そしてキス





 そしてキスをして一言。

「本当のこと言えばな、人間。できれば逢いたくなかった」

 朱い月のそんな一言に、俺は硬直してしまった。

 明るい夜。蜜のように月光を湛えた花々が花開く、静謐な庭園。
 そこにある石のベンチに二人で腰をかけながら、月光を浴びていた。
 そんな幻想的な光景の中、俺に対して朱い月ははっきりと、きっぱりと、これ以上ないほど言い切ったのだ。逢いたくなかった、と。

 それに対してどう反応していいのかわからず、固まるしかない俺。
 けれど朱い月はまた顔を近づけてくる。冷たい美貌なのにやさしい笑み。アルクェイドと同じ顔なのに、アルクェイドが明るく朗らかなお姫様ならば、朱い月は高貴にして玲瓏な姫君。そんな姫君のやさしい笑みにどきりとしてしまう。
 くすり、といやに人間っぽい笑みを浮かべたと思うと、また口づけてきた。
 それは甘い口づけ。柔らかい唇が俺のものの上に重なり、吐息と熱情を伝えてくる。唇どうしが触れ合っているだけだというのに、背筋がざわついた。伝ってきた情熱が肌の下を這いまわっていく感触に、思わず震えてしまう。

 朱い月はそのまま両手を俺の首にかけてくる。ふんわりとした感触。けれどそれは温かく、重く、そして柔らかかった。その両手で抱きかかえるかのようにして、さらに情熱的に唇を重ねてきた。
 互いの息が絡み合う。粘つくような吐息がそのまま互いの口の中でとろけ、混じり合う。

 それは甘い。溶けるように、蕩けるように、ただひたすらに甘く――躰の芯まで、その甘さに痺れてしまう。
 聞こえるのは粘膜と粘膜が擦れ合うやらしい音。ゆっくりと粗く、はっきりと激しくなっていく吐息。唇の間から唾液がこぼれ落ちる。

 姫君の舌が恐る恐る入り込んできた。それに俺のを絡める。吐息と同じように、まるで一体化させるかのように絡め、そして啜ってやる。
 見えるのはその玲瓏な美貌。アルクェイドと同じ顔。けれどもそれよりも艶麗な顔つき。硬質で冷たくて、近づくことさえ躊躇ってしまうような美貌。なのにそんな美貌の顔が――。
 濡れていた。歪んでいた。情欲に。オンナの貌に。愛しい男を前にしてのみ見せる秘めた女の貌となっていた。その美しい貌は少しだけ歪み、睫毛は震え、頬は紅潮している。それは逢いたくなったという男に対してみせるような貌ではない。

 そんな彼女は目を伏せながら、また口づけしてくる。
 優しく。とても激しく。だけど甘い。そんな口づけ。
 それに応えて、唇をちょっと噛む。肉厚のふっくらとした唇を俺ので挟みこむと舌で擽ってやる。それに反応して、ああ、吐息が漏れ、頬をくすぐっていく。
 首に回された手がもどかしそうに這いまわる。首筋をなで、後ろ髪をかき乱す。
 甘い、ただ甘い口づけ。溶けてしまうほど。蕩けてしまうほど。粘膜が絡み合う卑猥な音と淫らな水音が響く。
 ふわりと香る彼女の匂い。それはまるで花のよう。月光の下で密かに蜜を湛え咲く花のような香り。それともこれはこの庭園の香りなのだろうか。それさえもわからない。
 ただ甘く、ただ甘く、ひたすらに甘く――。
 そのまま繋がってしまいそうになる。ただ唇だけが重なっているだけだというのに、そこからとけて一つになってしまいそうなほど。どろどにとろけて、なにもかもとろけてしまって、いやらしいものになってしまう。
 ただ吐く吐息が、ただ柔らかい唇が、ただ朱色に染まった目元が、ただ震える朱い瞳が、ただ甘えるような指先が、こんなにも胡乱にさせてしまう。

 ……ん……ちぅ……んん……くぅ……っは……んん……

 途切れ途切れに漏れる声にならない喘ぎが耳から入り込み、背中をぞくぞくとさせていく。
 美しい金髪が乱れ、朱を散らした目元を覆い隠す。けれども、それはさらに淫らに見せさせる。蜜のような髪の奥で情欲にそまった瞳は震えてみえた。
 唇が離れる。熱く粘ついた息が漏れ、唇の端から涎がしたたり落ちた。

「……すまぬ」

 朱い月がなぜ謝るかわからなかった。こうして一緒にいて、こうして情熱的に口づけを交わしあっているというに、なぜ謝るの理由がどうしても思いつかなかった。合いたくないというのにこんなにも情熱的な口づけだったというのに――なぜ?

「……なぁどうして謝っているんだ?」

 もしかしたら真祖だからとかまったく俺の知らない理由があるかもしれないから、素直に疑問を口にしてみた。

「今宵のことを知らなんでな」

 なにを言いたいのかさっぱりわからなかった。それに今夜? 疑問に思って空を見上げる。そこにあるのは大きな月。無慈悲な夜の女王が冴え冴えとした蒼白い光を世界に投げかけていた。それは目の前にいる朱い月よう。冷たいのに優しく、凛としていて、孤独で、そしてこんなに愛おしい。

「……なぁ、今夜って?」
「日本の習慣には疎くてな」

 きょとんとしてしまう俺に朱い月は苦笑混じりで語りかけてきた。

「今宵はヴァレンタイン・デーなのであろう」

 その一言に、ああ、と得心した。よくよく考えれば朱い月に逢えるのはアルクェイドとそのぅ……だった時なわけで、だからこうして逢えたんだけど……いやでも、しかし……。
 困惑している俺を無視して朱い月は続けた。

「あれを通じて世界をしっているゆえ、よく知らなんで、今宵気づいたというわけだ。すまぬなチョコレートを用意できずに」
「――だから、できれば逢いたくなかった、と?」

 ああ、と首肯する朱い月。そして恥じらうように目をそらすと何が言ったが、あまりにも小さくて聞こえなかった。

「うーん、でも知らなかったんだろう?」

 気軽に言ってやる。

「それに俺も忘れていたんだし」

 そして笑いかけてやる。気にしないように。だいたいアメリカとかでは女性からでなく男性から花束とか送る習慣だというし。それよりもこうして逢えたことを喜ぶべきだし。だから気にする事なんてないのに。
 それでも冴え冴えとした月光の下で、朱い月はすまなそうに目を伏せていた。今さっきまでのキスの名残が肌をほんのりと染めていた。この蒼白い光の下でもわかるぐらい朱にそまっている。それが白いドレスに映えて、美しかった。
 そしてこちらを上目遣いで覗き込んでくる。はっとするほど綺麗な顔だった。整った顔つきはアルクェイドで見慣れているけれども、アルクェイドがけっして見せることのないそれ。もしくは真剣な時にだけみせる神妙な顔つき。

「でも、あやつはおぬしに贈ったのであろう?」

 瞬間、朱い月が何を言ったのかわからなかった。朱い月がいうあやつがアルクェイドだとわかって、つい笑ってしまった。だってアルクェイドだけでなく、義理チョコとしてシエル先輩からも、翡翠からも、琥珀さんからも、そして妹の秋葉からも貰ったというのに。……意外とみんな立派な義理チョコだったなとも思った。

「……何を笑っておる?」

 まるで可愛らしい女の子の拗ねた顔つきと声。唇を尖らす、とまではいかないけど、むすっとしていた。そんな顔がなんだか面白くて、とても可愛らしくて、そして愛おしくて、悪いと思ったけれどもさらに笑ってしまう。

