未通女  〜破瓜祭用だった原稿から〜



大崎瑞香



「鮮花、ひとつ重要な質問がある」


橙子師は眼鏡を外した昏い瞳で覗き込むように、しゃべりはじめた。


「はい、なんでしょうか、橙子師」


 やや緊張した趣で答え、どんな問いかけがくるのか少し緊張した。
 弟子入りしたからといってこの女性はやさしくしてくれることなんてない。弟子の能力が足りなければほっぽっておかれる。魔術とは身に刻むものだからこそ、自ら切磋琢磨しなければならないからな、と薄く笑って見捨てるような人なのだ――橙子師は。


「では尋ねよう。鮮花――貴女は処女か?」


 …………
 …………
 …………
 …………頭が真っ白になった。


 何か答えようと口が動くが、声にならず、パクパクと動くだけ。
 ようやくわたしは自分を取り戻すと、はっきりと言った。


「き、決まっているでしょう!」


 われながら、ややヒステリックな声だと思ったけど、仕方がなかった。


――では、経験あり、か」
「違いますっ!」


 たとえ橙子師でも関係ない。わたしは怒鳴りつけた。


「誰が幹也以外と結ばれるものですか!
 幹也に抱かれるまで、愛されるまで、わたしは清らかな乙女なんですよ!」
「そうか」


 師は煙草を取り出すと口にくわえる。そして胸のポケットからライターを取り出すと、火をつけた。
 そして火をつけるとおいしそうに吐いた。


「では処女――男性ならば清童――というのは、術の担い手として重要な要素であることはわかるな」


 橙子師が蘊蓄を語り始めたので、わたしは黙って聞くことにした。
 ――やや生々しいのが気にされるけど、魔術師には道徳とか禁忌とかそういったものはない。そんな自己を抑圧してしまうものなど必要がない。魔術師とは、ただ自己を拡大し、増強していく存在だから。


「男性が女性の胎内に挿入する、または女性が男性を迎え入れるということはその純真さを失うということだ。Pure is Power というわけだ。もちろん同性愛も駄目だがな」
――それは、性による悦びがダメということなのでしょうか?」


 わたしの言葉に師は頷く。煙草を燻らせながら、かすかに笑う。


「そうだ。
 物事には例外があり、性魔術というものも存在する。この日本にも立川流というものあったしな。しかしこれはまた別の話だから、別の機会にしておこう。
 脳という器官はシナプスという神経接続によって形成されているのが、知っているな。シナプスは使用すれば使用するほど強く太くなる。
 魔術師というのは、そこに普通の人では形成できない神経接続回路を創り出す。ちなわちこれが物理的な魔術回路だ。しかし肉体の魔術回路組織というのはとても貧弱だ。なぜならこの物理世界に固定されているからな。
 だから霊的にも作り上げる。これを魔術回路を組み上げるというのだ。もちろん霊的手術によって魔術回路を固定化させる方法もある。それの一番身近な例は『魔眼』だ」


 式の瞳を、そして師の瞳を思い浮かべながら、わたしは頷いた。


「脱線したな。
 快楽、すなわち性的な官能とよばれるものは人間の三大欲求にいわれるぐらい、とても強いものだ。人間が人間として理性を確立したのはネアンデルタールあたりからだといわれているが、生物としての根源を辿っていけば、数億年規模になる。数億年の重みには、人間の弱々しい理性などちっぽけすぎて、消し飛んでしまうわけだ」
「それが“起源”というものですか」
「“起源”というのは霊的な根源のことをさすが、まぁ違いはない。人間もしょせんは生物、獣である、ということだ。
 だから、その欲求によって脳の中のシナプスが形成されると、そのシナプスはとてもつよく、魔術回路形成に多大の干渉を与えるんだ。
 人間は悦楽に弱い、といわれるのはそのせいだ。本能には逆らえない――人間である以上は、な」
――では、橙子師は処女だというのですか?」
「無論」


 きっぱり言いきられて驚いてしまう。
 そのお歳で、いまだ処女だなんて……
 なぜかわたしは橙子師がとても哀しい女性に思えてしまった。
 そんな思いが表情にでたのか、


