『夜伽閑話』


クラザメ


夜とは不思議な時間。
昼には無尽蔵にあった光りは、太陽が地平に沈むと全てが消えてしまう。
世界を覆うのは、夜空の色とは違う黒。

だから闇と名付けられた。
灯りを持ち込み、街をつくり、
コンクリートで四角く間仕切りした寝床に籠るのは、そこに潜む何者かを恐れる故。

なのに人は漆黒の空に並ぶ光点や、満ち欠ける円盤を見上げ、遥かへと思いをはせ、
青白く照らされる地上に安らぎを覚えもする。

星のはじまりより常しえに、秘めし魔力を失わない夜。
惑わされ、癒される不思議な刻。

「疲れたの?」

その夜が凝縮した様に、気遣う声は何処までも美しかった。
開け放たれた窓から見える月、天頂に輝く銀色の真円が削れ、
欠片が地に落ちる前に消えてしまうならば、きっとこんな音色になる、そんな声。

「……………」

訊ねられた志貴は、だから答えることを忘れてしまった。
隣りに横たわる白皙の美貌を、ぼうっと見詰めるだけ。

「ねえ?」

ただの一言に聞き惚れる相手が心配になったか、
声の主は、そっと身を起こして、その顔を覗き込む。

「志貴?」

自分の名を呼ぶ桜色の唇にぞくりとした。
二音をこぼれさせただけの短い動き、
なのに濃密な口づけをされた如く、はっきりと頭に焼き付く。

それだけではない。
紅玉の瞳は、心の奥底まで見透すかの様であり、
すっきりとした鼻梁、繊細な顎の線、そして金色の髪、
彼女を構成する全てが蠱惑的だった。

彼女は、アルクェイドは矢張り月の化身なんだと、志貴は脈絡も無く得心した。
そうでなくては、これほど美しい筈がないのだから。

「具合が悪くなったの?」

そんな内心など分かる訳もなく、
アルクェイドは、益々惚けた風な志貴が心配になった。

壊れ物を扱う優しさで、そっと志貴の額に掌を乗せる。
伝わる体温は、特に問題は無いと思う。

しかし解らない。
彼は特別だし、恒常性の塊である自分とは違うのだ。
慎重を期すのは、少しも無駄ではない。

今度は志貴の頬を両手で挟むと、
アルクェイドは顔を寄せ、額を合わせるのだった。

「えっ……アルクェイド?」
「じっとしていて」

吐息を直接味わえる程の接触。
たった今まで美麗さを想っていたのだから、平静ではいられる道理もない。
彼女が熱を計っていると志貴が気付くのに、随分と時間が掛かった。

アルクェイドが離れるまで、殆ど固まるだけ。
呪縛が解けても、まだ意識の一部は何処からか現世に帰って来ない。

「別段熱はないわね、やっぱり」
「い、いきなり……するなよ」
「なに言ってるの、志貴がぜんぜん返事をしないから、心配したんじゃない」

口を尖らせるアルクェイドだが、志貴にも安堵の色は明らかだった。
その上、サイドテーブルから水差しを取り、喉が乾いたでしょうと、
甲斐甲斐しく飲ませてくれては、罰当たりで反論も無い。

「どうかしたの?」
「いや………何でもないよ」
「そう?」

嘘ではなさそうだと、アルクェイドは微笑んだ。
夜闇に咲く、白き大輪の月華。
神々しくも、柔らかな温もりを感じさせるアルクェイドの笑顔。

ふと彼女の肢体を覆っていたシーツが落ちた。

露わになる半身は、やはり完璧な造形を成していた。
こうであるべきだと決められた美の黄金曲線を、一分の狂いも無く体現している肢体。
豊かな胸も、細い腰も、シーツのうねりに隠された連なりも、必ずそうに違いない。

美貌を穢すのを恥じた様に、微睡む前の残滓を僅かも感じさせない。
いや仮に白濁にまみれていようと、彼女の麗姿は何の遜色も無いだろう。
それは志貴が誰よりも知っている。

「アルクェイド」
「どうしたの?
やっぱり疲れてるの?」
「いや…………」

違うと答えるつもりだった。
なのに、また心配気に曇ったアルクェイドの顔を見て、不意に志貴の喉が詰まった。

自分が居なくなるとしたら、アルクェイドはどんな顔をするのか?
馬鹿馬鹿しいほど明確な疑問はしかし、近い未来に解答が示される。
それも志貴の知覚が及ばない、もしかしたら今夜と同じ月をのぞむ前に………………。

肌を触れられるのさえ感じられない幻の夜風は、時に不安を齎らすと言うが、
いまの志貴がそうなのかもしれない。

砂上の楼閣、胡蝶の夢、繋がっていてさえ存在が遠かった。
二人の時間は尺度が違いすぎるのだから。

幸せの中にあってこそ、人間は破滅を怖れる性なのか?
彼女が間近に在るのに、その瞬間に思いが届くと、恐ろしくてたまらない。

アルクェイドとの刻を、この睦み合う刹那を止めて閉じ込めたい。
この時志貴は初めて永遠を願った。
撥条が切れ掛けた自身に拘わらず……………いや、だからこそ切実に願った。

アルクェイドが傍らにあり、世界が続く限りそれが真実であること、
この渇望の前では、これまでの覚悟も、日々を生きる達観も、すべてが無意味だった。
自分に巣くっていた諦念に殺意すら覚える。

「志貴、泣いてるの?」
「……………」

頬を撫でる指が優し過ぎる。
激情が渦巻き言葉が形にならなかった。
沈黙だけが無意味に零れ落ちる。

けれどアルクェイドは急かすこともなく、志貴を待つ。
何かあるのならば、必ず伝えてくれると信じているから。

引き寄せられ、抱きしめられるのに身を任せる。
アルクェイドを感じ、心が鎮まって行ってくれる。
やがて、ぽつりと志貴の口が開いた。

「離れるの…遺すのは……嫌かな………………」
「志貴」

聡明なアルクェイドは、志貴に揺れる影から、全ての想いを汲み取った。
志貴の痛みを、自分への愛しさを、不安も、願望も、何もかも。

だからこそ態と普段の軽さで応える。

「少し変ね」
「………自分でもそう思う」
「そうよ……きっと心配しなくても大丈夫よ。
志貴が考えるような事にはならないから」
「なんで?」
「予感があるの」
「何が?」
「私はそんなに長く存在しないって」
「は?」
「そうね、志貴よりも長生きするのは確実だけど、
志貴の子供を生んで、その子が結婚して孫が出来て、おばあちゃんになる。
そのまた孫が………………たしか玄孫だったかしら?
見届けて………うん、多分それ位だわ」

