シンデレラ



/プロローグ
 誰もが知っている物語の掴みってとこ


 昔々あるところに若い娘がいました。
 彼女の父親が後添いを娶った時から彼女は苛められました。
 継母は父親が留守がちなのをいいことに連れ子である2名の実の娘ばかり可愛がり、その娘を下働きのようにこき使ったのです。
 でもその娘は新しい母親の申しつけだとその指示どおりに働いたのです。そのため煤け、灰をかぶったため、シンデレラ(灰被り)と呼ばれるようになったのです。

 まぁだいたい、こんなところ。



/遠野家台所
 シンデレラはいつも意地悪な継母とその連れ娘たちにこき使われていました。


「にゃにゃにゃーーー」

とシンデレラことネコクェイド。突然奇声を発しました。ちょっと気持ち悪い外見をしていますが、ほんとうは性根の良い可愛らしい女の子なんですよ。

「こんなことばっかりやってられるかー!」

 …………本当ですよ(汗)

 台所で食事の用意のためまた今日も灰を被りながら仕事をしていたネコクェイドはぎゃーぎゃーとまるで盛りの突いたネコのように喚いてます。

「ふざけるなー。これでもわたしはTYPE-MOONのマスコットでキモかわいいと可愛がられてるんだゾー。なんでこんなことしなきゃーいけないのよ」
「うるさいです、どうしたんですか」

 と入ってくるのは継母の秋葉。
 すでに髪は真っ赤です。臨戦態勢です。やる気万端です。神をも殺す勢いです。

「あーら、ネコクェ……いいえシンデレラさん。どうしたんですか、いったい」

 ちょっと目がイっている感じが、とても素敵だ。

「もしかして灰被りの役が気にくわないとでも」

 近寄って圧迫感を与える秋葉。赤い髪がまるで毒蛇が威嚇するようかのにゆらゆらと揺れています。

「王子様と結ばれる役がいやなら、降板してくださってもかまわないんですよ。その代わりにわたしが愛する王子様と結ばれる役になりますから」
「うるさいなー妹ー」
「……だれが妹ですか。劇での配役も覚えられないのですか、貴女は」
「う゛ーう゛ー」
「まぁまぁ秋葉さま……ではなくてお母様」

 と後ろから連れ子の2名がひょっこりと顔を出す。

「でも姉さん。秋葉さまをお母様だなんて呼ぶのは失礼なのでは」
「いいのよー」

 あはーと屈託がないようにみえるけど実はありまくりの笑顔をみせて、連れ子の琥珀は妹の翡翠に話しかけちゃったり。

「だって、もっとも最年少である秋葉さまを『お母様』と呼べるのは今だけなんですよー。やらないともったいないじゃありませんか」
「だいたいこの配役はなんですか。なんでこの気持ち悪い未確認生物の母親役なんてしなければならないんですか」

 秋葉も猛る猛る。ネコクェイドもわめき立てる。

「でも妹は小姑役がぴったりなんだから、それでいいにゃー」
「うるさいです、このUMAの分際でっ!」
「……秋葉さま、役のことを忘れています」
「そうですよ。もっと意地悪な継母らしくしないとー」

 といって琥珀は台所で鍋を振るう。それの手伝いをし始める翡翠。

「姉さんコレがいいと思います」
「……翡翠ちゃんって…………本当にだいたんな味付けねー」
「……そうでしょうか? このくらいの方がいいと思いますけど」
「あ、あはー、翡翠ちゃんってば、過激ねー」

 ふたりが作っているものをあえていうのなら、炒め……(AOLからメーされるような表現のため削除されました)……紫色の『何か』。
 それをお皿に盛りつけると、ネコクェイドの前に翡翠は慇懃に並べました。

「どうぞ、醒めないうちにご賞味を」

 ぷるぷるぷる。

 ネコクェイドは顔をぶるんぶるんとふる。顔面蒼白でちょっとガタガタブルブルと震えていたり。

「にゃー、琥珀ー、翡翠ー、これニンニクー。ニンニクーの臭いが……」
「そうですよー、翡翠ちゃん特製の『にんにく一宝菜』ですよー」
「にゃー、にんにくしかはいってないから一宝菜ってー。にゃぜ餡が紫なのー。にんにくだけなのに、この動いているのはにゃによー。にゃんにゃのよー」
「さぁお食べ下さい」
「あはー」

   翡翠の目はいつもの2割増しでグルグルと渦巻き、琥珀は向日葵のような笑み浮かべてネコクェイドにじりじりと寄ってくる。
 ふたりのてには妖しげな……(AOLのキッズコントロール的にメーな表現)……ものをもってくるではありませんか。いつしか琥珀は顔にガスマスクまで装備していたり。
 ネコクェイド、総毛が逆立ってしまい、後ずさり。
 じりじりと。
 一歩一歩。
 しかし、ダメです。追い詰められていきます。

 二人の義理の姉たちはシンデレラを囲むように、素晴らしい足運びで追い詰めていきます。

 とん、とネコクェイドのお尻はシンクにあたってしまいました。
 もう逃げ道はありません。

 ――――こうなったら殺るしか!?

