この作品は以下の(誰も知らなかったでしょうけど)連作SSの最終話となっています。

表作品
   ・「復讐」(Moon-Gazer 裏姫嬢祭)
   ・「ふくしゅー」(Moon-Gazer 裏姫嬢祭)

裏作品
   ・「ただ――」(TYPE-MOON 第四回人気投票支援SS #221) ※現在閉鎖
   ・「目覚めるまで」(Moon-Gazer 裏姫嬢祭)

の2シリーズの最終話ですので、これらの作品を読んでから、今作品をお楽しみ下さい。

 作品の雰囲気を楽しみたい方は、裏のみ「ただ――」 と 「目覚めるまで」 の方がよいと思います。







 俺は自分の部屋でベットに腰をかけて、ぼおっとして待っていた。
 時刻はよくわからない。
 真夜中なのか、それとも宵の口なのか、明け方なのか――それさえもわからない。
 それもそのはずで、今、俺は夢を見ているからだ。
 そもそもこんな夢を見ているのは、あのバカ女――あんなに可愛くて、愛らしくて、無垢で、純真で……そしておバカな、とってもおバカなアイツのせいだ。
 レンの力で、夢の中でアルクェイドと逢い引きすることがしばしばある。
 しかし問題はそのシチュエーション。

 ――これはコスチュームプレイというべきなのだろうか……。

 俺は外見に似合わない深いため息をついた。
 そう。
 なぜか俺の体は、幼い頃の姿をしている。ようは子供の姿だ。
 アルクェイドはなぜか最初の逢瀬――いやあれを逢瀬といってしまう俺にも問題があるのだけど――で味をしめて、時々こうして『お姉さんプレイ』を楽しんでいる。

 …………。
 …………。
 …………。
 …………(汗)

 つい手のひらをまじまじと見てしまう。というか、こんな若いときからそういうプレイに染まっていいのかと、ついつい見てしまうのだ。
 レンももともとが淫夢魔だから、いろんなシチュエーションにイタズラっ気をだしてくる。
 だいたい前回なんか、影絵の街の公園のトイレでアルクお姉さん――ってアルクェイドをお姉さん付けして呼んでいる時点でかなりダメダメな気がするのだけど――によって、その色々と恥ずかしいことを……そ、そのぅ……。だいたいその前は、夕日の射し込む学校で、わざわざ俺の席であんなことをしなくても……。そしてその前はわざわざ秋葉の部屋のベットで秋葉がいないことをいいことに…………あああああ。

 どんどん自分の考えに袋小路に入り込んでくる気がする。これ以上考えると人間失格になってしまいそうで、怖い。
 なのに――こうしてつき合ってしまうのは。

 再び嘆息。

 ――やっぱり、アルクェイドが好きだからなんだろうな。

と感慨深げに三度ため息をついた。
 ベタ惚れというヤツだ。
 あんなに綺麗なのにほのぼのしていて、かまってやらないと怒って、でもイザかまおうとするとするりと逃げていって――ああ、まるで猫のようだ。しかも血統書付きの気品にあふれたシャム猫あたり――そのくせベタベタしてきて、あの朱い瞳で俺を見つめて、あの桜色の唇で俺の名前を呼ぶと――俺は降参するしかなかった。
 アルクェイドはよく常識はずれなことをして、へへへ、と笑って天衣無縫というべきか天真爛漫というべきか――まっすぐな瞳と言葉で俺を絡め取る。
 俺は両手をあげて、降参するしかなかった。

 だからまぁ、色々とつき合ってやろうと思っているのだが。
 しかし俺もつきあいのいい方だな、と思う。
 有彦とどっちがつきあいのいい人間なのか、今度試したくなるほどだ。

 ――惚れた弱み、か。

 ノロけているなぁと思い、つい笑ってしまう。
 もしこんなことをアルクェイドにいったら、顔を赤らめてモジモジして、志貴ぃ、なんて可愛く言うんだろうな。そして俺もそんなアルクェイドの照れが移って、同じく赤面しながら……。

 背後で気配がした。

「アルクェイド、遅いじゃないか」

 振り返りながら、呼びかけると。
 そこにはアルクェイドがいた。
 いやたしかにアルクェイドだが、違うアルクェイド。
 たしかにその瞳は朱色だ――でも叡智の輝きがあって。
 たしかにその唇は薄紅色だ――でもぬめりを帯びて蠱惑的で。
 たしかにその肌は真っ白だ――でも艶めかしくて。
 たしかにその髪は金色だ――でも腰まで長く、煌めいていて。

「久しいな、人間」

 白と青の、そう冴え冴えとした蒼い月を思わせるようなドレスを身にまとった、一度だけ会ったことのある貴婦人がそこにいた。
 あの歩きづらそうなドレスでも音を立てず、あるで月の光のようにするすると近寄ってくる。
 その朱色の瞳はやや剣呑な光を湛え、その唇からは玲瓏な声が漏れた。

「……どうかいたしたのか、人間。もしや妾のことを忘れたもうたというのか?」

 俺は急いで首をぶんぶんふる。

「……あ……朱い……月……」

 喉から絞り出すような掠れた声。
 なんとか聞こえたのか、その紅の瞳からは危険な光が消える。
 そしてひっそりと笑う。
 儚い笑みで――アルクェイドのあの無邪気な笑みとは違うから、ここにいるのはアルクェイドでないことが事実として頭に染みこんでくる。
 しばし動けずに――彼女に見惚ける。

「人間」
「――あ……なんだ」

 俺の口の利き方が気にくわないのか、眉をひそめる。

「妾はここでは客人ではないのか?」
「…………?」

 彼女が何を言いたいのかわからない。そもそもなんでアルクェイドとの逢瀬に出てくるのかさえわからない俺に、何が彼女をイラたださせているのかさえわかるはずもない。
 彼女はそっとため息をつき、

「妾を立たせたままで、よくそなたは平然としていられるものだな」

 ようやく指摘されて、狼狽えた。
 一瞬、また十八分割されるのか、と背筋がヒヤリとする。
 たしかに。彼女に対して席も何もすすめないのは失礼だ――いやでもアルクェイドはまったく気にせずに勝手気ままに座ってしまうし、なにより座るどころか飛びついてくれるのだから仕方がない、と心の中で言い訳をする。

「……だから、人間。お前は朴念仁とか愚鈍とか称されることとなるのだ」
「――あ、とにかく……その椅子にでも」

 すっきりとして簡素にまとまっているこの部屋にも机と椅子ぐらいはある。
 その椅子を指さして――もしかしてきちんと用意して椅子をひいたりした方がいいのかな? そういうマナーというか紳士というか、そういうことをやったほうが……。

 そんなことを考えて、腰掛けていたベットから立ち上がろうとした時、
 彼女は音も立てずに、ベットに腰掛けた。ベットはきしみすらしない。まるで軽い羽毛が乗ったかのよう。
 しかも彼女は俺の横に、寄り添うように座ったのだ。

 窓から忍び込んでくる月光。
 その儚くて淡い輝きが彼女を照らしだし、闇の中に浮かび上がらせる。

 そのほっそりとした顔立ちに白くぬめった肌、切れ長の瞳の中にある朱い潤んだ瞳、ぽっちゃりとしていててらてらとした桜色の唇、月光をはらんでほのかに輝くプラチナの流れのような髪。
 目の前にいるのは確かに絶世の美女であるアルクェイドだった。でもまったく違う。あの無邪気なアルェイドにはない、艶やかな匂い立つようなものに俺の中の『何か』がゾクリとした。

「……こちらの方が話やすいであろう。のぅ人間」

 口元には皮肉ったような笑み。その瞳は愉悦に輝き、俺を射抜いていた。

「…………っあ」

 吐息を吐いた。
 気づかないうちに、その美しさのために息を止めていた。
 アルクェイドの無垢というか幼稚というのか、そういったものに隠れていて、普段はけっして見ることの出来ない美しさ。女。色気。妖艶さ。それが彼女にはあった。まるで、それを空気のようにはらみ、甘くねとつくようにまとっていた。

「……そういう風に呼ぶのはやめて欲しいな」

 取り繕うためにそうしゃべっていた。
 それでも視線は彼女から離れない。
 白いドレスは月光の中浮かびあがり、その光沢のある生地はまるでそれ自体が光を放っているかのよう。
 かすかに鼻につくは甘い香り。
 鼻の奥をくすぐって、思考を奪うような、甘ったるく窒息しそうな、芳香。

「……何を指し示しておるのか、わからぬのだが?」

 彼女は怪訝そうにしゃべる。

「あーだから……」

 ようやく視線をそらした。でないとそのまま心の奥まで見透かされそうで――。
 ベットに視線をなげかけると、そこには彼女の影。淡く白いシーツの上の影であっても、彼女は美しかった。