人間の尺度ならば長いのは確実だが、それでも皆無などではない。
が、正に桁が違う寿命の単位を基本とするアルクェイドに、それは短すぎた。

何か特段の異変が生じているのか?
それも負へと続くものだろうか?
どろどろとした昏い予感が押し寄せる。

「何で?
だってアルクェイドは………もっと長い時間があるだろ?」
「ねえ、命ってどんな物だと思う?」
「え?」

質問に質問、唐突に切り出され、志貴は意図が掴めない。
が、アルクェイドは気にせずに続ける。

「息をする事?
心臓が動いてる事?
それとも自己を保つ事?
仏教では、生命を成立させる三つの機能を考えてるわね」
「残念ながら知らないよ…………生命の基本機能は複製と代謝だっけ?」
「まあ、そんなところ。
でも、私は?
精霊や死徒はどう定義するかしら?
志貴の魔眼は物質の死も視える。
死があると言うことは、物質も生きてる?」
「物は壊れ易いって意味じゃないかな?」

言ってみたものの志貴にも自信は無い。
命とは何かも、ひどく漠然とした認識だった。
生きていれば命であるし、
ましてや死など実体験して認識するなど不可能だから。

「仮に命を物質世界よりも、もっと高次元の現象としてとらえると、
根源的な命そのものがあって、全ては世界に投射される影の様なもの。
無からの宇宙創生論みたいに考えれば良いのかしら?
揺らぎ始まりの元になる虚数、
全てはそこから来て、また還る場所…………命の海から飛び散る滴にすぎない」
「命の海?」
「そう仮に比喩したらだけど…………勿論私もその一つ。
私と志貴の差は、単に泡沫の顕在する形が違うだけ」
「そうだとして、さっきの話とどう繋がるんだ?」

その違いが寿命ではないのだろうか?
アルクェイドは肯いた。
ただ、それは一面にしか過ぎないとも。

「命は不滅で在り続ける。
けれど、それぞれの固体は命の器……と言うよりも単なる付属品。
砂漠の砂粒の一つがどんな色なのか、ざらざらしているのか、滑々なのか、そんな程度。
命にとって考慮する必要もない、どうでも良い特徴なのよ。
ほら、人が不老不死になる話でよく出て来るのが、そうなったけど耐えられないってやつ。
あれって即ち器に対して命が大きくなりすぎ、命自体に飲み込まれてしまうって事。
志貴がこれから十万年生きる様になったら、平気でいられる?」

明日でも明後日でもない、それは途方も無い未来。
実感などわきもしない単位は、そも人の歴史すら超越している。

「…………想像もつかないけど、正気でいるのは無理そうだ」
「ええ、確実に命に飲み込まれるわよ。
強力な命に侵蝕されないで、自我を保つには負けない何かが必要なのよ。
ある種の単純性みたいなもの」
「単純性?」
「うん、所謂アイデンティティーかな?
しかも一点豪華主義、それだけに特化した自己同一性」

アルクェイドにとって、それは死徒殲滅につきた。
彼女唯一の存在理由。
単純明快で、何の疑問を挟む余地も無い自己の意義。
完璧に無機質で強固な精神の砦。

思いを馳せると微かな感慨。
束の間、アルクェイドの表情が透明になった。

「アルクェイド」
「いいの、いまは違うから」
「………………」
「大きな命を固定した私の単純性は消えて行く。
だから、私の永遠は壊れて行くの。
たとえ姿形は変わらないとしてもね」
「それって………」

だとしたら原因は自分だ。

彼女から、何を奪ってしまったのだろうか?
命を?
先に逝ってしまう自分が?

それじゃあ、まるで道連れだ。
志貴の胸の奥に、重苦しい澱みが立ち込める。

しかし、アルクェイドは首を振った。

「私はこっちの方が好きよ。
初めて未来と言う言葉に意味が生まれた。
実に愉快な変化だわ。
志貴のお蔭よ……………志貴と出逢ったから私は変われたんだもの」
「それって、良かったのかな?」
「良かったの。
志貴は違うの?」
「違わないよ…………絶対」
「うん」

茶目っ気たっぷりに微笑み、アルクェイドは志貴を跨いで身を起こさせた。
太腿の上に座ると、志貴の両肩に手をやり正対する。

「まずは私と志貴の子供。
きっと可愛いわよ。
志貴は子煩悩そうだしね。
ふふ、女の娘だったらお嫁にやりたくないって、志貴が大騒ぎするかもしれないわ」

そしてアルクェイドは、本や映画など、様々なストーリーをごった煮にした風な、
自身の人生設計を楽しげに話し始めた。

聞いてるだけでも、その顔を見ているだけでも、
彼女の脳裏に浮ぶ、賑やかで、心躍るイメージが伝わって来る。

最早、志貴から狂おしい焦燥は消えていた。
思えばアルクェイドの温もりは、何度も自分を救ってくれた。

吸血鬼なのに、邪気のない真っ直な光りの如き愛しい姫君、
彼女がいれば、取り敢えず全てが何とかなりそうだ。

自然と志貴の口許がほころんで行く。

「そうそう、志貴には深刻そうなのなんて似合わないわよ。
私の美しさにぼけっとしてる方が、可愛い男の子って感じで好きだな」
「な、なんだよ変なこと言うな」
「変って、さっき黙ってたのだって、本当は私に見惚れてたから?」
「う゛っ」

