逢い引き 秘めたる逢瀬


 月どころか星さえ見えない静かな夜。
 それでも空は薄らぼんやりと明るく、人が創り出した光は夜を追い払っていた。
 そんな夜。
 古い木でできた廊下をゆっくりとあるく足音が響く。
 なるべく押し殺そうと努力しているのだが、古い建物のためきしみ、いやにその音が静寂の中に響き渡る。
 窓からはうっそうと茂った木々。
 古めかしい作りの木造の学舎。
 浅上女学院の寮。
 その中を一人の少年が歩いていた。いや――
 たしかにその蒼い髪を2ブロックにしていて、スエットパーカーを着込んでいて、一見少年に見える。
 しかしその細い腰つき、低い背、華奢な手足から、ようやくそれが男性ではなく女性、しかも乙女だということがしれる。
 窓の外に広がる鬱蒼と茂った木々が揺れ、その足音をかき消す。

 そのスェットパーカー姿の少女はひとつの扉の前につくと、あたりをまるで警戒するかのように見回す。
 右、左。また右、左。
 確認すると意を決したかのように、その扉の中に滑り込んだ。
 少女の侵入先はトイレであった。
 手洗いが3つ並び、その奥には個室の入り口が6つ並んでいる。その奥は清掃道具を入れるためのロッカー。
 少女はやや緊張した趣で、一番奥のトイレまで歩み寄ると、コンとノックした。続いてコンコンコン。少しあけてまた一回。

「……わたしだよ」

 少女が扉に囁きかけると、扉が開いた。
 開くと同時に少女は滑り込み、後ろ手で素早く鍵をかける。

「……ほんとうにいるなんて……バカか?」

 少女はその中にいる男性にむかって呆れたように悪態をついた。

「……でも手紙を見てきてくれたんだね、月姫さん」

 古くさい黒縁の眼鏡をかけた男性が彼女の悪態を聞き流しながら、にっこりと笑いかけた。
 そのなんでもないような顔にカチンときたのか、月姫と呼ばれた少女はしかりつける。

「ここは女子校の女子寮で……しかもなんでトイレにいるんだよ、遠野のお兄さんっ!」

 きょとんとした顔。

「遠野のお兄さんはやめて欲しいな、月姫さん」

 (つっこむとこはそこじゃないだろ!)

 少女はキれそうになりながらも、ついついおなじところに突っ込んでしまう。

「そういうあンただって、『月姫さん』って他人行儀な呼び方じゃないか」

 (まるでヒスっている女みたいな台詞だな)

 そう少女は頭の片隅で思うが、止められない。

「そんな薄情なヤツは『遠野のお兄さん』で充分だよ」

 目の前の眼鏡の男は、くすりと笑うと、とつぜん少女を抱き寄せた。
 男は狭いため個室の壁にもたれ掛かりながら、愛おしそうに目を細めて眺める。
 そして胸にかき抱いた少女が呆気にとられているうちに、耳元にそっと囁く。
 子宮を疼かせるような、低く甘い声。

「ゴメンね、蒼香」

 蒼香の全身がかっと火照る。
 いつもの自分でいられないことが悔しい。
 誰に対してもいつも一定の温度で接してこれたというのに、なぜか目の前の男性に対してだけは――。
 それが悔しいクセに、なぜか――嬉しかった。

「……苦しいよ――志貴」

 その熱い胸に抱かれながら、呟くように囁いた。

「でも蒼香が悪いんだからね」
「仕方がないだろ。ライブに行きすぎで謹慎なんだからさ」
「――――ライブ?」

 蒼香の顔を起こされる。
 蒼香の目の前にはファニーフェイスといってもいい男性の顔。
 その漆黒の瞳に、心が吸い込まれそうだった。
 視線が合うだけで、胸が高鳴ってしまう。

「……じゃないと、みんなに言い訳できないだろ。志貴と逢っているなんて……言えないよ」
「どうして?」

 志貴はそのまま蒼香の腰に手を回して、ぐっと強く抱き寄せる。

「親友の秋葉にも、三澤さんにも言わないの? 人目を憚る様なことじゃないでしょ?」

 蒼香は志貴の質問に困っていた。
 まさか気恥ずかしくてどうしようもなくて告げることが出来ないなんて、言えなかった。
 顔を背け、頬を赤くしてモジモジするしかなかった。

「こんなに可愛らしいのに」
「……なっ!」

 蒼香の頬がさらに紅に染まる。
 照れているそんな姿をみて、志貴は本当に可愛らしいな、と思う。
 男前、格好良い、凛々しい、といった言葉で修飾されることが多い蒼香ではあるが、こうして照れたりしている姿をみると、なんて可愛らしいんだろうとしみじみと思う。
 そのことを毎回つげるのに、蒼香はからかいの言葉だと思って受け入れてくれない。
 小さくて両手で抱きしめられて、細いくせに柔らかくて温かいのに。
 こんなにも可愛らしく女の娘らしいのに。
 だから――――毎回志貴は囁く。

 可愛いよって。

 その度に蒼香は照れて、俯いてしまう。それがさらに愛おしい。

「……からかうなよ」
「からかってないよ。本当に可愛いんだから」
「こんな……全然女っぽくないのに、さ。そんなこと、言うなよ」
「ほら」

 そういって腰に回した手でそっと背筋をなで上げる。
 びくりと躰をよじらせる。
 なにか言おうとした口を唇でふさぐ。
 唇の柔らかい感触を堪能してから、離れる。
 甘い吐息が蒼香の唇から艶っぽく漏れる。