「……その人間、という呼び方だよ」

 ああ、
と、得心したかのように頷くと、こう呼び直した。

「では――ホモ・サピエンス」

 俺は脱力した。そのままベットに倒れ込みそう。
 というか、こんなところはアルクェイドそのまんまだった。

「違うよ――アル……いや朱い月」

 俺は首を振った。

「君に朱い月という名があるように、俺にも遠野志貴という名前があるのだ」
「ああ。識別のためにつける個体名のことか」

 ――よくわかっているのだか、わかっていないのだか。

「とにかく、俺のことを人間って呼ぶのはやめて欲しいな」
「なるほど。嫌であったか。妾を赦してたもれ」
「いや――謝るほどのことでもないよ」
「いや――」

 彼女はかぶりをふった。その美しい金髪が夜の闇に舞い、まるで月の光をまき散らしているかのよう。

「――赦してたもれ、トオノシキ」

 日本語ではない独特のイントネーションで呼ばれると、震えた。
 いつもの、志貴ぃというアルクェイドの愛嬌のある甘えた声ではなく、女の媚びた声に、『何か』が身悶えた。
 だから。
 その艶やかな唇から発せられる鈴のような軽やかな声にきちんと名前を呼んで欲しい、と――。
 なぜか――思っていた。

「イヤだ――赦さないよ」

 そうしゃべっていた。

 朱い月は少し驚いたように目を大きく広げ、そして伏せる。
 朱色の瞳がその長い睫毛でかくれ、ぼおっと妖しくけぶる。

「ちゃんと、遠野志貴、と呼んで欲しいんだ」
「――ちゃんと……?」

 いぶかしげにこちらを見る。あの覇気が溢れ、周囲を圧倒し畏怖させるような端麗な美貌はなりを潜め、和らかく美麗な印象だけが残っていた。

 ああ、と頷いた。
 すると――またその唇がそっと声が漏れる。
 この夜の静寂に俺の名が響き渡る。
 高い、時には低く――まるで奏でるかのように。
 唇が動き、サーモンピンクの舌が動き、白い真珠のような歯がかすかに見える。
 その唇を、その舌を、その歯をずっと見続けていた。
 耳に聞こえるのは鈴を転がしたかのような声だけ。
 風の音も、木々のざわめきも、なにもかもただ消えてしまって――。
 彼女の流麗な発音だけ。
 ただ――それだけ。
 時の流れさえたゆんでいて、この世界にたった二人しか存在してないかのよう。
 蒼白く輝く月光が、幻想的に、世界を支配していた。
 それを優しく、間違えないように、はっきりと、なのに弱々しく囁く。
 そして4回目できちんと、遠野志貴、とまるで生粋の日本人のように発音した時、
 その瞳が成功を確信してゆるんだ時、
 その口元に微笑が浮かんだ時、
 俺は



 桜色の唇を奪っていた。



 唇はとても柔らかく、ただ唇を重ねただけだというのに。
 それはそれは、とてもとても、甘かった。
彼女の躰は硬直し、突き飛ばそうとして俺の胸に手を当てて、
 そして力を抜いて、こちらにもたれかかってきた。
 しなやかで温かい感触。
 そしてゆっくりと離れる。
 その唇は半開きのまま、紅の瞳は濡れ、俺を真っ直ぐ見つめていた。
 目元には朱がちり、その白い肌は艶めかしく輝いていた。

「――遠野志貴」

 ひそひそ声で囁かれる。

「……逢いたいと、そう思うていた」

 目元の朱はゆっくりと広がり、その磁器のような肌を色っぽく染め上げる。
 月の光が一瞬途切れ、すべてが闇に包まれる。
 聞こえるのは互いの息と鼓動だけ。
 ほとんど触れそうなほど距離から感じられるその熱さに肌が焦げそうだった。
 その熱さが移ったのか、俺の体も高ぶっていた。
 苦しい。
 苦しくて――つらい。
 口の中が渇く。

 俺にはわからなかった。

 なぜ彼女がこんな瞳で俺を見るのか。
 なぜ彼女がこんな声で俺を誘うのか。
 なぜ彼女が――。

 玲瓏な媚声が柔らかく響く。

"ただ――逢いたい、と"

 ふわりとまたくすぐるような香りがして、首に何かが巻き付いてきた。
 柔らかく温かい彼女の両腕がからみついてきていた。
 何かがざわざわと蠢く。
 それは熱くたまらなく。
 とても滾っていて。
 それは掻き抱くかのように後頭部で手が合わさり、髪に指がからみついた。
 そしてぐっと前に引かれる。
 甘い吐息がかかったかと思うと――今度は唇が奪われた。
 ふつふつと沸き立つそれに背が押されたかのように、その可憐な唇を陵辱する。
 少し半開きの唇に俺は舌を入れる。
 おずおずと伸ばされる唇を強引に吸う。
 唇よりも少しかたい、でも湿ったそれを舐める。
 舌の上、その下を舐め、その歯と歯茎をひとつひとつ舐める。
 彼女から漏れるのは、ただ甘い喘ぎ。
 ぴちゃびちゃといやらしい音がたつ度に、朱い月はびくんとして躰をよじる。
 躰をくねくねとよじる。
 まっかになっている彼女を思いながら、ワザと音をたてて接吻する。
 唇をチロチロと舌でなぞり、ちゅぱちゅぱと吸う。
 この両手で抱くと、躰が硬直した。
 抱くと彼女の豊満な胸が押しつけられるような形になる。
 その柔らかくてたまらない感触を胸で味わう。
 熱くて、胸の鼓動が直に聞こえてきそうなほど。
 ポリューム感のある圧力を胸で感じながらも、まだ唇を弄ぶ。
 彼女がおずおずとしている舌を絡めて、快楽だけを求める。
 唾液を送り込む。彼女はいやいやしながらも、受け入れ、それを飲み干す。
 さらに、におやかな香りが充満してくる。
 その香りがぞろりと俺の中をなで上げる。
 その匂いを胸いっぱいに吸い込みながら、幾度もついばむ。

 彼女の熱さ。
 彼女の昂ぶり。
 彼女の吐息。
 彼女の喘ぎ。
 彼女の鼓動。
 何もかもが、俺を高ぶらせていく。

 舌を軽く噛む。
 躰がまた硬直する。
 そしてそのあとをチロチロとかすかに撫でてやる。
 鼻からぬけたような、掠れた声がする。
 いつの間にか彼女もこのいやらしい音を、気にしなくなった。
 唇と唇からもれる喘ぎとしめった音。
 ぐもったような、濡れた、やらしい音。
 ただそれを求めて、ついばみ、舐め、絡め、すする。
 彼女の甘い唾液をすすり、彼女に俺のをすすらせる。
 口から涎がおちるのも構わず、貪った。
 その柔らかい唇と舌を、これ以上ないほど熱心に。
 彼女の舌が入ってきて、こちらの口の中をまさぐる。
 おずおずとして、おっかなびっくりとしていて、可愛らしい。
 その舌が頬の裏側の粘膜をこそげおとし、舌の表のザラザラを撫で、舌の裏のつるりとしたところをくすぐっていく。
 それだけで口の中がジンジンと痺れ、頭がぼおっとしてくる。
 微弱な快感がたゆんだ雰囲気の中、甘く痺れさせていく。
 くすぐられるような弱い快感は口いっぱいに広がってとろかしていく。頬も、舌も、歯茎も、歯も、喉も、なにもかも柔らかくして、とろかしていく。
 ジンジンと痺れていく官能をふたりで貪っていた。
 ただそれだけをひたすら貪っていた。

 とたん明るくなる。
 雲が途切れ、蒼白く朧げな月の光が俺たちを照らし出した。
 その白い肌をふくよかな胸元まで真っ赤に染め上げ、その朱の瞳が潤んで朧にかすみ、桜色の唇から、たらたらと涎が流れている様を。
 それはいやらしい女の貌だった。
 官能に溺れたやらしい女そのものだった。
 それでも、なお――その端麗な美貌はけっして損なわれることはなく。
 逆になまめかしさをまして、匂い立つほどであった。
 見つめている俺に気づいて、我に返り、彼女は顔を背ける。
 耳まで真っ赤だった。
 その青と白のドレスから見える肌は羞恥のためか官能のためか、いやらしくぬめっていて朱に染まっていた。

「……わ、妾は……」

 何か言おうとする彼女を抱きしめる。
 彼女もおずおずと躰に手を回してくる。
 強く抱きしめる。
 彼女も強く抱きしめてくる。
 爪をたてるぐらい、強く、きつく、すべての力を使って。
 なぜだかわからなかった。
 俺にはアルクェイドがいるのに、このもう一人のアルクェイドも救うと誓っていたはずなのに――。