そんな風に言われると、アルクェイドを意識せずにはいられない。
柔らかい裸体、それが腿の上、直に感じているのだから。

「あれ?」

ふとアルクェイドは、お尻に熱さと硬さを感じた。
首を傾げて志貴を見詰めると、微妙に視線が逸らされる。
深みを増した朱瞳が妖しく細められる。

「あはは、図星だったか」
「う、うるさいなっ」
「なんだか、心配して損したような得したような……ねえ?」

ころころと笑うアルクェイド。
気恥ずかしくなり、志貴は赤くなるのを止められない。

幸福を切り取ったような優しい時間だった。
それを堪能する如く、二人の会話が途切れ、先とは別種の沈黙が降りた。

「……………」
「……………」

互いの鼓動が聞こえるほどの静寂の間。
混じり気のない透き通った刻。

けれど、仄かな熱を帯びた不思議な刹那。
窓からの月光も朧に霞み、祝福する色になった。

「………志貴の所為よ」

アルクェイドの囁きが空気を揺らした。
密やかな、しかし深更すら華やぐ音色にはしかし、濡れた艶が多分に混じっている。

「一緒にいると、志貴と話すと、手を繋ぐと……………私はどんどん貴方に近くなる」

アルクェイドの繊手が志貴の頬を撫でる。
黒い髪に白い指が滑り込み、美しい相貌が近付いた。

「こうして貴方に触れると…………キスすると……………」

囁く唇が耳元から正面へ移り、志貴を軽く啄む。
それは終点ではなく、アルクェイドは軽やかに降りて行く。

首筋へ、鎖骨へ、そして胸板へ。
志貴の躰に口づけを繰り返し、白い裸体が月光の下で、そっと蠢く。

「う………っ」

しっとりとした素肌が擦れる感触に、志貴は思わず呻いてしまった。
アルクェイドの肢体、その何という心地の良さ。

透き通る肌膚は天鵞絨よりも滑らかで、まさに雪の如しとするのが相応しい。
その内にある肉も、すっかり溶けていて吸い付いて来る様だった。

唇の行程は志貴の下腹の寸前で止まり、また登る。
ただし今度は、舌と歯も加わり志貴を愛撫する。

「ア、アルクェイド……っ」

歯が軽く食い込み、ぞくりと志貴は鳥肌が立つ。
味わうように舌が其処をなぞり、温かい唾液がまぶされる。
堪らず志貴が仰反った。

「く、う……ぁ」

アルクェイドが触れた場所で、性交しているような錯覚。
躰中の神経が性感に切り替わり、芯から熱くなる。

唇がまた重ねられた時には、息さえ整えられず、
志貴は差し込まれたアルクェイドの舌を、噛んでしまいそうに興奮していた。

「んぁ………肌をあわせると…………」

アルクェイドは譫言の様に囁きを続けた。
密着し、金色の叢へと志貴のそそり立つ強張りを分け入らせる。

「うぁっ」

志貴の腰が跳ねた。
ごわごわとした恥毛が強張りを刺激している。

意外な硬さが剥き出しの部分を甚振り、アルクェイドの潤いが粘り付く。
もっと昂ぶれと言わんばかりの甘美な感覚。
痛い程充血し、快感は弥増して行く。

「ああ、志貴………」

アルクェイドは、うっとりと瞳を濡らした。
優雅な背筋が不規則に震え、首筋に汗が光る。

秘部を擦り付けた志貴の反応がたまらなく愛しい。
快楽に揺れる表情が、感じる強張りの熱さが、
それに自分が昂まっている事実が、アルクェイドをより陶酔させる。

志貴の幹へと押し付けた秘裂が、ぬかるみ熔けている。
腰骨の奥が燃えるようで、奥から蜜が滴り落ちる。

アルクェイドは、止め様もない悦楽の奈落に堕ちるのを感じた。
もっと欲しい、恍惚の彼方で志貴と交じり合いたい。

「んぅ、志貴の手が弄ると………」

アルクェイドは志貴の手首を握り、自身の肢体へと導いた。
ぞくぞくと疼く腰裏へ、そしてそこから脇腹を這い上らせる。

尖鋭化した神経は、唇を噛み締めたくなる蜜の心地を伝えて来る。

「はぁ…………志貴が肌を…あぁん」

アルクェイドの顎が天を仰ぐ。

硬い志貴の手は、敏感な躰の横には蕩ける感覚だった。
長い睫毛がふるふると、喘ぎの様な、呻きの様な、吐息が溢れる。

「私の命が壊れ……………いまは快感になるの」

紡ぐ唇は、あまりにも蠱惑的だった。
濡れた光りは欲情の塊。

欲情した朱い瞳、口許に覗く白い歯、微動する金色の毛先さえ、
この上ない妖靡さで志貴を惹き付ける。

「………もっと壊して、私を」

アルクェイドは夢見心地に強請った。
志貴の手を離して、頭の後ろで腕を組み、見せ付ける様に胸を反らせる。

涙滴型に張り出した胸が、たわわに揺れる。
澄んだ桃色の乳首もまた同じ。

ここから先は好きにして欲しいと、アルクェイドの意思表示。
胸をお尻を、唇を、嬲り、弄び、犯して欲しい。
志貴の望むままに鳴かせて、女を潤わせて欲しかった。

「ねえ、志貴………」

掠れた哀訴が、志貴の意識を縛り付ける。
煮立った脳髄に求められたもの以外、浮ぶ事など無かった。

「胸を……」

アルクェイドの言葉に操られるように、志貴の指が動く。
そろそろと近付く指先は、月光に蒼く輝く肌の寸前で、産毛が触れたような気がした。
背中を舐め上げられる様な感覚、一瞬の躊躇。
けれど志貴は、思い切ってアルクェイドの果実に指を這わせた。

「やわらかい………」

指先には、信じられない甘露な心地が在った。
幻想世界の産物か、天使の羽毛でも詰まっているのか、
指が沈みそうで、なおかつ張りが押し返してくる。

堪らない質感に誘われる。
志貴は掬う形で、そっと下乳を掌に乗せてみた。

「ん…っ」

アルクェイドの密やかな吐息。
まろやかな膨らみが、柔らかさを誇るように緩やかに揺れる。

しっとりとした肌の感触は、儚い泡の様。
掌に伝わる乳房の重みすら、綺麗だと感じてしまう。

指を少し動かすと、そのままアルクェイドに沈み込んだ。
小指から、ゆっくりと握ってみる。

心地好い弾力を志貴に感じさせながら、
その手の中で、まろやかに形を変える胸。

つと指を離すと、ぷるんと双乳は揺蕩う。
澄んだ朱鷺色の乳首が、膨らみの先端で志貴を誘惑する様に震えている。

見れば蕾は硬くなり、つんと上向きに勃っていた。
その張りと量感も、何時の間にか増している。

アルクェイドが胸で感じている、その事実が志貴の指先を熱心にした。
両の膨らみを掌いっぱいに覆い、揉みしだき、爪弾き、温もりと手触りを愉しみ、
そして、少しずつ上気するアルクェイドの美貌に溺れて行く。

