていく。
 脳の蓄積された錬金術師というものが、矜持というものが、シオンというものがそのやらしいドロドロなものに犯されていく。そのざらついた性悦に刮げおとされていく。粘膜どうしがぐちゅぐちゅと擦れ合うやらしい感覚が、シオン・エルトナム・アトラシアという理性をぐちゃぐちゃに、めちゃくちゃにしていって、やらしい牝というものだけにしてしまう。
 やらしく、躰の奥底から震える愉悦だけになってしまう。幾度も震えが駆け上ってきてしまう。
 シオンは随喜の涙をこぼしながら、ただその淫蕩なものに浸りきっていた。

「……早く……早く……ください……」

 爛れきった熱いものに突き動かされるように、叫んでいた。
 秘所が熱かった。ムズ痒いような、待ちこがれてじりじりと灼けていくような、こらえきれない疼きに、シオンは耐えきれなかった。

「……おねだりなんかして、やらしいですね」

 琥珀の声がシオンの羞恥心をそっとなで上げる。しかしその肌を焦がす羞恥心はさらに昂ぶらせていく。

「アトラス最高峰の錬金術師だというのに、まるでさかりのついた雌犬ですね」

 嘲りの声。同性からやらしいと淫乱だと見下される。
 汚いものだと吐き捨てられるような声。
 侮蔑される、女として最低だと蔑まされる。

 それが、シオンの神経を揺さぶる。
 たまらないほどの愉悦に、深い被虐の肉欲となって、シオンを苛む。

「……そうですっ!」

 シオンはやらしくとろけきったオンナの声で叫んでいた。

「わたしはやらしいオンナなんです。雌犬なんですっ!」

 叫ぶたびに淫靡な火が燃えさかり、躰を恥辱と被虐で嬲る。

「わたしの……わたしの……いやらしい穴に……いっぱいに……くださいっ! ここに……熱くて……痒くて……お願いです……わたしの穴を……」

 嗚咽しながら、躰をひくつかせながら、哀願した。
 その恥辱が、その告白が、さらにシオンの躰を燃え上がらせていく。

「……わたしの……やらしい穴に……入れてください……つかってください」

 シオンはわざと股を開く。淡い紫色の茂みを、赤く充血しきった肉襞を、愛液で濡れた媚肉を、膨らんで顔を覗かしている陰核を、見せつけるように、晒した。そして腰を前に、琥珀がいるほうに見せびらかすかのように突き出す。そして腰をやらしく動かす。淫らにふって、せがんで、ねだってしまう。
 琥珀の含み笑いが聞こえる。
 その声が、その笑いが、やらしいのだとシオンを責める。淫売だと責め立てる。琥珀の嗤い声がシオンのすすり泣きにも似た嗚咽に覆い被さってくる。

 いくつものなにかが蠢く。
 おしりをはいずり回り、股間をなで、肉襞をぐちゅりとこすっていく。それだけで歓喜が駆け抜ける。心地よくて、頭が痺れてしまう。

 しかしすぐにそうした快楽には慣れてしまい、やらしい牝躰は渇望してしまう。もっと欲しい、もっとかき乱して、もっとこすって、もっと貫いて欲しいと、肉欲に突き動かされて、せがんでしまう。

「入れてくださいっ! 犯してくださいっ! 」

 それが幾つも蠢き、媚肉を嬲る。まだ貫いてやらないとくすぐっていくだけ。ちろりと撫で、おしりにまきつき、陰肛をこするだけ。

 シオンは切羽詰まった劣情にすすり泣く。はしたなくも、女陰を、菊座を、陰核を、それにこすりつけてしまう。陰唇はやらしく絡みつき、まるで物欲しそうにそれに吸い付いてしまう。不浄な陰肛もぷっくりと膨れていて、それに口づけした。

 やらしい躰だった。
 何だかわからないそれに、秘所を、不浄なところを自分からこすりつけ、ねだってしまう。ただただ腰奥からのぼってくる淫蕩な疼きに従って、こすりつけてしまい、それに従って肉襞はそれに幾度も情熱的な口づけを放つ。