 ――なぜ――……。

 わからなかった。
 ただなぜかこのアルクェイドの顔が悲しみに歪むのが見たくなかった。
 アルクェイドと別の心をしていても、やはり朱い月は、アルクェイドだった。

 抱きしめあったまま、彼女は告げる。

「これ以上歩を進めるということは、妾が復活することとなる」
「…………」
「妾が復活するということは、アルクェイドが消え去るということ」
「…………」
「だから、アルクェイドが遠野志貴に溺れる様を、目覚めるまで見続けるつもりであった」
「…………」
「でも遠野志貴は妾にこう告げた」
「…………」
「我が身を、ブリュンスタッドの朱い月をも、救う、と――」
「…………」
「それは――ありえないこと」
「――でも、それでもお前はアルクェイドの一部なんだろ?」

 ああ、と魂が消え去るようなため息。

「まだそなたは勘違いをしておる。妾は妾。けっしてアルクェイド・ブリュンスタッドなどではない」
「――わからない」
「だから両方ともに救うということはありえない」
「――わからない」
「――わかれ」

 冷たい断定的な命令の言葉。

「わかってたもれ、遠野――志貴」

 それでもなお呟いた。

「――わからない。それでもお前はアルクェイドの一部なんだから」

 強く抱きしめる。息も出来ないほど、強く。
 そう欲していた。
 その切なさゆえに、抱きしめるしかなかった。
 その柔らかい躰をこんなに強く抱いても、何も得られないのはわかっていた。
 それでも、心の震えに従って、抱きしめ続けた。

「ああ」

 朱い月の声は熱く濡れていた。

「遠野志貴。こうして抱きしめられるというのはなんと心地よいことか」

 うっとりとした声。
 視界にあるのは彼女の絹糸のような金髪だけだった。それが月光をはらんで、キラキラと眩しかった。

「――それでも、お前はアルクェイドだ」

 我が儘だった。
 アルクェイドが側にいて、俺を愛してくれているというのに。それなのに俺は――。
 彼女も失いたくなかった。
 このままいっそ抱きしめて息をさせずに殺してしまいたくなる。
 殺してしまえば――俺のモノになる。
 七夜的な発想に、嗤った。
 彼女はそっと離れる。
 頭は抱きしめたいと、逃がしたくないと思っているのに。
 手には力が入らない。
 するりとまるで実体がない月影のように、腕の中から離れていった。

 ――行ってしまう

 なぜか怖かった。
 恐怖で心が凍りつきそうだった。
 俺が愛しているのはアルクェイドであって、アルクェイドの一部である彼女も一緒に救いたいだけだというのに。
 なのに――離れるだけでこんなにも――心が動いてしまう。

 彼女は立ち上がると、宛然と微笑む。
 微かな衣擦れの音。
 舞い落ちるドレスがふわりとまるですべての音を奪ったかのよう
 喉の渇きに似た粘つきをおぼえながら、彼女を見続けていた。
 白磁の肌を羞恥で朱に染めながら、彼女は服を脱いで、その美しい肢体をさらけ出した。
 ドレスの裾で局部を隠し、頬を恥ずかしさで染めながら、そこに立つ彼女に。

 心奪われた。

 綺麗な鎖骨の線、豊満で肉感的な胸からくびれた腰へとつながり、そして豊かなおしりへと続き、しなやかな曲線のまま太股、肘、ふくらはぎへとなだらかにゆるるかに、それはそれはとても美しく、艶めかしい、例えるならば一筆書きで描かれた曲線美だった。

 魅了される。

 顔は横を向いたまま、ちらりとこちらを見る。
 その瞳は熱く潤んでいて、その視線に心臓が鷲掴みにされる。

「遠野志貴……女に……恥をかかせるものでは……ない……ぞ……」

 語尾は掠れて、闇へと消えていった。
 月の光によって浮かび上がる、朱い月のその美しい女体に、息を呑むしかなかった。
 アルクェイドと同じはずなのに、ただその身にまとう雰囲気が違うだけで、ここまで妖艶になるとは、信じられなかった。
 言葉を失いながらも、ふらふらと立ち上がり、彼女へと近づいていた。
 間近で見る彼女の肌は白くぬめり、かぐわしい香りと艶やかな色気に包まれていた。
 恥じらいによって輝く彼女の前まで来ると、はじめて声を出すことが出来た。

「……綺麗……だ……」

 我ながら惚けたような声だった。
 間抜けな声だというのに、朱い月は、震えた声で、ただ一言――。

「……戯け……」

 そう言っている彼女をそっとベットへと押し倒す。
 ふわりとドレスが舞い落ちる。
 それに包まれながらも、彼女とともにベットに倒れ込んだ。
 蒼白いシーツの上で羞恥のために赤い肌をさらしている朱い月に。
 また――口づけした。

 そうしてその胸に手を伸ばす。
 手のひらから、指の間から、その媚肉がこぼれた。
 しっとりとしていて、熱く、柔らかだった。
 胸をゆっくりとさわると、彼女の躰は悶える。
 胸を触りながら、耳に、髪に、首に、鎖骨に、幾度となく口づけの雨を降らせる。
 唇がどこかに触れるたびに彼女の薄紅色の唇から嬌声が漏れる。
 あの甘くねっとりとした香りが強まっていき、爛れたような、熟れた香りになりはじめる。
 彼女の喘ぎはゆっくりと大きくなり始める。

 汗の匂いがして、肌がさらにぬめってくる。
 しっとりと吸い付くようになり、撫でるだけでも気持ちいい。
 そしてそのまま胸に吸い付く。
 その先にある勃った乳首を唇で挟み、舌でチロチロと弄ぶ。
 玲瓏な声はすでに濡れた響きをもって、響いていく。
 ムズ痒いようなものが肌の下をザワザワとはいずり回ってくる。
 その勃った先に唾液を塗ってく。
 朱色になった先にねっとりと塗り込んでいく。
 甘くわななく朱い月を、もっと啼かせたいと、嬲った。
 その弾力のある胸をもみ、吸い立て、そして歯を立てた。

「……っあ」

 まるで妖しい電気が駆け抜けたかのように、悲鳴に似た声が漏れる。
 それをもっと聞きたくて。
 いやらしくもてあそぶ。
 噛んだ跡を舐め、乳首に幾度でも吸い付いた。
 なんともいえない揉み心地だった。
 柔かいくせに弾力があって、ずっと揉んでいたい。
 乳房は吸い付くような柔らかさだった。
 すべすべしているのに、触われば貼りつくような張りがあるのだ。
 それを味わうため、何度でも唇を這わせる。
 舌でくすぐるように舐めながら、時折強く吸い上げる。
 跡が残るように、これが夢なのに夢でないという証拠を残すために。
 強く、幾度でも吸った。
 その白磁の透けるような乳房には鬱血のあとがいくつも残り、赤く熟れきっているかのようで。
 それは唾液でぬとぬととしていて、まるで瑞々しい果実に幾度も口をつけたかのようだった。

 息も絶え絶えで、甘くわなないている朱い月は感じているのか、右手の指を噛んで堪えていた。
 その手を引き外す。
 唇を噛みしめ、声を堪えて、耐えている。
 涙目で堪えている。
 その目から幾筋の涙が音も立てずに流れ落ちる。
 それでも、声を漏らすまいと、性悦を耐え忍んでいる朱い月は、しなをつくっているかのようで、そそった。
 啼かせたかった。
 思いっきり存分にその玲瓏な声で、甘く啼かせたかった。
 だから、手を押さえたまま、幾度でも胸を貪る。
 甘く疼かせるようにいじり、表面を触るか触らないかのところを撫でる。
 朱い月の女の貌をさらけ出そうと。
 隠れた痴態を引きずり出そうと。

「……っはあぁっ!」

 堪え切れず漏れる媚声。
 そのむせび泣くような嬌声は、いったんあふれ出すと止まらなかった。
 いやらしく躰を悶えさせ、やらしい声で啼いた。

「……ぁあっ……」

 指が動くたびに、舌が這うたびに、唇が吸うたびに、その豊麗な裸身はくねくねと誘うように蠢いた。

「遠野志貴ぃ……志貴ぃ……」

 幾度も俺の名前を呼ぶ。
 甘くねだるかのように。
 躰をざわめかせる快楽から逃れるために叫んでいるはずなのに、朱い月の白い肌はいよいよ紅く染まり、蕩けていっているかのようであった。