「志貴は胸が好きね」

アルクェイドが、鼻に掛かった声で微笑んだ。
既に馴染んだ性感である胸は、穏やかな心地好さを齎らしてくれる。
じんわりと躰を満たす、午睡の如き快楽。

「あん………つよいわ」

喜色に彩られた声は、否定ではなく尚求めるもの。
志貴の指に、より熱意と力が籠る。

アルクェイドの内部で官能が、蜷局を巻く。
乳房の芯まで揉まれると、そこにあるのは躰を貫く確かな快感。
知らぬ間に悦びは、胸を弄られ始めた時の緩やかなものではなくなっていた。

「ふぁあっ……胸、こわれちゃう…ん」

指が食い込み二重、三重に括れてもなお、乳房は瑞々しく上向いている。
華麗な曲線美と、そして肉感もあわせ持つ、嫉妬の塊の様な胸。

その持ち主は、存分に胸悦を堪能していた。
股間の合わせ目を蜜で濡らして戦慄きながら―――。

「ねえ……志貴」

やがて、囁きが闇にこぼれた。
夜気をゆらすのが、見えそうなくらいの濃厚な囁き。

何が、とは志貴も訊かなかった。
こすれる二人の秘部は、もう最初とは異なる音を奏でているのだから。

「おいで…………」
「うん」

童女の如く嬉しげに肯き、アルクェイドが腰を浮かせる。
唾液を啜り合う口づけよりも、数段淫らな銀糸が二人を繋いでいた。

「アルクェイド」
「ああ……」

なお垂れる淫蜜もそのままに、志貴が細い腰を掴んで自身の真上に。
そそり立ちを見下ろすだけで、アルクェイドの胸が高鳴る。

赤黒く血管を浮き出させた怪異な強張り。
貫かれる我が身が脳裏に浮び、それは直に現実のものとなる筈。
その僅かに待つ刻が、どうしよもなくアルクェイドを興奮させる。

微震する腰、粘る腺液が、とろとろと強張りにかかる。
シロップの様に志貴が塗られて行く。

アルクェイドの秘所が志貴の線上に来た証拠だ。
胸から心臓が飛び出そうで、アルクェイドは頭がくらくらする興奮に包まれる。
喉が乾き、唾液を飲み込もうと目を瞑った刹那、志貴の手が白い腰を引き落とした。

志貴の切っ先が、アルクェイドの柔肉を刺し貫く。
左右に割られた陰唇からは、血の代わりに淫水が流出する。
迸る絶叫は、やはり玲瓏だった。

「――――――あ、ああぁんっ!」

張り裂けそうな充足に感極まった如く、アルクェイドは自らの小指をはんだ。
流美な三日月の形に背筋がしなり、淡雪に似た嬌声が押し出された。

部屋の空気さえ恥じらい、息を顰めて隠れている。

どんな男も――――いや女でさえ、これを目撃する為ならば、
何もかも捨てそうな妖美の極致は、ただ一人、志貴だけに供されていた。

「はあはあ……志貴」

アルクェイドは、両手を志貴の胸板にあてがい躰を支える。
俯いた顔から、つと銀糸が垂れて志貴の口許に落ちる。

甘い香りを放つ、それはアルクェイドの唾液。
志貴は意識せずに舐め取った。

ああ、とアルクェイドがか細い呻きを漏らす。
志貴の行為が恥ずかしいからか、それとも愛しさからかは、アルクェイドにも判別出来ない。
ただ胸一杯に満足感があった。

「アルクェイド」
「ぁ、志貴……」

二人は、どちらからともなく動き始めた。
控え目に何かを確かめるように、互いの心地を感じ合う。

形の異なる二種類の性器が、擦れ合って快感を発生させる。
共に馴染んだ感触だが、何度味わっても些かも悦びは減じない。

反り返った強張りに淫水が滴り、志貴の恥毛を濡らす。
上下するアルクェイドの内腿も、溢れる蜜でまた同じになる。

交合の感覚に躰が熟れると、二人の動きも早まって行く。
肉のぶつかる間隔が短くなり、秘部での淫音も大きくなる。

「志貴……んんぁ」

アルクェイドが口づけを求めた。
荒々しく志貴を食むように、堪えられないと唇を舐めもする。
それでもまだだと、顔中に舌を這わせて昂ぶりを示す。

感じ易い肢体は、先に沸点を向かえたらしい。
毛穴の一つ一つが開き、甘酸っぱい雌の匂いを発散するアルクェイド。

「ああぁっ………志貴のがずんずん奥を突いてる。
子宮まで開かれちゃうみたい……んんふぅ」
「アルクェイド」
「くぁ…志貴、胸も弄って……さっきみたいに揉みくちゃにして、乳首もいじめてぇ」
「胸がいいの?」
「上も下も感じるわ……どっちも疼いて蕩けそう」

麗美な相貌に、壮絶な色香を浮べてアルクェイドが答える。
滴る汗は蒸発して、フェロモンとなって志貴を絡め取る。

虜にならない方がおかしい。
快楽の熱泥で志貴の滾りは勢いを増した。

「んふ、志貴の中でまた大きくなった。
先が奥で跳ねてるわよ」
「アルクェイドが良すぎるから……お前が魅力的すぎるからだ」
「………嬉しいよ、志貴」

快楽とは、交わりとは何と素晴らしいものだろう。
アルクェイドは背筋を震わせた。

繋がり官能に溺れる時間には、心の防壁が薄くなる。
時たま真意を隠す志貴も、この状況ではそうはいかない。
愛を唄い、賞賛をくれ、心を共有している如くに存在を感じる。
いつか溶け合う果てに、一つになれる気さえする。

だからアルクェイドは肢体をしならせた。
志貴を愛する為、精一杯に裸身を使う。

「ううん、締めてあげる――――あっ、志貴どう?
私を感じる?
私の襞は気持ち良い?」

アルクェイドが腰を振りたてる。
秘唇を捲り返し、志貴の強張りを抽送させる。
粘液が撹拌される音に自ら官能を煽り、嬌態を加速するアルクェイド。

精神の悦びは躰にも影響を与えるのか、アルクェイドの肉感は深みを増す。
志貴は乳房に指を沈め、躰の上で艶舞するアルクェイドの肢体に魅了された。

「アルクェイド……」

快楽の水面に揺蕩う如く、美姫の躰が踊っていた。
肉欲に素直で、純粋に情を求め、アルクェイドが律動する。
一秒毎に、蠱惑的な嬌態が志貴の為に造形される。
限りなき刹那の美、けれど艶唄うのは、ただ一つの唇。