 ネコクェイドのシンクの瞳がきらりーんと妖しげに輝くとも、体をゆっくりと揺すり始めます。ゆらり、ゆらりとまるで影法師のようにゆれたかと思うと。

「くらえーーー」

 ネコクェイドが全身をつかって∞の軌道を描きます。
 伝説のニャンブシーロールっ! 知得留も一撃のもとに屠り去った(こともある)、必殺技!
 ぶんと風が唸る音が台所に発生します。
 殺れ。殺るんだ。あちきは殺れるんだっ!
 大きく体を左右にふり、ねじっていきます。まるでゴムマリのようです。

 ――――もらったにゃー!

 怯えたふたりに急接近し、そしてそこで蠢いている紫色の物体に向かって必殺の――――。


 ピタリ


 突然ネコクェイドの動きが止まりました。
 動けません。一歩も前に進めないのです。なぜなら、全身が真紅の檻髪に囚われていたからです。

「い、い、妹ー」
「……私は意地悪な継母役ですからね、ふふふ」

 情けない哀れな声に対して無慈悲な言葉と氷の微笑。そして追い打ちをかけるように。

「……さぁお召し上がりを」
「あはー、おいしいですよー」

と、にじり寄ってくるふたつの影。





にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 丘の上の遠野屋敷にネコクェイドの絶命の声が響き渡りましたとさ。



/遠野家居間
 お城で舞踏会があるのに、継母は実娘だけつれていって、シンデレラを置いていったのです。


「さぁ今宵は兄さんと舞踏会。ふふ、兄さんと、兄さんと」

 ちょっとイっちゃっている目がとってもラヴリー。

「あ、秋葉さま……」
「いいのよ、秋葉さまは妄想に浸るのが大好きなんですから。それよりも翡翠ちゃん、これなんかどうかしら」
「……あ、可愛い」
「へへ、いいでしょう。これ翡翠ちゃんにあげる」
「で、でも、それは姉さんの……」
「いいのよ、わたしはこちらがあるから……」

 極彩色に彩られたお花畑。いろんなインナーが所狭しと並べられて、きゃっきゃと3名は物色中。
 これはと思わせるようなきわどすぎるデザインから、これでインナーとして用がなしえるのか疑問なすけすけなものや紐当然のものまで、いろどりみどり。華やかなまでに咲き誇っていた。

「……姉さん、それはちょっと……」
「これっくらいの方が男の人の注意をひけるというものですよー」
「兄さんはこういうの好みかしら」
「あ、綺麗です。秋葉さま」
「でも、わたし胸が……」
「でもシルエットは重要ですよ。秋葉さまって綺麗なラインがあるのですから、それを見せればグッと見栄えがいいんですから」
「そうです、秋葉さまはそういうドレスがとても映えると思います」
「……そうかしら……」

 咲き乱れる花畑でかしまし三人娘の衣装合わせ。ああでもないこうでもないと思案中。
 そんな華やかなお花畑の横で、紫色のなにかうねうねと蠢くものにまみれて『なにか』がごろりと横たわっていた。

「……死ぬー、死ぬー、今すぐ死ぬー、もうすぐ死ぬー、死ぬにゃー……」

 響く沈痛な声。でもかしまし三人娘には聞きやしねぇ。

「ね、姉さん……これはちょっと……」
「あはー、綺麗ですよ、翡翠ちゃん。それならば志貴さんの心を独り占めできますよ」
「これならいいかしらね」
「秋葉さま、とてもお似合いです」
「……死ぬーにゃー……」
「わたしはいつものチャイナですよ。ほらスリットが……」
「ね、姉さんっ! それじゃあ……」
「大丈夫よ、翡翠ちゃん。曲線美は大切ですから下着はつけちゃあいけないのよ」
「……姉さんは大胆です……」
「琥珀もなかなかやるわね」
「……もう死ぬーー……」
「でも可憐ですから、秋葉さまは」
「そ、そうかしら」
「姉さん、これなんかどうかしら」
「あら綺麗。翡翠ちゃん、なかななかやるわねー」
「よく似合ってよ、翡翠」
「…………ありがとうございます……」

