愛淫罵唾 one river.



練馬




 私が寮の部屋に戻ると、ルームメイトの壱河(いかわ)が一瞬だけ振り向いてやや釣り目がちの赤茶けた瞳でこちらを一瞥するとまた机に向かった。机に向き直った一瞬、彼女の黒炭色の長髪が綺麗に広がって再びまとまった。


 壱河と私は、馬が合わない。この私立礼園女学院に入学して以来、ずっとルームメイトと対立していた。尤も、入学して最初の三日は違う生徒と同室だったが。


 寮監のシスター・リーズバイフェが、一日で音を挙げた私と壱河のルームメイトの陳情を聞き入れて、特例として部屋替えをしたのだ。


  退学者が出た時を除けば、このような部屋替えは私達が初めてのケースだった。後に、私の弟子の在学中に東館の火事が原因で部屋替えが行われたのだが、今の私が知っているわけがなかった。


 シスターの意図は、マイナスを掛け合わせてプラスにするつもりだったのだろう。真面目と言うよりは鉄の女といったイメージの壱河と、絵に描いた問題児の私が互いを牽制し合えば、周囲に類は及ばないという事だ。


 それでいて、テストの成績は私達が常に一二を争っている。入試をトップで合格した壱河はともかく、補欠入学だった私まで好成績を収めているのはシスターの部屋割りが成功したからだと学園の教師たちは感心している。入試の成績が悪かったのは妹のせいなどと、誰も知らないのだから当然だが。


 壱河が私の方を振り向かないのには、もう一つ理由がある。
 私が六時ぎりぎりまで部屋に戻らなかった理由を、知っているからだ。私は、女生徒達とほぼ毎日逢引していた。ついさっきも、林の奥にある小等部の校舎の裏で立て続けに三人程いただいていたのだ。


 壱河が私の素行に対して何の注意もしないのは、二つの理由がある。自分から少女を口説いていない事と、下級生とは逢引していない事だった。
 私が関係を持つ相手は、もっぱら同級生か上級生だった。時にはシスターとも逢引しているが。


 年下は別に守備範囲外だというわけではない。ただ、下級生に「お姉様」と呼ばれる度に、妹の存在を思い出すのが嫌だったのだ。尤も、私の場合は上級生からもお姉様のような扱いを受ける時もあるのだが。
 どこぞの学園では、羨望を集めている生徒をギカンティスだのペキネンシスだの呼んでいるらしい。どうして巨人や北京原人が羨望のまなざしで見られているのか知らないが。


 壱河は席を立つと、学習室に行くと言って手近な教科書と参考書を抱えた。


「なんだ? そんなに私と一緒にいるのは、嫌か」


 壱河は、ノブをつかんだ手を止めた。


「あなたは、学園の品位を落としている事が判っているの?」
「別に、そんなのは無いだろう。知っているか?『西東京のリリアン、東東京のミカエル』という言葉を」


 確かに、礼園はAAAクラスだろう。しかし、Sの一文字との落差は決定的に大きい。差を埋められない原因は生徒の素行よりもむしろ黄路一族にあるのだから、この二校を引き合いに出すのは酷というモノだ。だが、ルームメイトを黙らせるのには効果的だったみたいで、彼女は何も言わずに部屋を立ち去った。


 これで、夜の点呼まであいつが戻ってくる事は無いだろう。壱河と入れ違いに部屋を訪ねてきた女生徒を、私は快く招き入れた。






 深夜になれば、どうしたって二人きりにならざるをえない。逢引きの相手は、壱河が戻ってくる五分前に部屋を去っていた。


 二段ベッドの下段に寝転がった私は、ルームメイトのいる上段を見上げていた。別に私は透視が出来るわけではないが、壱河が何をしているのか判っていた。
 微妙な振動を繰り返す上の寝床を見て、私はそろそろ頃合だと確信した。
 私は静かにベッドの梯子に手を掛けて、壱河の様子を伺った
 そう、壱河は私と同級生。彼女も、充分に私のターゲットと成り得るのだ。
 真面目ぶってはいるが、私は彼女に同類の匂いを感じていた。若い性衝動を抑え切れない、発情した匂いだ。
 私のように日々女生徒を相手に発散させているならともかく、壱河は常日頃我慢し続けていた。日々蓄積されていた欲望が、あふれ出そうとしていたのだ。
 彼女を包んでいた毛布を用心深くめくると、私はそれをそうっと床に落とした。
 真下に居る私に見られたくないから、起きている時にあからさまな自慰は出来ないが、眠っている時の壱河は無意識に両足をモゾモゾすり合わせていた。
 この壱河の隠れた性癖に気付いたのは、三ヶ月ほど前だった。それ以来、私は彼女の前でこれ見よがしに華麗なる女性遍歴を披露していた。その甲斐あって、最初のうちは両股を動かしていた程度だったのが、今ではお尻まで揺らす程に激しくなっていた。