「し、志貴……んやぁ、貴方ので私、とける―――あっ!」

悩ましいアルクェイドの喜声が耳に心地好い。
無論、濡れ切った蜜壷も至極の味わいだった。

粘着しつつ柔らかく扱く、アルクェイドの粘膜。
志貴の形に合わせながら、快楽を与える様に擦れる膣道。
美姫なのに、それとも美姫だからか、女の器官さえ素晴らしい具合だ。

「はっ……いいわ……気持ち良くて、躰が蜜に変わっちゃうっ!
ふあぁぁんっ…………志貴、もっときて!!」

宝石の如く飛び散る汗、鮮やかな嬌声、艶めかしい吐息。
夜さえ惑わされ薄暮に変わる艶靡な嬌態。
部屋に満ちた酸素と窒素の分子も、彼女の歓喜を伝える役目に酔っている。

「志貴、好きよ………ああ、志貴が欲しいのっ……もっと、もっと深く!」
「アルクェイド」

成熟した無垢な肢体を開いているアルクェイド。
処女を散らし、女の貌をするようにしたのは自分。
志貴は満足しながら、さらに欲望を加速させる。

「吸って……いつもみたいに」
「ええ、いいわ」

アルクェイドは、差し出された指を積極的に咥えた。
桃色の舌の上を滑らせ、指元まで含むのに躊躇は無い。

口腔の奥から唾液を染み出させ、
指を湿らせると頬を窄めて、しゃぶりだす。

「アルク……」
「んぁ……むうぅん………しき……どう?」

指先の擽ったい感触に志貴が唇を噛むと、
より愉しげに、アルクェイドは喉まで使い始めた。

それは、強張りに見立てた口戯だった。
秘芯で強張りを受け止めながら、口でも行う交わり。

わざと咽頭をえずかせ、淫らさを強調するアルクェイド。
喉の粘膜の感触、直接指で触るとは、目眩がするほど卑猥な行為。
志貴は昂まりが、切っ先の間近まで到達したのを感じる。

「も、もう……いいから」
「そう?」

抜き取られた指を、名残惜しそうにアルクェイドは見詰める。
朱い瞳は、本物の口戯で志貴に奉仕するのを求めていた。

蜜壷で精を放つ、
そうしたらアルクェイドは腺液に汚れた志貴を舐め清めるつもりだった。
唾液を滴らせた薔薇の唇を舐めたのは、その催促。

けれど志貴は別の目的に指を使う。
微かに湯気を纏わせる指先をアルクェイドの唇に。

「あ…ふ…」

張り詰めた口唇、アルクェイドはそこでさえ気持ちが良いのを知った。
そして産毛の先を撫でる様に、志貴が指を滑らせると、肌自体が性感になっているとも。

「ん、ぞくぞくする………神経が剥き出しになったみたいよ。
指……ふぁっ……疼くわ、とても…んふふ、志貴のが余計に感じるみたい。
ねえ、たっぷり濡れてるでしょ?」
「漏らしたみたいだ」
「私の水分が蜜になったのよ、きっと――――ひゃうぅぅんっ!
だって私は志貴の所為で壊れているんだもの」

背筋を擽る快感に、アルクェイドは蕩けた音色を連続させる。
志貴の指が喉を過ぎ乳房に到着すると、期待感に大きく仰反った。

ふっくらとした胸の膨らみを指が登る。
少し押された肉が堪えられない悦楽を齎らす。

先端の蕾に触れられると、熔けた蝋でも滴らせた様な熱さ。
濃密な刺激に、アルクェイドは子宮が戦慄くのを感じた。

「あ、そ、そこっ……やぁ、もっといじめて」

軽く達したのに、志貴は下山してしまった。
燻ぶりを残され、アルクェイドは秘裂を収縮させてやるも、
指先が脇腹、肋骨の段差をなぞると甘々しい感覚にほだされてしまう。

ゆっくりと背後に回り、志貴は背中の曲線を横断する。
指は、背筋の窪みへ移動し、汗を潤滑剤にしてと下へと進む。

時折、汗が指に溜まり、光る玉となって先に落ちてしまう。
液体が背筋を舐める感覚に、アルクェイドは肢体をくねらせる。
一体何をされるのか、待つ時間がこの上なく興奮する。

「志貴………あ、なに?
ねえ、どうするの?」
「…………」

答えない志貴の指先は、尻の谷間へと忍び込んだ。
乳房よりも豊満で、齧り付かれるのを待っている様な白桃。

肉感的に張り詰めた二つの膨らみに挟まれる指。
汗に濡れているのに、そこは絹の滑らかさを失っていない。

つつと滑らせると、ほころんだ蕾にあたる。
しっとり吸い付く様子は、あたかも小さな唇の触り心地。
いや、本当にアルクェイドのそこは、口づけの為にあるのかもしれない。

「あん……また、お尻に悪戯する」

そっと窄まりを押す指に、アルクェイドが抗議する。
媚びを含み、志貴の行為を愉しんだ形ばかりのもの。
挿入されつつ、後ろも弄られるのだ、二つ合わさる刺激は悦楽に決まっている。

ときめきさえアルクェイドは感じた。
秘めた尻を志貴に犯されるのは、歓喜そのもの。

指の腹で撫でられる菊花が、渇望して酷く火照る。
力を抜いて導こうとしても、志貴は指先をあてがわず、
敏感になった蕾を、むず痒くさせるだけ。
志貴は、いやらしく開閉する蕾の感触を堪能する。

「はやく……志貴、私のお尻に指を…お願い」

白い姫は哀切に泣いた。
尻を嬲られて。
志貴は倒錯した悦びに、その身を焦がす。

「い、いや、志貴っ」

なおニ三度窄まりを焦らし、志貴の指が入って来る。
今度は遠慮もなく、ただ直線に粘膜を削りながら、アルクェイドの肛孔を掘削する。

「あ、あぁ―――」

後ろに感じる疼きに似た痛みは、いまのアルクェイドにとって絶妙な快感のスパイスだった。
幾重にも締る肉環を、志貴の指に抉じ開けられる感覚が、甘く脊髄に響いた。
内臓を無理に触られる違和感が、神経を鋭敏にして胎内まで灼熱させる。