 無視。シカト。アウト・オブ・眼中とはこのこと。



「にゃーーーー。無視するにゃー」

  紫な……略……にまみれながらネコクェイドは叫んだ。

「あ、ネコクェイドさん」

 秋葉はとてもとてもお上品な、完璧なお嬢様の笑みを浮かべた。

「兄さんとデートですから、お留守番、お願いね」
「お願いいたします」
「では行ってますねー」

「あ、あちきも」

「駄目です」
「すみませんがお外のお掃除をお願いいたします」
「あはー」

 とりつくしまがないとは、まさにこのこと。三人は意気揚々と出かけたのです。
 ぽつねんと、残されたのはネコクェイドと紫色の……略……だけ。

「あちきが主役なんたぞー。シンデレラ役にゃのにーなんていう仕打ち」
 大きすぎるまなこから涙がひとしずく。

「あちきも行くたーい。お腹いっぱい食べたーい。志貴に逢いたーい」

 全部の照明がおちて、ネコクェイドだけにスポットライト。妖しさ大爆発。
「う゛う゛、今日一日だけでいいから、志貴と逢いたいのよー」

 のの字を床に書く姿はどうみてもキモい。



/遠野家、台所
 シンデレラのお城へ行きたいという願いを魔女が叶えてあげました。


 そこに三人の魔法使いが――。

「……三人ってにゃによ?」

 台本では三人です。それに地の文に突っ込むのはナシです。

「えーでもーあまりにもおかしいにゃー」

 黙りなさい。

「えーでもー」

 そして三人の魔女が現れました。

「あー無視したー。強引ーだー」
「……なんですか、真祖の姫君」

 とまず現れたのはシオン。
 コツコツと靴も高らかに登場し、ビシっと指さしました。

「そんなに志貴に逢いたいというのですか…………って真祖の姫君はどこに?」

 きょろきょろと回りを見回すシオン。その脚もとでそわそわと動きまわるネコクェイド。

「――逢わせてくれるのかにゃー」
「……誰です。いや何者です。いえ、何モノですか、あなたは」

 脚もとでちょこまかと動いているネコクェイドをいぶかむ。

「あちきよー。ネコクェイドよー。TYPE-MOONのマスコットでラブリーでキュートでベリースイートなのよー。甘々なのよー。シンデレラなのよー」
「…………嘘です」

 きっぱりと言い切られました。言い切られてしまいましたよ!

「そんなデタラメなんて信じられません。いいですか真祖というものは人間をもとにして作り上げられたもので、精霊の一種として……」
「とにかくー」

 ぶーたれるネコクェイド。

「わたしを早くボインボインのばーん、きゅ、ぷりんなナイスバディにして志貴に逢わせるのだー」
「…………はぁ?」

 いぶしげにネコクェイドを観察するシオン。しげしげと見まわしてから一言。

「――貴女がボインボインのばーん、きゅ、ぷりんなナイスバディになるのためには、わたしが計算したところあと100年は最低でもかかると算出しました」
「えーーーーー」

 わたわたとするネコクェイド。

「そんなのー100年も無理だよー。舞踏会は今日なのー。んな計算なんてポイにゃー」
何を言っているのですかっ!

 一喝するシオン。

「錬金術師の最高峰に属し、アトラスの名を冠した、このシオン・エルトナム・アトラシアが出した計算なのですよ。それをポイだなんて、なんていうことを言うのですかっ!」

 ジロリンとにらみ付ける。
 あうあうとたじたじになるネコクェイド。

「この栄えあるエルトナム家の知識と錬金術師の分割思考をもって計算しつくした結果を、ポイだなんて考えもせずただ脊髄反射の一言で切り捨てるなんて、貴女はどこまでも傲慢なんですかっ!」
「あーーうーーー。そのーにゃんだー」
黙りなさい。このケダモノっ!
 いいですか。あなたがあの真祖の姫君と同じとても女性らしい魅力的な肉体になるためには、まず生育しなければなりません。それをたった一瞬で生育? そんな事柄は高等魔術に属します。
 なのに、魔力回路が弱いことで有名な錬金術師にそんなことをしろとでもいうのですかっ!」
「やりなさいよー。だってあちきを大きくして着飾ってくれる魔女役なんでしょー」
「だいたいなんです。魔術が使えるからというなんとも陳腐でめちゃくちゃな理由付けでこのエルトナム家の、アトラスの名を冠したわたしにこんな端役をまわすだなんて――考えられませんっ!」

 牙を出す、角を出す。ぎゃーぎゃーとわめき出すシオン。

「あ……あのだにゃー」
「理不尽です。不可解です。ありえません。だいたいあなたのような『ナマモノ』があんな女性的な体になろうという思い上がりがゆるせませんっ! わたしだってもうすこししなやかで魅力的な曲線になりたいと思っているというのに、それをさしおいて何をいっているのですかっ!
 そもそも本来なら、このわたしと志貴が……そのぉ…………コホン、なんですよ。それをゆずってあげているというのに、こんな理不尽でデタラメな扱いだなんて、やってられませんっ!」

 ぷんすかと怒ってシオンは退場してしまう。
 残ったのはネコクェイドだけ。

 ちょっと心にすきま風が吹きそうな、おいてけぼりなこの感じ。
 しかし大丈夫です。魔女は三名います。さぁ次の魔女が――

「――さて、と。帰りますか」

 とカソックを着込んだシエルが舞台袖から現れるがすぐに背を向けた。

「にゃーーー。待ってにゃー」
「……はぁ。だいたいなんですか、この役は。聖なる代行者。神に仕える聖職者であるわたしが魔女役だなんて。しかもですよ。よりによって不浄者の手助けだなんて――世も末です」

 やれやれと肩をすくめる。

「デハ、アナタ ヲ ウツクシイ スガタ ニ シマショウ」
「なんで棒読みにゃのかなー」
「……黙りやがりなさい、この不浄者」

 バサリとカソックを脱ぐと完全武装した出で立ちに早変わり。手にはきちんと第七聖典が握られている。

「ではちゃっちゃっと儀式を行いますね」
「にゃー、知得留」
「知得留ではありません」
「う゛う゛、じゃにゃーシエルー。その第七聖典を構えるのはどういう理由にゃのかなー」