 なのに、それはただ撫でるだけ。こんなにはしたらく、こんなに淫らに求めているのに、それはシオンを苛んだ。軽く擦り、肛門に口づけする。
 官能が肌上を撫で回していく。しかしそれだけでは物足りない。ねっとりした熱いものがさらに溢れてきてしまう。

「入れてっ! いっぱいにしてくださいっ!」

 いたぶるのに飽きたのか、それは肉襞と陰肛に触れた。ぐにっと押してくる。
 入ってくるのだと躰が歓喜にわななく。ようやく犯してくれるのだと、悦んでしまう。
 しかしそれは押すだけ。わけいってこない。乱暴に、激しく、劣情のままに入り込み、汚してはくれない。卑しい穴を使ってくれないのだ。

「……やあぁ……早く……早くぅ……」

 怜悧なシオンらしからぬ、呂律の回らない声でねだってしまう。一人では埋めきれない虚ろなところをみっちりと埋めて欲しくて、喘いでしまう。欲しくて、愛液を涎のように垂れ流してしまう。肉襞がひくつき、まるで唇のように震えてしまう。

 そこにきた。

「――――――――……くはぁっっ!」

 シオンの貌は歓喜に歪み、感涙の涙をながし、性悦にとろとろに惚けた。
 入っている。ぐにゅりと入ってくる。
 前にも後ろにも入り込んでくる。一本だけじゃない複数の何かがうねりながら入り込んでくる――――みっちりと。
 入り込めないそれらは淫乱な穴を開いて、なお入り込んでくる。満々ていく。

「…………す……すごい…………すごい……です……」

 喘いでしまう。あまりにも入り込むそれらがたまらなくて、堪えきれなくて、肉の悦びの声をあげてしまう。やらしい声で幾度でも啼いてしまう。

 それらは入り込んで肉襞を、媚肉を、擦り続ける。抉り、乱暴につかってしまう。その度に頭の中が弾ける。
 もういっぱいだというのに、さらに何かが入りこんでくる。まだ入ってくる。こんなにも入ってくる。入ってくる。入ってくる。入ってくる。
 ぬめりしごきたてるかのように、シオンの穴という穴に侵入してくる。
 躰の中をかき乱される。胎内を直接、玩ばれてしまう。
 菊座もこれ以上ないほどひろがって、みっちりとはいっているというのに、さらに括約筋を無理矢理こじ開けて入り込んでくる。

「……ああ……いっぱい……いっぱいなのに……まだ……まだぁ……」

 そして脈動し熱いそれは、激しく動き出す。くぢゅぐちゅとあふれでるやらしい汁を掻き出すかのように、抉り込んでくる。
 そのたびに粘った淫音が響き、シオンの腰から背筋がびくびくと震える。知性と計算をもって世界を計測する錬金術師とは思えない、弱々しい啜り泣きをシオンは漏らした。

 それらが入り込み、それらが抜け出るたびに、愛液が飛沫となって飛び散るのがわかる。こんなにも濡れているのだと感じて、シオンはさらに弱々しく掠れた声をあげた。

 そしてそれらは肉襞すべてに吸い付き、なめ回し、擦り上げる。一度に性器の奥から入り口までを吸われるというたまらない愉悦。括約筋をこじあけられ、腸壁をなめ回されるという感覚。
 子宮をコツンとたたかれる。そのたびに躰全体に、オンナの快感が駆け抜けてしまう。
 それから逃れるように喘いでいる口を、また犯されてしまう。喉奥まで入り込み、歯茎を、舌裏を、頬の裏側の粘膜をかき乱されて、なめ回されてしまう。
 まだ足りないのか、さらにはいってくる。
 こじ開けて、さらに開いて、拡張して、入り込んでくる。
 じゅぶじゅぶとやらしい音をたてて入り込んでくる。

 どこもかしかも気持ちいい。
 いったいどうなっているのかわからない。ただなにかが全身を犯していた。ぬるぬるとやらしい汁が、どろどろとした粘液質なそれが、べっとりとした固くて脈打つあれに、犯されていく。蹂躙され、強姦され、女として貶められているというのに、シオンの肢体は快楽によじれ、そのほっそりとした指先はひくつき、足の甲がのび、びくんと震わせて、凌辱に溺れていた。