「んあぁ、志貴…」

子宮が、志貴の精を求めて躰の内で滑り降りる。
絶頂が連続し、貧欲な雌になった証拠だ。
ここからは胎内を白濁に満たされるまで、快楽に溺れるだけ。

「ああ、来ちゃうわ………志貴、欲しいの…志貴が欲しい」

アルクェイドは心まで戦慄かせて、肢体を悶えさせた。
折れそうな白い腰が、激しく踊る。
前も後ろも締め付け、最大限に快楽を得ようとしている。

「ん、指が折れるよ」
「ばかっ……………後で舐めて治してあげるから、早く…あぁ、志貴!」
「もっと腰を振って」
「やんっ…中が開いて……く、志貴が入っちゃう………ふあぁっ!」

肌と肌がぶつかり湿った破裂音を奏でる。
粘液塗れの強張りと鮮紅色の秘裂は、機械の如く結合し、上下に運動する。
体液は甘く饐えた匂いの分子に変わり、周囲の気圧すら上昇させるかの様。

「はあっ……あはぁっ……お腹がふるえてる……志貴ので躰の中も感じてるっ!」

麗容を上気させ、奔放に性を謳歌するアルクェイド。
滝の汗を流し、股間を震わせ、白い肉体をしならせている。
蕩け切った表情、唇からは唾液が滴り、舌先までひくつかせていた。

あられもなく乱れた姿を晒し、悦楽を分かち合うのは、
無論淫蕩故でなく、志貴を愛し、信頼を寄せているからこそ。

彼女の欠けたるピースが志貴だから。
魂までかよい合える様な想い人など、
真昼の星を探し当てる僥倖なのかもしれない。

「くぐっぅ………アル、アルクェイド」

恐ろしい程の歓喜。
アルクェイドの濡れた肉に溶解かされ、
鈴口から愛蜜が逆流し、腰奥まで注ぎ込まれる程きつく絞られる。

「ふくぅんっ……志貴の他には何もいらない……はひっん、し、志貴だけでいいのっ」

アルクェイドは腰を可能な限り落とし、志貴との結合を深めた。
引き攣れるほどの股間では、可憐な花弁を捲らせて秘裂が志貴に密着する。

後ろの蕾を力ませ、アルクェイドは胎内の強張りを締め付ける。
白い柳腰は螺旋を描き、最深部へのとば口が志貴の先端を擦り立てた。

「アルク―――で、でるっ!!」

剥き出しへの弾力溢れる摩擦は、ぞわぞわと志貴の性感を掻き回す。
快楽の悪寒が躰を空白に、意識を真っ赤に染め上げる。

「いいよ、志貴そのまま……んふっ、我慢しないで」

志貴の欣喜を愛しむ様子で、アルクェイドの腰が増速する。
短い周期で前後し、不規則に捻りもまぜられ志貴へ快楽を与える。

後ろの窄まりで志貴の指が曲げられて、
鋭く粘膜を抉ってもアルクェイドは構わない。
いまは志貴が果てる方が重要だった。

「来て、志貴の赤ちゃんが欲しいわ………」
「!!!」
「いっぱい射精して」

睦言とは異なる、儚い願いの響き。
燃え出しそうな愉悦の最中、志貴はアルクェイドの微笑みを視た。

それは水晶の湖面の如き澄んだ相貌。
無窮の思慮を湛えた、夜の深淵。

「あ……」

世界の終末、或は志貴が目にすることが出来る最後の夕陽。
そんな情景を、志貴は意味もなく連想した。

けれどそれは幻の様に、次の瞬間には消えてしまった。

「志貴………あっ、どろどろした出してみせて………」

鼓膜から染み入るのは、この世で最も甘い媚声。
脳髄を麻痺させて淫蜜で消化する、悦楽の音色。

あれは掌におさめても、瞬きするあいだに溶け消えてしまう白き雪片だった。
なのにアルクェイドの刹那の面影が、志貴の頭にこびりつく。

「く―――っ!!」

何かが志貴の心臓を貫き抜けた。
ぽっかりと胸に開く穴。
そこから零れ落ちるのは、血以外の何ものだろうか?

何処かに棘の如く突き刺さっていた逡巡が、またもぶり返した。
納得した筈なのに、これ以上は求められない筈なのに、もっと欲しくなる。

幸福の基準点が定まれば、そこから上が次の幸せとなるものだ。
それは、空山にて霞みを喰い生きる者ではない人の性であり、業であった。

「ああぁっっ……アルクェイド!!」

蔦の如くアルクェイドの襞に絡み付かれ、志貴は盛大に腰を痙攣させた。
それを切っ掛けに何もかも忘れようと、快感で意識が白熱するのに任せようと、
ただ絶頂に耽溺しようと努めた。

上にあるアルクェイドの肢体を震わせる様に、腰を突き上げてやる。
こりこりと両者の凹凸が、互いに嵌り込もうと密やかな軋みを発する。
申し合わせなくとも、二人の周期は自然と合致し、求めて絡み合っていた。

アルクェイドの臍下、生々しく小山になるのは志貴の切っ先。
腹筋を突き破りそうな光景は、アルクェイドが麗美であるが故に、卑猥の極致だった。

「はくうぅんっ……………あふぅ、奥で震えてる。
太く膨れてもうそこまで精液が来てるのが分かるよ。
私の中のお口、ねえ感じる?
志貴にキスしてるみたいにくっついてるの………くぅんっ!
このまま出せば、直接奥に届きそう、
私の子宮に来ちゃうわ………ああ、ちょうだい…志貴っ」

直に膣道でつまびらかになる志貴の変化に、アルクェイドは狂喜し裸身を戦慄かせる。
優美で淫らな曲線を、仰反った白い肢体が形づくられる。

「脈打ってる……硬くいのがどくどくしてるわ……んふ、濃いのが出そう。
私のお肉、志貴ので白く漬けられちゃうの…………」

足先から金色の髪の毛まで、アルクェイドは妖美と名付けられる一つの芸術品になった。
汗を散らし滑らかな肌が志貴を撫で回す。
馨しい匂いが鼻を擽り、金鈴の淫声は鼓膜をすり抜けて脳髄を溶かしてしまう。

種々の想いと性悦が熔解して、志貴の内部に満ち満ちる。
激しく繋がるアルクェイドもまた欣悦に溢れ、二人の境界は曖昧になる。
腺液が、粘膜が、快楽が混じり、絶頂の狭間に耽溺する。