 光を浴びて鋭く輝く一角馬の角がとってもラヴリー。あたったら一撃必殺で昇天確実っという光り方がとってもセクシー。

「ああ、気にしないでください。あのあんぽんたんの非常識な身体にするために新しい身体に魂を移し替える必要があるだけですから」
「にゃー第七聖典って、転生否定の聖典じゃー」

 にやりんとめっさじゃあくっぽい笑み。

「じゃーいきますよー」
「にゃーにゃーダメー、それはダメー。死ぬー死んじゃうー」

   ジタバタジタバタ

「大丈夫です。痛みを感じる前に地獄に堕ちることが出来ますから」
「やーーーーーーー」
「安心して、ちゃっちゃっと死んでくださいね」
「にゃああぁぁぁぁぁぁっ!?」

「――そんなところで寝転がっていると蹴飛ばしちゃうわよ」
「あ」
「あ」

 そして第三の魔女、奈落からせり上がって登場。

「ふふん、真打ち登場ね」
「ミス・ブルー、いたんですか」
「そりゃそうよ。だってわたし、魔法使いだもん」
「…………はぁ」
「どーでもいいから助けてにゃー」
「ふぅーーん」
「邪魔をしないでください。代行者としてこの不浄者を滅ぼすだけですから」
「はいはい、でもそこまでよ。こんなんでもいなくなったら志貴が悲しむからね」
「……う゛」
「そうだにゃー」
「うるさいです、アルクェイドっ!」
「じゃあ、わたしの『魔法』で綺麗にしてあげるわ」
「にゃーほんとー」

 目をキラキラとさせて喜ぶネコクェイド。かーなーりーキモい。

「ほら」

 と青子が舞台袖に手を振る。






ドンっ!






 もくもくとたつ白い粉塵。
 メキメキと崩れ落ちる背景セット。
 鍋が渇いた音をたてて転がっていく。
 本当に綺麗さっぱり破壊しつくされて、なくなってしまいました。
 そして舞台上の三名にパラパラと塵が降り積もる。
 舞台の照明がこんなにも鮮やかで――――目にしみる。

 ――――ああ、本当に綺麗。

「………………ほら、綺麗になった」
「にゃーーー、今の間は何よ。舞台が消えてるにゃー。わー助けてーー」
「失敗のようね」
「やー今の失敗じゃないー。この破壊魔ー」
「ちょっと非道いわね、その言いぐさ。ちゃんと姉さんのところから用意してくたのに」
「…………あの人からですか」
「そうよ。こういう『作る』とか『造る』とか『創る』とか『だけ』は巧いから、そんなに心配しなくても大丈夫よ」
「……本当?」
「もちろん」

 いそいそと鞄からトリネコの枝でできた古びたワンドを取り出す。

「じゃあいくわよ。『マハリク……』」
「待ってくださいっ!」
「そりはヤバいにゃー」
「えーまじないの文句なら姉さんに言ってよ」
「いや、いくらこんな辺鄙なサイトでも、それはちょっと」
「あちきもそう思うにゃー」
「――そう? じゃあ『テクマク……』」
「待って下さい。それに同じボケを繰り返すのはどうか、と」
「そうよー、同じ繰り返しだと」
「あはは、ちょっとしたジョークだから」

 コホンと咳払いをひとつ。さっとまるでタクトを振るうかのようにそのワンドをふるう。
 キラキラと世界が蒼く染まる。星が降りそぞき、世界が儚く、でも鮮やかに染め上げられていく。
 そして―――――。

 「わー、うん、いつものわたしだー」

 アルクェイドは自分の姿をみて、こくこくと頷いた。そして蒼いドレスも身にまとい、淑女そのものの姿であった。

「へへ。ありがとーミス・ブルー」
「……驚きました。ミス・ブルーにこんな繊細な魔術が使えるだなんて――」
「――なにか言った?」
「――いいえ」
「ふふふ、これなら志貴にも逢えるわ。ふふふ」

 喜んでドレスの裾を振り回し、軽やかに踊るアルクェイド。

「じゃあ、これ」
「……なによ、これ?」

 それはランドセルのように背負えるよう肩ひものついた銀色の何か。
 アルクェイドの疑問に何一つ答えず、青子とシエルはアルクェイドにそれを装着した。

「……ええっと、だからこれは何?」
「ネズミと」
「カボチャの代わり」
「――――?」

 頭から疑問符を出しているアルクェイドに構わず、青子はしゃべり続ける。

「いいこと。この魔法はね。興奮したら切れるから」
「え!? 12時までじゃないの?」
「台本と違うようですけど?」
「いいのよ」

 全世界を敵に回しても勝てそうな笑みをうかべて青子は言い切る。

「エッチなことをさせないために決まってるじゃない」
「…………私情入りまくりですね、ミス・ブルー」
「志貴があんな性欲魔人になるとは思ってもみなかったわ。たらしもたらしね」
「…………そーにゃの?」
「……あえて何も言いません」