 とたん、下半身に電撃が走る。
 そのほっそりとした指が俺のをなであげていた。

「……遠野志貴のそれも……濡れておるな……」

 俺の先を弄ぶかのようにいじる。

「今度は……妾の……番……」

 そういって今度は俺を押し倒す。そして俺の体の上に覆い被さる。
 熱く火照った体が汗と淫液で濡れぼそり、ぬるぬるとして気持ちいい。
 その弾力あふれるしなやかな肉体からあの香りが、惑わせる香りが漂い、からみついてくる。
 美麗な顔を羞恥と官能に染め上げながらも、彼女はチロチロと俺の体をなめ回し始めた。
 手をそっと彼女の頭に置く。
 するとその手をつかみ、その手をも愛おしそうに舐め始めた。
 一本一本、ただその舌で、口蓋で、粘膜で感じたいかのように。
 爪を舐めあげ、指紋のすじひとつひとつさえゆっくりとねぶる。
 指先がじんわりとしてくる。
 口に含み、前後に動かし、舌を絡めてくる。
 じんじんと痺れて、まるで朱い月の口の中で溶けてしまったかのよう。

「――っあっ」

 その甘い愉悦につい声を漏らしてしまう。
 すると、彼女は上目使いでこちらを見つめ、淫蕩に嗤った。
 そしてまたそのてらてらといやらしく輝く紅の唇に含んだ。
 そのまま、腹を舐め、口づけをふらし、俺のものへと近づいた。
 そして俺の股間に顔をそっとうずめる。

「すごい……匂い……」

 陶酔したような声。
 顔は陰に隠れて見えないがその顔が蕩けきっているのが想像できた。

「むあっとするような……この匂いが……遠野志貴の牡としての……匂い、なのか……」

 熱くたぎっている俺のにその指を絡めた。
 それだけで気持ちいい。
 そのままそれを潤んだ瞳で見つめて、口づけした。
 ビクン、とそれが跳ねてしまう。
 切っ先にある小さな割れ目を愛おしそうに口づけする。
 粘膜が温かいものにふれて、反応してしまう。
 そして舌先が小さな割れ目に差し込まれる。
 腰をよじってしまうような快感。
 たっぷりと唾液の絡んだピンクサーモンのそれは、入り込むはずもないのに、滑らかに張り込んできた。
 そのままゆっくりとゆっくりと温かく湿った口の中へと飲み込まれていく。
 どろりとして粘つく口の中で溶けていた。
 ぬめって温かい粘膜に包まれて、俺は呻いた。
 そして顔を前後に揺すり始める。
 口からでてくるとそれは唾液でまみれていた。
 そしてまた飲み込まれる。
 軽くあたる歯、からみつく舌、喉のつるりとした粘膜の感触に、ただただ喘いだ。

 彼女の手がゆっくりと硬くしこった陰嚢に触れる。
 そしてゆっくりともみ上げる。
 痺れが幾度となく躰を貫く。
 朱い月は上目使いのまま、俺の反応をたのしんでいた。
 口の中に含んだまま、その舌のザラリとしたところで嬲られる。
 唾液をこすりつけられて、啜られる。
 袋をゆっくりとゆすっていたのか、その不思議な感触をする玉を揉み始める。
 苦痛にも似た悦楽。
 ふたりの玉を弄び、舌で俺を嬲っていた。
 見えるのは輝く金髪と愉悦に輝く朱色の双眸。
 その瞳は潤んでいて、蕩けていて。
 わざと先に歯をたてる。
 そしてまた吸う。すする。なぶる。じゅぶじゅぶと淫猥な音をたてて、その美麗な顔を蕩けさせながら、快楽に溺れていた。
 下半身が溶けていく。
 舌が這いまわり、でっぱったところをこすりあげ、チロチロと虐める。
 それらすべては肉欲をひきだし、俺をドロドロにしていく。
 そしてそろりそろりと右手の指が俺のおしりにまわった。

「……そこは……」

 俺はまた彼女を見る。
 彼女はこちらを見ていた。
 いやらしく、まるでネズミをいだふるような猫のような残酷な愉悦な輝きをもって。
 その瞳に居すくまれる。
 そして指はゆっくりとおしりにふれる。
 菊座をゆっくりとねっとりとこね回されるだけで、さらなる快感が襲ってくる。
 背骨を一気に駆け上って、脳髄をかき乱す。
 そのまま神経が直接舐められ、いじられているかのよう。
 朱い月というどろりとした淫蕩なものが血管を駆け抜けていく。
 すでに下半身がなかった。
 陰茎がとろけ、陰嚢がいじられ、菊座が弄ばれていく。
 そして。
 指がゆっくりと入ってくる。
 内臓が圧迫されるような感覚。
 内臓が直接嬲られるような愉悦。
 見えるのは爛々と輝く朱い目だけ――。
 美しく、しなやかな肉食獣を思わせる瞳に、惑わされていた。

 そしてぐにと入ると、指は前後に動き出す。
 舌と唇はいやらしい音をたてて、俺のをすすり上げて。
 左手は俺の陰嚢を嬲りつづけて、
 右手はおしりをいじっている。
 躰をよじっても。
 背をのけ反らせても。
 この肉の悦びから逃れることは出来なかった。
 ただただ――その官能の波が押し寄せてきて。
 神経を幾度も灼く。
 ゆっくりとゆっくりと圧力がたかまってきて。
 痺れるような甘い痛みに。
 蕩けるような苦しい性悦に。
 俺は喘ぐしかできなかった。
 それでも彼女はその口を、その舌を、その掌を、その指を休めることはない。
 音を立ててすすり、舌で舐め、掌でもみ上げ、指で内蔵をえぐられる。
 息ができずに溺れていく。
 このいやらしい獣の匂いに溺れていく。
 空気にまじった性悦の匂いが喉はおろか肺さえも犯していく。
 犯されていって――しまう。
 そして。
 その頬がへこむぐらい大きくすすりあげられ、
 舌で裏をでろりと舐めあげられ、
 ふたつの玉がぎゅっと握られると痺れがはしり、
 陰門に入り込んだ指がまがって、こすりあげた時、
 堪らず放っていた。

「……!」

 突然のことにびっくりしたのか、口からそれをぬく。
 したしそれはびくんびくんと痙攣しながら、白濁した生暖かい液をまき散らす。
 その粘液質なそれをその美麗な顔で受け止めていた。
 その輝くような金髪が、
 その白磁のような肌が、
 紅の唇が、
 うつくしい柳眉が、
 すっととおった鼻梁が、
 その粘つく白い男の雫に穢れた。
 しばし、目を閉じて耐えている。
 だが、その顔は紅潮し、唇からは熱く粘ついた吐息が、ああ、と漏れていた。
 湯気をはらむその粘液は、どろりとしたたり落ちて、紅潮した美貌を、さらに犯していく。

「……熱……い……」

 うっとりと陶酔しきった声。
 淫猥な眺めだった。
 絶世の美女といっていいその顔が俺の精で汚されている様は――。
 深いところからこみ上げてきた愉悦に、ぶるんと震えてしまう。
 そしてゆっくり瞳をあけ、股間へと唇を寄せて、ごく自然に俺の物をその口に含んだ。
 直後で過敏になっている先を唇に挟まれ、吸い上げられる。
 残っていた精液が吸出されてゆく。
 そしたちろりと舌が切っ先をなめ上げてきた。
 一番敏感なときに、一番敏感なところを吸い上げられ、そっと舐められる。
 また、躰が震えた。

「……凄く……いっぱい……」

 顔に白濁液をつけたまま、朱い月は淫蕩に笑う。
 唇には粘ついた白いもの。
 それを舌が舐めあげる。

 身震いするほどの淫蕩な眺めに、俺は――。
 そのまま朱い月を押し倒した。
 粘液だらけの唇に気にすることなく口づけした。
 男の匂いがしたが気にしなかった。
 そしてそっと彼女のあそこに指を這わせる。

「……んふぅ」

 ふれた途端、鼻にかかった掠れた声。
 濡れていた。
 華はひらして、雫をこぼしていた。

「……せっかちな殿方は……嫌われるぞ……」

 責める口調なのに、どこか媚びていた。
 返答もせず、そこを弄り始める。
 ゆっくりと熱い吐息が彼女の唇から漏れる。
 わざと指を大きくうごかし、音を立てる。
彼女に聞こえるように、大きく激しく。

「……そんなに……くうぅ……動かすものでは……はあぁっ」

 彼女の陰核をいじる。
 すでにぷっくりと充血していて、熱い。
 そこを指のひらでこする。
 彼女が首をふって、イヤイヤしはじめる。気高い彼女の幼く可愛らしい仕草が愛おしかった。