「う゛あ゛っ………ア、ル――クェイド――――」

瞬間志貴は、膨らんだ先端を齧り取られたのかと思った。
湿った柔肉の心地に、突然万力の如き緊縛が襲って来た。

実際にはアルクェイドの収縮で子宮口の弾力と、撓んで摩擦されたのだが、
痛覚よりも濃密な刺激に、丹田の直下から抗えない滾りが生じた。

「くはぁっ!?」

尿道を拡張げるような射精、志貴は躰を硬直させる。
力んで圧迫された下腹に加速された腺液は、粘塊となってアルクェイドの媚肉へ放出された。

糸になった精液を、ずるずると引き出される様な快楽。
魂が抜けてしまう快感の極限、呼吸さえ忘却してしまう。

終わりたい、続けたい、相反する欲求が発条になり志貴の意識は真っ白になる。

「あく、し、志貴――――う、うあぁぁんっ!!」

アルクェイドは悦びに絶叫した。
奥に感じる志貴の熱が甘露だった。

蜜で一杯になっている胎内に、精液が混じり入るのが悦楽の感覚をもよおす。
密着した襞々を粘液が、舐めて進むみたいで、堪らない快感が肢体を疾り回る。

「し、き…ああんっ――ひはぁぁあんっ!!」

満腔が志貴の精で充足する歓喜に、アルクェイドは躰中で果てていた。
秘裂が、内奥が、肉芽がではなく、細胞の一片残らず、髪でさえ快美にさらされていた。

悦びが怖いくらい。
快感に翻弄されるのが嬉し過ぎて、
狂気に支配されそうだとアルクェイドは志貴の背中に手を回す。

「志貴……お願い、ああ、抱きしめて」
「キスしたい……噛みたい、アルクェイドの肌を………」
「いいわ、してぇ…………んぁ、きつく、志貴を感じたいのっ」

ずらされた白い首筋に、志貴は衝動にまかせて噛み付いた。
張りのある肌は簡単に歯から逃れて滑る、志貴は何度も執拗に歯を使う。
自分と同じ肉とは思えない柔らかな感触に噛み痕を重ねた。
それでも良くなれるアルクェイドの躰に、志貴は意識が途切れそうになる。

「んうっ……いあぁん、もっと噛んでああっ!
首が痺れる、ん…中まで伝わって……い、いく、はっ…ひくうっっ!!」

首に感じる痛みは、淫水まみれの法悦に新鮮さを与えてくれた。
アルクェイドは陶然と、甘美さを増したオーガズムに嬌声を放つ。

秘裂が痙攣を起こし、壊れたように粘液が溢れ出した。
志貴の根元から膣道が順々に引き締まり、精液を吸引する。
捲れていた陰唇までもが、幹に口づけして扱き立てる。
泡立つ粘液、花びらからは卑猥な音が連続した。

「んく、し、志貴っ」
「アルク―――――」

骨まで軋む抱擁に、双身和合の歓喜天となる二人。
快楽に縛り上げられ、そのまま彫像の如くに静止する。

命を灼く激しい逢瀬に、部屋中の全てが凍り付く。
時間さえも役目を捨てて、一つに重なる影の行く末を見守った。

「はあ………っ」

精子の全てを絞り出し、先ずは志貴が脱力した。
持病の貧血とは比べ物にならない安息の内にベットに倒れ込む。

「志貴………」

すり抜けた彼の人へと、しばしアルクェイドは気怠い裸身を披露する。
体液の衣を纏った柔肌は、生の雌そのもの。
が、満悦に目を瞑り、祈りを捧げるような姿は確かに神々しかった。

やがて志貴を追って、その胸に倒れ込むアルクェイド。
衣擦れとベットの軋みは、どこか安らいでいた。

びっしょりと濡れた二つの躰が穏やかに絡み、
本来の意味を半分だけに使われる床が、情交の終了を告げる。

静寂に沈んで二人の邪魔をせぬ様にしていた物質達も、ほっとため息を吐いた。
再び動き出す時間は心為し、それまでよりゆったりと流れているのかもしれない。

繋がったままの恋人達。
熱情は引き潮になり、情愛が細波となって二人を擽る。

「………………」

人の世とは異なる理で運行する星と月。
夜明かりが床に切り取る矩形の領地は、何時の間にか掠れて消えそうな線になっていた。
それは、どことなく寂寥を感じさせる時の計り。

何と無しにその陰影を眺めていた志貴は、ふと気付く。
普段は、自分が腕枕でもする形になっているのに逆だった。
今は、慈しみを籠めたアルクェイドの腕で包み込まれている。

「あのさ」
「なあに?」
「いやさ………」

交わりの熱界の中で垣間見たあのアルクェイド、
一瞬だけ流露されたものは、もしかすると――――――――。

だとしたら慰撫する方法も無い自分に、訊ねる言葉はあるのだろうか?
昔日の幻影にも似た存在になりかねない自分に。

しかし沈黙は長くは続かなかった。
志貴の重い口のかわりに、アルクェイドの艶めかしい唇が開く。

「御伽話」
「………」
「御伽話よ」
「は?」

唐突な切り出しに虚を衝かれる志貴。

アルクェイドが志貴の上に乗る様に躰を動かす。
長くしなやかな下半身は絡ませて結合は解かずに、
乳房で志貴をなぞりながら、ゆっくりと。

「う…あっ」

挿入したままの強張りが捻られる。
少し行くと張り付きが滑り、粘膜の摩擦が生じる。
交互に与えられる快感に志貴は呻く。
硬度が戻り、それがさらなる甘美な刺激に繋がる。

「ねえ志貴」
「え?」

矢継ぎ早の攻勢に主導権を奪われた状態で、
ほとんど意識を散らされていた志貴が見上げると、
そこにはアルクェイドの微笑みと囁きが在った。

慈愛にあふれた、優しい満月の光りの様な微笑みが。

「な、なに?」
「御伽話みたいに、志貴と二人で永遠に幸せに暮らせる。
二人とも今のままで、不利益なんか少しも無い。
………そんな反則な方法も、すぐそこに転がってるかもしれない」
「え?」

閑雅な子守唄の様に、アルクェイドは話す。
少しずつ上半身を起こしながら、しかし紅の視線は志貴を見据えたまま。

「それも馬鹿らしくて、笑っちゃうような簡単な方法かもしれないわ。
案外世界は、出鱈目に建増しされたみたいなものだからね」
「あの……アルクェイド」
「いいのよ………いいの」