 そっぽを向くシエル。

「――わかった?」
「うん、とにかく、興奮しなければいいのね」
「そうよ。でも1回、2回ぐらいならまたその姿になることができるけど、それ以上魔術の効力が切れるからね――わかった?」
「うん! で魔術の効力がきれたらどうなるの?」
「もとのちんくちゃな姿になるわ」
「えーーー」
「いいこと。志貴にそんな姿を見せたくなかったら時間厳守よ」
「うん。わかった」
「じゃあ出発」

 ポチっとなー。

「――なに今の擬音」
「スイッチを入れただけよ」

 ゴゴゴゴと装着された銀色の何かがうなり声をあげた。

「にゃにゃにー、これにゃんにゃのー」
「口調が戻ってますよ」
「うるしゃいにゃー」
「あ、それ? ネコクェイド・ロケット改」
「…………にゃ?」

 爆音とともにアルクェイドは射出される。星になる。
 キラリンと夜空に輝く一筋の流れ星。






ぁぁぁぁぁぁぁっっ!




「ふぅ人助けするといい気分になれるわね」
「でもミス・ブルー」
「なに?」
「あなたがこういうことをするだなんて……」
「志貴のためよ」
「……そうですね。わたしも遠野くんのためですから」
「まったくやっかいな恋の相手よね」
「まったくです、遠野くんったら」
「恋路の邪魔をするヤツは馬に蹴られて死んでしまえっていうしね」
(……ならマスターを殴ってもいいですか)
「セブン、静かにっ! うるさいですよっ!」

 そして二人の魔女は互いに溜め息をついて、そして空でいまにも燃え尽きようとしている流れ星を愛おしそうに眺めましたとさ。



 ――かくして、シンデレラはネズミの馬でひかれたかぼちゃの馬車に乗ってお城へと行ったのです  …………ちょっと違うけど。



/ブリュンスタッド城
舞踏会にてシンデレラは王子様に出会ったのです



「…………ぜぇぜぇ……し、死ぬかと思ったー、まったく破壊魔のブルーときたら……」

 お城に到着したシンデレラは優雅に舞踏会の広間へと急いだのです。

「ねぇ志貴さん踊ってくださらない」
「……志貴さま」
「兄さん、まずは私と踊ってくれますよね」
「秋葉、踊るならこの兄である俺と」
「貴男は缶コーヒーでも飲んでらっしゃい」
「秋葉ちゃん、ここはいっそ遠野みたいなヤツじゃなくて、俺とでも」
「結構です」
「あーおいしいねーこの料理」
「あーそんなにがっつくなよ羽居」
「でも蒼ちゃん、これ本当においしいよー」
「と、遠野先輩が来てるっ!」
「……このわたしと出会ったな」
「と、遠野くんに……は、話しかけないと……ど、どうしよう」
「う゛ー(おにいちゃん気づいてよー)」
「――――ん。あのバカ」
「カットカットカットカットカットカットッ!」
「志貴くんってモテモテなのね。ちょっと残念、かな。ふふ」
「ほっほほほほほ。いいですねぇ、うら若き娘が集まるのは……」
「…………もぐもぐもぐ」

 ……どうやら盛況のようです。

 アルクェイドはキョロキョロと志貴の姿を捜します。
 どこかなーどこかなーと胸をときめかせて。
 志貴って踊れるのかなー。ちゃんとエスコートしてくれるのかなー。
 ドキドキして、胸がはち切れそうです。

そこへ――。

「姫君――」

 ドキン。

 心臓が嬉しさのあまり停まったかのよう。そちらを振り返ると、ロアがいた。
「どうぞわたしと一曲」

 あ、殴られた。

(もー、志貴。何処にいるのよ。わたしはここにいるのに)

 哀れに床に転がったロアを見捨てて、必死に捜す。

(ここよ。わたしはここよ。ここにいるのよ、志貴)

 胸が高鳴ります。きゅんとします。
 ドキドキして、切なくて、でも嬉しくて。

(どこよ)

 人、人、人。
 裾をつまんで華やかに着飾った人のあいだを風のようにすり抜けていきます。
 談笑。音楽。煌びやかな光の祭典。

(どこ? どこ? どこにいるのよ)

 もっとドキドキしてきた。
 顔が燃えている。
 逢いたい。
 志貴に逢いたい。
 早く逢いたいよ、志貴。

 ――そして。

(――いた!)

 シンデレラは目当ての王子様を見つけだしたのです。
 人混みの中、あのいつもののぼおっとしたような、でも柔らかい笑みを浮かべた志貴を見つけたのです。
 手を上げて、声をかけようとした時。

「姫、待ってください。わたしと一曲だけでも……」

 這いつくばったはずのロアがいつものとおり、ストーカーのごとくしつこくアルクェイドに話しかけたのです。

「にゃーーー」
 
 煌めく黄金の瞳。逆立つ髪。禍々しい笑み。血に飢えた獣の容貌。

「邪魔しないでよー」

 なんとか微笑もうとぎこちなくしているロアの左脇をガゼルパンチが鋭く抉る。
 メチリと骨がひび割れる音がここまで聞こえてきそうなほど、拳がめりんでいた。
 耐えられない衝撃にロアのガードがゆるむ。
 その隙を逃さず、胸板に心臓打ち。
 鼓動と息が止まる。
 魔法の時間で身動きできなくなったロアに対して、必殺の。
 ネコクェイドは身体を大きく動かす。
 先ほどよりもさらに大きく、さらに勢いをつけて。
 左右にウェイビングして、腰をねじれるほどまわして。