「こんなに敏感で……」
「そんなこと言うなよ」
「でも、ほら……」

 志貴の手は止まらない。そろりそろりと蒼香の背中を撫でる。
パーカーの上から指先でさわるかさわらないかのところをそろそろと撫でているだけだというのに、蒼香の躰には快感が走っていた。
 こんな愛撫というほどの戯れに近いものであるのに、こんなにも蒼香は感じてしまっていた。
 
 そしてまた唇をついばむ。

 ……ちゅぢゅう……

 志貴は蒼香の柔らかい唇とそれよりも少し固い舌と、甘い唾液とそれよりももっと甘い吐息を貪った。
 もっと味わいたいといわんばかりに、口の中の粘膜をこそげおとすかのように、舌を激しく動かす。

 ……ちゅう……

 いったん顔をはなした志貴は陶酔しはじめた蒼香の様子を確認する。
 薄く靄のかかったような瞳。
 蒼い髪がはらりとかかって艶めかしい。
 白い肌はいよいよ上気し、色っぽかった。
 そしてまた接吻し、その薄く引き締まった唇を貪る。

「……む……ぅん……」

 ちゅ…くちゅ……

 志貴は蒼香の唇を甘噛みし、そして吸い上げ、舌で舐める。
 蒼香の口からは、いつもの態度から考えられないほど甘い嬌声が漏れる。
 なまめいた吐息が、志貴の男をくすぐる。
 半開きになったその唇に、志貴の舌が再び滑り込む。

 んちゅ…ちゅる……

 歯茎の裏や舌の下にかくれている柔らかい粘膜をくすぐり、悦楽をもたらす。
 ジンジンと痺れるような疼きは、心地よい悦楽となって、蒼香の頭をぼんやりとさせる。
 ぐちゅぐちゅと唾液を掻き回しながら、男の舌が少女の口の中を蹂躙する。

「ん……んふぅ……」

 ……じゅる……

 同時に唾液が口の中へと入ってくる。

 「あむ……ん……ん……ちゅ…ぢゅうぅ……」

 唾液を味わい、そして喉を鳴らして飲み干す。
 志貴の舌。
 志貴の唾液。
 志貴の味。
 志貴の臭い。
 口の中は志貴でいっぱいだった。
 そして唾液が喉をとおりぬけ胃に収まり、躰の中までも志貴でいっぱいになっていく錯覚さえ覚えてしまう。
 そして自らも舌を伸ばし、志貴のそれに絡ませる。

 ちゅ……ちゅ……ちゅる…ずすっ……

 志貴の舌はさらに蒼香の口蓋をまさぐる。
 口蓋の上部の柔らかく敏感な部分をこすりあげてくる。

「あむ…んむ…んああっ」

 口の性感を刺激され、蒼香の声がいっそうなまめいた色を帯び始める。
 そうして志貴は離れる。
 唇と唇がいやらしい唾液でつながり、そして切れる。
 わななく唇から震える吐息が漏れる。

 (やっぱり可愛いよな……うん)

 そんななまめいて色っぽい蒼香を見下ろしながら、志貴はしみじみとそう思う。

 普段の蒼香の姿は確かにクール、凛々しい、男前という形容は正しいと志貴も思う。
 でも、このときの蒼香の艶っぽい姿を一目みれば、そんな意見など吹き飛ばしてしまう。
 潤んだ瞳。
 切なくて漏れる吐息。
 わななく唇。
 火照って汗ばんだ肌。
 こんなにも艶めかしくて色っぽい。
 志貴にそう思わせるほど、今の蒼香はほんとうに可愛らしく、ほんとうに女らしく、そしてほんとうに色っぽかった。

 そしてそんな彼女の姿を独り占めしていることが、志貴にはなぜか誇らしかった。
 こんな色っぽい蒼香をみることができるのは自分だけだということに、男の独占欲が煽られていた。

「……ほら、こんなに可愛いのに」
「………………バカ」

 蒼香は自分が『女らしい』なんて思っていなかった。
 自分が世間一般の定義からすれば女らしくない、ということは重々承知していた。
 でもそれがどうしたと、蒼香は思う。
 女であることを理由にしたこともなく、また女であることに固執したこともなかった。
 特別に肩肘はった生き方をしているつもりはなかった。
 女だから弱くていいなんて思ったことはなかった。
 だれかに守ってほしい、と思うようなこともなかった。
 ただ――自分が自分らしくやっていければよかった。
 2ブロックの髪も自分が好きだからだし、ロックだって自分の好みだ。
 女だから、いう言葉は甘えを含んだ媚びのようで、嫌いだった。

 けれど、今の自分は明らかに志貴という男性を頼っていた。もちろん媚びたつもりもないし、甘えたつもりもない。しかし、遠野志貴という男性の存在そのものが胸の奥、心の奥の中心にあることは否定のしようがなかった。

 そう思うと恥ずかしさがつのってくる。秋葉のことを乙女チックなヤツなんて呼ぶなんてもうできなかった。
 自分の心の中にこんな乙女チックなところがあるなんて、こんなにも自分の心の中に『女』というものがあるなんて、蒼香は今まで思いもしなかった。
 自分の感情をもてあましてしまう。
 それが目の前の男、志貴のせいだと思う。志貴でなければこんなにも感じないのに。
 志貴の顔が。
 志貴の声が。
 志貴の眼差しが。
 そこにあるだけで、こんなにも心をもてあまし、心が震えてしまう。

 卑怯だ、と心の中で目の前の男をなじる。
 秋葉がブラコンなのもよくわかる。こんなにいい異性が側にいるなら、ついまわりの男性と比べてしまうだろう。いつもこんないい男を見ているから、理想が高くなっていくんだ。

(それとも女子校育ちだからか?)