「悪い、悪い」

 なんとか漏れる笑いを殺そうとするけど、どうしても笑ってしまう。朱い月はますます怒っていく。

「いや、お前を笑ったわけじゃないんだ」

 手を振る。せっかく逢えたのに、こんなことでこじれたくない。

「――いや、可愛いところあるなって思ってさ」
「……おぬし、妾を石か何かでできておると勘違いしておらぬか?」
「いやいや」

 朱い月の手がそっと俺の頬にふれる。冷たい指先が火照った頬に心地よかった。そして見つめてくる紅玉のような瞳。甘えるように、すがるように見つめてくる真紅の瞳に心奪われる。
 冷たかった指先がじんわりと暖まってくる。柔らかく固くそして温かい指がそっと頬を撫でていく。

「おぬしはあやつ以外の他の女性(にょしょう)からも貰ったのであろう。なのに妾は何の用意もしておらぬ」
「いいよ、そんなこと」
「そんなつれないことを申すな」
「つれないって」
「できれば贈りたかった、と申しておるだけだ。それを否定などされたら、妾の胸のうちがさらに乱れてしまおう」
「……そうか」
「――ああ、そうとも」

 そして微笑む。なんてやさしい笑顔。あの冴え冴えとした無慈悲で孤独な夜の女王のものとは思えない、儚くて綺麗な笑みだった。
 そしてまた唇を重ねる。とようやく気づいた。
 この甘さはチョコレートのようだ、と。溶けるほど、蕩けるほど甘い甘い唇。朱い月からのヴァレンタイン。ビターの方が彼女らしいけど、これは極上のスィート。
 そんなチョコレートを幾度もついばむ。
 求める。求めてしまう。その甘さを味わいたくて、もっと求めたなくて貪ってしまう。舌を絡め、唾液をすすり、口内を犯しあう。
 舌が絡み合う。粘膜同士が擦れて、淫らな音をたてる。その音さえも飲み込むように啜り上げ、また絡め合う。
 おずおずと応えてくる彼女の舌を甘噛みして吸ってやる。その豊満な躰がびくんと大きく震える。感じて震える肢体が見たくて、さらに吸いついてしまう。

 ただの男としてこの美しい姫君を求めてしまう。何度も吸ったことのある唇だというのに、まだなお求めて、貪ってしまう。
 チョコなんていらないのに。そんな形に変えたものなんていらない。この女性の心が欲しい。この女性の躰が欲しい。ただ欲しい。その真心も、その唇も、その想いも、その乳房も、その夢も、その腰も、その希望も、その脚も、なにもかも。一つ残らず欲しい。いっそこのままくっついて溶けてしまいたいほど。
 ただ、この切ないほどやらしい情欲に身も心もまかしてみたかった。この蕩けるような官能に、痺れるほどの甘美な快感をおぼえていた。

 朱い月も縋りつくように、ねっとりと絡みついてくる。息もしない。息さえも漏らさない。唇と舌とか絡み合い、こぼれ落ちる涎さえもったいないかのように啜りあう。
 ただ胸の奥を熱く滾られる衝動だけ。互いを求める欲望だけ。それがこんなにもいやらしい。
 躰を押しつけてあう。隙間ひとつなくなるように。服越しなのがつらい。服なんていらなかった。たそんな綺麗なドレスもこんな服もなにもいらない。ただその躰にとけ込みあいたい。その豊満な胸も、細い腰も、肉付きの良い腰も、ぴったりとくっつけあう。
 互いの熱情が伝わってくる。互いを求めて、こんなにも高ぶっていると伝えてくる。押しつけられた胸の乳房は純白のドレス越しにでもわかるほど固く尖っており、俺をつついていた。彼女にもわかるように俺は腰を押しつける。ズボン越しにでも感じられるであろう劣情。それがこんなにも高ぶっていると、こんなにも欲しいと、こんなにも抱きたいと。どろりとした熱く滾った欲望が支配していた。

 ……んんっ…………はあぁ……づゆゅっ……

 そしてまだ唇を貪り続ける。
 吐息も、唾液も、舌も、なにもかも。
 舌どうしが淫らに絡む。表面のざらついたところを擦り、裏面のつるりとしたところをくすぐる。この火傷するほど熱くぬるぬるに濡れた粘膜を互いので愛し合う。

 薄目を開けて、彼女が見ていた。
 綺麗な顔が淫欲に歪み、切なそうに朱い瞳を潤ませている。月光を集めたかのような金髪が紅潮した頬にはらりとかかり、その肌はしっとりと濡れて吸い付くようだった。その欲望と喜悦に歪んだ顔が酷く綺麗で、さらに俺をそそらせていく。こんなにも昂ぶらせていく。
 彼女は躰をぶるんと震わせると、切なそうに瞳を閉じ、さらに快楽に身を委ねて唇を貪ってくる。
 絡み合う吐息がねっとりと熱く粘ついていた。
 頬をくすぐる躰の芯をグズグズにする、蕩けた吐息。
 その吐息を逃がさないように、また唇を重ねる。

 まるで軟体生物のように絡み合った舌がゆっくりとほどける。
 洩れる熱く滾った切ない喘ぎ。
 粘ついた唾液が、泡立ち、滴って落ちた。
 朱い月の頬は火照り、官能のため朱色に染まっていた。
 ふっくらとした肉感的な唇は唾液でてらてらと輝き、半開きのそこから艶めかしい嬌声がかすかに漏れた。
 そうして朱い月は唇の感触を確かめるかのように、指先で俺の唇をそっと撫でる。

「――だからな」

 淫蕩な響きを孕んだ朱い月のか細く震えた声。

「チョコレートを用意できなかったのだから、今宵は妾が奉仕しようと思う」




 奉仕という言葉に胸がどきりとする。高貴な姫君が跪いて、俺に甲斐甲斐しくする光景を脳裏に描いて、昂ぶってしまう。
 そんな俺の心を見透かしたのか、姫君は淫靡に微笑む。
 すっと顔を近づけてくる。またキスするのてばないかと思ってしまうぐらい。とたん、その瞳が金色に妖しく煌めいた。
 息が詰まる。その金色の瞳に魂さえも吸い取られたかのように、指一つ動かせない。まるで全身に鉛が流し込まれたかのよう。劣情に火照った躰なのにその芯は冷たく、動かせない。
 息するのが精一杯。なのに冷たくなった芯がゆっくりと火照ってくる。熱くなっていく。じんわりとじんわりと燻火であぶられているかのように、とろとろといた淫火に嬲られていく。
 欲しかった。目の前の朱い月が。
 その玲瓏な顔が、その美麗な胸が、そのほっそりとした腰が、その肉付きのように太股が。
 股間がさらに反応する。びくんといきり立ち、自己主張する。
 そんな俺を篭手妖しく微笑むと、朱い月は後ろをむくとドレスを脱ぎ始める。こちらの視線が気になるのか頬を羞恥に染める。
 見せつけるのかそれとも恥ずかしいのか、ゆっくりとゆっくりと脱いでいく。それに焦らされる。下は昔の野暮ったい下着かと思っていたが、実際はそんなことはなかった。ドレスと同じ純白のブラジャーとスキャンティ。そしてストッキングをつるすガーターベルト。美しいレースが刺繍されているけど、布地は薄く、うっすらと金色の陰毛が透けて見えていた。
 その下着さえも脱ぎ捨て、その美しい裸体を隠すところなくさらけ出すと、近寄ってきて、咎めるように囁く。

「……女性の着替えをそのように見るものではないぞ……」

 そう言われても視線は釘付けだった。たとえ彼女の魔眼で縛られていなかったとしても、その見事な肢体に心奪われてしまう。美しい鎖骨から豊満な胸。そこからきゅっとひきしまった柳腰へと続き、そして腰、太股へと続く美しい曲線美に見取れてしまう。
 そんな俺の視線に気づいたのか彼女は頬を赤らめる。