「……駄目ぇ……」

 アルクェイドのような甘い声。でもそこには凛とした響きがあった。

「どうして欲しい」

 そう囁くと顔がさらに朱色になる。
 白い肌は最初から紅色でできていたかのように、真っ赤に染まりきっていた。

「……戯け……」

 彼女は顔をそらして呟く。

「あ、そう」

 なんだか意地悪したくなってきた。
 今さっき彼女に弄ばれた仕返しなのかもしれない。
 とにかく、指をさらに激しく動かした。
 とたん彼女の背がのけ反る。
 金髪がベットに幾度も波打ち、その快楽の深さを教えてくる。

「……ぁあ……」

 彼女の美貌はとろけきっていた。
 目からは涙、唇からは涎を流していた。
 感じきってゆるんで、甘くとろけていて。
 とても、綺麗だった。
 またこらえるためか指を噛む。
 目を閉じて耐えている。
 時折、息を止め、大きく吐く。
 浅く早い呼吸が、空気をねっとりとしたものに変えていく。
 それでも彼女の股間からは淫水の音が響き、指先を濡らしていた。

 下をみると、その金色の薄いかげりの向こうにはひっそりと甘い蜜を湛えた女芯があった。
 そこは艶めかしくぬれぼそり、蠱惑的だった。
 そこに顔を近づけて、女芯をぺろりと舐めた。
 吐息にもにた声が空気を震わせた。
 そこはオンナの匂いと味がした。
 むわっとむせかえるような香り。
 今さっきから鼻腔の奥をくすぐっていた、男を誘ういやらしい香りの源がここだった。
 顔が汚れるのもかまわずそれを舐め続けた。
 赤く充血しきったそこを舐めるたびに、わななくオンナの声が響いた。
 花は咲き誇り、さらに甘い蜜を滴らせていく。
 その愛液を口にして、音をたててすする。
 熱く煮つめた蜜に口をつけているかのよう。
 蜜はどんどんこぼれ落ち、太股さえも濡らしていた。
 花弁の襞ひとつひとつを舐めあげ、陰核を口にして吸う。
 襞がわななき、男を、俺を誘っていた。
 そして何度も口づけし、幾度もすすり、わからないほど舐めあげ、舌でこすりあげた。

 彼女の手が俺の頭を押さえつける。
 もっともっとと貪るように、押しつけてくる。
 すると、離れる。
 切なそうな喘ぎが響く。

「……言ってごらん」

 彼女はとろけていて、何を言われているのかわからないようだった。
 その瞳には意志の輝きはなく、ただ牡を求めてとろけているだけ。

「……どうして欲しい……」
「……ぁあ」

 彼女は愛おしそうに俺の首に手を回し、引き寄せる。
 ぬめった肌と胸の弾力が心地よい。
 男を狂わせる蜜でできているようであった。
 抱き寄せるだげて、抱き寄せられるだけで――こんなにも心地よい。
 そして朱い月は、ぼそぼそ、と耳元で熱く囁く。
 蚊の泣くような声で。
 でもはっきりと、わななくオンナの声で。
 甘く、愛おしく。



 そなたが愛おしくて――こんなにも、切ない



 その言葉に一瞬頭が真っ白になる。

 ――――――――――――やられた。

 その凶悪さに。
 真っ向正面からばっさりと、やられてしまった。
 俺は嬲るのをやめて、あそこに陰茎を押し当てる。
 その熱さと固さを感じたのか、悩ましげな吐息が漏れた。
 そしてゆっくりと入っていった。

 声がゆっくりと高まっていく。
 先がはいっただけなのに、痺れていく。
 まるで握られているかのような、つかんでいるかのような、熱いぬるぬるとしたものにつつまれて、あちこちからぐにぐにと揉まれ、舐められているよう。
 そして――入りきった。
 熱くて湿ったものがびっちり包みこんで動いてる。
 ぬめりと熱さをともなって、不規則で微妙な圧力がかかってきて、それだけで肌の下に性悦が駆け抜けていく。
 悩ましげな掠れた吐息がする。
 そしてそろりと抜き始める。
 彼女の声がまた長く、とても長く響きはじめる。
 切なさを埋める、甘い喘ぎだけが世界を支配していた。
 吐息。
 汗。
 腺液。
 愛液。
 淫らな――音。
 淫猥な響き。
 入れるたびに、抜くたびに甘く響き、そのままとろけていく。
 性昂によって、絞り出されるような声。
 とけていくような肌。
 もっと奥に奥にと、入り込んでいく。
 ぬるりとした粘膜が、締め付けていくる  短くつまった呼吸音だけになる。
 喘ぎさえない。
 喘ぐことさえできない。
 ふたりともどろどろに蕩けて、入り交じっていく。
 こんなにも交わっていく。
 こんなにも。
 とろとろのところが、熱く締め上げてくる。
 カリ首が、亀頭が、陰茎が、じんわりと痺れていく。
 幾度もはいずり回る淫猥な感覚が、肌を粟立てていく。
 その淫猥さが、
 朱い月の声が、
 絡めてくるしっとりとした太股が、
 漂う、鼻腔の奥をくすぐる香りが、
 朱色にそまった柔肌が、
 ひくつきからみつく、いやらしいオンナが、
 俺を、牡の本能を絡め取っていく。
 じわりじわりと、俺の神経は快楽に爛れ、犯されていく。
 爛れた神経は、骨さえも犯していく。
 ぐずくずに溶けていく。
 脳髄はその熱さに爛れながら溶けていく。とろけていく。
 幾度も熱く白いものが駆け抜けていく。
 俺の自制心も、感情も、理性も、何もかも熱さに灼き焦げていく。
 犯されていく。
 溶けて、ただ快楽だけを貪る獣にしてしまう。
 彼女もそうだった。
 そこにいるのは、あの気高くも美しい朱い月ではなかった。
 淫らに男を貪り、わななく、牝の獣。
 美しくもしなやかな牝。
 牡を喰らう、淫楽におぼれた獣だった。
 腰からむずむずとした性悦がはいずり回る。
 とめられない。
 とめようがない。
 汗でしめった肌を抱きしめながら、溺れていく。
 幾度も口づけをかわし、肌を吸い、指でまさぐり、下からめ、あそこを打ち付ける。
 肌をはたくような音とともぐちゅぐちゅと淫液の音。
 短い呼吸音と淫水の音、そしてベットが軋む音だけ。
 ギシギシときしみ、
 はぁはぁと喘ぎ、
 ――ぁあ、と啼き、
 じゅぶじゅぶといやらしく響く。
 俺の下で彼女はなまめかしく躰をよじり、突くたびに、それが嬌声となってその桜色の唇から漏れ出す。
 なんて悦び。
 なんて快楽。
 ただただ官能の渦に巻き込まれて、彼女を抱き続けた。
 その甘く爛れた香りを胸いっぱいに吸い込みながら、彼女を貪る。
 それを受け入れる朱い月。
 いやらしく絡み合い、やらしくまぐわう。
 飛び散る汗と腺液。
 蒼白く輝くシーツの上に乱れる白い女体。
 美しい金の波は幾度となくシーツの上で乱れ、
 その可憐な唇からもれる、オンナの声。
 こんなにも感じていると、こんなにも愛おしいと彼女は啼いていた。
 俺のが抜けるぐらい後退すると、ひときわ高く声が上がる。
 再び突き入れる。
 強く、激しく、貪り続ける。
 じゅぶ。
 あふれだした蜜が濡れたいやらしい音をたてた。
 汗にぬめる尻をつかんで思いっきり深く突き入れる。
 幾度も、幾度も。
 そして先に硬いものがあたると、そこに押し揉む。