 ふとそんなことを思う。
 異性に接する機会が少なく、理想だけが高くなっていくのかもしれない。
 それは――自分もそうなのかもしれないな、とも思う。

 だからつい目の前の異性を見る。
 可愛らしいといっていファニーフェイス。
 時代遅れの黒縁眼鏡。
 やさしい眼差し。
 引き締まったやや筋肉質の体。
 逞しい胸元に、自分の2倍もありそうな腕。

 客観的にみても、目の前の愛しい男は、いい男という範疇ではあると判断した。
 ついそんな高評価をしてしまう自分に気づき、心の中で苦笑する。


「……ズボンを降ろして」

 低く痺れる声に蒼香は我に返る。
 そして言われたとおりに恐る恐るとスェットの下を降ろし始める。
 スェットの下からは小ぶりながらまるくて可愛らしいおしりが顕わになっていく。
 可愛らしい下着が蒼香の恥部を覆い隠していた。
 その上を志貴の太い指が撫でる。

「……んふぅ……」

 そんな考えを、甘い電流がかき消してしまう。
 小さい体がビクンと大きく震える。

 唇がふたたび奪われる。
 唇をついばまれ、舌を絡められ、唾液を啜りあいながら、志貴の手は蒼香の手を握りしめる。
 温かくて大きい手で自分の手が包み込まれるだけで、蒼香は安心できた。
 でもそれだけではない。これからのことを思うと、蒼香は躰が火照ってくる。
 その手に導かれて、ゆっくりとゆっくりと下へ、蒼香にとってもっとも恥ずかしいところへと案内される。
 ショーツの滑らかな感じ。
 その奥にモゾリと動く、熱くいやらしい感触に蒼香は身悶えた。
 そんな蒼香の姿を見て、志貴は愉悦に目を細める。
 しかしそのまままだ唇は離さない。

 ……ちゅ……じゃう……ちゅちゅうぅ……

 志貴は唇を責めるのをやめない。
 蒼香は観念してゆっくりとショーツの上から秘所に触り始める。
それを確認すると、志貴の手は放れ、パーカーの上から蒼香の胸をまさぐり始める。

(いいようにされている)

 理性と情欲が蒼香の頭の中で格闘していた。
 爛れた快感が蒼香のクールな部分を削げ落とし、いつもは奥に隠れている女の部分を引きずり出す。
 だが、愛する男にいいようにされてしまう、そんな弱い自分を意外と愛しく思えたりしている自分自身を感じ、蒼香は新鮮な驚きを覚えていた。

(いつからわたしはそんな女になったんだろうか?)

 蒼香はわからなかった。
 同級生から、男前だねとか凛々しいとかいわれてきて、そんなものかなと生きていたのに。
 男とか女とかそんなものに関係なく生きてきたはずなのに。
 なのに、目の前の男に、志貴に出会ってから世界が一変した。
 自分がやっぱり女なのだと気づかせられてしまった。
 恋愛なんてしたことがない。
 恋とか愛とかいわれてもピンとこなかった。
 同級生が、○○くんにふられた、とか、○○くん格好良い、と黄色い声できゃいきゃい騒いでいるのを横目で見ていた。
 自分には関係ないと思っていた。
 好きならば好きでいいし、嫌いなら嫌いでいい、とさえ思っていた。
 そんな自分は端から見て、やはり女らしくないのだろうな、とも思っていた。
 志貴は、そんな蒼香を女として扱ってくれた。
 志貴以外の男性とつき合ったことがないからわからないが、こうして女として扱われるというのはけっこうくすぐったくて気持ちよいもんだな、なんて思って。
 それからである。
 このすこし頼りない感じの男なのに、なぜか気にかかった。
 志貴の声が、顔が、眼差しがどうしてもまぶたの裏から離れなかった。
 もしこの感情が恋しいというものならば、志貴に恋してる。
 もしこの感情が愛しいというものならば、志貴を愛している。
 そう――――思った。

 そうなると歯止めがなかった。
 そのままこうして、女子校だというのに忍び込んでくる非常識人だというのに、そればかりかこんなところで体をはしたなく求められてくるような因果な人だというのに、こうしていいなりになってしまう。

(これが惚れた弱みなのか)

 胡乱で浅はかだな、とは思うけれども、そんな自分も悪くない、とそう思った。


 蒼香は自分の指先で恥部を撫で回す。
 下着のふっくらと盛り上がったその部分にゆっくりと染みが広がっていく。
 湿り気を帯びてきた肉襞にショーツがぴたりと貼りついていた。
 上から撫でているだけなのに、こんなにも気持ちよい。
 痺れるような、麻痺するような感覚がはじけて、背筋を駆け抜ける。

「……んぅぅ……」

 熱っぽい吐息が蒼香の口から漏れる。
 それを逃すまいといわんばかりに、志貴の唇は蒼香の口に覆い被さる。
 スェットの上から撫でられていたのがゆっくりと強くなり、先がしこりはじめるのを感じていた。
 そしてスェットのジッパーがおろされて、志貴の手が侵入してくる。
 スェットの中はすぐに肌着だった。
肋骨がういているか細い躰を撫で回し、そのつつましい胸を志貴の指先が軽くタッチしていく。

「……や……だ……」

 蒼香は弱々しく呟く。

「……小さいから……こんなに触るな」

 志貴はそんな蒼香をみてにんまりとする。

「でも蒼香らしいよ。小さいくせに――」

 そういってブラジャーの上から揉み始める。
 甘い疼きが先端から走り、蒼香の小柄な躰が小刻みに震える。

「――こんなに敏感でさ」

 バカと言おうとしたが、口から漏れるのは艶っぽい喘ぎのみ。
 志貴の唇が、耳元にいく。

「だから……ダメだって……そこは……」
「――弱いんだろう?」

 志貴は意地悪な顔をしながら、耳を甘噛みする。

 ぬめりとした感触が耳に感じた時、いじっている秘所が先程にも増して、愛液をにじませた。ショーツに染みが大きく広がり、いやらしい濃厚なオンナの匂いが今にも漂ってきそうだった。