「だから言っているであろう。そのような目つきで女性を見るものではないぞ……」

 彼女はそういって躰に触れてきた。
 服の上からそっとそっと擽るかのように。優しく、撫でるように。
 その優しい触れ方に躰が反応してしまう。背筋がぞくぞくとする。
 指先で触れるか触れないかのタッチで撫でてくる。頬、唇、首筋、鎖骨、服の上から胸、脇、肩。それらをそっと、でも丹念に触れてくる。
 その度にビリビリと電流が流れる。甘い電流が全身を舐め上げていく。産毛ひとつひとつがそそり立ってしまう。それをさらに撫で回される。
 ムズムズとした感覚が肌の下を這いまわっていく。
 指ひとつ動かないのに、喘ぎだけが漏れてしまう。そんな俺を見て、朱い月は妖艶な笑みを浮かべる。真紅の唇がかすかに笑みを形作る。
 嬲るように、撫で回される。
 指先が触れるたびに躰が甘くわなないてしまう。指先がそっと胸を撫でる。そろりそろりとゆっくりと焦らすかのように動く。触れるか触れないようなタッチなのに敏感に感じてしまう。その固い爪先もやわらかい指腹もわかるぐらい。

 そうして乳首付近にそっと触れる。尖っていた。男の俺の乳首も興奮しているのか強張り、張っていた。
 その周囲をもどかしげに撫で回す。尖っているそこを触れることはない。まるでそこだけを除いて、嫐るように、虐めるように。それが溜まらなく気持ちいい。男なのに切なさを覚えてしまうぐらい、感じてしまう。

 朱い月は楽しそうにそんな俺を見ていた。その真紅の瞳は笑っていた。ここがいいのであろう、と笑っていた。見下すような、嬲るような冷たい視線。その視線に背骨の芯まで感じてしまう。嬲られているというのに感じてしまう。こんなに感じてしまう。こんなにも快感を覚えてしまう。

 朱い月は吐息だけで笑いながら、指を這わせる。すると服の上から胸に口づけしてくる。湿り、胸を熱く濡らしていく。
 服の上からでもその舌の動きはわかった。服の上から吸い付き、じゅっと吸う。いやらしい音が甘い電流となって肌の下を流れていく。指先は動きをやめず、嬲るように這いまわる。

 躰中がゾクゾクする。腰の奥がムズムズとしてくる感覚。弄られてもいないのに、俺のはまたしゃくりあげる。
 そうして濡れて張りついた服の上から見える俺の乳首を彼女はそっと銜えた。思わず声が漏れそうなぐらい気持ちよかった。その唇で甘噛みすると舌先でチロチロと舐め回す。いつも俺がやることを仕返しされた。気持ちいい。

 彼女は乳首を口唇で玩びながら、手がゆるゆると降りていく。腰を撫でてぞわりとさせると、そのまま内股を撫でた。
 指がどう動いているのかわからない。びりびりと痺れる。触れて欲しいと腰を揺すろうとするが、動くことができない。何かが滾っていた。腰奥が熱く捩れていく。まるでどろどろにとけた鉛のような淫欲がそこにあった。
 そこをもてあそぶかのように、内股を撫でられ、乳首が嬲られる。そのたびにそこから淫らな波が全身へと広がっていく。背骨をとおって快感が脳髄を灼く。
 チロリと舐められるたびに、ちぢゅっと音を立てて吸われるたびに、ほっそりとした指先が蠢くたびに、快感が身悶えてしまう。
 早く弄って欲しい。俺のを弄って欲しいと懇願したくなる。けれども唇から漏れるのは喘ぎだけで言葉にならない。
 切ない。切なくて苦しい。苦しいけど、気持ちいい。気持ちいいのに、苦しくて堪らない。

 指がそろりそろりと股間へと動きはじめる。
 期待に打ち震えてしまう。股間がまたびくんとしゃくりあげる。
 けれども指はそのまま上へと撫で上げていく。腹筋を撫で、胸をさわり、そうして首筋に触れる。
 切なそうに姫君を見てしまう。弄って欲しいと視線で訴える。けれども彼女は嗤うのみ。その蔑むような、見下すような冷たい視線に、思わず喘いでしまった。
 舌がゆっくりと胸を舐め回す。服は唾液で濡れそぼり、躰に張りついている。その上から丹念に丹念に舐め回される。指先が耳を撫で、耳の中を擽っていく。

 切なくて涙が出そうだった。こんなことをされて気持ちいいだなんて、と思う。
 朱い月は勘違いしている。絶対に勘違いしている。こういうのは奉仕といわない。ただの虐め、ただの嬲りだ。

 だとわかっていても、反応してしまう。
 その舌で舐められるたびに、その指先で撫でられるたびに、その冷たい視線で嬲られるたびに。
 疼いてしまう。感じてしまう。昂ぶってしまう。
 こんなに躰がざわめいてしまう。こんなにも躰が捩れてしまう。
 嬲られているのに、こんなにも熱くなる。

 そうしてまた彼女の手は内股を撫で回す。股間に触れんばかりのところを撫でるのに決して触れることはない。それが切なくて、またあそこがしゃくりあげる。
 胸を舐めるのはやめ、ゆっくりと降りていった。腹筋の筋をひとつひとつ丹念に舐める。
 甘く噛みつき、服の上から啜りあげる。躰の奥までズキンと響く。
 快楽が淫らなまでに全身を舐め上げていく。けれども足りない。あそこが弄って欲しいと疼いていた。全身が熱く滾っていた。朱い月の舌と指に翻弄されていた。
 身を捩りたい。腰奥からふつふつと滾った淫欲が肌の下を這いまわる。全身が敏感になってしまう。苦しいのに気持ちよく、気持ちいいのに苦しい。

 朱い月はズボンに手をかけると、チラリとこちらを見た。見透かすような視線。ここを、男を、魔羅をいじってほしいのだろうと問いかける確信をみちた目。
 そうしてジッパーをゆっくりとおろす。期待に胸が打ち震える。ベンチの上で固まって動けない俺のズボンを開けると、そっと脱がす。トランクスはすでに先走りで濡れていた。
 それに顔を近づけると、姫君はトランクスに顔をうずめるようにして鼻を鳴らして嗅いだ。恥ずかしさがこみ上げてきて、身を焼く。

「……感じてくれておるのだろう」

 濡れたトランクスをうっとりするかのように見つめてそう言った。さらに羞恥に心を焦がす。けれども姫君の妖艶な笑みが容赦なく俺を責め立てる。
 感じているのだろう。恥ずかしがることはない、とその淫靡な笑みが追い詰めてくる。それが羞恥心となって淫欲と混じり合って躰どころか心まで灼く。じりじりと、じりじりと焦がしていく。逃れようがない。恥ずかしいという想いと気持ちいいという思いがまじりあってどろどろとなって蝕んでいく。こんなにも蝕まれていく。

 それでも彼女は内股を撫で、俺を嫐る。まさしく嬲るではなく嫐る。
 まだ触れない。びくんと触って欲しいようにしゃくりあげるそれを横目に見ながら、内股を撫で、お腹をさすり、膝に口づけする。
 気持ちいい。躰の芯からどろどろとしたものがしたたり落ちてくる感覚。躰の中にそんなやらしい粘ついたもので満ちていく。たっぷりと満ちていく。それが熱い。熱くてたまらない。むずむずとするけれども、指一つ動かせない。凍てつくほど冷たく、綺麗な金色の魔眼に溺れてしまう。ずぶずぶと、ゆっくりとゆっくりと引きずり込まれていく。
 なのにあそこだけが妙にはっきりしていた。
 びくんと熱く脈打ち、もっともっととせがんでいた。痛いほど膨らみ、トランクスを押し上げている。いじってほしい。彼女のほっそりとした指で、ふっくりした唇で、ぬめった舌で、熱く締め上げてくる喉で。
 喉が渇く。こんなにも熱い。なのに水ではこの餓えは満たせない。どろどろとした淫靡な燻火がもたらす渇きに、呻くしかなかった。