「……っく、っくあぁっ!」

 激しくしがみついてくる。
 強く、愛おしく、全身の力をこめて、抱きついてくる。
 その火照った乳房に押しつけられた。
 つぶれるような、でも弾かれるような感触。張りがあって、でも柔らかくて、鼓動が感じられて。
 朱い月が唇を求めてきた。
 舌が互いにかみ合い、口蓋を、歯を、歯茎を舐めあう。
 唾液がつながり、口からこぼれるのも構わずに、むしゃぶりつき、むしゃぼりつかれた。
 まるで唇を離すといけないかのように――。
 性器だけでなく、唇でもつながりあう。
 頭さえもとろけていく。
 息が苦しいのに、それでも離れてない。
 互いの荒い息をかけあいながらも、まだむざほり、ついばみ続けた。
 濡れる肌がこすれ、汗が飛び散り、淫蕩な愉悦にずぶすぶと溺れていく。
 朱い月というオンナに溺れていく。
 見事な肢体に。
 淫蕩な嬌態に。
 甘い吐息に。
 ぬめる肌に。
 濡れた朱い瞳に。
 首まで……いや頭の先まで沈み切って、溺れていく。
 朱い月もただ必死にしがみつき、爪を立ててくる。
 その胸の感触が、
 乱れた吐息が、
 喘ぎが、
 締め付ける手の柔らかさが、
 むずむずする神経が、
 肌の舌をはいずり回る性悦が、
 俺を苛む。
 こんなにも苛む。
 彼女はさらにぎゅっと抱きしめる。
 優しい力なのに、俺はつぶされそうなほど。
 腰奥の熱い迸りが、駆け上ってくる。
 ムズ痒さとともに昇ってくる。
 そしてぎゅっとさらに締め上げてくる。
 あんなにとろとろで熟していて、柔らかいあそこが、俺のをこんなにも締め上げてくる。
 彼女はこらえきれない牝の愉悦の声が、俺の牡を揺さぶる。
 擦り上げるたびにぴりぴりと電撃が走る。
 悦楽に犯されたいく。
 ただ――お互いに貪り逢うだけ。
 ただ貪欲に。
 真っ白になっていく。
 頭の中がそれだけになっていく。
 朱い月だけになってく。
 肉の悦びに、真っ白になっていく。
 そこにあるのは、
 ただの愉悦。
 ただの淫楽。
 ただの快楽。
 男と女の官能がどろどろにとけて交わっていくだけで。
 胸を焦がす、この焦燥感が、
 女を組み敷いて貫いているという、この征服感が、
 朱い月という女によって貪られていくという、この被虐心が、
 気高い朱い月を思う存分啼かせているという、この加虐心が、
 ただ淫虐の悦びとなって、俺達をどろどろになっていく。
 狂おしいほどのソレ。
 息苦しいほどのソレ。
 堪えきれないほどのソレ。
 滾ってぐすぐすと沸騰しいて、荒ぶっていた。
 俺はもっとも奥へ突き入れる。
 奥に当たる。亀頭が舐められているような感触。口に飲み込まれていくよう。
 堪えきれずに、放ってしまう。
 今まで我慢してきたソレが躰の奥底から一気に背筋を駆け抜け、脳髄を痺れさせる。
 美しい朱色の美獣の中に、あの黄色かがった白くねっとりとした粘液を吐き出している。
 どくり、どくりと。
 幾度も。
 たっぷりと。
 そのたびに躰に痙攣が走る。
 熱い迸りを受けて、あそこはぎゅっとと絞り出すように、ひとつになろうと締め上げてくる。
 彼女は涙をながしながら、かすれた細く長い悲鳴にも似た媚声を上げる。
 躰は何度もヒクつき、のけ反る。
 どろりとした俺のが、朱い月の胎内に染み渡っていくのを感じる。
 甘くわななく嬌声を聞きながら、征服感に包まれる。
 牡の獣が、この組み敷いている牝の獣を、俺の所有物だと、俺のモノだという証を注いでいるかのようであった。
 その時、俺と彼女はたしかに淫欲にまみれたケダモノ、だった……。

 しばらく余韻を楽しんだ後、離れる。
 少し、もの悲しい。
 でも余韻は淫らに心地よく、吐く息さえもまだ粘ついていて、何も考えられなかった。
 ごろりと仰向けにベットに転がり、深く息をする。
 躰が性悦にひたり、まだヒクついていた。
 横ではとろけたような表情を浮かべた朱い月が時折その躰を痙攣させていた。
 その表情にとても満足する。
 朱い月のものとは思えない、蕩けきった充実した笑みを浮かべている。
 充実した深い満足感。
 柔らかな一時。
 代え難い幸福。

 もぞりと彼女が躰を起こす。
 汗で濡れた肌が月光に輝き、美しかった。
 身にまとう淫猥な雰囲気のまま、妖しく囁いてきた。

「遠野志貴――」
「――ん?」
「――まだ、だ」

 突然のことに意味がわからなかった。
 肉の悦びにひたりきってゆるみきった女の貌をしながら、その紅の瞳には淫蕩な光があった。
 そして彼女はうつ伏せになって、お尻をたかく突き上げる。

 ――わからなかった。

 彼女がなぜこのようなことをするのか、まったくわからなかった。
 しかし彼女はおしりをこちらにぬけて、顔をシーツにうずめる。
 そして両手でおしりの肉をもってひらいた。
 その弾力のあるおしりにほっそりとした指がくいこみ、隠すべき秘所をさらけ出していた。
 いやらしい眺め。
 そこには赤く爛れきった媚肉があり、愛液で濡れ、そこから白い粘液がしたたり落ちていた。
 襞はひくつき、濡れぼそっている。

「……遠野志貴……」

 恥辱に震えた、掠れた声。

「……まだ――だ」

 ――わからない。

 なぜ朱い月がこんなことを、こんないやらしい格好をしているのかわからなかった。
 なぜ、まだというのかも、わからない。

 朱い月は紅潮した肌をさらに羞恥で染めながら、指でかきわけて、とあることを指し示した。
 すみれ色のすぼまり。
 そこの穴はひくつき、期待に打ち震えていた。

「――……って、そこは……」

 菊座。肛門。アナル。
 ああとにかく不浄なところで、なんで朱い月が、しかも気高くも美しい朱い月がそんなところをはしたなくねだるのか、まったく訳がわからなかった。

「遠野志貴……」

 朱い月は恥ずかしいのか、小刻みに震えていた。

「ここも――この不浄なところも……そ、そのぅ……」

 わからない。
 わからない。

 呆然としていた俺に、ぼそぼそと恥ずかしげに話しかけてくる。

「……そなたに……そなたに……」

 恥ずかしさに震えていながらも、恥辱にわななきながらも、なぜかその声は熱く粘ついていて。
 ねっとりした質感をもっていた。

「……そなたに……妾のすべてのセックスを……捧げたい……のだ」

 打ち震える声が俺の心を貫く。
 そしてそれに俺の体は反応する。してしまう。
 心臓の鼓動が早まり、口の中がまた粘つき始める。
 出したばっかりだというのに、俺のはまたビクンと動いた。
 躰の奥からむずむずするような何かが昇ってくる。
 俺はまるで花の蜜に誘われる虫のように、灯に誘われる蛾のように、彼女へと近寄っていった。
 そのふくよかな太股。とくよかなおしりをかきわけて、恥ずかしいところをひろげて見せている彼女に辿り着くと――。
 彼女がさらけ出している恥ずかしいところに、恭しく口づけした。
 声がもれた。
 それでも俺はそこを愛おしく嬲り続けた。
 皺の一つ一つを丹念になめ、唾をなすりつけていく。
 すみれ色のそこがほのかに染まる。
 それでもまだ舐め続ける。
 舌を這わせるたびに
 唾をこすりつけるたびに
 息を吹きかけるたびに、
 その穴はひくついていた。
 そしてそこに舌をねじ込む。
 ほんの少しだけ入る。
 彼女の躰が大きく震える。
 喘ぎがゆっくりと深く、ゆっくりと大きくなっていく。
 歓喜に震えて、艶やかで、なまめかしい。
 朱い月の媚声が声が甘く響き、俺の神経をとかしていく。
 見てみると、顔をシーツに押しつけるようにして、喘いでいる。
 その背徳的な快楽で、涙がこぼれてしまうほど。
 その退廃的な悦楽で、口から切ない喘ぎを漏らしてしまうほど。
 俺は舌を淫らに動かして、彼女のそこを舐め、やわやわとほぐしていた。
 堅いつぼみのようなそこが、ゆっくりと開き始めていた。
 その下にある淫蕩なオンナはたらたらと雫をこぼし、感じているのを示していた。
 舌をとがらせてまたつつく。
 淫靡な声がひびき、ざわざわと何かが高まってくる。
 現金なことに出したばかりだというのに、俺のは勃ちはじめていた。
 朱い月の顔は恥辱と背徳感と性悦によって、乱れに乱れていた。
 認めたくないであろう背徳的な、退廃的な嬲りに対して羞恥が躰を灼いているようだった。
 でもれよりも、
 その口から漏らしている声は。
 その唇から流している涎は。
 その女陰から滴る愛液は。
 ムズ痒いような快感に溺れていることをしめしていた。
 俺でさえも、こんなところに口をつけ、ねぶり、愛していることに対して、熱く高ぶっていた。
 普通ではないところをただ求められたからといって、そこを愛するというこの倒錯的な感覚。
 認めたくない背徳的な疼きがとろ火となって、全身をちろちろと舐めつくしているよう。
 熱くて、たまらなくて、躰をのけ反らせてしまいそうなほど。
 そのまま、舌でうしろを虐めながら、指で前をなで上げる。
 いやらしい愛液と腸液がまじりあって、なんともいえない音をたてている。