「にゃーー、これがニャンプシーロール∞だにゃー」

 たった一発。
 たった一発だけでロアの意識が砕け散った。
 しかし止まらない。
 振り抜く。
 打ち抜く。
 叩きつける。
 殴りつける。
 ぶん殴る。
 打つべしっ
 打つべしっ!
 打つべしっ!!
 抉り込むように、打つべしっ!
 唸るっ
 光るっ!
 回るっ!!
 強い、強い、絶対に強いっ!
 さらに打ち続ける。
 力を余すとこなく、その真祖として授かった腕力で、ただ殴る。ただそれだけだというのに。
 圧倒的なほどの暴力。ただ相手をねじ伏せてしまうほどの暴力。

 絶対的な『力』。

 右から左から振り子のように遠心力をつけて、腰のはいったパンチを、すべて的確に急所にたたき込むっ!
 こめかみ、顎、鳩尾、右脇腹、左脇腹――――筋肉と筋肉の間の弱いところ、内臓があるところを綺麗に、そして無慈悲なまでに打ち抜く。
 ロアの意識が飛ぶと次の一撃の痛みで引き戻される。失神と覚醒という天国と地獄を交互に味わいながら、ロアは崩れ去った。

「――――さすが……姫君……」

 それがロアの最後の言葉、だった。

 ぜいぜいと肩で息をするネコクェイド。
 いい汗かいたぜといわんばかりに、額に流れる汗を拭った。

「……あ、あれーーー」

 ネコクェイドは目をまん丸にした。パチクリとさせている。

「も、もとに戻ってるぅ!?」

 元のちんくしゃのキモかわいいネコクェイドの姿でした。

「あーうーーー、こんなのじゃ志貴に逢えにゃいよー」

 身体の大きさが全然あわない蒼いドレスを引きずりながら、とてとてとテラスへと走った。

 (う゛う゛ー、志貴に逢いたいだけにゃのにーー)

 大きな目が涙で潤む。大きな涙がぽろりとこぼれ落ちた。
 テラスに出ると、夜空に銀紙で作られたまん丸なお月様が浮かんでいた。そこにうつるあの志貴の女殺しの微笑み。それが瞳にうつりこむ。

「――そこにいるのは、誰?」

 やさしい声。あの低い声。耳元で聞いたことがあるやさしい声。
 恐る恐る尋ねてみる。
 声は出しているつもりなのに、声が掠れてうまくでない。まるで自分の体じゃないよう。いつも声なんか出しているのに、どうして――――うまく――――でない――――の?

 アルクェイドの睫毛は震えていた。ただその真紅の瞳をテラスの影を見つめている。そこにたつ人影を。あの時ガードレールで座って待ち続けたシルエットを思い浮かべて。

「…………志…………貴…………?」
「――――うん」

 そこに立つのは志貴だった。
 いつものやさしい笑み。いつもの黒縁眼鏡。いつものぼんやりとした顔つき。なにもかもいつもどおり。
「…………でもね。志貴」
「なんだい、アルクェイド?」
「――――どうして、いつもの学生服なの?」

 ――そしていつものとおり、学生服を着ていました。

「いや着慣れているから。王子様の衣装って肩が凝って仕方が無くてさ。
 ――でも着てれば良かったな」
「どうして?」
「アルクェイドがとても綺麗だから、せめてタキシードぐらい着ていれば釣り合ったかなぁってさ」
「…………ばか」
「…………うん」

 舞踏場から流れてくるゆったりとしたリズムの音楽。
 それにあわせて志貴はアルクェイドに手をさしのべる。それをとるアルクェイド。
 そして二人は踊り出した。

   『……足が絡まっているわよ』
   『……え、こうだっけ?』
   『違うわよ。こうよ』
   『……こう、かな』
   『うん、うまいね』
   『まぁ、練習させられたからね』

 月光を絡めるかのように、ふたりは踊る。静かに、丁寧に、ややぎこちなく。
 かすかに漏れる音楽のリズムにのって。
 ゆるるかに。
 軽やかに。
 静かな音楽の調べ。
 嬉しそうに。
 楽しそうに。
 銀色の月の煌めき。
 艶やかに。
 華やかに。
 遠くで虫の鳴き声。
 互いを慈しむように見つめ合いながら。
 このまま時が止まれば最高だと思えるような時でさえ、終わりは訪れる。
 音楽が止み、寄り添いあうかのように踊っていたふたりのステップが止まった。