 そのどろどろとした淫らなものに突き動かされている俺にまた姫君は微笑みかけると、トランクスをゆっくりと降ろした。
 いきり立ったものがはじけるように出た。彼女はそれをじいっと観察する。
 びくん、と震えた。脈打つそれが、構って欲しくて切っ先からとろとろと腺液を漏らしていた。

 ちらりとまた俺を見る。
 嫐るように、いたぶるように、苛めるように。
 そうしてふうっと俺のに息をかける。
 それだけでゾワゾワと背筋に蟲が這いまわったかのよう。腰奥から一気に背骨を駆け抜け、脳髄が灼ける。
 息を吹きかけられただけ。それだけなのに――。
 さらに一息。びくんと躰が捩れる。跳ねてしまう。腰を突き上げるような動き。けれども動くことはない。ただあそこだけが別生物のようにしゃくりあげていた。

「つれないことを言った罰だ」

 そう言って粘ついた熱い息を、またふぅと吹きかける。
 陰毛のひとつとつさえそそり立つ感じ。全身にさぁっと鳥肌がたつほどの快感。もうそれだけで出してしまいそう。赤黒く膨れあがった陰茎が凶悪そうに暴れていた。

 そうして彼女は俺の体を押す。動けない俺はそのままベンチに横たわってしまう。
 そのまま彼女は顔をあげて見つめる。

「でも、罰もここまで。これからはたんと奉仕しよう」

 そう言うと彼女は俺の股間に顔を埋め、視界から消えた。期待にびくんと震える。
 脚が邪魔なのか広げて、その間に分け入って入ってくる。そうして――。

 未知の感覚に呻いた。
 ぬめりを帯びたものがちろちろと舐めていく感覚。しかしそこは――。

  朱い月は俺の息子ではなく、その下の精巣でもなく、さらにその下、不浄な窄まりを舐めていた。
 な、なにを、と声を上げたい。けれど上げられない。ただ濡れて熱い粘膜が陰肛をゆっくりとねぶる感覚が尾てい骨からざわざわと駆け上ってくる。
 気持ちいい? 気持ちイイ? キモチイイ?
 わからなかった。初めての感覚に戸惑い、でもなにかむず痒いような感覚が幾度も躰を駆け抜けていく。

 彼女が顔を上げた。口元から涎が滴っていた。あの玲瓏な顔が、あのふっくらとした唇が不浄なところに触れていたなんて信じられなかった。

「ここまでの事はあやつでもしたことがないであろう」

 にんまりと笑う。いやらしいオンナの貌に反応してしまう。

「妾もこのようなところをねぶるのは初めてだから、な」

 そういってまた顔をうずめた。
 体験した事のない未知の刺激が強引に背筋を駆け登り、腰が引けそうになる。舐められたことがないところを舐められる。それも丹念に、ゆっくりと。陰肛の皺の一つ一つをなぞる様に動いていた。それがぞろりと舐め上げられ、びくんと躰が震えた。それでも舌の動きは止まらない。さらに激しく、さらに丹念に、さらにねっとりと蠢く。邪魔なのか尻の肉を両手でかきわけられ、さらに顔を押しつけてくる。さらさらとふれる髪さえ愛撫のよう。
 陰肛の週面を尻の割れ目に沿ってねろねろと這いまわる。蟻の門渡りから硬く隆起している根元を舐めまわす。そうしてちゅっと吸い付く。穴の淵で蠢かし、生暖かいものが入り込もうと動き回る。

 軟体生物が這いまわっていた。肌の下を快感がざわつく。皺の一つ一つをなぞるようにまた動く。ぐにっと押しつけられたそれが、ちろりと動くたびに、快楽によって窄まりが収縮してしまう。

「ひくついておるぞ。気持ちよいか」

 朱い月の舌がさらにねぶる。浅く舌が入り込む。ぬるりとした感触に呻いてしまう。
 未知なる感覚がじんわりと熱く痺れていくものに変わっていく。
 舌が窄まりを押す力が増していく。ゆっくりとゆっくりと入り込んでくる。犯されていく。舌に犯されていく。しかし認めたくないことに気持ちよかった。舌が少しずつ入り込んでたびに、甘痒い刺激となって全身を貫いていく。

 不浄な窄まりから、ねっとりとした甘い快感を覚えていた。ぬめった舌がちろりと掃くように動き、舌先が入り込もうとするたびに、じんじんとした痒みが昇ってくる。熱くて痒いのに、ぞくぞくとする。

 とたん舌が入り込んだ。ぬるりとした生暖かいものが入ってくる異物感。それがちろちろと蠢いていた。胎内から舐められるあり得ない感覚に、俺は呻いた。
 それがぞわぞわと産毛を逆立てるような快感に変わっていく。ぞくぞくする。背筋をぞくぞくと快感が駆け抜けてくる。脳髄が舐められている感覚。舌がおしりの穴から入り込んで淫らな神経をひとつひとつ舐め上げていく感じ。
 湿り、粘ついた音がする。
 そうして姫君は顔をおしりに押しつけると、舌をめい一杯いれてきた。

 大きく喘いだ。入ってくるという感覚。入り込んでくるという感覚。それらに犯されていく。犯されてしまう。
 舌はなお動き回る。最初はちろちろとしたものであったが、今では大胆に動き回っている。穴に入り込んだまま大きく動く。ぐるりと一蹴したかと想った途端、細かく出し入れをしたり、奥の奥まで舌をいれたり、また先でチロチロと舐められる。なにをされているのかわからなかった。
 指一本動かせてない状況で、奉仕という名の責めに、息も絶え絶えになるほど感じてしまっていた。
 そこへ更なる舌戯が襲いかかってくる。奥まで入り込むと、舌の弾肉が腸壁をなぞる。腸壁をなぞり、粘液をこそげ取る様に蠢く。

 ひきつるほどの快楽。頭の中が一瞬白くなり、射精したかとさえ思ってしまった。
 さらにぐるりと一回転し粘膜を擽ると、舌が抜かれた。
 ずっと舐められ弄られていたせいか、おしりがじんじんと疼いていた。それよりもなお俺のはいきりたつ、ふるえ、切っ先から腺液をとろとろとこぼしていた。

「ふふふふ」

 朱い月はぐったりとしている俺を見ながら含み笑いをする。ネスミをいたぶる猫のような、残忍な、でも美しい笑み。

「こんなに感じてしまっていておるな」

 嬉しそうに目を細れながら、ひっきりなしにしゃくりあげるそれを見下ろし、髪をそっと掻き上げる。そんな動作に色っぽさを覚えてしまう。赤い唇のまわりははしたなく涎にまみれ、てらてらに輝いていた。その顔は淫蕩に惚けていていた。

 そうして俺のものの根本を両手で握った。そのほっそりとした指先の柔らかい感触に、また躰が捩れてしまう。まだ何もされていない。敏感なところに触られたわけでもない。むしろ鈍感な根本だというのに、興奮のあまり、精を漏らしそうだった。
 ひくつきしゃくりあげるそれは口唇に飲み込まれた。

 それだけでいきそうだった。その小さい口で亀頭だけを含むと、ちろちろと舌が敏感なところを舐めてくる。両手で茎をしっかりと擦り上げてくる。
 咥え込んだ亀頭を唇で扱きながら、舌が絡みついてくる。カサのくびれをそのざらついた表面で擦られるだけで腰が跳ねそうだった。
 両手で幹をしごいていたが、片手となり、空いた手はその下の陰嚢をやわやわと揉み始める。
 本当にペニスが舐め溶かされてしまうような悦楽に蕩け、沈んでいく。溺れてしまう。どろどろとしたいやしい粘液に遠野志貴というものが溶かされていく。