 「……ひだをかき分けて……」

 耳の中をすじを舐められながら、志貴は指示する。
 その言葉どおりに胡乱な瞳のまま蒼香はショーツの横からに指をいれて、襞を掻き分ける。
 熱いぬかるみに指をいれているようだった。
 真っ赤に充血しているのがよくわかる。
 生理について学んだとき、好奇心から鏡で確認したことがある。その時には幼くてぴっちりととじた一筋の線にしか見えなかったのを憶えている。
 なのに、今はそのすじはひらいて、いやらしい露をにじませて、赤く花開いているのがわかった。

 「……はぁぁ……」

 感じきって震える吐息が響く。
 同時に志貴はブラジャーをずらし、乳房の先端をつまむ。

 蒼香の声がひときわ高くなる。
 それを観察しながら、志貴の指と舌は蒼香の弱いところを確実に責め立てていく。
 蒼香は蕩けた表情を浮かべたまま、中指で内側を撫でる。
 じんじんとした麻痺にもにた感覚が、腰の奥を溶かしていく。
 腰骨の奥にある淫らな女が、じんわりと、じんわりと、蒼香を犯していく。

「……言ってごらん、蒼香」

 志貴はいつものとおりに尋ねる。
 その言葉に蒼香はいやいやして抵抗する。
 そうしながも、淫裂をこすりなで上げる指の動きはさらに激しくなっていく。
 ぐちゅぐちゅといやらしい音がきこえてきそうなほど。

「……さぁいってごらん」

 志貴は掌全体でその小ぶりの乳房をもみながら、指先で軽く尖った乳首を苛める。
 耳を舐め終わると、そのまま首筋にキスをふらせる。
 跡が残るからと蒼香はいやがるのだが、志貴は気にせずそこにキスマークをつけていく。
 幾度も、幾度もそのとろけるような甘い口づけをふらせて、蒼香をどろどろにしてしまう。

「……」
「ん、聞こえないよ」

 志貴は首筋でかるく笑いながら、舌をぬめぬめと這わせていく。
 唾液のあとがてらてらと輝いき、鬱血のあとを舌でなぞった。

 蒼香はたまらなかった。
 乳首がじんじんと疼き、
 耳と句碑スジから悦楽が走り抜け、
 下半身をいやらしくいじっていて、
 淫らな音がたち、
 濃厚な女の匂いが漂い、
 頭の中がからっぽになっていく。
 とことん淫らで、とことん爛れた、この悦び。
 官能の渦は蒼香全身をつつみこみ、躰の限界をこえてあふれかえってしまっていた。
 神経に流れきれない快感があふれかえってしまって、躰の中にたまっていく。
 どろりとした蜜のような性悦が、蒼香を溺れさせていく。

































「蒼ちゃん、いるぅ?」

 その声にびくりと固まる。
 羽居の声。
 
「うーん、ここにもいないなぁ」

 足音だけが聞こえる。
 蒼香の心臓がぎゅっと縮こまる。
 なのに、志貴はそっと耳で囁く。

「指が止まっているよ」


(―――――――― っ!)


 蒼香は怯えた視線で志貴を見る。でも志貴は責めるをやめない。
 首筋にキスをふらせて、つつましげな胸をいやらしく揉む。
 驚いている蒼香をみると、乳房から手を離すと、淫裂を撫であげる。

 声をあげてしまいそうなのを唇を噛みしめて、なんとか押さえる。
 今あげたら気づかれてしまう。
 必死な蒼香を無視して、志貴の指は的確に蒼香の弱いところを責めていき、躰の奥からいやらしい感覚が突き上げてくる。
 そのまま喘ぎたかった。喉の奥でいやらしい嬌声が渦巻いているのを、無理矢理飲み込む。
 腺液でぬるぬるになった亀裂の起伏を、さらにその内側の形を志貴の指は隅々までなぞりまわしていく。

 トントン
「蒼ちゃんいない?」

 羽居の声が近づいてくる。
 なんとかしなければならないというのに、疼くような快感がこみ上げてくる。
 狂おしくて、狂ってしまいそうなほど。
 いままでさんざん弄ってきて高ぶった性感は静まることはなく、逆に熱く燃えあがっていく。
 全身がかぁっと熱く火照り、神経は灼けてしまったかのよう。
 じりじりと焦がすものが幾度も蒼香の性感をなで上げる。
 どこをさわられても、志貴の息ひとつ感じるだけでも、躰がこんなにも震えてしまう。

「秋葉ちゃんが呼んでいるんだけどぉ?」

 個室の外側からは間延びした羽居の声。
 蒼香は両手で志貴の手をとめようともがく。
 しかし志貴の指はとまらない。
 襞を充分にいじると、腫れ上がった陰核を転がすようにいじりまわす。
 頭が真っ白になる。
 声がでそうになる。
 たまらなくて、志貴の胸に噛みつく。
 声を出さないように、ガマンするために。
 ぐもった嬌声が志貴の胸元に広がる。
 志貴はそれでもやめない。
 そればかりか、

(……感じてるんでしょ?)