「――もう終わり?」
「ちょっと散策しようか」
「うん」

 アルクェイドはとても嬉しそうに、志貴の腕にぎゅっとしがみついた。



/ブリュンスタッド城の外



「……涼しいね」
「……うん」
「……お月様が綺麗だね」
「…………うん」
「……ふたりっきりだね」
「………………うん」
「もう志貴ったらー」

 アルクェイドはぶーだれる。朱い目でじろりと志貴をにらみ付けた。

「……ちゃんと聞いているのー」
「……うん」

 優しく微笑む。

「アルクェイドのドレス姿に見とれちゃってね……」
「…………」

 そんな他愛もないたらしの一言に頬どころか胸元まで赤く染まってしまう。

「…………」
「ん、なに?」
「…………」
「聞こえないよ、志貴」

 やさしく腕に絡みつき、その豊満な体をしだれかけさせる。

「…………」
「なに、志貴」
「……はぁはぁはぁ……」
「聞こえないってばぁ」
「……はぁはぁはぁ……」
「…………ん?」
……はぁはぁはぁ……
「……ええっと……し、志貴?」

 甘えるような声をだして、アルクェイドは志貴の顔を覗き込む。
 ギラリンと輝く、蒼い浄瞳。魔殺しの輝きが静かに湛えていた。



 そして王子様はシンデレラに一目で恋に落ちたのです



「にゃあああぁ。こんなの恋じゃにゃいーー」

 ではテラスのドアを開けた途端に十七分割がよかったですか?

「しょゆー問題じゃにゃいのぉっ!」

 風がごう、と鳴った。
 甘ったるい乙女の、お子様の時間はもうこれでおしまいだとばかりに、志貴は酷冷の笑みを浮かべた。
 バチンと硬い音が響く。手には七夜と彫られた愛刀があった。固く鋭い刃が月光にほのかに蒼く光っていた。

「……あぁ、これは恋みたいなものだ」
「にゃ、にゃ、にゃにゃやー」
「そうだ――」

 低い錆を含んだ声。同じ志貴のものとは思えない凍てついた声が静寂に響き渡る。

「――うたかたの夢ように――――散れ」

 ゆらりと揺らめく影。
 殺気が空気をこおらせていく。
 張りつめていく。
 月の光さえも凍らせ、とめてしまうかと思わせるほど。
 それほど冷酷で強い意志。
 重い。空気が重すぎて息ができない。
 息が詰まっていく。
 風が草を撫でた途端、

「疾くと消え失せろ――――」

 影が消えた。
 草が舞い散る。
 殺気がふくれあがる。
 鋭い錐のように、貫くように、切り裂くように。
 何もかも殺戮の色に染め上げられていく。

「にゃにゃーーーー」
「――――闇に」

 影が怪鳥のように舞った。煌めく蒼い刃と蒼い瞳。
 無駄のない美しい銀色の閃光がネコクェイドに迫った。





















 ぱっこーーーーーんっ!!
















 こーーーーんっ







 ーーーん








 ーーん












 んー
















 七夜の顔にめり込むガラスの靴。
 力いっぱいめいいっぱい。
 顔の形が歪むほど。
 そして、そのまま七夜は崩れ落ちた。

「にゃーさすがのわたしにも壊せないガラスの靴とは……最高の魔術師が作ったようだにゃー」

 時々ピクっと動く七夜をつつきながら、ネコクェイドはしげしげとガラスの靴を見つめていた。ヒールが綺麗に頭にめり込んでいます。

「じゃにゃーおやすみーにゃにゃやー。志貴によろしくにゃー」

 その時ちょうど時計塔から12時を知らせる鐘が鳴り響きました。

「にゃーもう時間だにゃー」

 いいかげんつっつき飽きた志貴をうち捨てると、ネコクェイドはガラスの靴どころかサイズの合わなくなった衣装すべてを脱ぎ捨てました。

「忘れるにゃー。もしあちきを見つけださなかったら呪うからにゃあー」

 気絶している志貴に対してとっても素敵な捨て台詞を残して、いつものちんちくりんの格好のままお城を後にしたのです。



 でもシンデレラの魔法は12時まで。いそいでシンデレラはかえったのです――ガラスの靴を残して


/美咲町
ガラスの靴を手かがりに王子様はシンデレラを捜し出そうとしました。


「ふっふふふふふふふふ」

 ネコクェイドはにんまり。
 もうすぐお城からガラスの靴をもってお妃捜しにやってくるのです。そして愛しい志貴と結ばれてハッピーエンド。
 思わず、にやりん、と笑ってしまう内容です。

「早く来ないきゃにゃー」

 ネコクェイドはごろごろと待っていました。

「……ね、姉さん」
「さ、翡翠ちゃん、秋葉さま、来ましたよー」
「このガラスの靴が履ければいいのね」

 きました。きましたよ。
 ネコクェイドの耳は嬉しさのあまりひくついています。

「……駄目よ、姉さん」
「……頑張って、翡翠ちゃん。志貴さんと結ばれるのは翡翠ちゃんなんだから」
「なんで。なんで入らないのよ。わたしが兄さんと結ばれる予定なのよ」

「……この家にはもう娘はおらんようじゃな」

(きたにゃーーー!)

 早く呼ばれないか、うずうず。

「いいえ、ここには娘はいませんわ。ちんちくりんならいますけど」

 きっぱりはっきりと秋葉は言い切りました。

 …………。
 …………。
 …………。
 …………に、にゃあ?