 それでも舌は動き回る。
 温くぬめぬめとした口内で、熱い舌が亀頭の上をねっとりと這いずり回り、のたくった。尿道口に入り込もうと押し広げてくる。亀頭が変形しそうなほど強く押し付けられ、巻き付けられる舌肉の感触。

 口の中から零れる淫水の音。粘り湿ったそれが耳から入り込み、そこからも犯されていく。
 股間を駆け上がる感触を必死に抑えながら、きつく目を閉じ、耐えようとするが、躰がガクカグと震え始める。
、陰嚢をやわやわと揉み込んでいく。しこった玉がいじられるたびに、じんわりとした快感が走る。時折くるみを割るような仕草で強く揉み合わされる度に、熱い火花が散る。
 気持ちよかった。気持ちよすぎた。気持ちよすぎてどうにかなりそうだった。
 朱い月の小さな口の中でどろどろに溶かされていく。どろどろにされてしまう。なのにそこだけ神経は敏感で、這いまわる舌や指の動きに激しく反応してしまう。
 ペニスを根こそぎ食べられているような強烈な快感に泣き出したくなるほどの悦楽を覚える。

 ふっくらとしたその唇が、ほそやかなその指先が、ざらついてぬめったその舌が。
 こんなに責めたててくる。こんなにもいたぶられる。
 酷い快感に躰が捩れる。捩れていく。筋肉の繊維、内臓、そして骨までもがきしんで捩れていく。

 キモチイイ。キモチイイ。キモチイイ。

 全身が朱い月の口の中で玩ばれている感覚。
 いやらしい波が腰から広がっていく。ぬめって熱いそれが、全身をガクカグと震わせてしまう。
 こみ上げてくる。堪えようとしても、耐えようとしても無理。圧倒的なものが躰も精神も魂さえもバラバラにするかのようにこみ上げて、押しつぶしていく。何もかもどろどろなものにしようと巻き込んでいく。
 快感によって躰が淫汁へと溶解していく。とろとろに蕩けて、どろどろに溶けていく。
 そうして躰がひくつき、腰奥から何かが一気に昇ってきた。

 射精するとわかったのか、朱い月は亀頭をくわえ込むと、一気に吸い上げた。頬がへこむほど。尿道の中の腺液が吸い上げられる快感に腰が跳ねた。腺液がなくなってもさらに吸い上げられる。真空になる快感に、随喜の涙がこぼれてしまう。
 手がしごき、指が陰嚢を揉む。舌が粘膜をこすり、吸い上げられる。
 一気に真っ白な閃光が走る。まるで股間から頭頂まで、白い電撃が駆け抜けた。躰で渦巻いていた粘ついた快感は、一つの大きな奔流となり、はじけ飛んだ。頭の中では火花がいくつも炸裂し、腰が震える。

 朱い月の口内に出していた。白濁した、いやらしい汁をその小さくて可憐な口の中に出していた。
 それをさらに吸い上げる。出しているところを吸われる。躰全体が痙攣する。それでもさらに吸い上げられる。出しているのにさらに吸われ、さらに痺れてしまう。痛いぐらい感じる。苦しいほど責め立てられる。
 一滴も残さないといわんばかりにその口唇に吸われる。喉奥の湿った粘膜に亀頭が擦りつけられ、口の中で白濁した粘液をまき散らしているのがわかる。
 それでもなお、朱い月は愛おしそうに、おいしそうに、それを舐め、口にして、吸い上げて続けた。

 躰がびくんと跳ねる。末端神経の隅々にまで性悦に呆けてしまう。躰の全てが快感にひたり、溺れきる。粘ついた淫蜜のがまとわりつくような罪深い悦楽へと飲み込まれていた。

 そして朱い月は喉を鳴らす。細い喉がはっきりと動き、穢れた粘液をごくりと飲み干していく。その顔はとろけきっていた。口の中に精が注がれ、うっとりとした恍惚めいた表情を浮かべている。
 朱色の瞳は淫欲に蕩け、頬どころか喉元までその白い肌は朱に染まり、うっすらと汗をかき、艶めかしい。

 そうして口がゆっくりと離れる。どろりと白濁した液が唇の端から滴り落ちる。
 目を閉じ、うっとりとした表情のまま、また喉をごくっと鳴らした。そして、はぁぁっと熱く粘ついた吐息を吐き出すと、唇を拭った。

 全身からすべての力が抜けていた。何も考えられない。心地よい疲れに浸っていた。朱い月はそっと胸にもたれかかってくる。火照った肌に柔らかな肢体が心地よかった。




「どうよ」

 心地よい倦怠感に包まれた俺に対して、不敵に笑いかけてくる朱い月。気持ちよかったであろう、と目が語っていた。

「どうって……」

 声が出た。全身は快楽に満ちた気だるさに覆われていたが、今は自由に動けた。
 心地よい倦怠感に包まれながらも、しばし俺は考えて、駄目だ、と答えた。朱い月の柳眉が吊り上がる。何か言い出す前に俺はしゃべっていた。

「奉仕とかいっても、そちらの勝手だったじゃないか。それじゃあ駄目だ」
「そのようなことを申してもな」
「だから、さ」

 そういって今度は彼女の目を覗き込む。
 少し怒ったような、なにか傷つけられたような、けれどもどうしてよいのか途方に暮れたような瞳。
 そんな彼女の唇に口づけする。一瞬、姫君は驚いたような顔になる。

「ちゃんとしよう」
「ちゃんとと申してもな」
「だから、さ」

 そうって両手で彼女の肩を掴むと、彼女の躰を起こす。興奮してぬめった朱色の肌が艶めかしい。つんと尖った乳首が吸ってと誘っているようだった。

「今度は俺がするよ」
「それでは奉仕にならん」

 不満そうな表情を浮かべる姫君に、いいからさ、と言って、胸にそっと触れた途端、彼女の躰が跳ねた。

 そうしてそっと体を起こすと、その豊満な胸に吸い付いた。
 固くしこっている乳首のまわりにキスする。むず痒くなるぐらいたっぷりと、でももっとも敏感な乳首には触れない。まぁお返しの意味もこめて、焦らしてやる。
 朱い月は興奮していたのか、甘い吐息を漏らす。くすぐるかのようにそっと触れ、ちゅっと吸い付いて、その白い胸にキスマークを残す。
 そのあとをちろりと舐めて、またその横に口づけする。この胸が、いやこの朱い月が俺のものだといわんばかりに、所有しているという印を幾つもつけていく。
 興奮して薄桃色に染まった肌の上に残る赤い俺の印。豊満な胸はかすかに打ち震え、朱い月は喘ぎを漏らしていた。

「ほら――やっぱり」

 そういって今度は胸の先端に吸い付く。んふぅと、粘ついた声を漏らす朱い月が胡乱な目つきでこちらを見つめていた。

「奉仕とかいって俺だけ責めても駄目だ。やっぱり二人じゃないと」

 そういって彼女を抱きしめる。びっくりしたような顔。そして手を背中に回すと、背筋に沿ってそっとなで下ろす。朱い月の躰が敏感に反応する。むず痒いようにその躰を動かす。でも逃さない。
 そのままおろしていっておしりを撫でる。
 たっぷりとした質感のあるおしりに触れると、耳元で朱い月が甘く啼いた。その声が耳を擽って気持ちよい。
 そうして後ろからそっと指を伸ばして、淫裂に触れる。
 くちゅりと粘膜が鳴るほど濡れていた。すでに花は咲き、蜜をたたえ、そして滴らせていた。