と嬲る。
 その言葉に強く目を閉じている蒼香は目元に涙を浮かべながら、首を振って否定する。
 しかし蒼香もわかっていた。
 自分の女陰から、淫らな腺液がいつも以上にあふれてくることを。
 中がぐちゃぐちゃで、気持ちよくて、痺れて、たまらなくて。
 志貴の指先が執念深く、一番敏感なところをなぞり回している。
 執拗なまでに弄り回す。
 弄られて嬲られて、こんなにも高まっている。
 性悦が幾度も突き上げてくる。
 上に昇ったと思ったら、さらに上へと押し上げられていく。
 それほどの圧力。

トントン

 羽居が近づいてくる。
 なのに性感はいよいよ高ぶり、躰がいやらしく火照ってしまう。
 ヒザはガクカグと震え、蒼香はへたり込まないように志貴の体にしがみついた。
 志貴の指はさらに貪欲に、蒼香の淫花を弄ぶ。
 中指をいれて、はげしく音を動かす。じゅぶじゅぶと淫音がたつと、羽居に聞こえてしまうと、蒼香は体をよじる。
 こんなに恥ずかしいのに、いやらしいものでいっぱいになっていく。




トントン


 この個室の扉がノックされる。
 体が縮み上がるを蒼香は感じる。のに、志貴はその唇と指の動きを止めようとはしない。
 激しく、もっとぐちゃにぐちゃになるまで柔肌を、粘膜を弄ぶ。
 そしてこんなにもはしたなく、いやらしく燃えさかるオンナの悦楽に、蒼香は溺れていきそうになる。

 羽居がいるのに。
 聞こえるかもしれないのに。
 バレてしまうかもしれないのに。
 こんなにいやらしいんだって、
 月姫蒼香がこんなにエッチなんだって。
 恋人が求めればこんなトイレでもまぐわってしまうほど
 やらしいオンナだって。
 知られてしまうかも知れないのに。
 バレてしまうかも知れないのに。

 その被虐の愉悦が蒼香の脳髄を舐めて、理性を刮げおとしていく。
 淫虐のうずきは、蒼香の理性を奪い去り、どろどろにしてしまう。
 恥ずかしさが肌を灼き、その熱が染みこんで、それが肉の悦びへと変わっていく。
 承知と快楽が混じり合い、蒼香の魂をこんなにも揺さぶる。
 爛れた悦楽が下腹部からつきあげてきて、狂ってしまうほど。

 扉の前から羽居は動かない。
 気づかれた?
 気づかれたの?

   蒼香は動転する。
 なのに、淫虐に火照った躰は熱くうずいて、志貴の指をもっとはしたなく求めてしまう。
 淫花からこぼれた露がうちももを垂れていく。
 時間はゆっくりと流れていくのに、充血しきった肉襞はひくつき、志貴の指を締め上げ、快楽を弾かせ続けた。

 扉が開いたら。
 鍵がかかっていることがわかったら。
 もし羽居が、あの興味と行き当たりばったりだけで生きている羽居がよじ登って覗いてきたら。

 そう思えば思うほど、官能が高まっていく。
 全身の痺れは肌の下をはいずり回り、あそこをひどく疼かせる。
 それが快楽となって、蒼香の魂を蝕んでいく。
 見られるかもしれないのに、こんなにも感じている。
   こんなにも、はしたなく。こんなにも、いやらしく。
 頭が白くなる。
 膝がガクガクゆれ、躰の背がのけ反る。
 止めようとしても止まらない。
 足の指さえつってしまうほど。
 頭が真っ白になる。
 恥ずかしいのに、こんなに。
 またくる。
 淫らな官能の波が全身をわななかせる。

 躰がのけ反り、一瞬硬直し、蒼香の瞳は大きく見開いた。
 秘所から白濁した液があふれかえり、志貴の指も内股も濡らしていく。



 そして足音が遠ざかり、扉がひらいて出ていく音が響いた。
 とたん、蒼香の躰から硬直が去り、

「この――バカやろう」

 蒼香は涙目で志貴をなじる
 涙目で上目遣いは反則だと志貴は思いながら、悪びれずに返答する。

「でも、蒼香はイっちゃったでしょう?」

 かぁっと紅潮し、顔を背け、答える。

「……」
「――ん、なに?」

 志貴はにやにやしながら聞き返す。

「――そうだよ」

 蒼香は顔を手で覆い隠して見えないようにしている。でも胸元まで赤く染まっていた。

「……感じたんだから……仕方ないだろ……」

 口をとがらして、拗ねたように言う。
 たとえ男の前にいても、媚びたような態度をみせない蒼香を、志貴は愛おしいと思った。
 そしてそんな蒼香をもうちょっとだけ、苛めたくなってしまう。

 志貴はバックルを外し、ジッパーをおろして、ズボンを脱ぐ。
 あからさまに起立し高ぶっているそれをみて、蒼香はまた顔を背ける。

「さぁどうしてほしいのかな?」

 どうしてこんなことを聞くのか、蒼香にはわからなかった。
 何が楽しいのかわからないし、こちらは恥ずかしいばかりだというのに。
 それでも、この官能で昂ぶり、じんじんとした疼きを感じる体をもてあましてしまう。
 いつの間にか蒼香の視線は志貴の股間にはりついていた。
 熱く逞しいソレ。
 それに入れられて突き上げられる愉悦。
 はしたなく淫らに喘いでしまう自分を思い浮かべてしまう。
 下腹部から疼きが登ってくる。
 内股に愛液が流れおちていくのを感じる。
 いつもいつも、そう。
 志貴にいいようにされてしまう。翻弄されてしまう。
 だから、蒼香は、震えるか細い声で志貴が望むようにいってやる。
 その声は、熱く粘ついていた。

「わ……わたしの……おまんこに……」

 痴女のようだ、と思いながら、淫語を紡いでしまう。志貴が、男がそう求めるから。
 そんな言い訳をしながら、言葉を紡ぐ。
 声に出すとさらに性感が荒々しく昂ぶっていくのを感じる。

「……その……そのお……おちんちんを……入れて……」




(……いいなぁ、蒼香は)