志貴の唇を指で制し、アルクェイドは馬乗りになった。
吐息を放ち、静かに腕を持ち上げる。

両の側から胸の双乳が握られる。
たおやかな指が白乳を窪ませて、指間からは溶けかけたクリームの様に柔肉が。

「んあぁ……」

艶づく囁きに似た呼気が、可憐な薔薇をそっと揺らす。

ぎゅっと根元から乳房を締め付け、アルクェイドは自身の柔肉を引き絞る。
流麗な膨らみの曲線の半球は歪になって、あたかも大きな乳首の様相になる。
無論、先端で痼っていた蕾は一層充血して、つんと硬く突き出した。

「吸う?」

答える前に、胸の突起は志貴の唇へと差し込まれていた。
仄かな汗の味、それを圧倒する甘い匂い、そして唇に夢の様な感触。

「はぁんっ」

唇で舐め、舌で蕾を吸うとアルクェイドが戦慄く。
反らされる胸、引っ張られる乳房。

「志貴………」

甘く切ない囀りが、小さな欠片になって空気に溶ける。
動くわ、とアルクェイドが呟いた。

白い裸身が秘めやかに上下し、瑞々しい裸身の輪郭が刻々と変化する。
泥濘るむ音が弾け、肉が密着する響きが不規則に生じる。
後戯と情交の合間の如き、それは静穏な蜜事だった。

「それを二人で、のんびり見付けるのも良いでしょう?」
「……………大変そうだけどな」
「いいえ、望むならば、むこうからやって来るくらいよ。
志貴は凄いからね」
「なにが?
この眼以外は普通だよ」
「そんなことないわ。
出逢ってすぐに私が仕留められてしまうんだから、並みの人物じゃないわ、貴方はね」

そう、確かにそうだった。
問答無用に白刃を振るい殺す、初めは血塗られた出逢いだった。

「ああ、違うわよ、そう言う意味じゃないわ」

衝動に支配された苦い思いが過る彼の顔へ、
アルクェイドは微笑み唇をあわせる。

「文学的な表現として使ってみたの………いえ、砕けた比喩表現かしら?
心を仕留められる?
ああ、そんな事はどうでも良いわね」
「?」
「つまり言いたかったのは、私を虜にしたってこと」
「………虜?」
「そう虜。
私は夜明けが来なければ良いって思ってる。
そうすれば貴方だけの娼婦でいられるから……………そんな事を願うくらいに志貴の虜よ」
「え、あの……?」
「魅了の魔眼も使わずに、人間である貴方が。
いつでも志貴で心が一杯になっている、真祖の私が。
それって凄い事でしょ?
これに比べれば、他の事なんてなんでもないわ」
「あ――――」

いつも翻弄されるばかりの彼が、きょとんとしている。
それは愉快な状況だった。
そして叫び出したいくらいに志貴への想いが募る。

母性愛かもしれない、とアルクェイドは感じた。
彼に壊されたからこそ、自身に生まれたもの。

女に、恋人に、妻に、そして母になる自分。
嗚呼、なんと素晴らしい壊れ方だろうか?
いっそ世界を祝福したい。
おかしな混沌に彩られたこの世界を。
そして、もしもあるならば志貴と出逢えた運命を。

「お前、恥ずかしいことを平気で言うな」
「照れてるの?
せっかくの愛の囁きなのに」

胸板にアルクェイドの爪が軽く立てられる。
薄桜色の爪は、浮き出した汗の玉を弾いて遊び、ちくちくと志貴の神経を弄ぶ。

「うっ」
「あ、志貴も乳首は感じるんだ。
私の中で暴れてるもの」
「う、うるさいな」

志貴はアルクェイドの二の腕を掴み、強引に肢体を揺らした。
潤んだ美姫は抵抗もせず好きにされる。
奥の柔肉を拡げられ、充足を堪能したばかりな粘膜を、悦びを以って弄られるままにさせる。

深くを浅く擦られる刺激は、まだまだ余熱にあふれる躰には甘い蜜だった。
じわりじわりと追い詰められるのが、実に扇情的に神経を炙る。
アルクェイドは宙を見上げ、うっとりとため息を吐いた。

「ひあぁっ………ん、お喋りの時間は終わりなの?
うっ…いいわよ……また二人で………あぁん!」
「アルクェイド…………」

感謝を示す簡潔で短い囁きは、果たしてアルクェイドの耳に届いたか?
水面の細波にうつる月影の如く、その表情を変える顔からは窺えない。
彼女と、たぶん漆黒の真空に浮ぶ月だけが知っているのだろう。

静寂の元、ベットが軋む。
ゆっくりと、ゆっくりと互いの性を確かめる交わり。
躰を震わせる度に、ほのかな火照りを快楽にかえて享受する交わり。

「う、ん……」

密着した躰に熱が籠る。
肌自体が熔けた様に無数の汗が浮び、ミニチュアの星になり飛び散って行く。
あるものは床に落ちて弾け、あるものは飛翔する間に別れて消える。
小さな滴から、また小さな滴になって霧散する。
反対に偶然あわさるものもあった。

幽かな輝きを瞳に映したアルクェイドは、自らが語った事を思い出す。
無から生まれる名も無き命達、これはその縮図。

「んはぁ………ああ、数え切れない命の泡沫の内の二つ、
重なった志貴と私………本当にこれは奇跡みたい………ねえ、志貴」
「だったらまた…逢えるのかな…………その命の海で?」
「私と志貴ならばきっとね」

アルクェイドは満面の笑顔で即答した。
何故ならば確信しているから。

「終点に着いたとしても、どこにだって別の路線があるのよ。
何度でも乗り換えて何処にだって行けるもの。
たとえそれが始原の海でもね」

志貴は苦笑を返した。
前向きな姫君の凜々しさ、そのなんと眩しいことか。
捨てることはかなわぬ懊悩と惑いは、きっと携えて進むものなのだろう。

「アルクェイド」
「志貴…………ん」

唇を合わせたのは、どちらが先か?
分からないし、どうでもよい。

ただアルクェイドは感じるだけ。
彼女の永遠が、また少しだけ壊れるのを。
それが大切な温もりになるのを。

天空から月から降り注ぐ銀の光が、
雑多な地上で人々の安寧な眠りへと変わる様に。

音もなく彼女の永遠は壊れて行く―――――――。





あとがき

生命や何やら勝手に書いてますから、深く考えずに読んでいただくと、ちょうど良い塩梅です。
ただ二人の行く末は、決して峻険な道のみではないだろうと


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