「この“身体”が、ということだぞ、勘違いするな」


 まぁ確かに橙子師が初々しい未通女だなんてしれっと言われたら、式なんてまだ清らかな赤ん坊になってしまうし、わたしなんか汚れなき天使にさえなれてしまうでしょうね。



 やっぱりその思いが表情に出たのか、橙子師の貌が歪む。



「では確認するか?」



 ――確認するって……



 わたしがその言葉に考えている内に、橙子師はゆっくりとこちらに近づいてきた。
 いつもパンツ姿なのに今日はめずらしく黒いぴったりのタイトスカートをはいていた。ストッキングにつつまれた脚の曲線がとても綺麗で、同性のわたしでもなまめいたものを覚えていた。
 そして橙子師はわたしの前までくると、妖艶に笑った。
 その瞳には淫蕩な輝きをたとえ、その表情はとてもいやらしく。
 唇はやらしくてらてらと光っていていた。
 わたしはその淫靡さに呑み込まれてしまった。
 橙子師はタイトスカートに指をかけるとそろりそろりと持ち上げていく。
 ストッキングは太股半ばで終わっており、ガーダーでつるされている。
 レース模様に縁取られたそれがとても色っぽくて。
 そろりそろりと持ち上がっていく。
 橙子師の唇もいやらしく持ち上がっていく。
 わたしははしたないことだが、橙子師の股間を凝視していた。
 はしたないと思うし、いやらしいと思う。
 しかしわたしは魔術師の弟子であり、禁忌やら道徳とやらを投げ捨ててしまった存在であり。
 そして橙子師の女の部分をみられるというのは、とても……そうとてもワクワクしたのだ。
 胸がときめく。幹也に対する思いとは違い、他人の秘められたところを干渉するという、この禁忌が。
 深いところが滾ってしまう。
 凝視する。してしまう。
 そしてスカートが持ち上がると、そこには陰毛で覆われた股間があった。
 ショーツをはいていないのだ。その最も隠されなければならない秘めた所を外気にさらしていたのだ――この女性は!
 なのに、それが羨ましいと思ってしまう。
 そんないやらしくはしたないことだというのに。
 わたしは躰が震えてしまうほど、羨ましかった。
 大人の女性らしい茂り。その奥にあるはずの橙子師の淫らな粘膜。


「それで見えるのか」
「……いえ」


 そういってわたしは顔を近づける。
 いやらしい匂いがしたと思う。
 女のあの匂いが鼻につく。
 こもったような、むれたような、でもやらしい匂い。
 その匂いにくらくらとなりながら、わたしは顔を近づける。
 まるで蜜に吸い寄せられる蝶、火に飛び込む蛾のように。
 そのいやらしいオンナに引きずられて、引き寄せられてしまう。
 そして橙子師は右手をおろしてくる。
 茂りをかるく撫でると、指でゆっくりと開いた。
 わたしはその淫靡な眺めに息を呑んだ。
 赤い粘膜がふたつにわれ、本当にいやらしい花のようだった。
 淫らな花がわたしを誘った。


 「見えないだろう?」


 わたしは言葉もなく頷くだけ。
 あかくいやらしい粘膜がみえるだけで、処女の証なんて見えない。もっと深く胎内の奥深くにあるはずのソレ。


「指を入れて確認するんだ」


 そう言われて指を伸ばす。


「でもいきなりは痛めるからな。濡らさないと、な」


 濡らさないとけいけない言われて、わたしは指を止めた。
 この淫らな赤い花に顔を近づけると、そっと息を吹きかけた。
 皮に覆われた陰核。ぷっくらと膨らんだ尿道。その下に咲く、この淫らな――