 志貴は羞恥と欲情のせめぎあいに震える蒼香の細い肩を眺めてながら、そう思った。
 目元を羞恥に染めながら淫らなおねだりをして見せる蒼香は、いつもの凛々しい姿との格差を余計に感じてしまい、とても可愛らしく、いやらしい女そのもので、志貴の男をくすぐった。
 言い終わると、志貴はトランクスを脱ぎ、男根をさらす。
 いつ見ても見慣れることがない男性器に、蒼香は喘ぎにも似た吐息を漏らしてしまう。

 志貴は蒼香のおしりに手を回すと抱きかかえる。
 そして持ち上げると、ぬかるみきった淫裂にそれをこすりつけてくる。
 粘膜がふれあった瞬間、かすかに湿った淫音がたつ。
 蒼香は扉に背中をあずけ、入ってくるのを目を閉じてまっている。

 そしてゆっくりとゆっくりと入っていく。
 小柄な蒼香に見合った狭くてきつきつなそこに志貴自身が入り込んでくる。
 愛液が多いと逆にぬるぬるしすぎてきもちよくないのだが、蒼香の淫裂は狭くてこれだけ多い愛液がちょうどよいほどだった。
 ぬかるみ、とろけきってひろがった淫裂だというのに、こじ開けていくような感覚。
 じわりじわりと快感がこみ上げてくる。
 志貴のを収めると、肉襞がからみついてくる。
 熱くとろけるかのように、肉棒にからみついて、きゅうきゅうにしぼりあげてくる。
 志貴はかすかに吐息を漏らす。




 (……志貴は、感じてくれているんだ……)

 蒼香にはそれが浮き立つようにうれしい。

 蒼香はいままで浮いた話ひとつなかった。女子校ということもあるが、男っぽいこともあって、異性から男と見間違えられるぐらいだ。
 だから、蒼香は自分の「オンナ」というものに、まったく自信がなかった。
 志貴はたびたび『可愛い』と告げるが、蒼香にはどうしても、それがお世辞にしか聞こえない。
 まぁそのお世辞でもうれしいな、と感じてしまう自分に、意外と可愛らしいところがあるな、なんてどこか覚めた目で観察していて。

 でも、こうしてまぐわった時に感じて漏らす男の声が嘘なわけはない。
 実際、目の前の志貴は気持ちよさそうに目を閉じていて感じきっていた。
 だからこそ、志貴のこの声を聞くたびに、志貴のこの顔を見るたびに、蒼香は自分の「オンナ」が志貴の「オトコ」をたかぶらせて感じさせて、認めさせていて、受け入れられているのだと、素直に信じられた。
 だからこそ、蒼香はセックスが大好きだった。
 たとえ躰目当てであったとしても、そこには蒼香の「オンナ」が求められているようで。
 男の偽りのない言葉を聞いているようで。
 男の震える声が、男の感じた吐息が、みっちりとはいっている男のおちんちんが。
 蒼香を「オンナ」と認めてくれているようで。
 だから蒼香はもっとそんな志貴の姿を見たくて、そんな志貴の声を聞きたくて、そんな志貴の痴態を感じたくて、ますますこのいやらしい行為に溺れていくのだった。

 志貴はその小柄の蒼香の牝躰を蹂躙していく。
 全身をつきあげて串刺しに、固いオトコで尾原解オンナをえぐる。
 志貴の分身がいやらしく濡れそぼった粘膜をごりごりと削るように突き上げる。

「ん、ん……ぅうん…」

 突き上げられるたびに、か細く声でわななく蒼香。
 肌はいよいよ上気し、艶っぽいオンナらしさを全身からはなっていた。
 凛々しい蒼香がこんなにも可憐に身悶えているということが、志貴を興奮させた。
 だから、さらにえぐる。
 普段は凛々しく引き締まった口元からは、押さえきれずに漏れてしまう鼻にかかった甘い嬌声。
 押さえても押さえても溢れてしまうようないやらしい声。
 いつもは凛々しいはずのその顔には、いつもの表情はかけらもみえず、恥じらいと至福のないまぜになった、快楽に溺れたオンナの貌が浮かんでいた。
 そこにいるのは、怜悧な月姫蒼香ではなかった。
 愛しい男性に抱かれて快感と幸福に包まれた、可愛らしい少女だった。
 志貴にかきまぜられた蒼香の淫裂は、すっかり蕩けてしまい、崩れてさってしまっていて、ぬかるみとなり果てていた。
 いやらしい液に濡れほぞり、淫らな音をぐちゅぐちゅと立てていた。
 とろけてゆるんでいるはずの女陰はつきあげてえぐってくる男に絡みつき、縋りつき、こすりあげる。
 そのたびに頭の中が弾ける。
 蒼香は声をあげていた。
 ここが浅上であるということも、トイレであることも、秘めやかな逢瀬であることも忘れ、ただ狂おしいほど突き上げてくる淫らな波に従って、艶っぽい悦びの声をあげ続けた。
 絡みつき吸い付くオンナを志貴のはえぐり、すりつぶしていく。
   粘膜が巻き込まれ、ただただ快楽しかうまない。
 子宮がつきあげられ、躰全体が志貴の男に、志貴の雄に、志貴の牡にみちていく。
 つきあげられるたびに、苦しいような痺れるような、躰をよじることしか許さない愉悦が発生して。
 子宮が震える。
 淫裂がわななく。
 唇から嬌声が漏れる。
 目はただ牡に蹂躙されていく喜悦にみちあふれ、涙をこぼすほど快楽に浸っていた。
 淫裂が逞しい志貴のでえぐられるたびに、子宮から脊髄をとおって、脳髄をかき乱す。
 いやらしくとろとろになるまで。
 いやらしくとろとろになっても。
 掻き回して、かき乱して、ぐちゃぐちゃにされて、ただただオンナの肉の悦びに突き上げられていく。
 牡がさらに入ってくる。
 苦しいのに、躰はもっとぐにゃぐにゃになって、受け入れていく。
 こんなにも受け入れていく。
 どろどろになって、そのまま牡が口から飛び出てしまいそう。
 こんなにも、声をもらしているのに。
 こんなにも、熱く粘ついた吐息をもらしているというのに。
 身悶えさせる、狂ったような荒波はますます強くなり、蒼香を溺れさせていく。
 蒼香は荒々しい官能の波の中、志貴にすがりつくしかできなかった。
 すがりついて、抱きついて、躰全体で愛しい男の体を、男の熱さを味わう。
 脳は淫乱な信号で混乱し、まともに考えられない。
 とろけてしまった脳はひとつの信号しか出さない。
 いやらしく、ただただ啼かせる信号。
 狂おしくて、たまらない信号。
 激しい愉悦が幾度もつきあげてきて、脳をかき乱し、そして脳にたまることなく、全身をしびれさせていく。
 下半身はとけろていた。
 腰骨があるはずなのに、志貴の剛直しか感じられない。
 それがどんどんせりあがってきて、今は胸までもとかしていく。
 肺までも溶かして、呼吸さえ満足にさせてくれない。
 気持ちよくて。
 心臓がバクバクいっているのに、こんなに荒い息をしているというのに。
 たまらなくて。
 もっともっと、貪欲に牡を求めてしまう。