 全身がぬめっているのがわかる。毛穴という毛穴からやらしい汁をこぼしているようだった。ドロドロとしたものがこぼれていくのに、子等だの中にそのやらしいものがたまっていく。それがうねり、突き動かされてしまう。

 媚肉を痺れさせる快感と、子宮を揺り動かす甘い振動と、妖しい快楽をもたらす肛姦と、咽頭さえも犯されてしまう、この熱くて白い――。

 シオンの意識がバチバチとはじける。意識は気持ちよくて惚けたようなのに、腰をそれにあわせて揺すり、唇でぢじゅうっと吸いたてて、陰肛をきゅっとすぼめてしまう。
 幾度も走る快感。

 だけど、それはまだ飢えていた。こんなにもみっちりと埋め尽くしているのに、さらに犯していく。シオンの恥ずかしい穴を大きく広げていく。口も、女陰も、菊座も、大きく開いて、まだ入り込んでくる。
 苦しいのに、それさえも快感に変わってしまう。
 直腸の中で、性器の中で、口蓋の中で、何本ものそれが粘膜にはりつき、一斉に振動し始める。
 あまりにも凄い性感に、シオンは背は弓のように反らせてしまう。

 熱いとろみは轟々と燃えさかる淫火によって炙られて、ぐつぐつと沸騰していた。シオンの躰の中は爛れたやらしい性の坩堝だった。

 女陰を激しく玩ばれ、腸壁を妖しく擽られて、口を淫らに犯されていく。
 卑しい穴として、やらしい肉壺として、ただの牝として、こんなにも汚されて犯されていく。それが耐えようのない獣欲となって、シオンの神経を焼き尽くす。

 それが子宮口さえこじあげてはいってくるのがわかる。入り口をくすぐり、胎内をざわつかれて、入り込んでくる。けっして犯されるはずのないところにまで入り込んできた。

 シオンの腰がむずむずした。それは尿道口をつついたかと思うと、ずっずっと、そこにさえ入り込んできた。
 感じたことのない感覚に、シオンは啼いた。こんなところにまで性感があるなんて思いもしなかった様子で、ただただこの淫蕩な者に身も心も委ねていく。

「……あっ……っあ……ああああ……」

 シオンは喉の奥から獣の唸りをあげた。鼻にかかった艶めかしい悦びの悲鳴をあげ続ける。
 突かれるたびに、入り込まれるたびに、視界が白くなり、官能が駆けめぐり、全身が痙攣してしまう。

 上も、舌も、後ろも、尿道も、そして子宮さえもが犯されてしまう。こんなにも犯されてしまう。やらしくずるりにゅうと蠢くものに穢れていってしまう。

 女芯は擦られるたびにひゅくひゅくとひくつき、いまや性器のように燃えさかっている肛門は身体が引きちぎられるほどの熱い蕩ける感覚を喉にまで伝えてくる。なのに、その喉もぐちゅりといっぱいに犯されている。
 全身が開かれていく感覚。圧倒的な拡張感が、そのまま激しい性感に変化して、シオンを汚していく。
 その汚辱にまみれた淫虐のわななきにシオンは悶えるばかり。

 頭が弾ける。
 意識が保てない。
 ひろげられ、いたぶられる妖しい感覚。
 入り込み、擦られ、ゆすられる。
 幾度も犯される。
 それが際限なく昂ぶらせていく。
 何度も背筋をゾクゾクと駆け上っていく。
 あまりにも強くて、重くて、昏くて。
 シオンの精神を呑み込み、押しつぶしていく。
 尖った乳房が舐められ、口を犯され、子宮口をくすぐられ、媚肉を舐められ、尿道を擦られ、菊座を抉られるたびに。
 熱すぎてシオンそのものを燃やし尽くしてしまうものが、牝躰を犯していく。
 絡みつく感触。
 淫水の飛沫。
 やらしい粘ついた息づかい。
 それらがとろとろに混じり合い、どろりとしたものになっていく。
 めくるめく官能の渦に、シオンはとけ込み、ただよう。
 そして熱く、白く――――。
 ただ、それだけに。