……あぁ」


 橙子師の悩ましい声。それがとてもよくて、さらに息を吹きかける。
 橙子師の指でかきわけられた媚肉に、息をふきかけると、潤み始めた。
 感じているのだ、と思うとドキドキした。
 顔が熱くなっていく。
 息苦しいほど。
 なのに――やめることなんて、できない。
 愛液がどろりと溢れてきた。
 いやらしい腺液が、赤い花弁を濡らしていく。
 掻き分けられ押さえられた指の間が濡れ始めていた。
 そこにまた、息を吹きかける。
 それだけで、こぼれ落ちてくるいやらしい蜜。
 それがこぼれ落ちて、花弁をぬらぬらといやらしくしていくのは、なんて猥褻な眺めなのだろう。
 こんなに間近に誰かの性器をみたことなんて――なかった。
 こんなものが、こんなに卑猥なものがわたしにもついているのだろうか。
 それとも、こんなに卑猥なものは橙子師だけにしかついていないのだろうか?
 そのぬめりを帯び、やらしい匂いを放つ、朱い淫芯にうっとりと見入ってしまう。
 なんてやらしくて、なんて淫らで、なんて卑猥なんだろうか――
 だから。
 わたしは口づけた。
 花に口づけする乙女のように、その淫らな花の匂いに誘われて、熱い花弁に唇を寄せたのだ。
 舌でその媚肉を舐めあげる。
 とたん橙子師の躰が震える。
 赤く充血しはじめたやらしい花はひくつく。
 あふれ出る淫蜜はかすかに甘く、ちょっと酸っぱい感じ。
 でも、気にせず、わたしは橙子師の股間に顔をうずめて、ペチャペチャと舐めた。
 舐めて、舌先でその雫を掬いとっているというのに、どんどんこぼれてきてやらしい。
 こんなにもこぼれてきて――いやらしい。
 だから舌で丁寧に、じっくりと、きちんと、媚肉を舐めあげる。
 粘膜を刮げおとすかのように、舌を動かす。




 ……ぺちゃ……っちゅ……ねちゃ……



 そして上の陰核を皮の上からぐにっと押す。
 橙子師の熟れた大人の躰がやらしく、くねた。
 荒い息がふってくる。
 その中に混じって聞こえる、押し殺したかのような嬌声。
 感じているため、ハスキーな声がやらしく、ぐもっていた。
 だから、その陰核に吸い付き、唇で挟むと舌先でレロレロと撫で、指で媚肉をそっと掻く。
 甘く長い吐息。何もかも吐き出すかのような熱く粘ついたオンナの声。
 そして少し肉襞に爪を立てて、そして擦る。
 腰をよじって、にげるようにする。
 でも逃がさない。
 わたしは指先で橙子師を弄び玩具のようにいじくりまわした。
 そして、そのことにわたしも感じていたのだ。
 ショーツまで濡らしてしまうほど。
 躰にやらしい波が走る。
 肌の上をゾクゾクとさせる甘い電流が駆け抜けていく。
 鳥肌がたっていく。粟立っていく。
 気持ちよい。
 ただ他の女性のそこを舐めているだけだというのに。
 ただ他の女性のそこを弄っているだけだというのに。
 こんなに、気持ちいい。
 こんなにも、たまらない。
 舌で嬲り、口をつけて啜り、指でこすり、爪を立てて、媚肉をぐちゃぐちゃになるまでいじる。
 それでも橙子師の淫芯は綺麗で、やらしい薫りを放っていた。
 ややしょっぱいような味なのに、それで気にならなくなっていく。
 そして、それがとても甘い、甘すぎて息が詰まるほどの蜜となっていく。
 舌ですくって何度も飲みほす。
 同性のものなのに、嫌悪感なんてなくて――それよりもこの甘さに後頭部がクラクラとする。
 頭の後ろが灼けているかのよう。
 熱くて、焦げ付いていて。
 何も考えられない。
 とろけるような味に溺れていってしまう。
 そしてわたしは指をそっと差し込んだ。
 熱く締め付けてくる。
 こんなに熱いだなんて。
 そこは媚肉がきゅぅっと締め付けてくるのに、ぬるぬるで。
 そのくせ吸い付いてくるよう。
 まるでたわしは男になった気分だった。
 もしわたしが男ならば、橙子師をメチャクチャにしてしまうに違いない。
 いえ、今の私でも橙子師をメチャクチャにしたい。
 犯したい。
 侵したい。
 冒したい。
 この媚肉を思う存分貪りたい。
 蹂躙して、陵辱して、姦通したい。
 この朱色にそまった肌の上に舌を這わせ、甘くわななかせたい。
 わたしの下に組み敷いて、甘く啼かせたい。
 痴態にどうしようもなく溺れさせて、ただ淫らなオンナにしたい。
 女どうしだというのに。
 同性どうしだというのに。
 なのに、そう思うだけで、わたしの心も躰も淫悦に震える。
 悦びで、こんなにも震えてしまう。
 身悶えてしまう。
 ただの男と女では味わえない、昏い悦びに、わたしの心は酷く――とも酷く、疼いた。
 襞はいよいよ充血し、赤く染まった。
 淫蜜はこぼれ落ちて、舌で掬いきれず内股を濡らすぐらい。
 わたしの貌は愛液でベタベタだけど、気にならなかった。
 逆にむせかえるほどのやらしい橙子師の女の匂いをもつと嗅ぎたくて。
 鼻腔いっぱいになるまで、肺にいっぱいになるまで吸い込む。
 この爛れた大人の匂いに、くらくらしてしまう。
 そして舌先で味わえるやらしい、この蜜。
 わたしの躰を熱く昂ぶらせる、この蜜。
 この蜜をすべてすすり、舐めあげたくて。
 指でそっと掬い取り、媚肉をかきあけ、淫蜜をわざとこぼさせる。
 橙子師のきめの細かい肌はぬめりをおび、くねっていた。
 そして熱く蕩けた媚肉を分け入った指先に何かがあたる。
 橙子師未通女の証。処女膜。
 とたん、橙子師はすっと離れた。
 指が温かくぬるめるとしたところが抜け落ち、淫蜜が名残りおしそうに糸を引いた。
 それから湯気が出そうなほど熱くて――わたしは粘ついたため息を吐いた。
 指先についたそれがもったいなくて、つい口に含む。
 淫蜜はねっとりとして、口の中にひろがり、頭をしびれさせて、わたしをひどく疼かせた。