 志貴は声を漏らしながら、突き上げてくる。
 蒼香の小柄な秘門はただ情熱的に、ただ扇情的に、ただいやらしく絞り上げてくる。
 熱い粘膜が絡みつき、そのくせぬるぬるとしていて。
 ザラつく部分でこすられて、根本を締め付けられて、粘膜が吸い付いて、すすり上げているかのよう。
 深く突き上げてやれば、抑えた、でも艶めいた息が胸元をくすぐる。
 そして目の前の蒼香のあられもない姿。
 普段の凛とした姿のどこに霧散してしまい、今の蒼香は女らしい可憐さと柔らかさに満ちあふれていた。しかもそれが自分だけしか見ることができないという、自分だけのものだという占有感が、独占感が、優越感が、志貴を昂ぶらせる。こんなにも昂ぶらせていく。




 「くぅっ、くぅん…」

 鼻にかかった甘い声。
 突き上げられる蒼香の反応がさらに過敏に、切羽詰まったものになっていく。
 濡れぼそった淫花が、志貴のを不規則に、いやらしく絡みつき、ぐいぐいと飲み込んでいく。
 蒼香の神経がスパークする。
 白くなる。
 また。
 牡が牝をえぐられるたびに、子宮をつきあげられるたびに、柔襞をこすられるたびに。
 過剰なまでに牝躰が反応してしまう。
 気持ちいい。
 嬉しい。
 たまらない。
 苦しい。
 心地よい。
 痺れる。
 そういった様々な感情がないまぜとなって、ふかい愉悦となっていく。
 たまらない愉悦となって全身をかけずりまわり、暴力的なまでに蒼香をゆさぶる。
 蒼香はこのやらしくて、たまらなくて、いやらしい情欲に痺れていた。
 腰から突き上げてくる快感のさざ波が、神経を灼く。
 幾度も幾度もかけずり回り、脳を直接舐められているかのよう。
 ザラザラとこすられ、舐められて、ねぶられている。
 どろどろになった情欲が、淫猥な電気となって、より高みへと導いていく。
 ふっと意識がまた途切れる。
 また高まる。
 幾度でも高まる。
 断続的な小さい快楽がゆっくりとひとつにまとまっていく。
 そして子宮をコツコツとたたかれ、全身を甘美な衝撃が駆け抜けていく。
 それにひたってしまっているのに、快楽がさらにこのやらしい躰を貫いていく。
 
 志貴の感じている声が、荒々しい牡の息が、獣欲が、蒼香を胡乱にさせていく。させてしまう。
 躰がバラバラになっていく感覚。
 神経がほどけていってしまって、バラけてしまっていく、この愉悦に。
 愛しい男を胎内に収め、そして躰の内側から感じるという、感じられるという悦びに。
 首から下がなくなってしまつたかのような激しい官能に。
 突き上げられるという淫虐のわななきに、蒼香は涙をこぼすほど、悦楽にひたりきっていた。
 そして志貴のが奥深く、いままで一番奥へと侵入してくると、大きくふくらみ、熱いものがかけられる。
 熱く灼けるような波が広がっていく。

「――――――っあぁぁぁっ!」

 蒼香は悲鳴にも似た声をあげていた。
 背がのけ反り、扉に頭をこすりつけるのも構わず、声をあげ続けた。

 躰の奥深くに熱く焦がすように広がる感覚が、蒼香を法悦に導く。
 脳髄が沸騰したかのよう。そのまま蒸発してしまってかき消えてしまったかのよう。
 蒼香は、深くたゆんだ淫悦しか感じられない。
 蒼香自身がそのどろりとした淫悦になってしまったかのよう。
 気持ちいいとうれしいとたまらないといった情感をどろどろになるまで煮詰めたかのよう。
 そしてそれはただひたすらに愉悦な、至福な、幸福な、とろけるような感覚。
 幸せによって惚け、蕩けきった蒼香は、感じきった法悦のオンナの貌を浮かべていた。
 なのにそのちいさい体はまだ快楽を貪っていた。
 やらしい牝躰は志貴の吐き出した白濁液を一滴たりとも逃すまいと、咥え込み、みっちりと肉襞がからみつき、絞り上げ、吸い上げていく。
 射精したばかりに敏感な亀頭を、そのいやらしい動きをする肉襞にねぶられて、志貴はまた呻く。
 そのままなにもかも搾り取られていくような甘美感にしばしひたった。