「……すごい。……感じているのだ……」

 つい感想を漏らすと、

「たっ……戯け……」

 恥ずかしいのか顔をシーツに埋めてしまう。
 恥じらう彼女がみたくて、嬲ってしまう。

「でも、こんなに」

 そういって指で蜜壺からそのとろとろした愛液をすくう。
 指は粘つき手の甲まで濡れてしまいそうなほど。
 熱く湯気がたっているかと錯覚するほど。

「……そのような……ことを……申すな……」

 か細く聞こえる彼女の声。
 そのまま指を一気にいれる。
 喉から絞り出さされるような呼吸音。
 そして陰肛をなめる。皺をよじるかのようになめ回し、入れる。
 ぐにゅりと入った。
 そのまま舌を奥へ奥へといれて、淫らな愉悦を掘り起こそうとした。
 奥までなめ回す。
 これ以上ないまで奥へと侵入し、かき乱す。

「あっ、あっ、あっ、あっ!」

 おしりが大きくゆれる。
 それをおさえつけて、顔をその弾力あふれる柔らかいおしりにおしつけて、舌をもっといれ掻き出す。
 埋もれさせるように顔を押しつけながら、舌を前後に、左右に、ひねり、腸壁をなめ回す。
 彼女の膝がガクガクしはじめる。
 顔を離すと、一気におしりに指をいれる。

「あーーーーーーーーっっ」

 消え入るような声。
 窄まりは最初はきつかったが、いったん入れば楽だった。
 ぬるぬるした妖美な感触が、指を締め付けてくる。
 そして指でそろりそろりと腸壁をくすぐる。
 内臓をかき乱されるような快感が駆けるのか、腰を淫らに動かして、のがれようとする。
 そして指そっと出し入れし、腸壁の敏感なところを撫でる。
 腸が蠕動しているのがわかる。
 排泄器官なのに、俺の指を飲み込むかのようにきゅうきゅうに締めて、こすりあげてくる。
 ぷっくりとふくらんでいて、時々ひくつくのがわかる。
 かっと熱くなる。
 まるで酒を飲んだかのよう。
 直接、血管にアルコールを注いたかのよう。
 突然酔っぱらってしまったかのような、この熱さ。
 その淫らに蠢くおしりが
 そのいやらしい喘ぎ声が
 ひくつくおしりの穴が
 甘い香りが
 ぬめるような肌が
 卑猥に粘つく音が
 俺を酔わせていく。
 こんなにも酔わせていく。
 朱い月という銘柄の淫蕩な美酒が、酔わせていくのだ。
 朱い月という銘柄の妖艶な美酒が、俺の理性を溶かしていく。
 むせかえるほどの、女の臭い
 喘ぐほどの、雌の香り
 溺れるほどの、牝の匂い
 それらが入り交じっていって、理性どころか、俺の存在さえもとかしていく。
 とけてそのまま朱い月の一部になってしまいそうなほど。
 すでにとけてしまっているのかもしれない。
 この甘い疼きが、
 このとろけるような痺れが、
 このくすぐるような甘美なわななきが、
 俺をとかしていく。とろかしていく。とろかしてしまって――なくなってしまう。
 堪らない快感。
 堪えようのない甘美な酩酊感。
 気がつくと俺は熱中していて、指を二本もおしりに入れていた。
 前後左右にバラバラに動かし、甘く啼かせていた。
 おしりからも腸液がしたたりおち、いやらしい音をたてている。
 ぐちゅぐちゅと、まるで女のように濡れて、男を誘っていた。
 あまりにも性感が高まっていて、入れる前に果てそうだった。
 果ててもいいほどの、深い愉悦。
 熱病に浮かされたかのように、おしりの穴を弄んでいた。
 いれた指を引き抜くたびに、また押し込むたびにその豊麗な躰は震え、官能の波に飲まれていることを教えていた。
 大胆に動かせば動かすほど、朱い月は切なそうな声をすすり上げて、啼く。
 尾てい骨を舐め、そのすべすべとしたおしりに舌をはわせ吸い付き、窄まりにいれた指を大きく上下左右に動かし、そのつるりとした腸壁を堪能する。
 そして指を入れながら、肛門を舌で弄くる。
 ぷにっとした感触、ちょっとした苦みとえぐみ、そしていがらっぽい舌を刺激する腸液。
 指をずぼすぼと音をたてて出し入れされ、そのまわりを丹念にねぶっていく。
 ふやけて、おしりの穴がひろがってしまうほど、舐め尽くして、感じさせる。
 粘った音が響き、泡立つほど。
 彼女はおしりさえも真っ赤にして、よがっていた。
 毛穴全部からいやらしい液がでているかのように、その白い肌は濡れぼそり、いやらしく照らついていた。
 充分にほぐれたと感じた俺は指を引き抜く。
 切なそうな、物欲しそうな声。
 そして男根を陰肛にあてる。
 ――ああ、とかすかに熱く呻く声。
 そして俺はぐいっと押し込んだ。

 ゆっくりと入っていった。
 括約筋を押し広げ、ゆっくりとゆっくりと陰肛を分け入ってくる。
 ないの粘膜がからみつき、俺のをこすりあげ始める。
 とてつもない悦びだった。
 直接、脳へと快感が押し寄せるよう。
 その身もだえするような痺れる快感に呻いていた。
 彼女は細く長く、肺にある全ての空気を絞り出すかのようにすすり泣いた。

「……そなたが……そなたが……入ってくる……こんなにも……こんなにも……」

 少し、また少しと侵入していくいやらしい感覚が躰を疼かせる。
 きゅっとしまった入り口をぬけると、熱い粘膜。
 入れたものがそのままとろけていきそうなほど熱くて、たまらない。
 とろとろなそこにゆっくりと肉棒を沈めていくだけで、官能が迸って、背中をそり返したくなる。
 そしてとうとうすべてを埋めきった。
 根本がぐいぐいしめつけられ、中はどろりとしていて、きゅっきゅっと締め上げてきて……苦しいほど。
 きつい締め付けをするくせに、中は滑ってしまいそうなほどぬるぬるだった。
 こんな感覚は初めてだった。

 朱い月はよがっていた。
 これ以上ないほど大きな声をあげて、よがり狂っていた。

「……凄い……すご……すぎる……」

 歓喜に満ちた声。
 喜悦に満ちた表情。
 淫蕩な香り。
 狂おしいほどに感じてしまう。
 朱い月のすべてを支配したという、圧倒的な征服感。
 身の毛のよだつようなこの快楽。
 そしてゆっくりと引き抜き、そして押し込む。
 粘膜がからみつき、おしりの穴がぎゅぎゅと締め付けてくる。
 頭の中がバチバチはじける。
 直接脳を舌で舐めまわされるような感覚。

「ああぁぁぁぁぁっっっっっ」

 彼女は声を張り上げる。
 首をふり、耐えきれない快感から逃れようと、狂おしく、いやらしく、ただ淫らに躰をよじっていた。
 その美しい唇からは涎が漏れ、まなじりからは涙がこぼれ、全身から汗を拭きだし、女陰から愛液をしたたらせて、よがっている。

「駄目……駄目……」

 彼女は躰をこね回しながらも、貪欲に快楽を貪る。
 激しい情欲にさらされているのがわかる。
 爛れた官能の中、朱い月は喘ぎ、打ち震え、舌さえもつきだして、感じていた。

 たまらなくて腰を動かす。押しつけて引き抜き、また押し込む。
 どんどんとろみにある粘ついた熱いものがびくんびくんと背筋を駆け抜けて、脳をとろかしていく。
 神経がむき出しになって、悦楽に浸っているかのよう。
 窄まりは本来は不浄な箇所で、このようにして使われる場所ではけっしてないというのに、まるで淫路のように、俺にはっきりとした快感を与え続けていた。
 入っていく時の圧力。きつきつなくせに、粘膜のひとつひとつ、腸壁のひとつひとつがからみついてくる愉悦。
 抜く時の、吸い付き。抜いているというのに、吸い込まれるような、身がよじれるような痺れる感覚。
 それらに蹂躙されていく。
 激しい情欲の波にただ従って、彼女のお尻を貪り続けた。
 蕩けるような、いやらしい感覚。
 どろりとしていて、追い詰めるような甘美感。
 おいつめられて、息が出来なくて、でも突き動かされてしまう。
 酷いほど興奮する。
 興奮しきって、このしなやかでいやらしい朱い月の淫肉しか考えられない。
 性の悦楽だけに、いやらしい性感だけに、それだけになってしまう。
 柔らかくしなやかな、この朱い月に溺れてしまう感触。
 爛れていく感触。
 とても淫らで、とてもいやらしくて、とても気持ちよくて。
 肛交しているという甘美な感触に、内蔵をじかに嬲っているという背徳的な愉悦に、そしてそんな退廃的なことをしているというのに悦ぶの声をあげてしまう朱い月のはしたなくよがる姿に、ただ悶えてしまう。ただ――ひたってしまう。