「確認するぞい?」
「はい、そのとおりです、時南先生」
「はい、この家にはうら若き三人娘しか住んでいませんよ」

 …………。
 …………。
 …………。
 …………に゛ゃ゛?

「うむ――それでは、な」

 にゃあああああああああっ!

 ネコクェイドは呼ばれてもいないのに、走って外へと飛び出ました。

「ま、まだにゃー、あちきがいるにゃー」

 それに対して。

「――なんじゃこれは?」
「先程述べたちんちくりんですわ」
「すみません、お見苦しいものをお見せいたしまして」
「可愛いでしょう。 哀願  愛玩生物なんですよ」

 すっぱり言い切りやがる三人が素敵すぎる。

「にゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。待ったにゃあ。あちきも試すにゃあ」
「……しかしだなぁ……」
「やらないと呪うにゃあ。まじかるあんばーもディテクティブ・ジェイドもびっくりして腰抜かすほどの呪いをかけるにゃー。猫は祟るのにゃー。たたってたたって八代目にゃのにゃー」

 あまりにも必死さが痛いぐらい。

「……な、なにを言うておるのかいまひとつわからぬが、まぁ試してもらおうか」
「……にゃ〜〜」

 一安心といった溜め息を盛大に漏らすネコクェイド。
 そして目の前に置かれた見覚えのあるガラスの靴。ヒールの部分がちょっと血の跡がこびりついているのがとってもキュート。

 そしておそるおそる足をいれる。

(待っててにゃー志貴ぃー♪)

 心の中に浮かび上がるマイスィートにウインクをするネコクェイド。






 むにゅ






 …………。
 …………。
 …………。
 …………?

 むにゅ、むにゅ。

 入る、入らない以前にはみ出ています。はみ出しきっていやがります。

 むにゅ、むにゅ。

「にゃにゃんで入らにゃいのよー」

 あせりまくり。
 むにゅむにゅ、むにゅむにゅ。
 どうしても入りません。

「無理に決まっているじゃない」
「無理です」
「あはー」

 冷ややかな意地悪な継母と姉たち。氷の微笑がとっても似合っていて、素敵すぎです。
 むにゅゅうぅぅっ

「……うむ、違うようじゃ」
「ちょちょっと待ってにゃー。あちき、あちきなのよー。舞踏会で王子様と踊ったのは、おちきにゃのよー」

 その必死さが痛い。
 しかしガラスの靴をもった時南は馬車に乗り込む。

「にゃあ、ちょっと待ってにゃあ」

 駄目です。待ってくれません。
 馬車は退場しました。

「にゃにゃんでにゃのよー」

 ネコクェイドの言葉が木霊する。

「あーあ、せっかく兄さんと合法的に結婚できると思ったに」
「わたしもウェディングドレスが着ることができると思っていましたのに」
「残念ですよねー。また今度の機会を狙いましょうねー」

 継母と意地悪な姉たちも屋敷に入っていきます。

 ひゅるりと冷たい風が吹き抜け。
 遠野の森の木の葉がひらりと舞い散る。
 大木まなこから大粒の涙がポロリ。
 空は蒼いよ、どこまでも。
 でも風が心に沁みる。沁みてしまう。
 ああ、今日はなんて、いい――――天気――――なん――――だ。
 竈の灰が飛んでいく。
 灰かぶりの名のとおりに白い塵がネコクェイドを覆っていく。

















「にゃんでにゃのよぉぉぉぉぉっ!」

 嗚呼、ネコクェイドの心からの絶叫が蒼い空に響き渡る。






/エピローグ
そして王子様はシンデレラを見つけだし、末永く幸せに暮らしましたとさ。


 そうして隣町に住む『朱い月』がガラスの靴にぴったり合い、志貴と末永く暮らしたそうな。
 おしまい、おしまい。

「愛しているよ」
「にゃとくいかないにゃー」

おしまいっですったら。

「ああ、妾もじゃ、遠野志貴」
「にゃとくいかないったらいかにゃいにゃあ」

 おわりなのです。

「――――」
「にゃあぁ。そ、そんなこといけにゃいのにゃ。ああ、そんにゃことをするだにゃんてぇっ!」

「…………可愛いよ……」
「――――たわけ」

















「やり直しを要求するにゃあぁっ!」


 ……お黙りなさい。

なんとなく、おしまい

あとがき

 というわけでよくわからないものを書いてしまいました。
 オチがわからない人もいると思うので、蛇足を。
 ガラスの靴はアルクェイドの体に合っているので、『朱い月』もぴったりなのです(笑)
 ネコクェイドにいたっては丸いし、指なんかないし(笑)

 
 昔「いつものSS近況」に載っていていつの間にか消えていた(笑)「シンデレラ」です。バラエティボックスとともに復活させて、書いてみました。
 正月に間に合うように書いたため一部書き込みが足りない箇所があったりします。ゴメンなさい。
 ――――で、こんな変わった話でしたけど、どうだったでしょうか?

 では、また別のSSでお会いしましょうね。

31st. December. 2003. #128

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