「――ほら、やっぱり」
「だ、黙れ」

 羞恥にさらに頬を赤らめ、目を伏せる朱い月にそっさと囁く。

「いや黙らない」
「なっ……」

 姫君がなにか言おうとするまえに指を動かす。花びらをそっとこすり、こぼれ落ちる蜜を塗りたくるように蠢かすと、鼻にかかった甘い啼き声が漏れた。

「ヴァレレンタインデーのお返しはホワイトデーなんだけど、それまで待てないだろう」
「た、たわけめっ」

 粋がる朱い月をふぅんと見て、そっと胸に吸い付くと舌を這わせ、指を動かす。
 奉仕と称した責めのためか、すでに朱い月の躰はできあがっていた。指ひとつ、舌ひとつでこんなにも啼いてしまう。

「ほら、こんなに――」

 そういってわざと音をたてるように指を動かす。粘膜がくちゅりと鳴り、さらに熱い蜜が零れた。

「――感じているんだか……っあ」

 そう言おうとした途端、甘い刺激に不意打ちされた。
 朱い月は俺のものを握っていた。あんなに出したのに、まだ力強く勃起していた。
 唾液と腺液で汚れているそれを朱い月の綺麗な手がゆっくりとしごき始める。
 朱い月の目が笑っていた。それに応えて俺も笑う。
 そうして唇を重ねた。
 俺の指は朱い月の秘所を弄っている。充血しきった花びらをやさしく撫で上げ、その中の陰核をこすってやる。そのたびに朱い月は甘く呻いた。
 朱い月の手は俺のをしごく。そんなに強くない。けれども腺液でまみれたそれを目の前でしごかれるのは、なんともいえない淫靡な光景だった。
 そうして互いの舌を出し、舐め合う。滑らかな舌同士が絡み合い、互いのそれをしごき、擽り合う。唾液がしたたり落ちても、なおその絡み合いはやめられなかった。

 ……じゅ……んん……く……ぢぢゅっ……っあ……んふぅ……

 一物をしごかれながら、秘所を弄くり、そして舌を絡め合う。
 互いの感じるところがわかっているからこそ、ピンポイントに責めてくるし、また焦らしてくる。

 朱い月の指はカリ首をなで、粘膜を刮げおとすかのようにしごく。また鈴口を広げるように指腹でこすってくるたびに、腰奥が滾っていく。
 濡れた陰毛を書き上げながら、充血して開いた花芯を指で責める。指に絡みつく粘膜を痛めないようにそっと爪たてる。そうして陰核を思いだしたかのように指腹で撫でるたびに、朱い月は切ない悲鳴を上げた。

 そうして絡み合う舌。互いの顔は近すぎて輪郭さえぼけるぐらい。けれどもその美麗な顔が淫蕩にとろけているのだけはわかっていた。唇を舐め、舌でくすぐり、絡み合う。

 激しく、けど優しく。そして愛おしそうに。
 互いの躰を愛撫する。切なそうに尖っている胸を空いている手で弄り、その柔肉の柔らかさ味わう。
 指が蠢くたびに、朱い月のしなやかなで豊満な躰はわななき、しごいている手が止まる。溶けろ留様な顔つきのまま、また手をゆっくりと動かすけれど、しばし止まってしまう。

 舌がもっと絡み合う。ただ舌どうしが絡み合うだけだというのに、じんじんと痺れてしまう。甘い愉悦。淫蕩に溺れた姫君の顔が切なそうに歪み、さらに求めてくる。それに応えてさらに舐ってやる。舌を口のないに吸い込み、唇で扱いてやる。そうするだけで、朱い月は躰をふるふると震わせてしまう。

 指先は火傷するほど熱く湿っている淫裂に入り込む。粘膜がからみつき、指をきゅきゅと締め上げてくる。愛液に濡れた指先で膣の内側形を確かめるように動かしてやる。腹側のざらついたところをこすると、躰が跳ねる。だからそこを重点的に擦り上げてやる。それだけで彼女の躰から力が抜けていくようだった。
 朱い月が顔を離すと、俺を見つめてくる。潤んだ真紅の瞳が切なそうに揺らめき、一言呟いた。

「……おぬしは卑怯だ」

 痺れるような甘い吐息とともに出された言葉は俺の脳髄を甘く灼く。
 縋るような涙目で卑怯だなんて囁かれるだなんて――。
 こちらこそ、お前の方がなんて卑怯なんだって言いたいぐらい。そのくらい愛おしかった。
 どうしようもなくて、ぎゅっと抱きしめる。力いっぱい。もしかしたら息が出来ないぐらい抱きしめたかも知れないけど、でも力を抜くことができなかった。
 強く、強く、さらに強く。この胸の中に溢れる想いを少しでも伝えたくて。こんなにも溢れているんだと、体中の想いを知らせたくて。
 彼女も抱きしめてくる。
 切なそうに、愛おしそうに、指先が切なそうに背中を掻き回す。もっとくっつきたいと、もっと一体になりたいと、少しでもくっつきたいと。
 なんでこんなに愛おしいのかかわからない。
 なんでこんなに愛しているのかわからない。

 わからない。ワカらない。ワカラナイ。

 けれどもの胸の震えだけはわかった。それだけでいい。それだけあればいい。
 だから、またキスをした。今さっきのようなものではなく、唇同士を重ねるだけの可愛らしいもの。だけど万感の想いを込めて。
 言葉はない。
 ただこの明るい月明かりの中、美しく豊満な肢体を見つめる。突然恥ずかしそうに照れながらも、朱い月は立ち上がり、その肢体を見せてくれる。
 この月明かりを集めたかのような流れるような金髪。美しい顔立ち。そして豊満な胸。くびれた腰。にくづきのよいお尻。そしてメリハリのある美しい脚へと続く曲線美。その白い肌は情欲で薄桃色に染まり、汗で濡れ、吸い付くような肌触りだった。

 俺はベンチに腰掛けたまま、頷く。
 彼女は恥じらいながらも、俺の体をまたぎ、そのまま腰を下ろしてくる。
 そうして熱い粘膜に包まれていく。
 ゆっくりとゆっくりと温かい風呂に浸かったようなじんわりとした感触。なのに広がる快感。きゅっと締め上げてくる。その感覚に躰の芯から震えが走り、腰が動いてしまう。腰が動くと彼女が、ああん、と啼いた。

 目の前で柳眉をひそめ、切なそうに唇を震わせる姫君を見つめながら、ゆっくりと濡れた熱い柔肉を分け入っていく感覚に毒されていく。冴え冴えとした月を背景に、その肉体をおしげもなく晒し、でも羞恥に身悶え、けれど感じてしまう姫君。なんていやらしい毒。
 その毒にじんじんと痺れ、その毒がじわじわと広がっていく。熱い。まるで躰がひとまわり膨らんだかのよう。ただ彼女の姿を見るだけで、ただ姫君の喘ぐ姿を見るだけで、ただ朱い月の淫靡な痴態を見ているだけで、感じてしまう。こんなにも感じてしまっている。
 そしてゆっくりと肉棒が埋没しきると、彼女は切なげな吐息を漏らした。
 見つめ合う。媚肉が絡みつき、襞が幾層も俺のに吸い付いていた。その感触を味わうかのように腰を少し動かす。とたん、彼女は両手を首に回し、抱きついてきた。
 息も絶え絶えな姫君は、ただ俺の耳元で短い呼吸を漏らす限り。

「いい?」

 ワザと聞いてみる。彼女は弱々しく頷くが、それに気づかないふりをして腰を大きく突き上げる。

「…………っはあぁぁ……」

 吐き出される嬌声。敏感になりすぎているのか、全身は桃色を通り過ぎて、真紅に染まっていた。

「どう?」

 そういってまた突き上げる。そのたびに濡れた熱い柔肉が絡みつき、そこかしこを締め上げてくる。なのに濡れているからきつくなる、ねっとりとしゃぶられているうな感覚。時折ひくつ居てきゅきゅっと締め上げられるたびに、腰奥が痺れてしまう。