 壱河は、私のほうに背中を向ける姿勢で寝ていた。私は、静かに右手を伸ばして壱河の股の間に差し込んだ。すると彼女は、吸い付くように私の右手を股に挟み込んでこすり合わせてきた。


 最初のうちは、指一本でも慎重に差し込まないと目を覚ましそうになっていたのだから、私もかなり大胆になっている。
 数分も手と股をすり合わせると、パジャマの上からでも判る程に彼女の股間が湿っぽくなってきた。右手を引き抜くと、指先についた水分が窓からの僅かな明りで輝いた。


「今日は、次の段階に進んでみるか」


 私は、壱河のズボンに手を掛けた。
 彼女を起こさないように慎重にズボンをはぎ取ると、パールホワイトのパンツが揉みごたえありそうな見事な尻を包み込んでいた。
 勿論私は、壱河のパンツを何のためらいもなく引きはがした。その勢いで、弾力のありそうな丸い肉が二つ、モンローウォークのように波打った。
 そっと手を伸ばして、わたしは形の良い臀部を揉んだ。


「う、ううん……」


 壱河はいろっぽい呻き声をたてるが、まだ起きる気配は無い。この調子なら、目覚めるまでに行き着く所まで行けるかもしれない。
 期待に胸を弾ませながら、私は壱河のベッドに上がり込んだ。
 壱河に覆い被さるように四つん這いになった私は、片手だけで彼女の上着のボタンを外し始めた。全てのボタンを外した私は、続いてパジャマの上からブラジャーのホックを外しにかかった。この日の為に、女生徒と逢引きしながら練習していたのだ。


 ホックが外れた瞬間、壱河の形の良い胸がブラジャーを弾き飛ばさんばかりにその姿をあらわにした。
 悔しいが、壱河のバストは、私よりも大きかった。私は、壱河の豊満な胸に右手を近付けた。結構強く揉んだのだが、壱河はまだ目を覚まそうとしなかった。
 これはいいとばかりに、私は更に右手のリズムを早めた。弾力のいい壱河の胸の感触は、これだけでも病み付きになるのではないかという程、右手に心地良かった。


 ブラジャーとパジャマが邪魔に感じられた私は、勢いに任せて全部剥ぎ取った。私自身も、ネグリジェを脱ぎ捨てて生まれたままの姿になった。
 寝息をたてている壱河の唇に、私の唇をそっと重ねた。既に私の左手は、壱河の秘部をまさぐっていた。
 もう我慢出来ずに、私は全身を壱河の体に押し付けた。二つの肢体が、一つに重なった。
 まだ起きない彼女の口にむしゃぶりつきながら、私は彼女の乳房と私の乳房をこすり合わせた。ベッドの継ぎ目が、リズムに合わせて軋みをあげた。
 陰部から手を引き抜くと、分泌液が糸を引き、広げた手の平が蜘蛛の巣のようだった。


「さあ、いただくわよ」


 壱河の右足を持ち上げた私は、その膝を肩にかけた。左足にまたがった私は、右の太ももを抱きかかえて、彼女の陰部を私の陰部に近付けた。
 二人のクリトリスが互いを舐め合うと、新たな高揚感が私の身体を熱くさせた。


 未だ目を覚まさない壱河の股に腰を打ち付け続けると、もう私は限界に達していた。


「い、いっくううっ!」


 私の体内を、絶頂感が駆け巡った。


「はあ、はあ、はあ、はあ」


 息も絶え絶えな私は、そろそろ自分のベッドに戻る事にした。腰を離した時、二人の性器が糸を引いた。
 壱河の寝相を正しながら、私は彼女の耳元で囁いた。


「寝たふりしないで、少しはおまえも腰を動かせ」


 梯子を降りながら壱河の寝顔を伺うと、耳まで赤くなっていた。







「と、言う事が、学生時代にあったのだ。それからも、毎日のように・・・・・・」
「橙子師、何て話をするのですか!」


 顔を真っ赤にして、鮮花は橙子に抗議した。


「何って、聞きたいと言ったのはそっちの方だろう? 平日にも外出許可を取りたいと」
「わたしは、寮監の弱みを聞きたいと言ったのです!」
「だから、彼女の秘密の過去を教えてやったんじゃないか」


 そう言って、橙子は低く笑った。


「こんなの、寮監に言えません」


 まさか、橙子とシスター・アインバッハが学生時代にルームメイトだったとは思いも寄らなかった鮮花だった。


 聖書の女性名が少なくて重複しやすい事から、本名を英語や独語にした洗礼名を持つ生徒が、礼園には伝統的に多かったのだ。


愛淫罵唾/了





[後書き]


今日は、練馬です。
もうお判りと思いますが、タイトルは『アインバッハ』と読みます。
名前しか書かれていない彼女ですので、年齢等は勝手に設定してみました。
それでは皆さん(いきなりダッシュして逃げ去る)。

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