 括約筋と腸壁の襞が、締め付け、撫であげ、こすり、しごきたてる、このたまらない感覚。
 腰を振り続けた。
 気持ちよくて、たまらなくて。
 しみ一つない背中に口づけする。
 汗の味。いやらしい女の味。
 それがチョコレートのように甘い。
 熱く、とろけていく。
 淫らに、蕩けていく。
 爛れていく。
 ただただ、どろどろのいやらしい粘液になってしまう。
 快感が腰から脊髄を駆け抜け、脳髄を灼く。

 朱い月はたまらなくいやらしい顔をしていた。
 とろけた女の貌。
 目を潤め、首をふって、いやいやする。
 美しい金髪が波となって、光を放つ。
 汗がキラキラと舞い散る。
 でもその痴態に、感じきって甘く啼いている朱い月が愛おしくて、いやらしくて。

「なんて――いやらしいんだ……」
「も……申すな……そのような……ことを……」

 息も絶え絶えに反論してくる。
 腰を打ちつける。
 反論も忘れ、甘美に掠れた声をあげる。

 そして止まる。
 突然動きがとまって、怪訝そうにこちらを見る。
 その柳眉は悩ましげに八の字となり、薄桃色だった顔は性悦で真っ赤となり、はしたない表情を浮かべ、潤んだ切れ長の目で切なそうに、こちらを見ている。
 欲しそうに、切なそうにその朱色の瞳に見られているだけで――。
 また動き始め、この女体を貪ってしまう。
 こんなにも。
 激しく。
 こんなにも。
 いやらしく。
 こんなにも。
 こんなにも。
 こんなにも。
 頭が真っ白になってくる。
 めちゃくちゃにしたい。
 もっとなかせたい。
 もっといじめたい。
 もっといじくりたい。
 もっと。
 もっと。
 もっと。
 全身が熱く震える。
 腰の奥がむずむずする。
 むず痒い痛みがたまってくる。
 それがたまらなくて、我慢する。
 我慢すればするぼと、むず痒くなり、それが気持ちよい。
 甘い吐息が耳に聞こえる。
 筋肉質な躰を抱きしめる。
 淫らなおしりを貫き、快楽に浸る。
 腰の奥にだんだんとたまってきて
 その圧力に背を押されて。
 狂おしいほど、追い詰められていく。
 躰がよじれるほど、追い詰められていく。
 気持ちよくて。
 いやらしくて。
 わからなくて。
 何を考えていたのかさえ、わからない。
 思考の焦点が定まらない。
 頭の中は朱い月だけになっていく。
 朱い月の、このいやらしい牝体だけになっていく。
 この柔肌に溺れていく。
 甘く啼く、淫らな声。
 震える端正な顔は快感で歪みきって、
 涙ぐみ、哀願しているような、そんな切ない瞳。
 愛おしくて。
 狂おしくて。
 堪らなくて。
 俺が溶けて出して流れていってしまう。
 耐えられない。
 堪えられない。

 そして朱い月の陰肛を深くえぐると、放った。
 一番深い超の奥に、精を放った。
 躊躇いのなく迸る朱い月の悲鳴。
 それが夜の闇にとけていく。
 どくんと音をたてて、中に放出する。
 びくんびくんと跳ねて、数度にわけて胎内を犯していく。
 どろどろなものでいっぱいになるまで、犯し抜く。
 朱い月の躰に牡の精が注がれていると思うだけで、頭が痺れてしまう。
 心地よくて、痺れてしまう。
 口も、女陰も、菊座さえも、そのすべてのセックスを俺の穢れた白濁液でどろどろに汚していく。
 俺にモノだという証。俺のモノになったという昏い愉悦。
 想像するだけで、躰が打ち震えてしまう。
 そして、そのまま朱い月にもたれかかった。
 疲れて、たまらなくて、あまりにも淫蕩な快感によって――意識を手放した……。
 …………………
 …………
 ……
 …
 :
 ・

































「……!」

何かが叫んでいる。

「……志貴ー!」

誰かが呼んでいる。

「……起きろー!」

 その声には聞き覚えがある。
 脳天気であーぱーな俺のお姫様。
 吸血鬼のクセに燦々と降り注ぐ陽光の下、堂々と出歩き、白がとても似合う――。
 何でも知識はあるクセに本当の意味では何も知らない、無垢のお姫様。
 白いサマーセーターと紺のスカートを身にまとう、どこか抜けている美女。
 素直で自分にはまっすくで、我が儘で、ウソはつかないけど、よく逆ギレして、律儀なくせに人の話を聞かないで、えっとえーと……。

「全部聞こえているわよ、志貴」

 少しご機嫌斜めな模様。
 そっと目を開ける。
 そこには金髪で白いお姫様がいた。
 腰に手を当てて、少し口をとがらしている。
 でもそんな様子でもとても綺麗で、どんな表情でも美麗な美貌を損ねることはできないのだな、と実感する。

「……どうしたの――志貴?」

 怪訝そうな声。

「どうしたって――?」
「志貴――泣いているわよ、何かあったの?」

 泣いている?
 頬を拭ってみると、たしかに濡れていた。
 でも――なぜ?
 わからない。

 アルクェイドはベットの脇に座る。



 ズキリ



 なぜか胸が痛んだ。

「いや――わからない」

 かぶりをふった。

「どうしたのよ――志貴?」

 心配そうに覗き込んでくる。

 朱い瞳。
 白磁のような肌。
 桜色の唇。
 美麗なアルクェイド。
 いつものアルクェイド。
 太陽がよく似合い、明るく爽やか。
 なのに――。



 胸が疼いた。
 酷く、甘く。
 酷く、狂おしく。



「どこか――痛いの? 具合でも悪いの、志貴?」

 すごく心配そうに見つめてくる。

「わからない」

 俺はまた同じ言葉をいい、同じくかぶりをふった。

「アルクェイドがいなくなった気がして――」
「わたしはここにいるじゃない」

 そういって華やかに微笑む。
 その笑みに、胸が甘く疼く。
 なぜか――こんなにも。
 俺はアルクェイドにもたれかかった。
 一瞬おどろくが、そっと抱きしめてくれる。
 愛おしげに、温かく、俺を包み込んでくれる。
 なのに、なぜか涙がこぼれて仕方がなかった。
 嗚咽が漏れる。
 ぽんぽんと背中を叩いてくれる。

「うん――志貴。わたしはここにいるからね」

 そう囁いてくれる。
 なぜか理由がわからない、この奇妙な喪失感が俺を泣かせていた。
 その喪失感は甘く疼いて。
 俺を苛んだ。

 わからない。
 アルクェイドがいなくなったわけでもない。
 ここにいる。
 こうして抱きしめてくれているというのに。
 俺は陽光のようなアルクェイドのことなのに、なぜか、冴え冴えとした蒼白い月の影を思って、泣き続けた。
 そうするしか、なかった。



完結


あとがき

 この作品はCLOCKWORK1周年記念としてかいたものです。

 これでこの2つのシリーズはおしまいです。

 っていうか、こうつながるってありなの? っていう人もいるでしょうね。
 特に「目覚めるまで」はアルク・トゥル−エンド後だったでしょ、という人もいるでしょうけど、ごめんなさい。それに関しては平謝りです。アルクグットエンド後として修正いたします。ぺこり。

 夢という題材で「復讐」と「ふくしゅー」が書かれたときに、同じく夢として影を描いた「目覚めるまで」がつながってしまったんですね、わたしの頭の中で。アルクェイドでネコクェイドときたら、続きはやっぱり朱い月でしょう、と――。
 そして応援SS「ただ――」をかいたら、今作品を無性に書きたくなっちゃいまして。
 裏紫苑も+凸もすべてうち捨ててかいちゃいました。

 あと子供の姿だった志貴が何時の間にか元に戻っているのは、仕様、です(笑)
 そういうシーンをいれると展開にもたつきがあったので削除しました。

 今回、志貴視点で書くことに固執しまして、どれだけいやらしくなったかは不明です。わたしの場合、いやらしくするために女性側の感覚を所々挿入していたのですが、訓練というか修練だと思って、あえて志貴視点に固定しました。
 うまくいっていれば幸いです。

 それではまた別のSSでお会いしましょうね。


7th. March. 2003 #96

index