――わかっだろう。わたしが清らかな処女ということが」


 橙子師の言葉でようやく我に返る。
 わたしったら、なんて恥ずかしいことを……
 身を焦がすような恥ずかしさを覚えた。
 顔が熱く、火が出るほど。
 橙子師の貌をまともに見ることは出来ない。
 でもなんとか見てみると、その貌にほんの少しもやらしさはない。
 今さっきまで浮かべていたであろう淫蕩な貌はどこにもなく――冷たい笑みを浮かべた魔女の貌がそこにあった。
 この人にはまだ敵わない、という思いだけがこみ上げてくる。


「さて、次は貴女の番だぞ」
――え?」


 わたしは驚いてしまう。
 しかし橙子師はにやりと、まるで悪戯っ子のように笑うと言った。


「今度は鮮花が本当に処女かどうか、確認させてもらうぞ」


 その言葉に背筋がゾクゾクしてしまった。
 胸がきゅんとなる。
 股間が熱くなる。
 躰に熱が帯びはじめる。
 ドキドキしてきて、淫靡な電気が流れた。
 頭の中がどろりとしたものでいっぱいになる。
 今さっき弄ったかのように。
 今度はわたしが橙子師にいじられる。
 橙子師に舐められる。
 橙子師に弄ばれる。
 橙子師に啜られる。
 橙子師に。


 そう思うだけで、牝躰は官能に身悶えた。
 唇から熱く粘ついた息を吐いてしまう。
 そして熱い秋波で橙子師を見ながら、震えながら、こう答えた。


――――――――――――――はい」


 わたしはやらしく笑うと、そっとスカートをつまみ上げた。
 そろりそろりと。
 橙子師に見せるように。
 見せつけるように。
 ゆっくりと、ゆっくりと。
 白い布切れにおおわれた、わたしのあそこを。
 いやらしいところを。
 熱く濡れているところを。
 ぐちゃぐちゃな淫猥なところを。
 ひくついて、淫蜜をこぼしているやらしいところを。
 そんないやらしいわたしを、見て貰うために――




おわり






あとがき


 これは本来ならば、Acid Rainさんのところの破瓜(あるいは処女)祭のための作品でした。



 ――――いえ、嘘です(笑) これでは須啓さんいじめになってしまう(笑)
 あの企画案に、ほんとうに、無性に、心動かされてまして。
 真面目にこんなプロットまで作って(笑)、気がつくと1時間半で仕上げてしまいました(笑)。
 せっかくなので、両儀“色”祭にアップしておこう、と(笑)
 でもよくよむと「なんて――酷い」と同じ構図なようで違うようでなんともいえない内容だったのに対して、なんとなしに自分のアイディア不足にこう……なにかを感じ入るものがあるのですけどね(苦笑)



 ちなみにこれでたぶん両儀“色”祭はおしまいです。
 投稿がなければ、明日(6/1)には閉会の辞をアップしてアンケート集計は来週ということで。
 皆様、本当におつかれさまでした。

 投稿ありましたので、継続です。



31st. May. 2003. #106

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