 朱い月は蕩けきった涙目でこちらを見つめる。なにか言おうとしているのだろうが、その朱色の唇はわなわなと震えるだけで言葉にならない。

 おしりを両手で掴むと、今度は彼女が逃れられないように押し込む。
深淵へと引きずり込まれるような感覚に、背筋がぞわぞわする。彼女も腰を捩って逃れようとする。けれど押さえつけて、さらに打ち込む。

「どう?」
「……」
「なに?」
「……ああ……」
「なに?」

 声にならない声をあげる朱い月を責め立てる。そのまま腰を持ち上げてさらに奥を突く。軽く持ち上げていきおいをつける。
 たまらないのか、背中に回させた彼女の指が切なそうに何かを求めて這いまわり、爪立てる。
 目の前には身をくねらせて何かから逃れようとしているような美女の痴態。あさましげに悶え、悩ましげに顔を歪ませ、唇を半開きにし、啼いていた。
 彼女の目が開き、こちらを見た。官能にとろけきった紅い瞳がいやに綺麗だった。随喜の涙が零れおち、ふるふると睫毛を震わせながら、甘く囁いてくる。

 志貴(シキ)、と。

 ぞくりとした。ぞくぞくした。肌が粟立つ。いつもは怜悧な姫君とは思えない、甘い媚声。一度耳にしただけで虜にされてしまうような濡れそぼったオンナの囁き。
 そんな声で名前を呼ばれたのだ。人間でもなく、おぬしでもなく、志貴と――。
 怜悧な普段との落差に脳が痺れる。あの高貴で、冷たくて、孤高のような朱い月がみせるオンナの貌。
 たまらない。堪えられない。堪えようがない。
 美しい女性が、恋人だけにみせる秘めやかな痴態に、酷く興奮した。

「……ああ……しきぃ……」

 アルクェイドと同じ声。同じ声色、けれど違う。違う女の声に脳髄が痺れてしまう。切なそうに愛おしそうに何度も繰り返し、名前を呼ばれる。しがみつくように、縋りつくようにして胸の中で、幾度も囁かれる。

 喘ぐ声さえも愛おしく。
 切なげな吐息も甘く。
 ただひたすらに名を呼ぶ。
 志貴、しき、シキ、と。
 蕩けた目でこちらを見つめながら、呼び続ける。

 そのまま彼女を持ち上げ、押し倒す。繋がったままの箇所がぐにゅりとなり、いやらしい粘膜の音を立てた。
 美しく、淫らで、俺の名を切なげに呼び続ける彼女を組み敷く。
 長く美しい金髪がひろがり、まるで黄金のシーツのよう。月光を浴びてきらきらと輝いていた。
 その中にあるのは淫靡のために桃色に染まった豊満な肢体。
 その顔はふるふると震え、悩ましげに吐息を吐いていた。
 その瞳が見ていた。俺を見ていた。愛おしげに、切なげげに、縋るように、祈るように、艶やかに、鮮やかに、真紅の瞳で。

「いくよ」
「……好きにするが……いい」

 腰を揺する。それに合わせて彼女が淫靡な舞いを踊る。悩ましげな吐息と鼓動が聞こえてくる。
 深く、さらに深く入り込む。これ以上ないほど彼女の胎内へと侵入していく。誰もが触れたこともないところへ、俺だけが入り込む愉悦。
 絡みつく粘膜がぬめり、そして熱い。それで躰の中で舐められているよう。 亀頭を、陰茎を、カリ首を、鈴口を舐め回されしごかれているかのよう。そんな中を強引に入り込む。粘膜が擦れ、じぃんと痺れる。さらに突く。じぃんと響く。腰奥に響いて、喘いでしまうほど。
 とろとろにとろけた淫蜜の中にいれているかのよう。それが熱く蕩けて絡みつき、吸い付いてくる。淫蜜がぬらりと舐め上げ、淫蕩な愉悦が幾度も走る。

 それを無視するかのように、彼女の両足首を掴むと持ち上げる。
 彼女を潰すようにのしかかり、さらに犯す。
 この美貌を情欲で歪めている姫君をさらに汚す。
 もっと、もっと、もっと。
 さらに、さらに、さらに。
 このいやらしい肉を、このやらしい媚肉を、このいやしい淫肉を。
 貪るために、貫くために、犯すために。
 快感にわななく姫君をさらに犯し、もっと汚し、これ以上ないほどまで蹂躙する。

 切なげに姫君は名をまだ呼ぶ。苦しそうに眉わしかめ、喘いでいた。
 持ち上げて、彼女を貫く。
 淫裂どころか後ろの窄まりさえ見えるようにして、一気に貫く。
 なにか固いものにあたる。そこをえぐるように押し上げる。
 彼女がたまらないのか、俺の胸に手を当ててくる。掻きむしるかのように、指が何かを求めて這いまわる。
 短くて荒々しい呼吸音と湿った淫音だけが響く。

 そこまで押し込んでも、淫裂は締め付けてくる。絡みつき、粘膜が吸い付いてくる。痺れていくような快感。まるで彼女の淫裂に喰われていくよう。どろどろな媚肉の口に飲み込まれていく。
 それが熱く、柔らかく、そしてきゅっと締め上げてくる。隙間ひとつないようにみっちりとつまり、ぴったりと張りつき、俺のを貪っていた。

 それがたまらない。まるで淫婦の躰だった。淫らに男を求め、貪欲に男をくわえ込むいやらしくて、卑しくて、やらしいオンナの肉。怜悧な姫君の躰とは思えないほど、淫欲に満ち満ちた躯。

 胸が揺れている。横になっても張りがあり量感たっぷりな乳房が、ぷるんと揺れ、ぶるんと動く。その柔肉のその質感とともに踊っていた。
 そこへ顔を伸ばそうとするが、届かない。気づいたのか姫君は胸を持ち上げてくる。尖りしこった乳首が突きつけられ、それを咥えると音をたてて吸った。

 ……くふぅ……んん……っん……っああぁ……

 朱い月の嬌声が切なげに響く。少しだけカン高い声が意味もなく、呼吸音とともに吐き出される。
 淫肉がさらに締め上げてくる。まるで吸い付き、絡みつくように俺のを扱。
 どろどろだった。溶けていた。蕩けていた。躰の中が朱い月になっていく。彼女だけになっていく。爪先から髪の先までこの媚態を晒し喘ぐ姫君だけになっていく。
 引き抜く。貫く。また引く。また押す。そろそろと引き、ぐいっと押し込む。そのたびに彼女の喉から苦しそうな、けれども淫悦に満ちた声が漏れた。
 何をしているのかよくわからなくなる。ただ苦しくて、ただ切なくて、ただ気持ちよくって。
 姫君を犯しているのか、姫君に犯されているのか。
 ただこの媚肉に、この愛おしさに、この切なさに、この胸の奥にある衝動のままに。
 抱く。犯す。貫き、こね回し、引き抜き、腰を動かし、吸い付き、喘ぎ、乱れ、そして、よがる。
 さらに、さらに、さらに。
 もっと、もっと、もっと。
 それを貪るために、ただそれを貪りたいがために。
 朱い月の媚態が、姫君の嬌態が、彼女の甘いわななきが見たくて。
 俺が感じたくて、俺が犯したくて、俺が狂おしくて。

「……ああ……ん……いい……いい……いい」

 彼女の声がせり上がっていく。鼻にかかった嬌声がさらに悩ましげになっていく。それに合わせて媚肉がさらに締め上げ、擦り上げてくる。欲しいと、俺の精が欲しいと舐め回すかのようにしてくる。

「……あぁ……朱い月……」
「……っんぅ……志貴ぃ……」

 声が絡み合う。互いの名を呼び合う。たけどもその切ない声にさらに昂ぶってしまう。
 躰のこねらせ、何かに抗うように乱れる。美しい金髪が蠢き、汗が飛び散る。月の光をはらんで、彼女が金色に輝いていた。