 小さなトイレの個室は熱く粘ついた荒い息と激しい鼓動だけが満ちた。
 まるで獣のような情欲によって互いに貪りあい、与えあった官能と快楽をまったりと味わう。
 蒼香は胎内で志貴のが萎んでいくのに深い満足をおぼえた。
 気持ちよくなってたかまって射精し、牡の液がこのオンナの躰に染み込んでいくという、このオンナの愉悦に、とても満足していた。
 普段、女性として扱われることの少ない蒼香である。女であることを主張するのことはないが、だからといって、自分が女であることを否定する気持ちもない。
 だから、このオンナとしての、オンナだけの満足感は、とても喜ばしかった。

  しばしの間、穏やかでたゆんだ至福の時を味わった後、ふたりは離れる。
 力を失った志貴の分身が躰から抜け出てゆくのを、少し寂しいと思った。
 そしてそのまま志貴の精液と自分の愛液がしたたり、こぼれ落ちていくのを感じる。

 妊娠のおそれはあったが、それでも蒼香は胎内に射精されるのを好んだ。
 熱く広がる牡の汁が染みこんでいく感じがとてもたまらなくて、より深くオンナの悦びを感じられるからだった。
 自分のを清めるまえに、志貴の前にしゃがみ込む。
 そのまま志貴の分身に唇をつける。
 性器を口につけるというのは、とても恥ずかしい行為だと感じていたのだが、蒼香にはやめられなかったし、またなぜかこの行為がとても愛おしかった。
 自分の愛液と志貴の精液でまみれたそれを咥え、清め始める。
 複雑かつ玄妙な味が広がる。
 不味いといってもいい。
 なのに、それがとても心地よい。心をくすぐられているかのよう。
 志貴が自分のオンナに感じてくれたという証だから、心地よいのだろうな、と思う。
 そうして口の中で清めてしゃべりつくし、表面のぬめりがなくなったのを確認すると、口を離す。
 次に志貴が蒼香の股間を清める。
 中から溢れてくる白濁し泡立った汁をぬぐい、トイレへと流し捨てる。
 志貴が股間に顔をうずめて綺麗にしている最中、蒼香はつい口にした。

「……もし妊娠したら、どうするんだ?」

 すると志貴はあっけらかんと言い切った。

「そうしたら、結婚しよう」

 密かに待ち望んでいた答えだというのに、逆に蒼香の方が慌ててしまう。

「でもさ。志貴って長男だろう?」
「そうでもないさ」

 志貴は清めながら、こちらをむいてにこっと笑う。蒼香を安心させる笑み。

「遠野家の当主は秋葉だし……もしかして蒼香は一人娘だとか?」

 それに対してかぶりをふって答える。

「いや。兄貴が実家を継ぐよ」
「じゃあ問題ないじゃないか」

 うん綺麗になったと独り言をいって志貴は立ち上がる。

「……いいのかい、志貴は?」

 蒼香からはいままでの媚態は消え去り、いつもの調子でさばさばと言う。
 それに対し志貴はあっけらかんとさも当たり前の事実のように告げる。

「だって俺は蒼香のことを愛しているし、蒼香は俺のこと愛してくれているだろう?」

 その一言の絶句してしまう。
 そしてそれが頭に染みいり、それが事実だと認めてしまって。
 気恥ずかしくて、頬を赤らめてしまう。

「――――――バぁカ」

 蒼香は自分よりも背の高い志貴の頭をコツンとこづいた。

「調子にのんない方がいいぞ」

 蒼香は羞恥の感情を隠すかのように、そんな口を聞く。
 だが、それは今さっきと同じくオンナとしての悦びが確かにあった。

 (……こいつに染められてしまったのかな?)

 なんだか悔しいような、でも嬉しいような、そんなこそばゆい感じがした。
 自分はやはり女なんだなと、男に気づかされるということはどこかくすぐったかった。

 くすくすと笑いあいながら、ふたりは寄り添ってキスをする。
 今までの性悦にみちた激しいものではなく、やわらかい天使の羽根のような恋人同士のキス。
 蒼香はくすぐったいような、こそばゆいような言いようのない幸福感にやさしく包まれていた。



おしまい




あとがき

 風原さんリクエストの「志貴×蒼香」です。
 蒼香×志貴でないことを確認しまして、スケコマシかつエロ学派な志貴による責めにしました(笑)

 リクエストをうけて、蒼香のよいところを考えると、2つあると判断しました。
 凛々しい男前のところと、可愛らしいオンナのところです。
 リクエストでは睦言とありましたので、可愛らしい娘のところを強調してみました。でもシオンがはいっているかも?
 いまいちいやらしくないのですが、うーん。最近自分の水準でいやらしい作品が書けていないようです。精進が足りないようです。
 でもほのラヴというか、ラヴラヴなところは気に入っています。

 どうでしょうか? 気に入って貰えるのか、ちょっとドキドキしています。

 しかしリクエストをうけて半日でこういうのを書いてしまうのは、自分でもなんていっていいのやら(笑)
 頭の中の引き出しはまだからっぽになっていないようです。
 でも時々引き出しの鍵を見失うので、こうしてリクエストを受けつけて、確認したいと思います。

 それでは、また別のSSでお会いしましょうね。

追伸
 ちなみに志貴がいかようにして忍び込んだのか、どのような手段をもちいて手紙をやりとりしたのかは考えてはいけませんよ(笑)

04th. April. 2003 #101

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