 「…………っ……くはぁっ!」

 躰の奥で弾ける。熱い飛沫がかけられていく。
 口に、顔に、膣に、太股に、乳房に、髪に、喉に、直腸に、媚肉に、乳首に、躰に、鼻に、尻に。全身に、どろどろな熱いものが浴びせられる。
 熱くて、シオンは呻いた。
 何度も頭の中が弾ける。
 白く、だた白く――。

 悲鳴をあげ、躰がきしむぐらい反らせて、あまりにも感じきった性悦のため舌さえ突き出して、喘いでしまう。

 まだ浴びせられる。
 どろりとしたものを。
 たっぷりと濃いものを。
 臭くて、疼かせるものを。
 粘つく、やらしい汁が、シオンの桃色に染まった柔肌を汚していく。
 それが浴びるたびに、ねっとりとした熱いもので肌が灼かれるたびに、シオンは躰を震わせて、随喜の涙をこぼす。

「……あつ……熱い……」

 どろりとしたものが子宮の中にまで浴びて、どろどろに媚肉を染めていく愉悦。

 いっぱい浴びさせられる。顔にべばりつき、息が出来ないほど喉に注ぎこまれる。
 膣から粘ついたものが零れてくる。それを感じて肉襞がひくつく。
 こじ開けられた菊座からどろりと溢れ、陰肛は呑み込もうと窄まった。
 とたんそれが尿道口からずりゅりとぬけた。とたん、シオンの肢体は弾けたかのようにうねると、ちょろちょろと漏らし始めた。たちこもるアンモニアの刺激臭。ちょろちょろとした水音はチロチロとなり、止めどなく溢れる。

「――――……ああああぁ……」

 心も躰も、身を焦がす熱い淫悦に囚われたまま。
 熱くて、あまりにも熱すぎて――――――なにもかも、白くなっていく。
 いくらでもぶちぶちと弾けて、昂ぶって、高まっていく。
 やらしい奔流はシオンの意識をどこまでも、白く熱く、昂ぶらせていった。
 全身を妖しくくねらせて、絶頂の悲鳴をあげて、よがり続けた。
 そして突然糸がきれた操り人形のように倒れ込む。
 生暖かい尿と愛液と腺液と、そしてどろりとした粘液質の中に崩れ落ちる。穢れきったのにもかかわらず、シオンの顔は、とても幸せそうだった。

「お疲れさまです」

 静かに響く琥珀の声。

「今日はここまでです」


 琥珀はそういって、目隠しされたシオンの拘束をほどく。その紫色の服は愛液と尿と涎に汚れきっていた。
 しかしそこには触手も、熱く爛れたようなぬめったものも、穢れたものも何もない。
 ただ薬瓶がひとつあるだけ。
 琥珀は快感にひくつき、躰をわなかかせるシオンを見下ろして、嗤った。

「――では、おやすみなさいませ」









あとがき



 チャット中におもいついたものです。

 SSなのにネタをこうしてあとがきでバラさないといけないというのは、ある意味屈辱的なことなのですが、わかりづらいと思いますので少々。

 Melty Bloodでの琥珀さんのセリフからです。秋葉さんを蹴り落とすためには志貴さんを籠絡れば……一度契ってしまえば甘い志貴さんのことですから……うんぬんとあります。でここで出てきたのがシオンさんです。遠野家に逗留するとなった新しい玩具を琥珀さんがほおっておくでしょうか?

 というわけ(笑)でシオンをもちいて籠絡すれば……と調教したわけです。バットトリップしているものだと思ってください。
 縛られていたので、シオンは触手みたいなものだと誤認してしまい、自意識の中でめいいっぱい犯されたというわけです。

 本来ならばこうしたことも本文中で語るべき事柄だと思います。けど、琥珀さんが語ると興ざめなので、ここに書き記しました。
 ご了承下さい。

 それではまた別のSSでお会いしましょうね。

25th. August. 2003. #119




追加あとがき。

 この作品はちょっとしたお祭りに提出されたものでそのまま闇にきえる予定でした。登録ミスのお詫びもかねて、こうして公開する運びとなりました。
 そうしたらしかし主催者様から公開してもよいというお達しもあり、こうして正式に登録させていただきました。

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