 そんな躰をさらに犯す。
 唇が切なそうに蠢く。それを奪った。ただ乱暴な口づけ。技巧もなにもない。ただこの胸で荒れ狂うものをぶつけるだけの稚拙なもの。けれどもそれに彼女も応えてくる。
 唇だけでなく、肌を吸う。鎖骨をなめ、胸に吸い付く。舌を這わせ、そして突き上げる。
 湿った肌同士がぶつかる音と粘膜同士が擦れ合う淫音。そして短い呼吸音だけ。
 はぁはぁと激しく喘ぎ、っあんと甘く啼き、じゅぶっといやらしく響く。
 彼女は逃げられないそれから少しでも逃れようとなまめかしく躰をよじる。けれども逃さない。淫裂を貫くたびにそれが甘い媚声となって、その濡れた唇からあふれ出す。

 ただただ官能に溺れる。その甘く爛れた香りを胸いっぱいに吸い込みながら、彼女を貪る。彼女も俺を貪る。
 いやらしく絡み合い、やらしくまぐわい、いやしく舐め合う。
 飛び散る汗と腺液。玲瓏な彼女がここまでと想うぐらい乱れに乱れていた。
 その可憐な唇からもれる、切なげな声。こんなに感じているのだと、こんなにも愛おしいのだと乱れ、啼いていた。
 溢れ出る淫蜜が爛れた性感を刺激するようないやらしい音をたてた。
汗にぬぬる尻を掴んで、さらに奥へと突き立てる。
 声にならない声をあげて、しがみついてくる。
 全身がおこりのようにふるふると震え、イヤイヤと首をふる。
 溶ける。溶けていく。蕩けていく。蕩けきってしまう。どろどろに、何もかも、躰も心、精神も、魂さえもが溶け合っていく。
 なのにまだ貪る。それでも貪ってしまう。
 互いの荒い息を掛け合いながらも、まだ犯し続ける。
 淫蕩な肉の悦びにずふずふと溺れていく。
 このいやらしい朱い月に溺れてしまう。
 このいやしい姫君に溺れていってしまう。
 さらに、さらに、さらに。
 この肢体に、この嬌態に、この柔肉に。
 神経がむず痒い。肌の下をぞろりぞろりとははいずり回る性悦が、俺を苛む。こんなにも苛む。
 腰奥の熱い迸りが、じわじわと駆け上ってくる。
 ムズ痒さとともに背筋を昇ってくる。
 それに反応してか、淫裂がさらに締め上げてくる。
 あんなにとろとろで熟していて、柔らかくて、熱くて、濡れそぼった媚肉が、俺のをこんなにも締め上げてくる。
 彼女はこらえきれない牝の愉悦の声が、俺の牡を揺さぶる。
 擦り上げるたびにぴりぴりと電撃が走る。
 悦楽に犯されていく。
 愉悦にひたり、淫楽に喘ぎ、快楽に身悶える。
 ただの淫肉の悦びとなって、俺達をどろどろになっていく。
 狂おしいほど。息苦しいほど。切ないほど。堪えきれないほど。
 滾ったそれが、ぐすぐすと沸騰しいて、荒ぶっていた。
 それを吐き出したくて、さらに奥へと入り込む。

「……あぁ……」
「……志貴ぃ……」

 さらにのめり込む。さらに昇り上り詰めていく。
 この媚肉に、この痴態に、この淫裂に。
 ぎゅぎゅっと締め付けられる。亀頭がぬめった舌に幾中もからみつけられ、扱かれているような刺激。
 ズキンと響き、そして一気に尾てい骨から頭頂まで甘い電撃が駆け抜けた。目の前で火花が散る。
 今まで我慢してきたソレがざわめく。躰の奥底からざわめきながら一気に背筋を駆け抜け、脳髄を溶かすほど。
 そのまま射精した。
 一番の奥に、美しい彼女の胎内のもっとも深いところに俺のどろりとした粘液を吐き出す。尻を掴まれて身動きできない姫君の胎内に注ぎ込む。
 たっぷりと注ぐ。

「……はああぁぁぁ……志貴ぃ……」

 感極まった声が響く。彼女は大きくのけ反り、その白い喉を見せながら、躰をひくつかせた。
 朱い月は随喜の涙をこぼしながら、かすれた細く長い悲鳴にも似た嗚咽を上げ続けた。
 全身であらん限りの肉欲を受け止め、満たされて、乱れ、よがった。
 躰は何度もヒクつき、なおのけ反る。のけ反っていく。
 躰を幾度も痙攣させ、彼女は感極まって、よがり、啜り泣く。
 甘くわななく嬌声を聞き、その媚態を見ながら、さらに彼女の胎内にたっぷりと精を吐き出すのであった。




 嬌声すら上げることができない絶頂がようやく終わった。
 快感にひくつく強張る肢体が今度はだらんと弛緩して、朱い月の肢体の上に俺は覆い被さっていた。苦しくないように膝を付き、ただその豊満でしなやかな肢体の温かさに溺れていた。
 月下の庭園にいやに粘ついた呼吸音だけが静かに響く。

 こちらを見つめる朱い月。
 今さっきまでの狂おしいまでの媚態はなりを潜め、いつもの玲瓏な顔つき。なのに頬は朱に染まり、どこか淫らな雰囲気を漂わせ、ぞくりと思った。
 そうして顔を近づけると、またキスをする。
 やさしく、やさしく、できるかぎりやさしく。
 そして甘く、甘く、蕩けるほど甘いキスを。
 その甘いチョコレートを味わうように。
 そして一言。

「――好きだよ」

 そんな愛の言葉に対して、姫君は、たわけ、そんなことはとっくにわかっていると言わんばかりに、鮮やかに、艶やかに笑う。

「――ああ、人間。妾もだ」
「あれ、名前で呼んでくれないの?」
「…………黙れ、人間」

 そんな朱い月に思わずくすっと笑ってしまう。そんな俺を見て朱い月は顔をしかめるが、すぐに艶笑した。
 互いに見つめ合い、そして笑い合う。
 そしてまた寄り添い合う。
 火照った豊満な躰を全身に感じる。
 そして顔を近づけると、朱い月は顎を上げ、目をそっと閉じる。
 待ち侘びるように、ねだるように。
 冴え冴えとした月光を浴びながら。
 また蕩けるほど甘い恋人の唇を味わうために。
 そして、またキス。




あとがき

 ゴメンなさーい。本当にゴメンなさい。間に合いませんでした。次の日、  ヴァレンタインSSです。1日遅れた15日に発表しています。
 で、でもこれ14日の夜、ちなわち15日の話だからいいよね? いいよね? ね?

 えーこほん。まずはうろたえてしまい、お見苦しいところをお見せいたしました。
 ひさしぶりのSSがこんなんでゴメンなさい。こんなヴァレンタインでゴメンなさい。あとFateでなくてゴメンなさい。
 謝ってばかりなわたしです。

 今作品は一粒で二度楽しめるように、朱い月×志貴と、志貴×朱い月の両方をいれてみました。……なんかちくはぐな感じになってしまいましたけど、楽しんでいたいただければ幸いです。

 本当はこれ2部作でした。クラザメさんのところの真夏のようにアルクェイドと朱い月の両面で描こうと思ったのですが、時間がなくてタイムアップ。とほほなのです。朱い月だけでゴメンなさいね。そのうちアルクェイドの方も書きたいとは思います(いつ書けるのかは確約できませんが……)

 とにかくひさしぶりに一気に書いたSSで、わたしやっぱり文章書くのって大好きなのね、と再認識させられました。

 それではまた別のSSでお会いしましょうね。


15th. February. 2005 #138.

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